美少女亜神〜最強の神技「時空間操作」が使えるけど防御力がゼロなので出来るだけ死なないように頑張ります

ひきこもりA

文字の大きさ
17 / 72
第2部 皇女姉君編

017 ロードナイトの風(1)

しおりを挟む
【32日目 朝9時頃 ロードナイト】

 傭兵の主な仕事は護衛と警備である。ここジェダイト公国においては各地に駐屯する公国各方面軍や各地方領軍の存在によって治安は悪くはない。

 しかし公国支配領域内には人類の定住出来ない広大な未踏地が点在しており危険な野生動物や野盗、そして魔物の支配領域「魔境」となっている。

 このため公国各地を結ぶ街道を利用する商人たちは雇用した傭兵と共に商隊を組み安全を確保しようとしていた。

 魔物の支配領域である魔境の深部にはレベル5魔術を連発する人類が太刀打ちできない強力な魔獣の集団が巣食っており悩みの種となっているが、何故か支配領域から出る事はなく国民生活の致命的な障害にはなっていない。

 5つの公国を擁するアレキサンドライト帝国。今は結束が乱れ統制が取れていないがその版図は地球で言えばアメリカ合衆国大陸本土に匹敵する超大国である。

 ジェダイト公国は公爵が国家元首の公国とはいえ帝国の西側を支配領域とし、その大きさはアメリカ合衆国本土の4分の1に達する。

 公国が有する優れた魔術。12箇所ある迷宮から得られる膨大な資源と利益。強大な軍事力。西海岸に本拠地を置く地中海艦隊を擁する公国海軍などの存在を踏まえれば公国単独でもこのイース世界における有数の大国であると言えるだろう。




 19日前に起こったというマルチナ皇女姉君とその侍女2名に対する襲撃事件。

 この対応に公国南部方面軍が緊急出動してシリトン、ロードナイトそしてアンバー高原の広範囲にわたる皇女姉君御一行の捜索が実行された。

 軍隊が行動するときは我々傭兵達も稼ぎ時だ。軍隊の活動に必要な食糧、日常消費資材などの輸送請負い、軍隊不在時の警備代行、軍の指揮下に入っての雑用請負いなど多岐にわたる。

 俺たち傭兵パーティ「ロードナイトの風」は傭兵組合の仲介で南部方面軍に雇用されアンバー高原における物資運搬を請負っていた。
 しかし作戦の終結による物資運搬所要の減少を理由として雇用契約を解除されたのでパーティの根拠地シリトンへと向かおうとしていた。

 俺たち4人はロードナイト出身。16、18、20、35歳の独身の男性軽戦士だ。
 俺は軍に居たころにレベル4攻撃魔術とレベル3攻撃魔術を運良く習得することが出来た。傭兵としての戦闘力は頭一つ二つ抜けて強いと言えるだろう。

 南部方面軍発行の勤務内容証明書はもらってるから後はロードナイトの傭兵組合に顔を出して情報収集してから出発するか。



 リーダーの俺はパーティメンバー3人を外で待たせて組合事務所に入っていった。

 余り広くない事務所には先客が3人。全員フード付マントをしっかりと身につけた軽装の女性たち。1人は猫を抱いている。

 顔見知りの組合職員マッテオさんが俺を見て声を掛けてきた。


「ありがたいフィリッポ。お前たちのパーティはシリトンに戻るんだろ? 何も仕事を請負ってなくて移動するだけだったらこのお嬢様方を丁重にシリトン南部方面軍司令部まで護衛並びにご案内してくれないか。
馬車は組合から御者付きで出すから今から出れば夕刻には着く。頼まれてくれんか。

「お前達の報酬は組合が負担。相場の3倍1人金貨1枚出す。移動中の雑費として今現金で金貨4枚渡しておく。
残ったら報酬とは別にボーナスとして進呈するから山分けしてくれ」


 驚くべき報酬額。僅か1日で1人当たり金貨1枚、傭兵半月分の平均的収入に匹敵する。その上ボーナスだって?
 儲けるチャンスを逃さないのが傭兵の嗜み。「請け負う」の一択だろう。


「マッテオさん任せて下さい! 我々ロードナイトの風、間違いなくお嬢様方をお送りしますよ!

「お嬢様方、ロードナイトの風のフィリッポで御座います。4人パーティです。護衛と案内は任せて下さい!」


 フードの女性3人に声を掛ける。真ん中の人物がフードを下ろしてこちらを見る。


「リーダーのフィリッポさんですね。グレタ・アルタムラです。私たちはこの辺の地理には詳しくないので全てお任せお任せしますのでよろしくお願いしますね」


 グレタ・アルタムラさんは黒髪にヘーゼルの瞳の落ち着いた凛とした美人だった。
 待てよ?黒髪にヘーゼルって捜索がかかっていた皇女姉君の侍女なのでは? そういえば女性3人だしリンクスもいる!

 マッテオさんの方をチラ見するとギロリと睨まれながら首をゆっくりと横に振られる。余計な事を言うなということか。分かったよ。

 組合のマッテオさんから略式依頼発注書と雑費の金貨を受け取って馬車が回される間にパーティメンバー達に依頼受注を報告すると、メンバー達は大興奮だ。


 馬車の準備が出来た。事務所からマッテオさんが護衛対象の3人を案内して馬車に乗せていく。


「いいかフィリッポ。お前を信用して頼むんだからな、丁重に。貴族だと思って、というか、アッシュブロンドの髪色のお嬢様はお忍びの高位貴族だからくれぐれも失礼のないように頼むぞ。後の2人はお嬢様のお付きの方だからな。名前その他個人情報の詮索も一切禁止。分かるな?」


 俺はこくこくと頷くと、馬車に乗り込み御者に出発の合図を出した。




♢♢♢♢




 シリトンの公国南部方面軍司令部へ向かう二頭立ての大型馬車を送り出した傭兵組合職員のマッテオ。

 いやびっくりしたぜ。皇女姉君御一行様が朝一番いきなり組合に来て護衛付輸送依頼だもんな。しかも代金タダで今すぐ出発させろときた。

 いいタイミングで「ロードナイトの風」が顔を出してくれた。余り知られていないがリーダーのフィリッポはシリトン近辺で活動する傭兵では最強クラスだからな。丁度良かった。フィリッポに任せれば問題ないだろう。
護衛付輸送依頼、勿論受けさせてもらいますよ。王太子殿下への情報提供は俺が好きに捌いて処理していいって事だから。
 あと「上手く到着できたら王太子殿下に傭兵組合マッテオさんのことを良しなにお伝えしますね」って言ってくれたし。

 あの時、皇女姉君様達を密告したにもかかわらず懐が深いお方達だ。もしかしたら密告したの気付いてない可能性もあるな。まいっかそんな事。早速そこらに居る方面軍の幹部捕まえて報告だ~。




♢♢♢♢




 私たち皇女姉君御一行は馬車に乗って一路シリトンに向かっている。傭兵組合のマッテオが言うにはシリトン駐留の南部方面軍とやらの司令部までおよそ40キロメルト、途中の集落で休憩を3回取っても日没2時間前には着くとのこと。

 どこに出頭しようか考えたけど、自衛官としては軍隊のお世話になった方がなんとなくやり易いかなーとかイース世界の軍隊興味あるしーとかでシリトンの司令部に行こうと思った。

 ロードナイトに駐留する軍だと、とりあえずお待ち下さいとか言われて司令部に報告して指示を待たれたんじゃ面倒くさいと思ったんだよね。その点シリトンなら結構な上級司令部らしいから。さっさと自己判断で対処してくれて話が早いかと。

 シリトンまで歩くと2泊3日らしいからダルいし。あの傭兵組合のマッテオに全部手配させれば楽でいいんじゃない? って事で今朝ロードナイト傭兵組合事務所を訪問したのである。
 なんか小狡そうでフットワーク軽そうだからね。あのタイプは自分に利のある仕事は早いと経験上知っているのだ。

 密告した恨み。なきにしもあらずだけど一応、良識ある市民として公爵軍の任務遂行に貢献すべく自主的に行動した結果と見れば、そんなに悪い奴とも言えないよね? でも今度裏切ったら許さないよ。

 私達は馬車に乗ってからは、フードを取った。暑いしうっとしいからね。







 なんか護衛の傭兵の子達がチラチラと私達、特に私を見てくるんですけど。で、私をキラキラした眼で見るんだよね。アレかな。私のこと皇女姉君って知っているのかな。まあ良いけど。

 馬車の振動でお尻痛いから例の物を作ろうかな。声を出さずに「低反発ウレタンフォームで座布団(合成樹脂カバー付)3個出ろ」グレタさんキアラさんにも渡す。

 傭兵リーダーにこの辺の地理とかジェダイト公国の風土や国家組織、産業の事など色々と質問して聞いてみた。この傭兵リーダー中々の博識で役に立つな。ちょっと気にいったかも。

 物質創造で飴ちゃん5個入り巾着袋を作り出し、傭兵リーダーに渡す。


「これ、中に甘い飴が入ってます。皆さんで分けて食べてみて下さいね。喉を潤すのにちょうど良いですよ。馬車の旅は埃っぽいですからね。袋は差し上げます」

「ありがとうございます。頂きます。皆んな、お嬢様から頂いたぞ」

「ありがとうございます!!!」

「どういたしまして。良かったら食べて下さいね。噛んではダメです。ゆっくりと口の中で溶かすんですよ?」


コミニュケーションを取るために「飴ちゃん」を試してみた。


『アリス様、あたしも喉の調子悪いです。それ下さい』


 はいはい。キアラさんグレタさんに巾着入り飴を一袋ずつあげる。意外と神力消費は軽い。三袋でおにぎり1個分も無いくらいだ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...