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第4部 悪魔の魔境編
055 帝都宮殿
しおりを挟む【106日目 アレキサンドライト帝都 午前11時】
外壁を出て左に曲がった私たち。そこには帝都皇宮からの迎えの馬車と護衛が待っていた。
二頭立ての大型馬車が2台。騎馬が4騎。
男性の執事が2名とクレリチ子爵がいた!
「これはアリス様にマルチナ皇女殿下。ご無事での帝都帰還、誠に喜ばしく。そしてまた、お久しぶりでございます。
ジェダイトでは大変にお世話になりました。ありがとうございます。使節団も全員無事に帰還致しました。
これもひとえにアリス様のお心遣いの賜物とのことで使節団一同深く感謝しております」
「まあまあ。あんまりお礼を言われると照れてしまいます。クレリチ子爵と使節団のメンバーも無事で良かったです。
本当に長い間帝都を留守にしてしまっていたでしょうから大変だったでしょう? 何かお困りのことがあれば言ってくださいね」
「なんとお優しい! このクレリチこそアリス様の為ならいつ何処にでも馳せ参じますぞ! いつでもお声がけください」
「ふふっ。ありがとうございます。頼りに致しますよ?」
「どうぞどうぞ。さあさあ、お疲れでしょうから馬車にお乗りください。一台に8人のれますけどどう分かれますか?」
「では私アリス、マルチナ、グレタ、キアラ、サーラ、エミリー、ラウラの7人とそっちのフィリッポ以下4名で分かれます。申し訳ありませんが余席に乗っていただけますか?」
「はいはい。では君たち執事2名はフィリッポ君たちと。私はアリス様と乗るからね。では乗車しましょう」
大型馬車2台はゆっくりと走り出した。
「えーと。まずこれからですが帝都皇宮に向かいます。
宮殿の薔薇の間にて皇帝、皇后、第1皇子第2皇子殿下と対面していただきます。
その後に昼食会。
そしてマルチナ皇女殿下は皇帝陛下たちと御所に向かっていただき家族水入らずでご休息。
アリス様御一行は皇宮内の迎賓館で御休憩となります」
「はいはい。了解です」
『妹マルチナよ。私はなんて自己紹介したら良いかな?』
『そうだね。異世界アースの亜神アリスでしょう。いろんな人にそうやって自己紹介してるから今更でしょう、お姉さま?』
『マルチナの姉ですとは言えないか。残念だけど』
『それを言いたいのはわかるけど、そうね。姉で通してきましたは良いんじゃないかな?そうしましょ』
『うん。そうするよ今更マルチナ殿下とか違和感あってさ。困ってたんだよね』
『早めに姉妹設定を宣言してマルチナ呼び捨とお姉さま呼びで押し切ろう!』
そうこうしているうちに宮殿に着いたようだ。ドアマンの従者が馬車の扉を開ける。設置された簡易ステップを使ってマルチナが馬車を降りる。
「マルチナ~心配してたよ。無事で良かった! 本当よく無事に帰って来れた。良かった良かった」
ヒゲのダンディだけど人の良さそうな金髪碧眼の男性。マルチナそっくりなブロンドの髪にブルーの瞳の美人さん。18くらいの父親そっくりのイケメン。12くらいの兄そっくりのイケメンキッド。
マルチナを取り囲んで大騒ぎしている。みんな優しい人たちなんだね。それでは我々も降りますか。
♢
マルチナは家族に囲まれながら宮殿に入っていった。
私たちはしばらく待機していたが執事の案内で薔薇の間の隣の瑠璃の間ってところで待機させられてお茶を飲んでいる。ゆっくりさせていただきます。
「アリス様、マルチナ様と離れ離れなんて1ヵ月振りですね。寂しいでしょう? アタシに甘えていただいても良いんですよ?」
「うっ。サーラさんそんなにど真ん中を抉らないでよ。結構来てるんだから。でもちょっと手貸してもらえます?右手で良いです」
「じゃあ私が左手を貸します。はいどうぞ」
「ありがとうグレタさん」
「じゃアタシが紅茶飲ませてあげる。林檎フレーバーでいいよね。はい」
「なんか凄い事になってる気がするけど悪くないね。みんなありがとう」
私が3人がかりで慰められていると執事がやってきて薔薇の間に案内するからと声がかかる。では、と腰を上げていこうとすると案内されるのは私だけらしい。おや?
執事の後ろについて行って薔薇の間に入っていく。
「陛下。アリス様をお連れしました」
執事は返事を待たずにスーッと入っていく。部屋の中ではマルチナが一番右、左に皇后、皇帝、そして皇子2人と一列横隊で整列して待っていた。
皇帝一家は私を見ると全員が驚きの表情となり口を開けたまま固まってしまった。
「あのー、あなたがアリスさんなの?マルチナが異世界アースの神様で姉だって言うんだけど。よく分からなくて。
でも今わかったような気がする。神様かどうかは分からないけどあなたはマルチナの姉ですね。産んだ覚えないけど産んだのかしら?」
「マルチナのお母様。産んではいないですよ。安心してください。では私が神である証拠を見せましょう。
ーー光あれーー
部屋全体が強くて柔らかな光の波動に包まれる。私の差し出した掌の上に光が凝縮していき直径10センチメルトほどの光る球体が出現した。
「永久に光り続け、破壊することもできない神器です」
私は一瞬にして光る燭台を虚空から作りだしてテーブルの上に置いた。
皇帝一家をチラ見すると実にいい顔で驚いてくれている。純粋で素直な人たちなんだね。同じことをした時に嫌らしく疑いの目で見ていたフィリッポ曹長とは大違いだよ。思い出したら腹立ってきた。
「そして皆さんには、まずこの恩恵を受け取って頂きましょう。
ーー転写 ステータス 念話 神託!」
「これでみなさんはステータス5と念話5が使えるようになりました。確認してください。魔術の転写は神にしか出来ないとされているらしいですから、証拠その2です」
「確かに」
「神様だ」
「ステータス見たら分かる。亜神(時空)アリス様だ」
「私が言った通りでしょう? アリスお姉様は異世界アースの亜神なんだよ。それも神の中の神と言われる時間と空間を司る時空神なんだよ。
そして我が女神イース様の主神でもあるんだよ?」
「えええ、そうなのですか。それは失礼を!」
「いえいえ。お気になさらず。私とマルチナは姉と妹になったのです。ですのでマルチナのご家族は私の家族と言っても良いのです。第2皇子のあなたは私のことをお姉さまと呼んでも良いのですよ? あとの方は普通にアリスさんとでも呼んでください」
「分かりましたアリスさん」
「はい。それで、当分は皇宮内で宿泊させてください。最大で1年、いや5年くらいかな? とりあえず期限未定でお願いします。
お金は払えませんが、困りごとの相談は乗りますよ?
あと、私はマルチナが側にいないと落ち着かないので配慮してください。
具体的に言うとずっと一緒に居たいので貸してください」
「ずっとはちょっと……通いじゃダメですか?」
「…………」
「お姉さま。あたしは今日のところは御所で泊まりますので明日以降はまた考えましょう」
「うん分かったよ」
【166日目 アレキサンドライト皇宮迎賓館 午後3時】
アレキサンドライト帝都の皇宮迎賓館に来て60日が経った。女神イースの信者は着々と増えている。各地の教会の聖職者や神官戦士を強化して信者にしていくので手間がかからない。
強化したり信者にするには神託の使えるものを派遣すれば良いのだが、神託を持っている強化カラスを派遣しても良いことが分かってからは飛躍的に速度が上がった。
女神イースはダンジョンの最奥にでっかい世界地図と黒板を配置して作戦室を作らせた。私が転写してあげた知識「アース日本軍事知識」からヒントを得たんだって。
「アース日本 読み書き会話(簡略版)」
「アース日本 一般常識(超簡略版)」
「アース日本 数学知識(超簡略版)」
「アース日本 科学知識(超簡略版)」
「アース日本 軍事知識(超簡略版)」
巫女達を作戦室要員として扱き使って世界各地の教会や信者達の勢力を把握しながら一日中神託と恩恵付与を行なっている。
私はと言えば、マイホームでモヤモヤと考え事をしたり、特殊神器を作ったりしている。
マルチナは未だに御所から迎賓館の我々の居住場所に通いで来ている。もう慣れてしまった。私も子供ではないので聞き分けはいいのだ。
その代わりサーラさんとグレタさんとキアラさんに優しくしてもらっているから良いのです。
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