“名無し”より謹賀新年

柄木

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新春 ―事始め―   

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 少し利便性は悪いが広大な土地に“名無しノーネーム”が所有する別荘地がある。オーナーと顧客の趣味を十全に活かした別荘地は、上から見ればコテージで一つの円を描いているように見えるだろう。
 東西に一つずつ大きなコテージが有り、それを起点に小さめのコテージを並べて円になるように設計されている。
 表門と裏門のような東西の大きなコテージは、東が小さな舞台も設置された社交場、西は大人数も収容可能な入浴施設となっている。
 そこで何が行われるかはゲスト次第。
 オーナーから招かれたゲストたちのコテージには明かりが灯り、新春の喜びと賑わいに満ちていた。

 ――ついでに喘ぎとか打擲音とか鳴き声とか。

 ほう、と、グロスまで塗られた艶めかしい紅い唇から甘い吐息を零し、ストーンネイルを施した指が硬質の頬に添えられる。

 なんて美しい光景、なんて美しい調べ。

 “名無しノーネーム”のオーナーである各務玲樹かがみれいじゅは満ち足りた笑みで窓の外に映るコテージ明かりを見つめていた。
 あの輝きの一つ一つにそれぞれの愛の形がある。玲樹が招待したゲストたちの愛の営みだ。
 玲樹は形や常識に縛られない愛を尊び、重んじる男だった。
 女装家であるが、男だ。
 愛を尊ぶ漢だった。 

 世間では少し認められない愛でも、大多数の形ではなくても、必要なのは相手を想うこと。
 
 その想いを見つけて成就し、継続させるためにこの倶楽部はある。
 オーナーではあるが、店の利益より優先するのは、真摯な愛の完成形。
 加虐趣味は非道ではない。被虐趣味は恥ずかしくない。
 同じ趣味ではない人間に押しつければ犯罪であり嫌悪の対象になるだろうが、互いに納得して求め合えば、それは一つの愛の形なのだ。

「新しい年に新しい絆を刻んでくださると嬉しいわ」

 ハスキーな声が新春の清々しい空気に溶け消えた。
 玲樹は人の愛の形と成就を見届けることが好きだ。
 去年も今年も来年も、愛を見守る守護者になろうと艶冶に微笑んだ。そのためにどんな労力も惜しむつもりはない。
 玲樹はすべての愛に額づきたい思いで窓の外を慈愛の笑みで見つめている。


 屈強な男たちが椅子となり、テーブルとなり、スタンドとなった部屋で、逞しい背中に座って足を組みながら。


 愛の守護者は、Sの先駆者でもあったのだ。


*****************************************************************************
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
一話ごとコテージとCPが変わりますが、基本オムニバスな愛のあるSMプレイ。
丑コス、書き初め、初競り、初夢、お座敷遊びなどなど。

ネタを考えていたら、幾つも小ネタが浮かんだので連載になりました。
NEXT→丑コスで義兄弟。本当はコレだけ予定だったのに……
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