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婚約破棄
しおりを挟むそんな会話をしている間に馬車は侯爵邸にたどり着いた。連絡を受けていた為か、入り口には家令が待機していた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
家令は老齢であるが、とても礼儀正しい男である。お辞儀をし終えて頭を上げると驚愕した。王家の馬車で送り届けると聞いてはいたが、まさか客人が一緒だとは思わなかったからだ。そしてその客人こそが馬車から降りるローゼリアの手を嬉しそうに取ってエスコートをする国王レイドルートなのだから。
「へ、陛下がご一緒とは知らず、大変ご無礼を!」
慌てて頭を下げる家令に向かって、レイドルートはかまわないと頭を上げるように言う。
「私が来る事は言っていなかったからな。構わん。これは非公式な訪問。侯爵に話があって来たのだ。取り次いで貰えるか?」
レイドルートに伺いを立てられた家令は、返事をすると慌てて屋敷へ戻って行き、侯爵夫妻を連れて戻ってきた。
「お待たせしました、陛下!まさか陛下がご一緒されるとは知らずとんだ御無礼を!」
「侯爵、突然来たのは私だ。頭を上げてくれ。それに折り入って話したい事がある」
「はい、大したもてなしは出来ませんが、どうぞ中へ」
侯爵は慌てて国王レイドルートを屋敷の中へと案内した。応接室に通されたレイドルートは、侯爵夫妻の向かいのソファに座る。
「侯爵、突然の訪問すまなかったな」
「いえ、陛下がお気になさることではありませんよ」
「侯爵、謝罪せねばならん事がある」
「謝罪・・・ですか?」
「あぁ・・・口にするのも憚れるほどの事があってな・・・」
言いにくそうに言葉を絞り出していくレイドルートは、侯爵夫妻とは少し離れたところに用意された椅子に座るローゼリアをチラリと見やる。
「娘がなにか?」
「・・・いや、ローゼリア嬢がではないんだ。私の息子・・・ライモンドがな、他の令嬢と不貞をしおった」
「なんと!・・・」
侯爵夫妻は目を見開き驚きの表情を隠せないでいる。
「ローゼリア嬢は長きに渡って妃教育を受け、努力を重ねてきた。それを無碍にしたのは紛れもなくライモンドだ。この度は誠にすまない事をした」
レイドルートは、ガバッと頭を下げた。
「へ、陛下!頭を上げてください!陛下がなされた事ではないのですから!」
「で、でも、あなた・・・ローゼリアはどうなるの?これまで頑張ってきたのに・・・」
「し、しかし・・・」
ゆっくりと頭を上げたレイドルートは、侯爵夫妻を真剣な顔で見つめる。
「今回の婚約は白紙に戻そうと思う」
「・・・そんな・・・これまでローゼリアは毎日頑張ってきたのですよ!殿下のお役に立てるようにと!なのに何故っ!!」
「落ち着くんだ、イルゼ」
「・・・っ、落ち着いていられますか!」
「夫人・・・本当に申し訳ないと思っている。だが・・・好機だとも思っている」
「好機ですって!?」
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侯爵夫人イルゼは、当主ロイスに諌められ黙り込んでしまった。
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