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子犬のような国王

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離宮で過ごしてはどうかと提案をしたレイドルート。ローゼリアの反応を窺っていた。侯爵ロイスが疑問を口にする。


「陛下がお守り頂けると・・・?」

「あぁ、そうなるな」

「ですが、王宮には、ライモンド殿下もいらっしゃるのでしょう?そのような所にローゼリアを・・・」


イルゼは心配そうにローゼリアを見つめる。


「夫人、先程も言ったように、離宮には私が信頼している者しかおいていない。尚且つ、普段から私の許可するものしか立ち入れないようにしてあるのだ。誰一人許可のないものは立ち入る事ができぬ。それは王族であるライモンドもだ」

「そうなのですか・・・」

「心配なのは良くわかる。私だって、いずれローゼリア嬢が義娘になることを心から待ち望んでいたし、楽しみにしていたのだ。心配なのは私も同じだ。だから、私自ら、ローゼリア嬢の身を安全な場所に置きたいと思った。侯爵家に帰せば安心はできるだろう。だが、次から次にとくる縁談を断り続けるのも大変な事だぞ?それに、もし、断れないような相手から望まぬ縁談がくれば・・・ローゼリア嬢はそれこそ望まぬ結婚をせねばならんだろう?それだけは避けたい」


自身の父である侯爵に、真剣な表情で訴えかけるレイドルートを見て、ローゼリアは嬉しさを感じつつも、自分がどのような状況に置かれるのか、はっきりと自覚してしまった。その事が、ローゼリアの心に暗い影をさし、それがじわじわと広がっていくようだった。


「私は・・・」


そんな中、ローゼリアが静かに口を開いた。


「離宮でお世話になった使用人の方々の優しさに救われましたわ。皆様とても親切で・・・穏やかな時間を過ごせたのは事実です。でも・・・陛下?良縁を紹介頂けるとしても、私はいずれ誰かの元へと嫁がねばならないのでしょう?今はそんな気にはなれません。領地にでも引きこもって静かに暮らそうかと・・・」

「それは困る」

「・・・困る?」

「あ・・・いや・・・茶飲み友達がいなくなるのは寂しいぞ?」


ローゼリアを見つめるレイドルートは、さながら捨てられた子犬のような目をしていた。


「茶飲み・・・友達・・・」

「約束したであろう?またこうやって茶を飲もうと」

「そうでしたわね・・・」

「離宮に滞在してくれれば、私が会いに行く。おいしい茶を飲む時間を・・・また過ごせたらと・・・」


ローゼリアから色よい返事を貰えそうにないと感じたレイドルートの声が段々と小さくなっていた。一国の王である威厳のある男も、叶わぬ事があるとこんなにも頼りない男になってしまう。どこまでも優しいこの男に、ローゼリアの心は揺らいでいたが、決定打に欠けている。自分はどうすればいいのか。何の為に離宮に滞在するのか。そして、守られるだけでいいのか。いろんな考えがローゼリアの頭の中を駆け回っていった。







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