ある人の人生の話

Sea

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幼少期

見知らぬ『身内』

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ある時の夏休み。
宿題の絵を描くのに画用紙が必要だったが、手元に無かった為母に聞いた。すると、母は「落書き帳にでも描いたら?」と言われたので、それで描いていた。描いている最中に、祖母が母を呼んだ。何か言い争いをした後、母が自分の隣りに戻ってきた。『どうしたの?』とは聞けず黙って宿題を続けた。すると、ドカドカと音を立てながら誰かが階段を登ってくる音を聞いた。ドアに目を向けると、祖父が扉を開けて入ってきた。祖父の顔は…怒りに染まっていた。そして、母に近付くと…母の頬をバチンという音がするぐらいの勢いのまま叩いたのだ。…突然の事で、固まってしまった。あまり怒っている所を見た事が無い祖父が、母を怒鳴っている状況に自分はどうしたら良いか判らなかった。一通り言い終えたのか、祖父は部屋を出て降りて行った。母は泣き、自分はどうしたら良いのか判らないまま祖母が泣く自分にしてくれる様に背中を撫でる。そうしていると、祖母が上がってきて泣く母を宥めていた。そして、母は
「…この家を出て行く」
と言った。そして、言った通り…母は家を出て行った。


だが、自分は母に付いて行った。古いアパートの一室を借りて住む母に、小学校から帰ると仕事を終えた母の所に行き朝起きたら祖母達の家に向かい学校へ行くという『変わった生活』が始まった。
その生活は、苦では無かった。ちょっとした『お泊まり会』みたいな感覚だった。暫くして、夜中に目が覚めると隣りに寝ていた筈の母が居なかった。よく耳を澄ませると、外から母の声が聞こえた。最近お気に入りになったぬいぐるみを抱きしめ、恐る恐る部屋を出てアパートの階段の所から下を見ると母と知らない男性が話していた。その様子を見ていると、自分の存在に気付いた母が自分を呼んだ。階段を降りて母の隣りに立ち、知らない男性の方を見た。母からの紹介で、男性は仕事場の知り合いらしい。そして、自分が抱きしめているぬいぐるみをくれたのもこの男性だと言った。男性を紹介され、数日経った時には…何故か、その男性は母の住む部屋に暮らす様になっていった。『謎の同居生活』が始まり、ある時の夜中起きた自分は母も男性も居ない事に気付いた。耳を澄ませてみても、母の声も男性の声も聞こえない。母の車を見に行ったが、車も無かった。そう広くない部屋にひとりぼっち、怖いのと寂しいのとで不安になり覚えている祖母の家に電話を掛ける。起きていた祖母は、自分の所まで来てくれた。それと同時に、男性も帰って来た。それを見た祖母は、「子供1人置いて何処に行っていた!?」と男性を怒った。それでも、自分は母の部屋に通う事を辞めなかった。そんな生活が小学6年の新学期が始まっての時だった
「新しい家が出来たから、私は引っ越す事になったんだけど。○○はどうする?私と一緒に来る?それとも、おばあちゃんの所に居る?」
『新しい家』とは、あの男性が一軒家を買って母と暮らすのだと。その家は、遠く…今の様に行ったり来たりする事が難しいと言った。その話を聞いて、自分は母に付いていく事を決めた。なので、小学生の間は引っ越しした家から祖母の家に自分を送り迎えして、卒業したら母の家から通える中学に入学する事が決まった。そして、新しい家に向かっている途中、母が『苗字が変わる』と言った。再婚したのだ。仕事場で知り合い、家を買ってくれた男性と。だから、『苗字が変わる』…しかし、その事については自分は首を振った。何故だか、呼ばれる名前が変わる事が嫌だったから断った。それを、母も男性も「良いよ」と言ってくれて、自分だけ旧姓のままとなった。そして小学6年の皆が卒業して通う事になる2つの中学校どちらかに分かれ見学に行くという事を聞いたが…自分は、母の居る家から通う中学校はどんなものなのだろうと思っていた。だって、卒業したら母の住む家に行くのでこの小学校から選べる中学に自分は行かないからだ。


そして、卒業式を迎え
自分は、母の住む家に本格的に暮らす事になった。

再婚したので、あの男性は『父』と呼ばれる立場になったが…自分の口から、男性を『父親』と呼ぶ事は無かった。



まぁ、名前が違うことは少し不便ではあった。中学・高校の提出物の中に、『親のサインとハンコ』を貰うという書類の時だ。自分は旧姓、母は再婚で姓が変わっている。その為、親のサインの部分の名前が違うとなって提出相手を困らせ「親は再婚しています。自分の姓は、母の旧姓です」と一々説明しなければいけなかったからだ。慣れてしまった相手は、説明しなくてもよくなったが初めての相手には説明をしてきた。
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