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87.目覚めたら……
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「おはよう、アリー!!」
「おはようございます、オリヴィア様」
いつものごとくノックもなく部屋に突入して来たオリヴィアに叩き起こされる。瞳の色を見られないよう、まだ眠たい振りをして目をつぶる。
えーっと、メガネメガネ……目を瞑ったまま手探りで眼鏡を探す。
「お嬢さん、お探しの物はこれじゃないですか?」
今の声って……聞き覚えのある声にうっすらと目をあけると、
「エドワード様!? どうしてここにいるんですか?」
驚く私の顔に眼鏡をはめ、エドワードがにっこりと笑った。
「レジーナ殿下の護衛を任されているんだよ」
春喜宴に参加するレジーナ様が王宮へ行く道中の護衛を、騎士団長であるエドワードが任されているらしい。それならそうと前もって教えてくれてればいいのに。
「ドッキリは大成功ね」
パチン。オリヴィアとエドワードのハイタッチの音が寝室に響いた。
「驚いたでしょ?」
オリヴィアが楽しそうにうふふと笑った。
「自分が来るのを内緒にして欲しいってエドワードに頼まれたの。いきなり現れて、アリーの喜ぶ顔が見たいからですって」
「アリーが想像以上の反応をしてくれて嬉しいですよ」
「いいわね、アリーってば愛されてるぅ」
はははっ……
乾いた笑いが口から漏れる。
愛されてるわけじゃなくて、これはいつもの軽い嫌がらせよ。エドワードは私が驚いてるのを見て楽しんでるだけなんだから。
そんなことは知らないオリヴィアは興奮気味だ。
「私、エドワードが来るのずーっと待ってたのよ。アリーと恋バナしようと思っても、エドワードに怒られるからって何にも教えてくれないんだもの」
「私は怒ったりしませんよ」
ニコッと笑ったエドワードが何だか怖い。
「やったぁ。ほらアリー、エドワードも怒らないって言ってるし。どうやって二人が恋人同士になったのか教えてよ」
「え、えーっと……」
そんなこと言われても、下手な作り話をしたら、エドワードに馬鹿にされるのがオチだ。
「オリヴィア様が喜ぶような話かどうか分かりませんが……」
まさかエドワードが助け船を出してくれるなんて。口ごもる私のかわりにエドワードが話始めた。
「アリーとの出会いは刺激的でしたね。なんせ女性に頭突きをされたのは初めてでしたから」
「頭突きですって!?」
オリヴィアが目を丸くして私を見た。
……もしかしたら、エドワードは助け船を出してくれたわけじゃなくて、いらないことを言うつもりなんじゃ……嫌な予感がする。
「えぇ、頭突きです。あの頭突きは強烈でしたね……獰猛な牛にも負けないであろうその頭突きをくらって以来、私はアリーのことが忘れられなくて……今こうして恋人同士となったのです」
「ちょっと、それ、すごいんだけど」
オリヴィアは前にも増して瞳をキラキラさせ続きを求めている。
「そもそもエドワードはどうしてアリーに頭突きなんてされたのよ?」
「それはですね……」
「それは?」
「秘密です」
身を乗り出すオリヴィアに、エドワードはにっこりと微笑んだ。
「秘密って……そんなのひどくない?」
オリヴィアは不満顔だ。
「教えてさしあげたいのですが、これ以上はアリーが恥ずかしがるでしょうから。ね、アリー?」
へっ? ここで私にふっちゃうの?
それじゃあ私がオリヴィアの餌食になっちゃうじゃない。
「アリー!! どうして頭突きなんてしたのよ?」
ほらやっぱり食いついた!!
そこの所を詳しくとオリヴィアが私に詰め寄る。そんな私達を見てエドワードがくくっと声を押し殺して笑っている。
ム、ムカつく。エドワード様がその気なら、私だって言ってやるんだから。
「私が頭突きをしたのは、エドワード様が無理矢理キスをしようとしたからです。そうですよね、エドワード様?」
「あぁ。そうだったね」
少しくらい困ればいいと思ったのに、エドワードは狼狽える様子もなく余裕の表情だ。かわりにオリヴィアはひどく困惑している。
「無理矢理って、えっ? エドワードが??」
「アリーがあまりに可愛らしくて我慢できなかったんですよ」
エドワードの手がすっと伸びて私の頬に触れる。
「今だってそうです。アリーに触れたくてたまらないのを我慢しているんですよ」
オリヴィアがキャーっと叫ばんばかりに興奮して、
「そ、そうよね。久しぶりに会ったんだものね。二人きりでイチャイチャしたいわよね」
鼻息を荒くしたまま、待機していたマリベルを半ば強引に引き連れていってしまった。
「ごゆっくり~」
にんまりと笑ったオリヴィアの顔がドアの後ろに消える。ドアの外からの気配が消えるやいなや、エドワードが声をあげて笑い出した。
「オリヴィア殿下は本当に面白いな」
「エドワード様は相変わらずいい性格してますね」
嫌味のつもりだったが、エドワードには全く響いていないようだ。
「思ったより元気そうだな。オリヴィア殿下にだいぶ懐かれてるみたいだし」
そう言ってエドワードは再びくくくっと笑った。
「オリヴィア様にはよくしていただいてます。そんなことよりエドワード様、ウィルバート様は元気ですか?」
「ああ、殿下は元気だ」
ウィルには特に変わった様子はないと言われて、よかったとほっとする。
「それはお前にとって本当に良いことなのか?」
「どういう意味ですか?」
「いつも通りだということは、お前がいなくても平気だと言うことだ。殿下はもうお前のことなど覚えてないかもしれないぞ」
「前にも言いましたけど、ウィルバート様と私はすでにお別れしてますので。ウィルバート様にはグレース様もいらっしゃいますし、忘れられても仕方ないですよ」
半分本心で、半分は強がりだ。
頭のキレるエドワードが、私が何を言われたら傷つくか分からないわけがない。それでもあえてそういうキツい言葉をぶつけてくるのは、もしかしたら私を傷つけたいのかもしれない。エドワードはじっと私の表情の変化を観察している。
「エドワード様は私のこと嫌いなんですか?」
「はぁ、いきなりなんだ?」
エドワードが突然何だと怪訝な顔を見せる。
「だっていつも意地悪したり、嫌なこと言ったりするじゃないですか。だから私は嫌われてるのかなって思って……」
私の問いかけに、エドワードが真面目な顔をして答えた。
「俺はお前の事好きだぞ」
「あ、そ、そーなんですか?」
そんな答えが返ってくるなんて思ってもみなかった。想定外の返答にドキドキしてしまう。
どうしよう。そんな風に言われたら、何て言ったらいいか分からないじゃない。
不意にエドワードがおかしくてたまらないというように大きな声で笑いはじめた。
「本当に単純な奴だよな」
まだ笑い足りないという様子のエドワードを見て、またからかわれたのだと分かった。途端に照れてドキドキしていた自分が恥ずかしくなる。
「騙すなんてひどいです」
「騙してないだろ。お前みたいな感情だだ漏れな奴は貴重だからな。からかいがいがあって俺は好きだぞ」
「そんなの嬉しくないです」
からかいがいがあって好きって、私はおもちゃじゃないわよ。
「エドワード様って本当に性格悪いですよね」
ムッとする私を見てエドワードは再び声を出して笑った。もうエドワードの事なんて、無視してしまおう。
エドワードの登場というサプライズで起こされたせいで、まだ身支度すら終わっていない。マリベルはオリヴィアに連れて行かれてしまったから、一人でなんとかしなくては。
顔を洗い、櫛できれいにウィッグをとかす。オリヴィアがいつ部屋に入ってくるのか分からないので、基本的には入浴以外ウィッグはつけっぱなしだ。それ自体に不便さは感じていないが、この朝のウィッグのお手入れだけは未だに手こずってしまう。
なんせ毛の絡まり具合がすごいのだ。その絡んだ毛を無理矢理とかすと当然抜け毛も増えてしまう。だから丁寧にゆっくりととかしていくしかない。
ウィッグと格闘する私を見かねたエドワードが、私からブラシを奪いとった。私の不器用さに呆れながらも、優しい手つきで髪を整えていく。あっという間にハーフアップにしてリボンまでつけてくれるんだから、本当に器用な人だ。
身支度がひと段落すると、エドワードがいない間の報告を求められる。自分がいない間に危険な事やトラブルがなかったかと聞いてくるって事は、一応は私の事を心配してくれているのだろうか。
問題ねぇ……もちろんあったわよ。
私がアリスであることがラウルにバレているかもしれない。そう伝えても、エドワードはさほど驚きはしなかった。どうやらラウルにバレるのは想定の範囲内だったらしい。
まぁバレたからと言っても、ラウルならば悪いようにはしないだろうとエドワードは言ってるけど、そうでもないのよね。
ラウルはウィルを嫌いみたいだという事。ウィルの恋人だと思われているのか、私はラウルから嫌がらせをされている事。
まぁ全て私の想像かもしれないけれど、とりあえずエドワードに報告だ。
私の話を聞いたエドワードが眉間に皺を寄せたのは、私が微妙な嫌がらせをされたという話をした時だった。
「嫌がらせ? 口説かれたわけじゃないのか?」
「口説かれてなんかいませんよ」
「何で口説かれてないんだよ?」
いや、何でって……
エドワードは意味不明というような表情をしているけれど、その顔をするのは私の方だ。だいたい口説かれる方がおかしいでしょ。
「おはようございます、オリヴィア様」
いつものごとくノックもなく部屋に突入して来たオリヴィアに叩き起こされる。瞳の色を見られないよう、まだ眠たい振りをして目をつぶる。
えーっと、メガネメガネ……目を瞑ったまま手探りで眼鏡を探す。
「お嬢さん、お探しの物はこれじゃないですか?」
今の声って……聞き覚えのある声にうっすらと目をあけると、
「エドワード様!? どうしてここにいるんですか?」
驚く私の顔に眼鏡をはめ、エドワードがにっこりと笑った。
「レジーナ殿下の護衛を任されているんだよ」
春喜宴に参加するレジーナ様が王宮へ行く道中の護衛を、騎士団長であるエドワードが任されているらしい。それならそうと前もって教えてくれてればいいのに。
「ドッキリは大成功ね」
パチン。オリヴィアとエドワードのハイタッチの音が寝室に響いた。
「驚いたでしょ?」
オリヴィアが楽しそうにうふふと笑った。
「自分が来るのを内緒にして欲しいってエドワードに頼まれたの。いきなり現れて、アリーの喜ぶ顔が見たいからですって」
「アリーが想像以上の反応をしてくれて嬉しいですよ」
「いいわね、アリーってば愛されてるぅ」
はははっ……
乾いた笑いが口から漏れる。
愛されてるわけじゃなくて、これはいつもの軽い嫌がらせよ。エドワードは私が驚いてるのを見て楽しんでるだけなんだから。
そんなことは知らないオリヴィアは興奮気味だ。
「私、エドワードが来るのずーっと待ってたのよ。アリーと恋バナしようと思っても、エドワードに怒られるからって何にも教えてくれないんだもの」
「私は怒ったりしませんよ」
ニコッと笑ったエドワードが何だか怖い。
「やったぁ。ほらアリー、エドワードも怒らないって言ってるし。どうやって二人が恋人同士になったのか教えてよ」
「え、えーっと……」
そんなこと言われても、下手な作り話をしたら、エドワードに馬鹿にされるのがオチだ。
「オリヴィア様が喜ぶような話かどうか分かりませんが……」
まさかエドワードが助け船を出してくれるなんて。口ごもる私のかわりにエドワードが話始めた。
「アリーとの出会いは刺激的でしたね。なんせ女性に頭突きをされたのは初めてでしたから」
「頭突きですって!?」
オリヴィアが目を丸くして私を見た。
……もしかしたら、エドワードは助け船を出してくれたわけじゃなくて、いらないことを言うつもりなんじゃ……嫌な予感がする。
「えぇ、頭突きです。あの頭突きは強烈でしたね……獰猛な牛にも負けないであろうその頭突きをくらって以来、私はアリーのことが忘れられなくて……今こうして恋人同士となったのです」
「ちょっと、それ、すごいんだけど」
オリヴィアは前にも増して瞳をキラキラさせ続きを求めている。
「そもそもエドワードはどうしてアリーに頭突きなんてされたのよ?」
「それはですね……」
「それは?」
「秘密です」
身を乗り出すオリヴィアに、エドワードはにっこりと微笑んだ。
「秘密って……そんなのひどくない?」
オリヴィアは不満顔だ。
「教えてさしあげたいのですが、これ以上はアリーが恥ずかしがるでしょうから。ね、アリー?」
へっ? ここで私にふっちゃうの?
それじゃあ私がオリヴィアの餌食になっちゃうじゃない。
「アリー!! どうして頭突きなんてしたのよ?」
ほらやっぱり食いついた!!
そこの所を詳しくとオリヴィアが私に詰め寄る。そんな私達を見てエドワードがくくっと声を押し殺して笑っている。
ム、ムカつく。エドワード様がその気なら、私だって言ってやるんだから。
「私が頭突きをしたのは、エドワード様が無理矢理キスをしようとしたからです。そうですよね、エドワード様?」
「あぁ。そうだったね」
少しくらい困ればいいと思ったのに、エドワードは狼狽える様子もなく余裕の表情だ。かわりにオリヴィアはひどく困惑している。
「無理矢理って、えっ? エドワードが??」
「アリーがあまりに可愛らしくて我慢できなかったんですよ」
エドワードの手がすっと伸びて私の頬に触れる。
「今だってそうです。アリーに触れたくてたまらないのを我慢しているんですよ」
オリヴィアがキャーっと叫ばんばかりに興奮して、
「そ、そうよね。久しぶりに会ったんだものね。二人きりでイチャイチャしたいわよね」
鼻息を荒くしたまま、待機していたマリベルを半ば強引に引き連れていってしまった。
「ごゆっくり~」
にんまりと笑ったオリヴィアの顔がドアの後ろに消える。ドアの外からの気配が消えるやいなや、エドワードが声をあげて笑い出した。
「オリヴィア殿下は本当に面白いな」
「エドワード様は相変わらずいい性格してますね」
嫌味のつもりだったが、エドワードには全く響いていないようだ。
「思ったより元気そうだな。オリヴィア殿下にだいぶ懐かれてるみたいだし」
そう言ってエドワードは再びくくくっと笑った。
「オリヴィア様にはよくしていただいてます。そんなことよりエドワード様、ウィルバート様は元気ですか?」
「ああ、殿下は元気だ」
ウィルには特に変わった様子はないと言われて、よかったとほっとする。
「それはお前にとって本当に良いことなのか?」
「どういう意味ですか?」
「いつも通りだということは、お前がいなくても平気だと言うことだ。殿下はもうお前のことなど覚えてないかもしれないぞ」
「前にも言いましたけど、ウィルバート様と私はすでにお別れしてますので。ウィルバート様にはグレース様もいらっしゃいますし、忘れられても仕方ないですよ」
半分本心で、半分は強がりだ。
頭のキレるエドワードが、私が何を言われたら傷つくか分からないわけがない。それでもあえてそういうキツい言葉をぶつけてくるのは、もしかしたら私を傷つけたいのかもしれない。エドワードはじっと私の表情の変化を観察している。
「エドワード様は私のこと嫌いなんですか?」
「はぁ、いきなりなんだ?」
エドワードが突然何だと怪訝な顔を見せる。
「だっていつも意地悪したり、嫌なこと言ったりするじゃないですか。だから私は嫌われてるのかなって思って……」
私の問いかけに、エドワードが真面目な顔をして答えた。
「俺はお前の事好きだぞ」
「あ、そ、そーなんですか?」
そんな答えが返ってくるなんて思ってもみなかった。想定外の返答にドキドキしてしまう。
どうしよう。そんな風に言われたら、何て言ったらいいか分からないじゃない。
不意にエドワードがおかしくてたまらないというように大きな声で笑いはじめた。
「本当に単純な奴だよな」
まだ笑い足りないという様子のエドワードを見て、またからかわれたのだと分かった。途端に照れてドキドキしていた自分が恥ずかしくなる。
「騙すなんてひどいです」
「騙してないだろ。お前みたいな感情だだ漏れな奴は貴重だからな。からかいがいがあって俺は好きだぞ」
「そんなの嬉しくないです」
からかいがいがあって好きって、私はおもちゃじゃないわよ。
「エドワード様って本当に性格悪いですよね」
ムッとする私を見てエドワードは再び声を出して笑った。もうエドワードの事なんて、無視してしまおう。
エドワードの登場というサプライズで起こされたせいで、まだ身支度すら終わっていない。マリベルはオリヴィアに連れて行かれてしまったから、一人でなんとかしなくては。
顔を洗い、櫛できれいにウィッグをとかす。オリヴィアがいつ部屋に入ってくるのか分からないので、基本的には入浴以外ウィッグはつけっぱなしだ。それ自体に不便さは感じていないが、この朝のウィッグのお手入れだけは未だに手こずってしまう。
なんせ毛の絡まり具合がすごいのだ。その絡んだ毛を無理矢理とかすと当然抜け毛も増えてしまう。だから丁寧にゆっくりととかしていくしかない。
ウィッグと格闘する私を見かねたエドワードが、私からブラシを奪いとった。私の不器用さに呆れながらも、優しい手つきで髪を整えていく。あっという間にハーフアップにしてリボンまでつけてくれるんだから、本当に器用な人だ。
身支度がひと段落すると、エドワードがいない間の報告を求められる。自分がいない間に危険な事やトラブルがなかったかと聞いてくるって事は、一応は私の事を心配してくれているのだろうか。
問題ねぇ……もちろんあったわよ。
私がアリスであることがラウルにバレているかもしれない。そう伝えても、エドワードはさほど驚きはしなかった。どうやらラウルにバレるのは想定の範囲内だったらしい。
まぁバレたからと言っても、ラウルならば悪いようにはしないだろうとエドワードは言ってるけど、そうでもないのよね。
ラウルはウィルを嫌いみたいだという事。ウィルの恋人だと思われているのか、私はラウルから嫌がらせをされている事。
まぁ全て私の想像かもしれないけれど、とりあえずエドワードに報告だ。
私の話を聞いたエドワードが眉間に皺を寄せたのは、私が微妙な嫌がらせをされたという話をした時だった。
「嫌がらせ? 口説かれたわけじゃないのか?」
「口説かれてなんかいませんよ」
「何で口説かれてないんだよ?」
いや、何でって……
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