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第一話「月の光と胸の痛み」
028.ずるくて優しい(1)
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――胸騒ぎがする。
私は誰に呼ばれるでもなく目を開けた。お月様ではないもっと恐ろしい何かが来る。その何かが私の眠りに波を立てている。私はクルトを起こさないよう、そっとベッドから抜け出した。床に足をつき心を研ぎ澄ます。ああ、やっぱり強く感じる。全身の毛が逆立つのがわかる。私が魔物だからこそわかる魔物の気配だ。この世のすべてに怒り狂っている。声すら出ないほどの怒りだ。
『まさか!!』
私は嫌な予感に目をカッと開けた。同時に女の人の叫び声が聞こえる。
「誰か、誰かーーーっっっ!!!」
そこに今度は男の人の声が重なった。
「大変だ。ワイバーンが、ワイバーンが出たぁぁぁあああ!!!大聖堂広場だ!!!」
続いてたくさんの人が道を駆けて行く音――。宿屋の建物が地響きに揺れる。
『……!!』
私は窓辺に飛び乗りマーヤの街を見渡した。遠くで火の手が上がっている。冒険者ギルドのある通りで、火柱が立つほどの大きさだ。火は瞬く間に燃え広がり街を赤く染めて行く。同時に天上から炎を絡めた雷が、雨あられと地上へと降り注いだ。大通りに炎が一瞬で走り赤く太い道を作る。
「おかあさん……おかあさーん!熱いよぉぉっ」
「あなたっ!!いやっ、お願い、目をさまして!」
「中に、中にまだ従業員が二名いるんだ……!!」
ほんのわずかな時間で地獄となったマーヤを私は呆然と眺めた。
『そんな……そんな……』
助けなきゃ。早くみんなを助けなきゃ。エリカお姉さんのおうちのお肉屋さんは? 料理人のおじさんの働く食堂は? それに、それにクマ男のあのお店はどうなったの? 私が窓辺で凍り付いた次の瞬間、ごぅっと西から風がふぶいた。私はおそるおそる風の源をたどる。
『……!!』
大通りの斜め上の空をワイバーンが飛んでいた。頭が二つある見たこともない変異種――高くを飛んでいるはずなのに、真月よりずっと大きく思える。クマ男は五割増しと言っていたけれども、私にはふつうの二倍にも、三倍にも感じた。ウロコは炎と同じ紅で初めて見る色だ。ワイバーンは灰か茶か緑のウロコをしている。山に住んでいることが多いので、周りの木や土、岩に似せるためだ。なのに、このワイバーンは自分を隠そうとも、守ろうともしていない。それどころか見せ付けるように飛んでいく。
ワイバーンはマーヤの上空をぐるりと一周すると、その真っ赤な四つの目で大聖堂から続く大通りを見据えた。翼をゆっくりと動かし羽ばたいていく。
たいへん、と私は慌てて窓辺から飛び降りた。
――あっちはゲッツのよろず古道具屋のある方向だ!
私は誰に呼ばれるでもなく目を開けた。お月様ではないもっと恐ろしい何かが来る。その何かが私の眠りに波を立てている。私はクルトを起こさないよう、そっとベッドから抜け出した。床に足をつき心を研ぎ澄ます。ああ、やっぱり強く感じる。全身の毛が逆立つのがわかる。私が魔物だからこそわかる魔物の気配だ。この世のすべてに怒り狂っている。声すら出ないほどの怒りだ。
『まさか!!』
私は嫌な予感に目をカッと開けた。同時に女の人の叫び声が聞こえる。
「誰か、誰かーーーっっっ!!!」
そこに今度は男の人の声が重なった。
「大変だ。ワイバーンが、ワイバーンが出たぁぁぁあああ!!!大聖堂広場だ!!!」
続いてたくさんの人が道を駆けて行く音――。宿屋の建物が地響きに揺れる。
『……!!』
私は窓辺に飛び乗りマーヤの街を見渡した。遠くで火の手が上がっている。冒険者ギルドのある通りで、火柱が立つほどの大きさだ。火は瞬く間に燃え広がり街を赤く染めて行く。同時に天上から炎を絡めた雷が、雨あられと地上へと降り注いだ。大通りに炎が一瞬で走り赤く太い道を作る。
「おかあさん……おかあさーん!熱いよぉぉっ」
「あなたっ!!いやっ、お願い、目をさまして!」
「中に、中にまだ従業員が二名いるんだ……!!」
ほんのわずかな時間で地獄となったマーヤを私は呆然と眺めた。
『そんな……そんな……』
助けなきゃ。早くみんなを助けなきゃ。エリカお姉さんのおうちのお肉屋さんは? 料理人のおじさんの働く食堂は? それに、それにクマ男のあのお店はどうなったの? 私が窓辺で凍り付いた次の瞬間、ごぅっと西から風がふぶいた。私はおそるおそる風の源をたどる。
『……!!』
大通りの斜め上の空をワイバーンが飛んでいた。頭が二つある見たこともない変異種――高くを飛んでいるはずなのに、真月よりずっと大きく思える。クマ男は五割増しと言っていたけれども、私にはふつうの二倍にも、三倍にも感じた。ウロコは炎と同じ紅で初めて見る色だ。ワイバーンは灰か茶か緑のウロコをしている。山に住んでいることが多いので、周りの木や土、岩に似せるためだ。なのに、このワイバーンは自分を隠そうとも、守ろうともしていない。それどころか見せ付けるように飛んでいく。
ワイバーンはマーヤの上空をぐるりと一周すると、その真っ赤な四つの目で大聖堂から続く大通りを見据えた。翼をゆっくりと動かし羽ばたいていく。
たいへん、と私は慌てて窓辺から飛び降りた。
――あっちはゲッツのよろず古道具屋のある方向だ!
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