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「悪役令嬢と獅子心の黒太子」
02.パートナーは……
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国王ご夫妻は隣り合った玉座に腰掛け、レオンハルト様――獅子心の黒太子殿下は、身分に合わせ立ち姿で私たちを出迎えた。
レオンハルト様は噂に聞いていたとおり、黒髪に黒目の背の高い方だった。エストラントの慣習からなのか、髪は伸ばして一つに束ねている。精悍な美貌と鋭利な眼差しの持ち主で、漆黒に黄金の縁取りの軍服が良く似合っていた。
堅苦しい挨拶ののち、陛下が感嘆の声を上げる。
「アンドリュー殿下の婚約者のご令嬢も、息子と同じ黒髪に黒目と聞いていたが、確かに見事な純黒だな。夜の闇とてこうも深く美しい黒ではあるまい」
私はドレスの裾を摘んで頭を下げた。
「お褒めにあずかり光栄に存じます」
この黒髪と黒目はベルフォールの、初代の王妃の色彩を受け継いでいる。この王妃は異世界からやって来た、聖女だったという伝説が残されていた。ベルフォールの農耕や産業の基礎を築き上げ、伴侶となった国王をよく助けたのだそうだ。
私が陛下と王妃様にその話を語っていると、先ほどから黙り込んでいたレオンハルト様が、「それは奇遇だな」と初めて声を発した。
「俺のこの髪と目も先祖返りだと言われている。なんでもエストラントで内乱が起こった際、神によって異世界から遣わされ、後に女王の王配となった勇者のものらしいぞ」
私はエストラントにもそんな伝説があったのかと驚く。レオンハルト様はそんな私の顔を見てニヤリと笑った。
「つまり、俺たちは同類というわけだ」
同類と言われたところで、共通点など黒髪と黒目しかない。私は戸惑いながらも曖昧に微笑み、とりあえずは「光栄ですわ」と礼を言った。
「異世界の血を引く者同士、お互いの国の発展のために、力を尽くせると良いですね」
社交辞令で適当にその場をまとめると、アンドリューが手際よく退出の挨拶をする。
「それでは今夜を楽しみにしております。また後ほどお会いいたしましょう」
今夜はエストラントの重鎮と、招待者らが参加する舞踏会である。私は着付けと化粧を済ませると、アンドリューのエスコートを受け、会場となる大広間へと向かった。
アンドリューが踊り場で不意に立ち止まり、ブルーグレーの瞳を私に向ける。そしてふと愛しそうに微笑むと、「きれいだ」と言ってくれたのだ。私は顔が一瞬にして赤くなるのを感じた。今までで一番嬉しい褒め言葉だったから。百万人からのお世辞よりずっと嬉しかった。
私には流行のフリルやレースたっぷりで、横広がりの可愛いドレスは、残念ながらまったく似合わない。仕立屋が勧めてくれたデザインは、深紅の身体にぴったりと沿うものだ。腰からの線が流れるように美しい。胸が開き過ぎな気もするけど、控え目なくらいだと言われていた。
「本当にきれいだ。他の誰にも見せたくはないよ」
ところが「ありがとう」を言う間もなく、背に手を回され抱き寄せられてしまう。アンドリューがこんな真似をするのは初めてだった。私は人目を気にして「アンドリュー」と慌てた。それでもアンドリューは私を放さずに、耳に口を寄せてこう囁いたのだ。
「きっとそう思っているのは俺だけじゃない」
私はさすがに驚きアンドリューを見上げる。
「あの黒太子には気をつけた方がいい。きっと君を気に入ったに違いない」
何を言っているのだろうと、首を傾げるしかなかった。
「だって私はあなたの――ベルフォールの王太子の婚約者なのよ?」
それ以前に私は女にしては背が高く、高さのあるヒールを履いてしまえば、並みの男の方は追い越してしまう。これまで靴を履いても私より高い人は、お父様、お兄様、アンドリューくらいだった。
おまけに顔立ちは子供のころからきつめであり、「悪役顔」などと陰口を叩かれたこともある。そんな私が狙われるなどとは思えなかった。
「考えすぎよ、アンドリュー」
アンドリューは「無防備過ぎる」と溜め息を吐いた。
「君は自分の魅力を知らなさ過ぎるんだよ」
「私が、無防備……? 魅力……?」
これまで「完璧だ」「隙がない」、極めつけは「なんだか怖い」だのと、真逆の評価を受けて来たのだ。とつぜん無防備などと言われても、受け入れられるはずもなかった。
アンドリューは「危なっかしいな」と苦笑する。
「舞踏会の間は俺から離れないで。いいかい。君のパートナーは俺だ」
レオンハルト様は噂に聞いていたとおり、黒髪に黒目の背の高い方だった。エストラントの慣習からなのか、髪は伸ばして一つに束ねている。精悍な美貌と鋭利な眼差しの持ち主で、漆黒に黄金の縁取りの軍服が良く似合っていた。
堅苦しい挨拶ののち、陛下が感嘆の声を上げる。
「アンドリュー殿下の婚約者のご令嬢も、息子と同じ黒髪に黒目と聞いていたが、確かに見事な純黒だな。夜の闇とてこうも深く美しい黒ではあるまい」
私はドレスの裾を摘んで頭を下げた。
「お褒めにあずかり光栄に存じます」
この黒髪と黒目はベルフォールの、初代の王妃の色彩を受け継いでいる。この王妃は異世界からやって来た、聖女だったという伝説が残されていた。ベルフォールの農耕や産業の基礎を築き上げ、伴侶となった国王をよく助けたのだそうだ。
私が陛下と王妃様にその話を語っていると、先ほどから黙り込んでいたレオンハルト様が、「それは奇遇だな」と初めて声を発した。
「俺のこの髪と目も先祖返りだと言われている。なんでもエストラントで内乱が起こった際、神によって異世界から遣わされ、後に女王の王配となった勇者のものらしいぞ」
私はエストラントにもそんな伝説があったのかと驚く。レオンハルト様はそんな私の顔を見てニヤリと笑った。
「つまり、俺たちは同類というわけだ」
同類と言われたところで、共通点など黒髪と黒目しかない。私は戸惑いながらも曖昧に微笑み、とりあえずは「光栄ですわ」と礼を言った。
「異世界の血を引く者同士、お互いの国の発展のために、力を尽くせると良いですね」
社交辞令で適当にその場をまとめると、アンドリューが手際よく退出の挨拶をする。
「それでは今夜を楽しみにしております。また後ほどお会いいたしましょう」
今夜はエストラントの重鎮と、招待者らが参加する舞踏会である。私は着付けと化粧を済ませると、アンドリューのエスコートを受け、会場となる大広間へと向かった。
アンドリューが踊り場で不意に立ち止まり、ブルーグレーの瞳を私に向ける。そしてふと愛しそうに微笑むと、「きれいだ」と言ってくれたのだ。私は顔が一瞬にして赤くなるのを感じた。今までで一番嬉しい褒め言葉だったから。百万人からのお世辞よりずっと嬉しかった。
私には流行のフリルやレースたっぷりで、横広がりの可愛いドレスは、残念ながらまったく似合わない。仕立屋が勧めてくれたデザインは、深紅の身体にぴったりと沿うものだ。腰からの線が流れるように美しい。胸が開き過ぎな気もするけど、控え目なくらいだと言われていた。
「本当にきれいだ。他の誰にも見せたくはないよ」
ところが「ありがとう」を言う間もなく、背に手を回され抱き寄せられてしまう。アンドリューがこんな真似をするのは初めてだった。私は人目を気にして「アンドリュー」と慌てた。それでもアンドリューは私を放さずに、耳に口を寄せてこう囁いたのだ。
「きっとそう思っているのは俺だけじゃない」
私はさすがに驚きアンドリューを見上げる。
「あの黒太子には気をつけた方がいい。きっと君を気に入ったに違いない」
何を言っているのだろうと、首を傾げるしかなかった。
「だって私はあなたの――ベルフォールの王太子の婚約者なのよ?」
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おまけに顔立ちは子供のころからきつめであり、「悪役顔」などと陰口を叩かれたこともある。そんな私が狙われるなどとは思えなかった。
「考えすぎよ、アンドリュー」
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