悪役令嬢と金の髪の王子様

東 万里央(あずま まりお)

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「悪役令嬢と獅子心の黒太子」

06.どよめきの大広間

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 突然の出来事に大広間は騒然となった。

「なんだ。何が起こったんだ!?」
「疫病か!?」

 疫病と聞き招待客にどよめきが走った。まだそうと決まったわけではない。第一疫病などがありえるはずがなかった。この国に来たばかりのアンドリューまで倒れ、なのに私はこのとおりどうともなっていない。やはりワインに毒が含まれていたとしか思えなかった。

 ところがいったん火が着いた不安は、瞬く間に広がるという性質がある。最初に疫病と聞いた招待客らは、息を呑んで倒れた人々を眺めていた。やがて令嬢の一人が悲鳴を上げたのかと思うと、それを合図にいっせいに出入り口へと駆け出す。

「疫病だ。疫病だぞ!!」
「逃げろ、逃げるんだ!!」

 大人数が扉に殺到したためだろう。何人かの足がもつれて倒れ、押し掛けた群衆に踏み潰されてしまった。それでも皆の足は止まらずに、先ほどまで一杯だった会場が空となるのに、ほんの五、六分もかからなかった。

 大広間には喉を抑えた十数人の人々と、踏み潰され怪我を負った招待客。さらには私とレオンハルト様、最後に呆然とする給仕とが残された。

 私は絶句する給仕に駆け寄り、アンドリューが飲んでいた、ワインのグラスを手に取った。

「あっ、何を……」

 幸いまだ半分ほど残されている。私は一口含むと舌先に全神経を集中させた。

 私はダニエル様の婚約者時代、ダニエル様が毒殺されないよう、さまざまな毒の知識を叩き込んでいる。王族の食事には当然毒見役が付いている。それでも万が一ダニエル様が口にした時、すぐに対処できるよう教育を受けていたのだ。これは私がみずから望んだことであり、医師に教師となってもらっていた。

 そのためにありとあらゆる毒の味を私は知っている。だが、ワインの芳香が隠れ蓑になっているのか、毒の味と香りを感じ取るのが難しい。けれども、決して焦ってはいけなかった。焦ってしまえば判断力が鈍り、アンドリューの命が危うい。

 やがて私の舌はある苦みと酸味を探し当てた。

 この毒薬は――。

「レオンハルト様!!」

 私は会場の片隅のレオンハルト様に声をかけた。レオンハルト様も親しい人が毒にやられたのか、銀髪の男の方を抱き起こしている。

「レオンハルト様、宮廷医をお呼びになってください。これは毒のギリンです」

 レオンハルト様ははっと顔を上げた。私は大きく頷き再び叫ぶ。

「薬草のイリスをお持ちになるようご命令ください。早く! ギリンは回りが早く一刻を争います……!!」
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