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二章 変転
九.竹中源助
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八月初め。
蝉が忙しく鳴きたて、陽が容赦なく大地を照らし付けている。
入道雲が山向こうに見え、外に立つだけでも汗が流れ落ちるような猛暑であった。
翔隆は桜弥、明智光忠と共に川に水浴びに出掛けた。
供の小姓は五人。
皆冷たく気持ちのいい川で、はしゃいで泳ぐ。
「こんな風に遊ぶのなど、初めてじゃな!」
そう言って光忠は今習いたての平泳ぎをする。
翔隆は桜弥に泳ぎを教えながら、苦笑した。
「いえいえ。これは単なる遊びではありませぬ。立派な訓練なのですぞ」
「訓練?」
「そうです。戦は何も平地ばかりとは限らぬでしょう? 時には川を渡り、海上で戦う事もあるのです。その時、泳げなければ溺れ死んでしまいまする故、その為の訓練なのです」
「ほお…」
そうか、そうかと呟きながら光忠及び、小姓達は真剣に泳ぎ始めた。
〈すごいなぁ…〉
桜弥は足を上下にバシャバシャ動かしながら、惚れ惚れと翔隆を見つめた。
心酔し敬愛する人の言葉一つ、行動一つが、その者にとっては関心と感動の要因となる。
その時、翔隆の体に不思議な衝撃が走る。
〈何……?!〉
何処からか、殺意の籠もった〝気〟が、発せられているのだ。
しかし、狭霧の〝気〟とは全く違っていた。
〈狭霧ではない…何故殺意など…。とにかく、危ないのは確かだ!〉
そう判断すると、翔隆は桜弥と共に岸に上がり、着物を纏う。
「光忠様、一刻も早く城へ!」
とだけ言い、桜弥にも着物を着せて、馬を取りに走る。
馬を連れ、まだ着物を着ている光忠達を手伝い、一人ずつ抱えて馬に乗せると、鞭を打って走らせた。
そして、残った桜弥を返り見る。
桜弥は事情を察したか、ギュッと唇を締め拳を握り締めている。
翔隆は目の前にしゃがみ、その震える両肩を強く掴んで言った。
「良いか、桜弥。俺の家臣となるのならば、何時何処ででも戦える心構えをしろ。俺の真の敵は、武将達ではない。一族だけなのだ。心しろ、敵は何時でも狙ってくるのだという事を」
「はい!」
桜弥は力強く、返事をした。
その時、風と共にザザッと幾つもの影が二人を取り囲む。
「なっ…?!」
その者達を見て、翔隆は驚愕の声を上げる。
一行は白茶の髪ではない…黒い髪だった。
染めてはいない…かといって、乱破の類いには見えなかった。
〈ま…まさか…〉
この〝気〟には覚えがある…。かつて十五年間、共に暮らしていた懐かしい〝気〟。
…これは、紛れもなく同族〔不知火〕のものだ!
その中から、少年が出て来て腕組みをしながら言った。
「貴様! そこを退かねば共に殺すぞ!」
「殺す? この子をか!!」
「そうだ。我らは狭霧を滅ぼさんが為に、生まれし者!」
そう言われてハッとした。
〈そうか…! 例え俺一人が狭霧の者を味方にして良しとした所で、一族の者が認めていなくてはどうにもならんのだ…!〉
「さあ退け!」
「そうはいかない! この子は大事な家臣だ! 殺させる訳にはゆかぬっ!」
「家臣?」
「たわけた事を!!」
口々に言って、一行は刀を抜いて切り掛かってきた。
「やめろ!」
翔隆は咄嗟に《結界》を張った。
途端に全員が弾かれて飛ばされる。
それを見て、少年はカッと目を見開いて刀を構えた。
「貴様…よくも……!」
「話を聞け! 俺は同族を殺したくはないっ!!」
ピタッ。
襲い掛かろうとした者達の、動作が止まる。
「同族…?」
腕の立ちそうな青年が言った。
翔隆は、桜弥を庇ったままの体勢で言う。
「そうだ…。俺の名は翔隆。不知火一族が嫡子、翔隆だ!」
「―――」
その言葉に、一同は呆然としている。変わらないのは、さっきの少年だけだ。
「嫡子、と…? ふん。確たる証は!!」
鋭い目でそう言ってきた。
「…髪と、目の色…だ」
答えると、少年は嘲笑した。
「アーッハハハハハハハ!」
「何が…おかしい?」
「ハ、アハハ…そんなもの、《術》を以てすれば容易い! 見え透いた嘘をぬかすな!!」
「……!」
その言葉で、翔隆は何も言えなくなった。
そんな事を言われるとは、夢にも思わなかったのだ。
…確かに、拓須の様な術者ならば…出来なくもない…いや容易いだろう。
元も子もない事を、言われてしまった…。立ち尽くしていると、横から
「違う! 本当だ!!」
と桜弥が叫んだ。
すると少年は尚更笑い出した。
それに乗じて他の者達までもが嘲笑する。
「ハーッハハハハハハ!」
十数名の笑い声の中、翔隆は目を閉じて考える。
〈…確たる…証………!!〉
何をどう考えても、翔隆の知識の中では髪の色と瞳の色しか思い当たらなかった。
翔隆は悔しげに叫ぶ。
「証など、無いっ!」
「無い?」
「…俺を狭霧の者と疑うなら、それでもいい…既に一門の者は、ほぼ敵に回っているのだからな…」
「ほーお」
「だが!」
突然の大声に、ビクッとして笑いが止む。
「俺がやらねばならんのだ。俺は、〝長〟となると決めた! 〝長〟に、ならねばならんのだ! 否応なしに!! ここで…こんな所で果て、父さえ見離した一族を、俺までもが見捨てる訳にはいかんのだ!!」
涙さえ浮かべ、震えながら悲しげに言うその姿に、嘘偽りは見えなかった。
「嫡子というのならば、何故! 狭霧の者を庇う!?」
少年は、グサリと矢を放つかのような言葉を吐く。
「信じた、者だからだ!」
「………?」
「今まで、信じていた者が…狭霧だった。兄も…弟も、叔父も敵だが…。だから…という訳では無いが…俺は、一人の人間として! 〝自分の正義〟で見た者を信じていくと決めたのだ! だからこそ、この子を死なせる訳にはいかぬ!!」
「…それは単なる身勝手だ。我らは血と気を頼りに、〝掟〟に従い生きている! 〝長たる者〟であるのならば、信じるものの違う一族を如何に率い、信じさせるかを考えるべきであろうっ!!」
「………!」
少年の言う事はもっともだ、と思う。
だが、ここで引き下がるにはいかない…かといって、何も反論出来ずにいた。
思い付くのは、情けない言葉だけ…。
「俺は…まだ未熟だ。一族の事すら、ろくに知らぬ。…狭霧と戦ったとて…捕らえられ…他人の手を借りる程、弱い…。何も…。何も知らぬまま……育ったのだ…」
「話にならん」
呆れた顔をして、少年は刀を収めた。こんな少年にさえも何も言い返せない自分が、ほとほと情けなくなってくる…。
「…どう、すれば…」
「ん?」
「どうすれば、信じるという…?」
翔隆は切なげに問う。すると少年はニヤリとし、
「そうだな、ついて参られよ。そうそう、私の名は竹中源助」
と言い、歩き出した。
着いた所は、椎現山の麓であった。
その生い茂った森林の隙間に、集落がある。木で造られた小屋が幾つもあり、その中央にはまるで鍛冶屋のような大釜が火で炙られ、キンカンと何かが造られている。
翔隆は小声で聞く。
(あれ…は―――)
(狭霧の集落さ。総勢二百五十余り。我ら八十で攻めた時には五十も殺された。強者揃いだ)
(五十も…)
言われてよく見直してみれば、確かに皆逞しい体格の者ばかり。
〈狭霧も…不知火と同じように…散らばっているのだな……〉
知ってはいたが、しみじみと思った。
「あの狭霧を、一人で滅ぼせるか?」
源助(後の竹中半兵衛重治)が、〝出来まい〟と言いたげな目で見た。
翔隆は、冷静な顔で背から剣を引き抜く。
「…滅ぼせば、どうする?」
「そうだな…。その時は、貴公を〝嫡子〟と認めてやろう」
「その言葉、忘れるな!」
翔隆はニッとして言うと、そのまま単騎、駆け出して行ってしまったのだ。
「え…?」
笑いが失せた。てっきり怖じ気付いて逃げ出すだろうと思っていたというのに…。
「あ奴……本気で…」
青年が、呆然と呟く。すると、桜弥がボロボロ泣きながらその青年を叩いた。
「お前達のせいだっ!!」
「……」
「とびっ…翔隆様にっ、何かあったら! どうしてくれるんだあ!!」
「………」
返す言葉もなかった。前に二・三度、こういう事があったのだ。
術で〝嫡子〟だと偽り、一つでも多くの集落を潰そうと…不知火を滅ぼすきっかけを作ろうと企ててきた事が…。
それが狭霧のやり方だったから、源助はこの手段を取ったのだが…。
今度は、紛れも無い〝本物の嫡子〟だったようだ…。
「…我、不知火一族が嫡子、翔隆なり! この首っ、京羅に差し出せば恩賞も出よう! 腕に覚えのある者は掛かって来いっ!!」
そう叫び声を上げる。
無論、そんな事を言えば集落中の一族が一斉に襲い掛かってくる。
「何故…あんな真似を…」
青年が呟いた。竹中源助は、黙って翔隆の戦い振りを見る。
まるで、悪鬼の如く狭霧を薙ぎ払う姿を、源助は驚悸して見つめていた。
〈…それは狭霧の注目を己一人に集め、こちらに向かせぬ為…。だが、それだけでは認められんな〉
良く見れば、翔隆は苦戦している。
動作が今一つのろい上、いいようになぶられ、切り刻まれているように見える。
「ふん……やはり、偽者、か…?」
「違う…!」
桜弥が言う。
「何が違うと言う?」
「翔隆様は先日〝仕込み〟の鉛を約二十八貫(百五㎏)にしたばかり! それを外さずに戦えば、そうなる!!」
「二十八貫…か」
鎧兜と約人一人の重さ程度…。
〈…それで、まだあの程度とはな…〉
源助は心で呟き、真剣な顔をする。
合戦となれば、重い鎧兜に武器を持ち戦う。
…時に主君を背負い、戦わねばならぬ事とてあるのだ。
そんな重み如きでとろくなる様では、とても修羅場には出られない。
幼いながらに、源助はその心得を知っていて、そう判断しているのだ。
そんな間に、翔隆は前後から刀で突かれていた。
「う…おああぁっ!!」
それでも敵を薙ぎ倒す。
〈くそっ目が霞む…っ!〉
本気を、出したかった。
だが、《力》を使い倒したとしても、果たして認められるだろうか?
そんな不安があるからこそ、《力》を使わないのだ。いや…だが、このままではまだ自己制御が未熟な為に正気を失い、暴走し兼ねない…。
そう思いちらりと源助を見ると、彼はフッと嘲り笑った。
⦅何を、試している…?⦆
《思考派》を送ると、源助は真顔になった。
⦅自分で考えよ!⦆
〈…自分で―――〉
考えられたら、苦労はしない…。
翔隆は暫く目を閉じながら、防戦に徹した。
と思ったら何を血迷うてか、いきなり叫び始めたのだ。
「うぉああああああああ!!」
その声で地面や木がビリビリと震え、一族は気迫負けして後退った。
翔隆は右手に剣を、左手に懐剣を持ち舞う様に戦い始める。
それを見て源助らは驚破した。
側に居た青年が思わず尋ねる。
「あ…あれは一体…?」
「…舞いながら、戦っているのだ。明では、剣や槍、棒などあらゆる物を用いて激しい舞いをするという。それを、あの男実戦で…」
意地になっているのか、無理をしているのか。
深手を負い、相当の激痛を味わっているだろうに…。
「…猿芝居ですな」
青年が言うと、源助は首を小さく左右に振る。
「いや…違うぞ、矢佐介。あの男、我らに認められようとして、あんな戦い振りを見せているのではない。見てみい、あの羅刹の如き笑みを…。……何も、考えていないのだ」
「何、も…?」
「そう…―――天性のものだ…。あの戦い振りは、正しく〝鬼神〟と呼ぶに相応しい…」
そう呟いて、見入った。
そんな話をしている間にも、翔隆は既に百名以上は倒していた。
〈気に入った!!〉
源助は立ち上がって刀を抜く。
「〝鬼神〟! 正しく、我らの〝新しき長〟に、ぴったりではないかっ!!」
そう言ってそこを飛び出した。
「全て、気に入った! 生涯の忠誠を!!」
大声で言って、加勢しに入った。青年、矢佐介も刀を抜いて、
「我らも続けい!!」
と指揮した。
途端に、伏せていた五十人余りの不知火達が奇襲に掛かる。
突然の襲撃に狭霧側は動揺し、わあわあと蜘蛛の子を散らすかのように逃亡し始めた。
―――勝敗は呆気なく付いた。
不知火の勝ち、である。
「…何故、加勢を…?」
翔隆は息を乱し、大量の血を流しながら言った。すると源助達は、皆一様に跪く。
「我ら美濃衆、終生忠義を尽くしまする!」
「…源助…俺は、何もしていない……」
眉を寄せ、悲しげに翔隆が言う。
「いいのですよ」
そう言い、矢佐介が手を翳した。
すると、傷が少しずつ癒されていく。
「あの舞は?」
「ん…ああ…。茶屋に来た芸人に習ったんだ。〝武の道は芸の道、芸の道は武に通ず。故に舞を覚えれば自然と相手の動きが見える〟と言って唐の舞を何通りか習った…」
血が止まると、翔隆は矢佐介を制して立ち上がる。
「もういいよ。ありがとう」
「いえ」
「…認めて……くれるのか?」
問うと、源助はにっこり笑って頷いた。
「はい、嫡子として。長と認めるには、まだ心・技・体共に足らぬ! …故に我らが補佐して差し上げよう」
「源助―――っ」
未熟ながらも、生まれて初めて自分の〝力〟で仲間に出来た。
翔隆は喜びと嬉しさで、傷の痛みなど忘れ去っていた。
〈認められた!〉
それだけで、じんと胸が熱くなる。
ふいに、源助が側に寄ってきた。
「翔隆様、その者、いかがなされるおつもりで?」
「桜弥か? …この子は十五になった折、俺の…家臣として迎えるつもりだが…」
「なれば、この源助も十五になりし暁には、仕えても宜しいか?!」
「――え?」
「家が斎藤に仕えておる故、仕えねばなりませぬが、それは仮にすぎない。貴方を主と仰ぐと決めたのだ。惚れた者にしか仕えはせぬ!」
幼いながらに天晴れな武人である。その眼差しを受け、翔隆は困惑する。
〈家臣を持てば、自由は徐々に失っていく…それぞれの気性を知った上で扱い巧く使わねばならなくなる…。だが…俺は信長様の近侍…。家臣の一人もいなければ…しかし……そうか!俺が良き長となればいい事だ…そしてこの子らには、俺の至らぬ所を補ってくれるようにすれば…〉
一人で百面相をしているので、桜弥も源助も不審に思う。
「あの…」
桜弥が話し掛けると翔隆は、しゃがんで笑う。
「心配するな。…そうだ、源助!」
「何です?」
「その忠義、誠ならば取り敢えず後二年、待ってくれぬか?」
「?」
唐突な言葉に首を傾げるが、翔隆は続けて言う。
「それまでには…必ず、強き長となれるように努力する! 決して皆を絶望させぬような…希望を無にしない、強い長に!!」
そう、強い口調で言った。…断言してしまった…。その目には悲しみと憂いがあるが、それを抑えようとする闘志と決断が見えた。
恐らく、自分自身と今、正に戦っている最中なのだろう。
源助はコクリと頷くと、微笑んだ。
「いいでしょう。では、各地の頭領にもそう伝えます。〝長継承の儀、そして統率の事での集会は、天文二十二年の十月に、近江琵琶湖湖畔にて行う〟と、文を送りましょう」
「…集会?」
何やら不安が過った。
「はい。前長、羽隆の追放も集会で決めたそうです。もう十年は、やっていないそうですから。集会は五年に一度、開くので覚えておいて下さい」
「……分かった…」
もの凄く、不安だ。だが、もう道は決めてしまった……。
後は、それを信じて進むより他なかった。
蝉が忙しく鳴きたて、陽が容赦なく大地を照らし付けている。
入道雲が山向こうに見え、外に立つだけでも汗が流れ落ちるような猛暑であった。
翔隆は桜弥、明智光忠と共に川に水浴びに出掛けた。
供の小姓は五人。
皆冷たく気持ちのいい川で、はしゃいで泳ぐ。
「こんな風に遊ぶのなど、初めてじゃな!」
そう言って光忠は今習いたての平泳ぎをする。
翔隆は桜弥に泳ぎを教えながら、苦笑した。
「いえいえ。これは単なる遊びではありませぬ。立派な訓練なのですぞ」
「訓練?」
「そうです。戦は何も平地ばかりとは限らぬでしょう? 時には川を渡り、海上で戦う事もあるのです。その時、泳げなければ溺れ死んでしまいまする故、その為の訓練なのです」
「ほお…」
そうか、そうかと呟きながら光忠及び、小姓達は真剣に泳ぎ始めた。
〈すごいなぁ…〉
桜弥は足を上下にバシャバシャ動かしながら、惚れ惚れと翔隆を見つめた。
心酔し敬愛する人の言葉一つ、行動一つが、その者にとっては関心と感動の要因となる。
その時、翔隆の体に不思議な衝撃が走る。
〈何……?!〉
何処からか、殺意の籠もった〝気〟が、発せられているのだ。
しかし、狭霧の〝気〟とは全く違っていた。
〈狭霧ではない…何故殺意など…。とにかく、危ないのは確かだ!〉
そう判断すると、翔隆は桜弥と共に岸に上がり、着物を纏う。
「光忠様、一刻も早く城へ!」
とだけ言い、桜弥にも着物を着せて、馬を取りに走る。
馬を連れ、まだ着物を着ている光忠達を手伝い、一人ずつ抱えて馬に乗せると、鞭を打って走らせた。
そして、残った桜弥を返り見る。
桜弥は事情を察したか、ギュッと唇を締め拳を握り締めている。
翔隆は目の前にしゃがみ、その震える両肩を強く掴んで言った。
「良いか、桜弥。俺の家臣となるのならば、何時何処ででも戦える心構えをしろ。俺の真の敵は、武将達ではない。一族だけなのだ。心しろ、敵は何時でも狙ってくるのだという事を」
「はい!」
桜弥は力強く、返事をした。
その時、風と共にザザッと幾つもの影が二人を取り囲む。
「なっ…?!」
その者達を見て、翔隆は驚愕の声を上げる。
一行は白茶の髪ではない…黒い髪だった。
染めてはいない…かといって、乱破の類いには見えなかった。
〈ま…まさか…〉
この〝気〟には覚えがある…。かつて十五年間、共に暮らしていた懐かしい〝気〟。
…これは、紛れもなく同族〔不知火〕のものだ!
その中から、少年が出て来て腕組みをしながら言った。
「貴様! そこを退かねば共に殺すぞ!」
「殺す? この子をか!!」
「そうだ。我らは狭霧を滅ぼさんが為に、生まれし者!」
そう言われてハッとした。
〈そうか…! 例え俺一人が狭霧の者を味方にして良しとした所で、一族の者が認めていなくてはどうにもならんのだ…!〉
「さあ退け!」
「そうはいかない! この子は大事な家臣だ! 殺させる訳にはゆかぬっ!」
「家臣?」
「たわけた事を!!」
口々に言って、一行は刀を抜いて切り掛かってきた。
「やめろ!」
翔隆は咄嗟に《結界》を張った。
途端に全員が弾かれて飛ばされる。
それを見て、少年はカッと目を見開いて刀を構えた。
「貴様…よくも……!」
「話を聞け! 俺は同族を殺したくはないっ!!」
ピタッ。
襲い掛かろうとした者達の、動作が止まる。
「同族…?」
腕の立ちそうな青年が言った。
翔隆は、桜弥を庇ったままの体勢で言う。
「そうだ…。俺の名は翔隆。不知火一族が嫡子、翔隆だ!」
「―――」
その言葉に、一同は呆然としている。変わらないのは、さっきの少年だけだ。
「嫡子、と…? ふん。確たる証は!!」
鋭い目でそう言ってきた。
「…髪と、目の色…だ」
答えると、少年は嘲笑した。
「アーッハハハハハハハ!」
「何が…おかしい?」
「ハ、アハハ…そんなもの、《術》を以てすれば容易い! 見え透いた嘘をぬかすな!!」
「……!」
その言葉で、翔隆は何も言えなくなった。
そんな事を言われるとは、夢にも思わなかったのだ。
…確かに、拓須の様な術者ならば…出来なくもない…いや容易いだろう。
元も子もない事を、言われてしまった…。立ち尽くしていると、横から
「違う! 本当だ!!」
と桜弥が叫んだ。
すると少年は尚更笑い出した。
それに乗じて他の者達までもが嘲笑する。
「ハーッハハハハハハ!」
十数名の笑い声の中、翔隆は目を閉じて考える。
〈…確たる…証………!!〉
何をどう考えても、翔隆の知識の中では髪の色と瞳の色しか思い当たらなかった。
翔隆は悔しげに叫ぶ。
「証など、無いっ!」
「無い?」
「…俺を狭霧の者と疑うなら、それでもいい…既に一門の者は、ほぼ敵に回っているのだからな…」
「ほーお」
「だが!」
突然の大声に、ビクッとして笑いが止む。
「俺がやらねばならんのだ。俺は、〝長〟となると決めた! 〝長〟に、ならねばならんのだ! 否応なしに!! ここで…こんな所で果て、父さえ見離した一族を、俺までもが見捨てる訳にはいかんのだ!!」
涙さえ浮かべ、震えながら悲しげに言うその姿に、嘘偽りは見えなかった。
「嫡子というのならば、何故! 狭霧の者を庇う!?」
少年は、グサリと矢を放つかのような言葉を吐く。
「信じた、者だからだ!」
「………?」
「今まで、信じていた者が…狭霧だった。兄も…弟も、叔父も敵だが…。だから…という訳では無いが…俺は、一人の人間として! 〝自分の正義〟で見た者を信じていくと決めたのだ! だからこそ、この子を死なせる訳にはいかぬ!!」
「…それは単なる身勝手だ。我らは血と気を頼りに、〝掟〟に従い生きている! 〝長たる者〟であるのならば、信じるものの違う一族を如何に率い、信じさせるかを考えるべきであろうっ!!」
「………!」
少年の言う事はもっともだ、と思う。
だが、ここで引き下がるにはいかない…かといって、何も反論出来ずにいた。
思い付くのは、情けない言葉だけ…。
「俺は…まだ未熟だ。一族の事すら、ろくに知らぬ。…狭霧と戦ったとて…捕らえられ…他人の手を借りる程、弱い…。何も…。何も知らぬまま……育ったのだ…」
「話にならん」
呆れた顔をして、少年は刀を収めた。こんな少年にさえも何も言い返せない自分が、ほとほと情けなくなってくる…。
「…どう、すれば…」
「ん?」
「どうすれば、信じるという…?」
翔隆は切なげに問う。すると少年はニヤリとし、
「そうだな、ついて参られよ。そうそう、私の名は竹中源助」
と言い、歩き出した。
着いた所は、椎現山の麓であった。
その生い茂った森林の隙間に、集落がある。木で造られた小屋が幾つもあり、その中央にはまるで鍛冶屋のような大釜が火で炙られ、キンカンと何かが造られている。
翔隆は小声で聞く。
(あれ…は―――)
(狭霧の集落さ。総勢二百五十余り。我ら八十で攻めた時には五十も殺された。強者揃いだ)
(五十も…)
言われてよく見直してみれば、確かに皆逞しい体格の者ばかり。
〈狭霧も…不知火と同じように…散らばっているのだな……〉
知ってはいたが、しみじみと思った。
「あの狭霧を、一人で滅ぼせるか?」
源助(後の竹中半兵衛重治)が、〝出来まい〟と言いたげな目で見た。
翔隆は、冷静な顔で背から剣を引き抜く。
「…滅ぼせば、どうする?」
「そうだな…。その時は、貴公を〝嫡子〟と認めてやろう」
「その言葉、忘れるな!」
翔隆はニッとして言うと、そのまま単騎、駆け出して行ってしまったのだ。
「え…?」
笑いが失せた。てっきり怖じ気付いて逃げ出すだろうと思っていたというのに…。
「あ奴……本気で…」
青年が、呆然と呟く。すると、桜弥がボロボロ泣きながらその青年を叩いた。
「お前達のせいだっ!!」
「……」
「とびっ…翔隆様にっ、何かあったら! どうしてくれるんだあ!!」
「………」
返す言葉もなかった。前に二・三度、こういう事があったのだ。
術で〝嫡子〟だと偽り、一つでも多くの集落を潰そうと…不知火を滅ぼすきっかけを作ろうと企ててきた事が…。
それが狭霧のやり方だったから、源助はこの手段を取ったのだが…。
今度は、紛れも無い〝本物の嫡子〟だったようだ…。
「…我、不知火一族が嫡子、翔隆なり! この首っ、京羅に差し出せば恩賞も出よう! 腕に覚えのある者は掛かって来いっ!!」
そう叫び声を上げる。
無論、そんな事を言えば集落中の一族が一斉に襲い掛かってくる。
「何故…あんな真似を…」
青年が呟いた。竹中源助は、黙って翔隆の戦い振りを見る。
まるで、悪鬼の如く狭霧を薙ぎ払う姿を、源助は驚悸して見つめていた。
〈…それは狭霧の注目を己一人に集め、こちらに向かせぬ為…。だが、それだけでは認められんな〉
良く見れば、翔隆は苦戦している。
動作が今一つのろい上、いいようになぶられ、切り刻まれているように見える。
「ふん……やはり、偽者、か…?」
「違う…!」
桜弥が言う。
「何が違うと言う?」
「翔隆様は先日〝仕込み〟の鉛を約二十八貫(百五㎏)にしたばかり! それを外さずに戦えば、そうなる!!」
「二十八貫…か」
鎧兜と約人一人の重さ程度…。
〈…それで、まだあの程度とはな…〉
源助は心で呟き、真剣な顔をする。
合戦となれば、重い鎧兜に武器を持ち戦う。
…時に主君を背負い、戦わねばならぬ事とてあるのだ。
そんな重み如きでとろくなる様では、とても修羅場には出られない。
幼いながらに、源助はその心得を知っていて、そう判断しているのだ。
そんな間に、翔隆は前後から刀で突かれていた。
「う…おああぁっ!!」
それでも敵を薙ぎ倒す。
〈くそっ目が霞む…っ!〉
本気を、出したかった。
だが、《力》を使い倒したとしても、果たして認められるだろうか?
そんな不安があるからこそ、《力》を使わないのだ。いや…だが、このままではまだ自己制御が未熟な為に正気を失い、暴走し兼ねない…。
そう思いちらりと源助を見ると、彼はフッと嘲り笑った。
⦅何を、試している…?⦆
《思考派》を送ると、源助は真顔になった。
⦅自分で考えよ!⦆
〈…自分で―――〉
考えられたら、苦労はしない…。
翔隆は暫く目を閉じながら、防戦に徹した。
と思ったら何を血迷うてか、いきなり叫び始めたのだ。
「うぉああああああああ!!」
その声で地面や木がビリビリと震え、一族は気迫負けして後退った。
翔隆は右手に剣を、左手に懐剣を持ち舞う様に戦い始める。
それを見て源助らは驚破した。
側に居た青年が思わず尋ねる。
「あ…あれは一体…?」
「…舞いながら、戦っているのだ。明では、剣や槍、棒などあらゆる物を用いて激しい舞いをするという。それを、あの男実戦で…」
意地になっているのか、無理をしているのか。
深手を負い、相当の激痛を味わっているだろうに…。
「…猿芝居ですな」
青年が言うと、源助は首を小さく左右に振る。
「いや…違うぞ、矢佐介。あの男、我らに認められようとして、あんな戦い振りを見せているのではない。見てみい、あの羅刹の如き笑みを…。……何も、考えていないのだ」
「何、も…?」
「そう…―――天性のものだ…。あの戦い振りは、正しく〝鬼神〟と呼ぶに相応しい…」
そう呟いて、見入った。
そんな話をしている間にも、翔隆は既に百名以上は倒していた。
〈気に入った!!〉
源助は立ち上がって刀を抜く。
「〝鬼神〟! 正しく、我らの〝新しき長〟に、ぴったりではないかっ!!」
そう言ってそこを飛び出した。
「全て、気に入った! 生涯の忠誠を!!」
大声で言って、加勢しに入った。青年、矢佐介も刀を抜いて、
「我らも続けい!!」
と指揮した。
途端に、伏せていた五十人余りの不知火達が奇襲に掛かる。
突然の襲撃に狭霧側は動揺し、わあわあと蜘蛛の子を散らすかのように逃亡し始めた。
―――勝敗は呆気なく付いた。
不知火の勝ち、である。
「…何故、加勢を…?」
翔隆は息を乱し、大量の血を流しながら言った。すると源助達は、皆一様に跪く。
「我ら美濃衆、終生忠義を尽くしまする!」
「…源助…俺は、何もしていない……」
眉を寄せ、悲しげに翔隆が言う。
「いいのですよ」
そう言い、矢佐介が手を翳した。
すると、傷が少しずつ癒されていく。
「あの舞は?」
「ん…ああ…。茶屋に来た芸人に習ったんだ。〝武の道は芸の道、芸の道は武に通ず。故に舞を覚えれば自然と相手の動きが見える〟と言って唐の舞を何通りか習った…」
血が止まると、翔隆は矢佐介を制して立ち上がる。
「もういいよ。ありがとう」
「いえ」
「…認めて……くれるのか?」
問うと、源助はにっこり笑って頷いた。
「はい、嫡子として。長と認めるには、まだ心・技・体共に足らぬ! …故に我らが補佐して差し上げよう」
「源助―――っ」
未熟ながらも、生まれて初めて自分の〝力〟で仲間に出来た。
翔隆は喜びと嬉しさで、傷の痛みなど忘れ去っていた。
〈認められた!〉
それだけで、じんと胸が熱くなる。
ふいに、源助が側に寄ってきた。
「翔隆様、その者、いかがなされるおつもりで?」
「桜弥か? …この子は十五になった折、俺の…家臣として迎えるつもりだが…」
「なれば、この源助も十五になりし暁には、仕えても宜しいか?!」
「――え?」
「家が斎藤に仕えておる故、仕えねばなりませぬが、それは仮にすぎない。貴方を主と仰ぐと決めたのだ。惚れた者にしか仕えはせぬ!」
幼いながらに天晴れな武人である。その眼差しを受け、翔隆は困惑する。
〈家臣を持てば、自由は徐々に失っていく…それぞれの気性を知った上で扱い巧く使わねばならなくなる…。だが…俺は信長様の近侍…。家臣の一人もいなければ…しかし……そうか!俺が良き長となればいい事だ…そしてこの子らには、俺の至らぬ所を補ってくれるようにすれば…〉
一人で百面相をしているので、桜弥も源助も不審に思う。
「あの…」
桜弥が話し掛けると翔隆は、しゃがんで笑う。
「心配するな。…そうだ、源助!」
「何です?」
「その忠義、誠ならば取り敢えず後二年、待ってくれぬか?」
「?」
唐突な言葉に首を傾げるが、翔隆は続けて言う。
「それまでには…必ず、強き長となれるように努力する! 決して皆を絶望させぬような…希望を無にしない、強い長に!!」
そう、強い口調で言った。…断言してしまった…。その目には悲しみと憂いがあるが、それを抑えようとする闘志と決断が見えた。
恐らく、自分自身と今、正に戦っている最中なのだろう。
源助はコクリと頷くと、微笑んだ。
「いいでしょう。では、各地の頭領にもそう伝えます。〝長継承の儀、そして統率の事での集会は、天文二十二年の十月に、近江琵琶湖湖畔にて行う〟と、文を送りましょう」
「…集会?」
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「はい。前長、羽隆の追放も集会で決めたそうです。もう十年は、やっていないそうですから。集会は五年に一度、開くので覚えておいて下さい」
「……分かった…」
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