金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉

文字の大きさ
36 / 221
第一章 始まりの館

Chapter32 久し振りの宿泊客

しおりを挟む
 翌日は雨だった。
アルシャインは肉やラザーニャなどのパスタ類の仕込みをしてから、宿の2部屋を飾り付けて換気をする。
白い部屋と水色の部屋の完成だ。
壁や床の汚れも綺麗に拭いたので以前とは違う部屋に見える。
3つ目のクリーム色の部屋は今小物を飾っている最中だ。
4つ目の部屋に、紫と白のペンキを置いた。
「ここは薄藤色ウィステリアよね!」
そう言って5つ目の部屋に入る。
もう家具は磨かれて掃除もされていた。
「こっち側は淡い色だから~…エメラルド?もっと薄い黄緑が布団の生地にあったわね!」
そう言い緑と白のペンキを持ってきた。
「布団も用意したいな…」
一人で歩き回っていると、白い布団をカシアンが運び入れ、ノアセルジオが水色の布団を運び入れていた。
「あ、ありがとう!」
「もう仕上がってるんだよね?」
ノアセルジオが聞くとアルシャインが頷く。
「ええ」
答えるとクリーム色の布団も運ばれていくのが見えた。
ペンキの色で部屋の判断をしたルベルジュノーがウィステリア色と黄緑色の布を綿保管室に持っていく。
「あ、ジュドー!エメラルドの薄い色なの!アイスグリーン!」
「なんだよ、紛らわしいな」
笑ってルベルジュノーがペンキもエメラルドに替えて、布を運ぶ。
「6つ目は?」
リュカシオンが聞いてくる。
「そうね…淡いピンクかな!」
「淡い…それはティーナとかの部屋にした方がいいんじゃないかな?」
「そっか…じゃあ、んー…」
言いながらアルシャインは6つ目の部屋に入る。
「ここは…」
「リラってどうかな?ピンクよりも薄い赤紫の色」とルベルジュノー。
「いいわね!赤紫のペンキあったかな…」
「赤と紫と白で作れるよ。リラってメモとペンキ置いとけば分かるさ。みんな色の本見てるから」
そう言ってルベルジュノーはペンキを運ぶ。

 朝食の後で、料理の合間にアルシャインも色の本を見ていた。
「…あと6部屋だから…黒と紫とインディゴブルーとビリジアングリーンと……このテールグリーンいいな…あと赤茶色マルーン…」
「アイシャママ、カウンターの方で見てていいわよ。あとは焼くのと煮るのだけだから」
フィナアリスが言いアルベルティーナとマリアンナが頷く。
「ありがとう」
そう言いカウンター席で見てから、持ってきていた布団の生地の切れ端を合わせる。
「んー、やっぱり買ってないわ…」
「ビリジアンならミントグリーンで、インディゴに合わせる布団ならそのヒヤシンスでも合うよ。あと黒の部屋ならムーングレイの掛け布団とか合うんじゃないかな?」
カウンターで朝食を食べていた布屋のカイルが言う。
「そう?赤茶色マルーンには赤じゃ駄目でしょ?」
「キツイな。その赤紫色クラレット茶色ココアブラウンは?」
「あ、これね!…ん~…じゃあココアブラウンね!ありがとうカイル!」
「いえいえ」
カイルは笑って答えてコーヒーを飲み、クッキーをつまむ。
アルシャインは色を書いたメモを各部屋に置いてきた。
「紫はこのラベンダーね?」
またカイルに聞くと、カイルは頷く。
「色分けしてる宿なんて聞いた事もないけどな!」
笑って言うと、アルシャインも笑って言う。
「楽しくていいじゃない!好きな色に泊まれたら素敵でしょ?」
「確かに!」
笑ってカイルが言うと、旅人が聞いてきた。
「あの、ここは宿もあるんですか?」
「あ…今は建替え中でうるさいんですけど、一応使える部屋が2つありますよ」
アルシャインが答えると、さっきまで俯いて暗かった旅人の表情が明るくなる。
「本当ですか?!泊まりたいです!ジョージさんから聞いて来たらやってなくて、落ち込んでいたんです!」
「まあジョージさんから?!」
アルシャインは驚いて立ち上がる。
ジョージさんは最初のお客さんだ…こんな風に広めてくれるなんて驚きだ。
「あの、まだ白か水色の部屋しか無くて…」
「見せてもらえますか?」
旅人はワクワクした様子で言う。
アルシャインは頷いて案内した。
白で清潔な感じも良かったが、明るい水色の部屋が気に入って旅人はそこに泊まった。
「先に支払っておきます」
そう言い旅人は30Gを払う。
「え、あの」
「あの部屋の価値はこのくらいですよ」
そう言い旅人は早速荷物を置いて、部屋に入った。
そしてまた出てきてコーヒーとコロコロドーナツ10個を頼んで部屋に行った。
「ここのお菓子も美味しいから嬉しいですね!」
旅人が笑って言うと、みんなが嬉しそうに笑う。
 ルベルジュノーが黒板に書いてある宿泊を30Gと書き換えた。

家具作りは家具屋のダンヒルの指導も入り、順調に行われていた。
ペンキの方は、ペンキ屋のダグラムが教えてくれた。
「みんな、一息ついてね」
アルシャインがトレイに紅茶とレモンを入れた木のカップをたくさん乗せてやってくる。
「ん、レモン美味しい!」とリュカシオン。
「疲れを取るのにいいのよ。あとハチミツもどうぞ。ミルクもあるわよ」
そう言うと、ダンヒルが飲みながら言う。
「店の紅茶も、そうしたらどうだい?」
「…レモンとハチミツとミルク?でも普通はそのままか砂糖だし…」
アルシャインが迷っていると、早速カウンターでレモンを提供し始めていた。
「紅茶にレモンかミルクかハチミツはいかが~?」
ティナジゼルが言うと、それぞれに注文する。
「アイシャママー、これ1Gでいいわよね?」
アルベルティーナが聞くので
「え、ええ」
と答えると値段が決まった。
紅茶一杯4Gの下に、
 レモン・ミルク・ハチミツ各1G
と黒板に書き足される。
「また新メニューだな!」
笑ってダンヒルが言った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

落ちこぼれの【無属性】魔術師、実は属性そのものを定義する「概念魔法」の創始者だった

風船色
ファンタジー
「魔法とは才能(血筋)ではなく、記述されるべき論理(ロジック)である」 王立魔導学院で「万年最下位」の烙印を押された少年、アリスティア・レイロード。属性至上主義のこの世界で、火すら出せない彼は「無属性のゴミ」と蔑まれ、ついに卒業試験で不合格となり国外追放を言い渡される。 しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。 追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。 一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。 「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」 これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

処理中です...