デルモニア紀行

富浦伝十郎

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ゲルブ平原

復活の聖堂

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 ゴブリンに "ドヤ顔" があるとしたらそれは今の俺の顔だろう。


 しかし、ハッピーな時間は短かった。
ステータスを確認しようと思った瞬間、右脚に痛みを感じたのだ。

「!」

 狼だった。
俺の脛に噛みついてやがる。 しかも他に二匹いる !

 狼はこのFQ世界のどこにでもいる獣だ。 積雪の高地にも、灼熱の砂漠にも。
しかも大抵は数匹の群れで行動している。
ビギナーがフィールドでやられる原因の筆頭と言っても過言でない。

 ・・・油断した。
遠距離投石に熱中し過ぎた。 
こいつらは"視野の外"で湧くものなのに。
ずっとあの岩に石を投げ続けてしまった。 100回以上も。


 狼が首を振ると俺は引き倒された。 結構な力だ。

 俺はすかさず石を拾う。 
今まで投げていた卵サイズのやつじゃない。 小ジョッキくらいの石だ。
「くらえ!(ギギャギャ!)」
噛みついてる狼の左目に振り下ろす。 勿論微塵の容赦も無い。

 グシャ

 かなりの手応え。 Lv1とは言えゴブリンだ。 人間じゃない。
狼の顎が緩んだ。 左目は潰れている。

 グシャッッ

今度は狭い額部に振り下ろす。 指が長いのでデカい石でも持ちやすい。
狼の頭蓋骨が拉げたのが分かった。

「ザマぁ!(ギャボゥ!)」

 狼がグッタリと動かなくなった。
すぐに立ち上がった俺だが、既に別の一匹が左の脛に嚙みついていた。
「チッ」
しかしバカなケダモノだ。 そのパターンは"経験済み"なんだよ!
俺は重力に体を預け真下に"下降"しつつ二匹目の額に石を振り下ろした。

 グシュン !

 一匹目と手応えが違った。 石が狼の頭に刺さって(メリ込んで)いる。
眼球が二つとも眼窩から飛び出していた。 
石を握る俺の右手は血と髄液まみれだ。
これは死んだだろ。



 狼の頭から石を抜いて立ち上がろうとした時、三匹目が飛び掛かって来た。
首(喉)に噛みつかれた。 
…非常にマズい。
石はまだ二匹目の頭に刺さってるし俺の右腕は三匹目の腹で押さえられている。
こいつの頭を石で潰す事はできない。
( ゴブリンの首ってこんなに細かったんかい! )
俺の首は完全に狼に咥えられてしまっている形だ。


・・・詰みかな ?







 気が付くと俺はほの暗いドームの中にいた。
直径30m程の円形のドームだ。 高さも同じくらい。 
中央に剣を掲げた女神の立像が聳えている。 剣先が天井まで半ば程の高さ。
女神の像は燐光のような輝きに包まれている。
…これは(俺には)見慣れた光景だ。 (やっぱダメだったか)

FQ(ファイナルクエスト)のプレヤーはプレイ中に死ぬとこのドームで復活する。
ドームはFQ世界の各主要都市に存在するのだが プレヤーが復活するのはそのプレヤーが『ホーム』として登録した都市にあるドームと決まっている。
ホーム登録は随時変更できるけれど、行った事が無い都市は指定できない。

 俺のホームは『グラベラ』だった。 ゲーム終盤で辿り着く魔法都市だ。
カスタムドレスで着飾り最強武器をフル装備したカンストプレヤー達が集う街。
ビギナーや中級はいない。  辿り着けないのだ。

・・・・・

『投石』をアゲようと頑張ってるゴブリンの俺なんかハナクソ以下(?)だ。 

 なんだかんだ思い出したら落ち込んでしまったな。
でもまぁ、最強クラスになったらゲームが楽しいかというとそれはまた別の話で。
始めたばかりの頃の方がワクワクしてプレイしてたような気がする。
・・・さっきまでだって結構アツくなってたしな。



 で、此処なんだけど、グラベラのドームじゃないよね ???

 普通ならドーム内は大勢のプレヤーで賑わっているものだ。
ドームは戦闘などで死亡したプレヤーが復活してくる場所であるだけではない。
主要都市同士の間を行き来するワープ転送のポイントでもあるのだ。 
( ワープポイントは主要都市以外の場所にもある )
各地からワープして来たり、ワープで向かおうというプレヤーが絶えないものだ。
だからプレヤー同士の交流の場でもある。
( 奇抜な恰好をしがちなのは遠目からも分かるように、て理由もあるかも )

 でもここには誰もいない。  俺一人だけだ。
入り口(出口)も無い。 窓もない。 ( こんなドーム見た事ないぞ )


・・・何なんだここは ?


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