デルモニア紀行

富浦伝十郎

文字の大きさ
上 下
37 / 153
帝都デリドール

地下室のゴブリン

しおりを挟む







( ”慎重派” という自己認識は改めた方がいいのか? )

20段程の階段を飛び降りながら空中で俺は自問する。
両手に ”凶器ブラスナックル” を装備しているのでBT バレットタイムが発動している。
普段ならあのまま入口の上に陣取って、出て来る人間を待ち伏せで倒していた。
投石スキルを使えば労せずに全ての敵を倒せただろう。
突入するにしても姫さんやシュトロハイムの剣を携えていた筈だ。
二人の剣と今の俺ゴブリンならスキル補正が無くても室内の敵は制圧出来る。
( それがナックル装備だけで突っ込んでいってるんだからなw )

 BTで引き延ばされた時間経過の中で階下の床が迫って来る。
その床面に人影が映っている。 誰かが出て来るのだろう。
俺は両手を揃え頭上に翳した。 ”ナックルボム” の体制だ。
厳つい体格の男が顔を出した。
”捕まれると終わる” 強力な格闘士グラップラーだ。
男が空中の俺を視認した刹那、その顔面に俺のナックルボムが炸裂した。
凶器 ブラスナックルの威力に一階分の落下エネルギーが加わった一撃はクリティカルだ。

 まだ接地していない俺のBT バレットタイムは続いている。

 部屋の奥に話し込んでいる男が二人。
親玉ボス用心棒剣士だ。 用心棒の方はかなり腕が立つ。
俺は格闘士の両肩に手を置いて両脚を引き付け階段口の壁に当てた。
二人は何か言い争っているようだ。
( 階段の上からも口論する声が聞こえていた )
二人共まだ此方を向いていない。

 俺は力を貯めた両脚で壁を蹴り 用心棒に向けてほぼ水平に跳んだ。
弾丸の如きスピードで迫る。
YMS中だが普通に速い。
音で気付いたのか用心棒が此方に顔を向けようとしている。
( 右手が剣に伸びようとしているのは流石だ )
しかしもう遅い。
親玉と向き合っている用心棒は俺に左半身を晒しているのだ。
( 用心棒の顔が悔悟に歪んだように見えたのは気のせいか )

「ゴブリンパンチ!」

 剣に手が届くより早く用心棒の左テンプルに俺の右ストレートが炸裂した。
20世紀の古典的ヒーローみたいな一撃。
当然クリティカルだ。

 着地して立ち上がる俺の足元に用心棒の装備が積み重なる。
BT バレットタイムは解除されている。
まあまあ、というよりラッキーな流れだったと言えるだろう。
用心棒に剣(刀!)を抜かれていたら今の装備では危なかった。




「だ、誰だ貴様! ど 何処の者だ !? 」
顔を引き攣らせて親玉が叫ぶ。
俺はそれを無視して ゆっくりと床から用心棒の剣を拾い上げた。
両手のブラスナックルを解除、収納する。

「誰なんだ、と訊いてるんだ!」
強がって叫ぶ親玉。 でも投げ出した脚が震えている。

 しゃらん、と俺は剣を鞘から抜いた( ホントにこんな音がするんだな! )
凄い業物だ。
マジでヤバかったかもしれん。( 俺がココに来たのは中級後期だったからな )
俺は抜いた剣を親玉に向けた。

「喧しい。クズが。 少し黙ってろ」
軽く剣を一振りする。
親玉の前髪がハラハラと落ちた。
( "剣術" のスキル補正がなくともこのくらいは朝飯前だ )

「今度勝手に喋ったら耳を落とす」
( こいつは耳の一つくらい先に落としても構わないくらいのクズだ )

「俺は優しいからな。言う通りにすれば生きて朝日を拝めるかもしれんぞ?」






しおりを挟む

処理中です...