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帝都デリドール
酒場の少女
しおりを挟む遭遇した敵は全て(問答無用で)倒す、というつもりで突入した訳だが。
どう見てもこの娘は荒事担当には思えない。 ”脅威”が感じられない。
( こんな幼い酌女をPしたらこっちが極悪人になってしまうよな )
「・・・・・」
少女は二つのジョッキを手にしたまま動かない。
おどおどした素振りは見せずに彫像のように静止している。
「持ってる酒を降ろせ。 …降ろしていい」
そう声を掛けると重そうなジョッキ二つをカウンターの上に降ろした。
「俺が怖くないのか?」
そう尋ねてみた。 いきなりゴブリンが乱入して来て仲間?をPしたのだ。
普通だったら泣き喚いていてもおかしくない。
「・・・・・」
少女はじっと黙ったままだ。
( あぁ "声を出すな" って言ったのは俺だったな )
「喋っても良い。 大声は出すなよ」
やや口調を軟らかめにして言ってみた。
「…すみません。どちら様ですか?」
少女が口を開いた。
「御代わりを頼まれた皆さんは何処へ行かれたのでしょうか?」
俺に訪ねて来る。
(? どちら様、だと?)
どうもこの少女は状況が把握できていないようだ。
「目でも悪いのか?」
それとなく尋ねてみた。
「はい、病気をしてからぼんやりとしか見えないんです。 字は読めません」
少女は小さいがはっきりした声で返事をして来る。
「御代わりを汲んでいたら皆さん居なくなってしまって・・・」
俺がゴブリンだ ってことも分からないのか 。
「急用ができたみたいで出て行ったぞ」
俺は適当な嘘をついた。
「いつから此処にいる。 攫われて来たのか?」
”状況設定” が今一分からない。
「酷い扱いを受けていたのか?」
「・・分りません」
半ば同情から出た質問を少女は肯定も否定もしない。
「確かに私は攫われてここに連れて来られました」
少女は静かに話し始めた。
彼女は帝国東部の町リンデロンの裕福な家に育ったという。
数年前原因不明の大病に罹り生命は取り留めたものの視力の大半を失った。
視力回復の可能性を求め両親はデリドールを目指し彼女を連れて旅に出た。
そんな彼女達をガルドスの一味が襲った。 両親達は殺され彼女は攫われた。
肉体的性行為の存在しないこの世界であるから凌辱される事こそなかったものの、
彼女は奴隷として売られそうになった。 だが殆ど目が見えないので売れなかった。
それ以後このアジトで酌女のような雑用をやらされているのだという。
「死んで(殺されて)いてもおかしくなかったのです」
教育のある者の口調で少女は語る。
「でも私は生きています。 生かされている と言った方が正確でしょうか」
露出した彼女の腕には痣が幾つか見て取れた。 殴打されもするのか。
「私はこれを嘆くべきなのか。 それとも感謝すべきなのでしょうか?」
話を終えた少女が俺に問い掛けた。
殆ど最悪と言える状況の中で 絶望に狂う事も 神を呪うこともなく耐えて来た。
淡々と出来る勤めを熟し、自らの境遇をポジティブに捉えようとさえしている。
カウンター奥に置かれている弦楽器や横笛は彼女が余興に演奏するのだろう。
『こちらの皆様には良くして頂いています。(今は)幸せです』
もしもこの半盲の少女がそう言っていたならば、俺は引き返していただろう。
彼女の ”保護者” 10人をPしてしまった自己嫌悪を抱きながら。
「・・随分辛い思いをして来たのだな」
俺は当初の目標を完遂する決意を固めつつ少女に語り掛ける。
「だが 生きてる ってコトが肝心なのは確かだ」
カウンターにいた四人の装備を床から拾いながら呟いた。
「生きてさえいれば良い事もあるかもしれぬからな!」
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