デルモニア紀行

富浦伝十郎

文字の大きさ
上 下
119 / 153
グリュン大森林

ゴブリンの休憩

しおりを挟む


  アシスタントとしてヨーコが遣わされたのにはそういう理由もあるのだろう。
俺を観察し、記録し、果ては”メンテナンス” までも担う。
( 自分で云うのもアレだが俺は貴重な"検体"だからな )

 俺達プレイヤーは仮初とはいえ”不老不死”だからサーバーが稼働する限り存在し続ける。
今は"チェック"や"調整"を入れながらの運用だからリアルより時の流れは遅い。
しかし通常運用となり、サーバーのパワーもアップしていけばどうか。
リアル世界のテクノロジーは日進月歩だ。
サーバー内時間がリアルよりも速くなる可能性は十分ある。
数倍、数十倍、或いはそれ以上に。
リアルでの数日間で大帝国が興って亡ぶ、なんてことになるかもしれない。
果たして俺達はそれだけの時間を耐えられるだろうか。 
自己アイデンティティを保てるのか?
・・・いや、そもそもFQ世界で "歴史" なんてものが成立するのだろうか。 
同じイベントが繰り返されるだけじゃないのか。
何回も何百回も、延々と。


「・・・だから、俺は!」
思わず声を上げて我に返った。
向かいにヨーコが立っている。 俺の顔をじっと見つめている。
「 お戻りになられましたか 」
「お、おぅ」
今度は叱られなかった。
「先程は失礼いたしました」
ヨーコが軽く頭を下げた。
「今後はマスターの御思索を妨げないよう努めさせて頂きます」
方針転換した、のか ?
「周囲に危険が存在しない限りに於いて、ですが」
ああ。 そりゃそうだろうな。
「勿論、常に私が最大限の警戒をさせて頂きます」
それは安心な事だ。
「有難う。そうしてくれると助かる」
ヨーコに労いの言葉を掛ける。
これからは『気付いたらドームに居た』 なんて事も少なくなるかもしれない。



「それがマスターの御休憩なのかもしれませんね」
短い間をおいてヨーコが言った。
「リアルでもマスターは無為に過ごされる事は殆どありませんでしたから」
そうかもしれん。ゴロゴロ横になったり、音楽だけ聴いたりする事は無かった。

「通念上の”お休み” にマスターはFQをプレイされていましたよね」
・・そういうことになるか な。
「そのFQ内でも休憩を取られる訳ですから人間とはおかしなものです」
・・・・・・

「今はこっちが本業だからな ! 」
うん。 ちっともおかしくないぞ。
「スポーツだってゲームだって”仕事”となれば休みは要るものじゃないのか」
まぁ、別に『疲れた』 という感覚は無いんだけどな。
俺がぼ~っと妄想に耽っているのがヨーコには ”休憩” と映るのか。

「お前は休まないもんな」
俺は思わずヨーコに言っていた。
「俺みたいにぼーっとしたりしないし…」
そうか。
それがPCプレイヤーとアシスタントやNPCの違いか。
だとしたら。


( "妄想タイム" こそプレイヤーのアイデンティティってことにならないか? )







しおりを挟む

処理中です...