デルモニア紀行

富浦伝十郎

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赤土帯

ゴブリン肉体派

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 本格的に魔法修行を始めた俺だが、心中に一つの疑問を抱いていた。
『レベル34ゴブリンたる俺のフィジカルは如何程のものなのか?』 と。

 走ればポルシェより速い。 投げればライフルより遠くまで撃てる。
脚が速い。 石投げが、木登りが上手い。 高所から飛び降りれる。 
・・それだけか?

 こっちに来てからの俺は主にスキルに頼って戦って来た。
スキルを獲得し、スキルを伸ばし、スキルを使って勝って来たという印象がある。
俺自身『ゴブリンはフィジカルが貧弱だ』というイメージを持っていたからだ。
しかし今の俺は,  素の俺は"貧弱"なのか?

 20万を超えるHPを持つモンスターが弱い筈がないだろう、って話だ。
振り返れば最初に狼にやられた時は喉を捉えられたのだった。
二度目にやられた時は皇女様の巨弓サンダウナーの不意打ちで頭をやられた。
三度目はヨーコのアサシンアタックで延髄を。
・・・いずれもクリティカルだ。
一撃で倒されている。
血み泥の打ち合いの末に力尽きた訳ではない。 力で押し負けたのとは違う。
狼にやられたのは俺の初戦。
マルグリッドに射られたのは Lv9の時、
そしてヨーコと仕合ったのは Lv29 の時だった。
恥ずかしい話だが今振返ればどれも勝ちの目は無かったと言える。
だがそれで俺は自らを "虚弱なゴブリン" と見做すようになっていった。
『スキルに逃げるゴブリン』 という自己認識を抱くように。
・・・その認識を改めるべきだろう。

 ファイナルクエスト(FQ)の世界では外観と内容(実力)は関係ない。
華奢な御婦人がゴツい男やモンスターを捻り潰す、なんて事は珍しくもない。
ゴブリンのビジュアルに囚われるのは止める時だ。
( これから格下の敵はスキルに頼らず素手でボコってやろう )



 ・・・などと云う事を考えながら  俺は足元の石を手に取った。
ヨーコがSSで放った小さい方の石だ。 ( それでも大の男程の重さがある )
直径30㎝くらいのその石を俺は "投石" の要領で投げ付けた。
狙いは先程俺が両手で抛った大きい方の石(岩)だ。
ゴガッ!
投げた石は120m先まで転がって止まっていた大石を直撃した。
二つの石(岩)は砕け散り、粉塵が激しく巻き上がる。
ペレットとは比較にならない衝撃。
ライフルと大砲くらい違う。
( これならゴブリンハンマーは勿論 ゴブリンロックも投げられるな! )



「・・すまん。 少し確かめたい事があってな」
自分の膂力を確認して満足した俺は魔導の修練に戻る事にした。
元の位置でじっと指示を待っているヨーコに声を掛ける。

「ストーンショットの鍛錬に戻るぞ!」









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