デルモニア紀行

富浦伝十郎

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赤土帯

ストーンショット

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 また町着セット7を身に着けようか、とも考えたがやめにした。
ヨーコとの実戦的修行では町人服の防御力など無いのと同じだし損傷しても困る。
俺達を観ている者などNPCも含めて存在しないので見栄えを気にする必要も無い。
暫くは素のゴブリンのままで通してよかろう。
「俺が服を着た方がイイと思うか?」
一応ヨーコにも訊いてみた。
「ゴブリンが服を着ているのは不自然です」
ヨーコの答えはあっさりしたものだった。
「セット7には防御効果もありません。市街行動時に着用されたら宜しいかと」
「お おぅ」
予想通りの答えが返って来た。 やはりヨーコはAIだ。
変に気を使ったのが馬鹿らしく思えて来た。


「では試し撃ちと行こうか!」
俺はヨーコと並んで立ち、ストーンショット(SS) の試射をすることにした。
射程や弾速を把握していないと稽古の間合いも決められないしな。

「ストーンショット!」
まず俺が撃ってみる。
ヒュオッ!
大きいビーチボール くらいの石が結構な勢いで俺の前方に射出された。
( 丁度ゴブリンロックと同じくらいのサイズだ )
ドスン、と鈍い音を立てて20m程先に落下する。
おぉ。
これはほぼ、てか完全な”物理攻撃” だな。
射程は短いが威力は大したもんだ。
ファイアボールは防具性能によっては着弾しても凌げるが、
こいつが当たったら防具の性能に関係なく吹っ飛ばされる。
というか普通の鎧では直撃したら即死は免れまい。
まあスキルレベル2の攻撃スペルがレベル1のそれより弱い訳はないんだが。
中・遠距離には使えないが魔導士の短距離・近接戦闘には非常に有効だろう。
重武装の剣士にも十分対抗できそうだ。
( 全く魔法ってのは便利なもんだよ )

「お前も撃ってみろ」
ヨーコに試射を促す。
「了解!  ストーンショット!」
ヨーコが撃つ。
俺の石は直径50㎝くらいだったが、ヨーコの石は30㎝程だった。
ガイン! と音を立てて俺の撃った石に命中する。
おぉ。
中々アジな事をしてくれるじゃないの。
飛距離と弾速はほぼ同じ。 やはりSSのグレードは石の大きさに表れるんだな。
俺とヨーコは同じレベルの筈だがゴブリンと人間はサイズが違うのか。
・・・MP容量の差の為かもしれないな。




「よ~し♪」
俺は二人が撃った石に駆け寄った。
二つの石は落ちた場所にそのまま転がっている。
俺がSSを二番目のマスタリ候補に決めたもう一つの理由がこれだ。

「ど~れ っと!」
俺は(俺が撃った) 大きい方の石を持ち上げてみた。
石と言うよりは岩、それも頑丈な岩だ。 軽石や砂岩のように脆くはない。
着弾時の衝撃は尋常でない重量を感じさせられるものだった。
300㎏くらいはある筈だ。 常人なら転がすのにも難渋するだろう。
それがどうだ。
持ち上げたその岩はスーパーの棚に置かれた南瓜程にしか感じられなかった。
( やっぱりな! )

 俺は両手に持った岩を頭上に掲げた。
そして、サッカーのスローインの要領で思い切り放ってみた。
  ヒューッツ
風切り音が聞えた。 ヨーコが呆然とした表情で岩の行方を追っている。


 殺人的な威力を持つと見えた俺のストーンショットは20m程だったが、
俺のスローしたその同じ岩は80mくらい飛んで40mくらい転がった。








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