デルモニア紀行

富浦伝十郎

文字の大きさ
上 下
144 / 153
赤土帯

ヒール

しおりを挟む


 俺がスペルを連発して"魔力切れ" になると強敵ランドワームが襲って来る。
今回で2回続けて、だ。
これは偶然か? 設定か? 悪意に因るものか? それとも好意か?
プレイヤーがピンチの時に強力な敵が出現する、という演出は良くある。
物音や振動、魔力発動を感知して出現し襲って来るモンスターもよくいる。
( 俺がレベルアップしたら出現頭数が増えたしな ) 
・・・今回はどっちだ?
オンラインプレイでは殆ど気にしていなかった事だが、
ADサーバーではそういうことが気に掛かるようになってしまった。
( まあ考えても分からない事なのだが ) 


「ヨーコ、ちょっといいか?」
俺はヨーコを近くに呼び寄せて若干の指示を与えた。
「・・・了解しました」
ヨーコが頷いて俺の後ろに控える。
俺は苦悶する6匹のワーム達に近付いてスペルを発動した。

「ヒール!」 「ヒール!」 「ヒール!」 「ヒール!」 ・・・・
全てのワームに掛けた。
尾部を失ったワームの欠損部が修復されていくのが見える。
「・・・・・」
無言で見守る俺達の目の前で修復は進んでいく。
頭側の3~4割であったワームの虫体が5割を超えるまで再生した。
しかしやはり単発のヒールでは欠損部の回復は完結しない。
スペルの効力による再生が止まったのを確認した俺は再びヒールを詠唱する。
「チャージ×2 ヒール!」
今度は2倍にチャージしたヒールをワームに掛けた。
「・・よし!」
倍加されたスペルの効果はやはり強力だった。
先程の詠唱で回復した虫体の修復が再び開始されワームの尾部が再生していく。

 ヒールは魔導士ジョブの最初から使用できるが 非常に強力なスペルだ。
消費MPは大きい。 攻撃魔法であるFBが2であるのに対しヒールは10も掛かる。
ビギナー魔導士なら一度の詠唱でMPを使い切ってしまう。
その代わり対象者のレベルを問わずHP容量の1/4 を確実に回復するのだ。

 FQでは身体ダメージは全てHPに換算される。
頭部・心臓の破壊は即死クリティカルだが四肢体幹の損傷は該当HPが減少するのだ。
外観上の四肢欠損や出血等は( グロ防止の方針上)レンダリングされない。
腕や脚を切断されても腕や脚は無くならない。地面に転がったりしない。
( 但し、剣は持てず、歩行は不能になる )
HPが回復すればそれらの身体損傷は無かったことになる。
残HPが少しでもあれば身体欠損もヒールで回復できるのがFQのシステムだ。



「よし、これでいけそうだな!」
単発ヒールに次いでチャージヒールを受けたワームの尾部が完全再生した。
それを確認した俺はヨーコに声を掛ける。
「始めてくれ」
「了解!」
俺は残りのワームも完全再生させるべくチャージしたヒールを掛けて回る。
その復元したワームの後半身をヨーコが "零式" で無慈悲に焼き切っていく。

 地獄のサイクルが始まった。







.
しおりを挟む

処理中です...