魔王の仕事

天雲神威

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魔界暦975年 一の月

交渉の余地はない

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 魔界の夜にも星が見える。ただ、人間界の星とは違い、それは空気中の魔素が結合して変質したことにより派生する光が星のように見えるだけだ。
 砦の門は固く閉ざされ、弓矢部隊が防壁の上から攻撃を仕掛けていた。指揮官はサルファーである。
 「陛下、敵はこちらを誘い出そうとしているだけです。今宵はゆっくり休まれていても問題ありません。明日の朝、陛下とともに全軍をもって攻撃すれば殲滅できましょう」
 ラウナスは頷く。
 「その作戦で行こうと思ったが、気が変わった」
 サルファーはラウナスの次の言葉を待った。
 「誰も打って出るな。これは命令だ。私の大切な配下を無駄に死なせるな」
 「陛下、何をなさるおつもりですか?」
 ラウナスは微笑んだだけで、砦の門へと階段を降りて行く。
 門に辿り着くと、マナミとアリシアが装備を身にまとい、待機している。
 「寛いでいても構わないのだぞ」
 二人は充分過ぎるほどベッドの上で身体を使い奉仕したばかりだった。
 「陛下の側に仕えるのが私たちの勤め」
 マナミがそう言って、アリシアは頷く。
 「まぁ、良い。ただし私の後ろを守れ、良いな?」
 「仰せのままに」
 二人は声を合わせて言った。
 門番に命令すると少しだけ門が開く。ラウナスたちはそこから外に出た。
 門はすぐに閉じた。
 獣人たちは一瞬、動きを止めたが、一斉に襲い掛かって来た。
 彼らはおそらくラウナスの顔を知らないのだろう。
 ラウナスが片手を前に突き出した。
 魔法を詠唱せずとも、この程度の雑魚は瞬殺できる。
 獣人の雑兵の一人が斬りかかったが、その剣がラウナスに届く寸でのところで止まった。
 マナミには敵兵の動きが一瞬止まったように見えた。
 アリシアは援護に入る為に前に出ようとした瞬間だった。
 砦の門に集った敵兵は全て跡形も無く消し飛んだ。
 先程までの戦いの喧騒は消え、静寂が辺りを包み込む。
 ラウナスはゆっくりと歩き始める。敵の本陣までゆっくりと進んでいく。
 敵兵は攻撃をして来なかった。
 一人の獣人がラウナスに向かって歩いて来る。
 「魔王陛下ラウナス様ですね」
 「いかにも。そなた、名は?」
 「ドグレアと申します」
 彼は跪いた。
 「この度の反乱には理由がございます。陛下の耳に詳細が届いていないと思い、已む無くこのような事に」
 「それで、本気で攻め落とそうとしなかったわけか」
 確かに砦に対する攻撃はただの威嚇に過ぎない様相だった。
 「はい、仰る通りでございます」
 「我が統治に何か不満があるのだな?」
 「不満などとは。ただ、南のこの地は食糧が少なく、過去の反乱においての罪を未だに問われ、交易の自由もなく困窮しております」
 「なるほど。反乱の意思はないと?」
 ドグレアは神妙な顔で答える。
 「決してそのような意図は」
 ラウナスは故意に沈黙をつくり、言葉を発した。
 「速やかに武装を解き、兵を引け。ドグレアは私と共に城に来い。一人で不安なら、そなたが信頼できる部下をつれても構わない」
 「御意」
 ドグレアは兵の元に戻り、指示を出していた。
 「反乱をお許しになるのですか?」
 マナミが言った。
 「まさか。交渉の余地などない。あいつらは我が魔力に恐れをなしただけだ」
 ラウナスは振り返る。
 「ドグレアだったかな。奴がこちらに戻って来たら、拘束しろ。殺すには惜しいから、手加減はしろ。今は大した戦士ではないが、少しは成長が期待できる」
 ラウナスは二人に指示を出して、ドグレアが戻って来るのを待った。
 彼は一人の獣人を連れて戻って来る。
 「魔王陛下ラウナス様、私はドグレアの妻、ドグリーナと申します」
 彼女は跪き、臣下の礼を取る。
 「うむ。ドグレアよ、良き妻ではないか。羨ましい限りだ」
 ラウナスは微笑む。
 「さて、私はそなたらの仲間に挨拶したいのだが、ドグリーナよ、労をかけるが、付き合ってもらえるかな?」
 「その役目、私が」
 ドグレアが口を挟む。
 「そなたはここで待て。すぐに戻る」
 有無も言わせず、ラウナスは歩き出した。ドグリーナは不安な表情を見せたが、ラウナスに従った。
 獣人たちが一斉に襲い掛かって可能性もあるが、それはそれで構わない。
 彼らの前に辿り着いた時、殺気を感じたが、ラウナスは余裕の微笑みを浮かべた。
 誰も襲い掛かって来る気配はないようだ。様子を窺っているのだろう。
 「魔王陛下ラウナス様に礼を」
 ドグリーナが大きな声を発した。その場の全員が跪いた。
 「我に背いた事実はその命を以ってのみ無かった事にしよう」
 その言葉を聞いた瞬間、殺気が膨れ上がり、全員が決死の攻撃を仕掛けようとした。
 ラウナスが片手を空に向かって伸ばすと、彼の周囲に可視化できる程の魔力の壁ができ、片手を振りかざすと、壁を構築していた魔力が一気に獣人たちを呑み込んだ。
 一瞬で。
 跡形もなく。
 目の前には誰もいなくなった。
 ラウナスの隣でドグリーナは震えている。
 恐怖に震え、ただその場に立ち尽くしていた。
 
 
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