新神話物語

椿

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始まりの話 未来を無かったことに

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「もうここまでです。」

 冥王ハーデスの妻ペルセポネはいい放った。
辺り一面炎の海と化し、宮殿らしき建物があったであろう場所には瓦礫の山が積み上げられている。
「我ら、ハーデスの軍は敗けました。地上と海とに未来を明け渡してしまったのです。」
 悲しげに眉を下げてペルセポネは続けた。
「この世界に住まう人も生き物も全てがこれからどうなるか…そればかりが気がかり。我が夫ハーデス様もゼウス様によって封じられてしまい、残ったのは私たちだけのようね。メノウ…」
 ペルセポネはすぐ背後に控えた娘を呼んだ。
娘の名はメノウ。明るい黄緑色の肩までの髪にほっそりと女性らしい体型には似合わないクレイモアを携えた娘だ。
 メノウは周りを警戒するように見渡した。
「ペルセポネ様。敵から逃げるのは今です。私が囮になるのでその隙に冥界へ。」
メノウの気遣う言葉にペルセポネは、
「じき、冥界もゼウスとポセイドンの手に堕ちるでしょう。私も貴女も、もう何処にもこの世界に逃げ場は無いわ。」
ペルセポネは微笑んだ。そして、
「ねぇ、メノウ。貴女にお願いがあるの。」
ペルセポネはメノウの目を見て言った。
「??なんなりとお申し付けください。」
メノウが恭しく頭を下げた。それを見てペルセポネは苦痛を含んだ表情でこう続けた。
「貴女に過去の世界に行って欲しいの。」


「…!」
メノウは驚きで下げていた頭を勢いよく上げ目を見開きペルセポネを凝視した。
過去とは? 何故?
「ペルセポネ様?過去とは何ぜ」
ヒュウンッッ  ガッッ!!!
「!!!うっ、」
話の最中にペルセポネの左肩を槍が貫いた。
「ペルセポネ様!!!」
メノウが叫ぶと同時に二人の背後より
「終わりだ。降伏しろペルセポネ!!」
と女性の声が響く。
二人の背後には軍神アテナの姿が。
「降伏しろ。今ならまだ間に合う。私が父上に取り次ごう。ペルセポネ、冥王ハーデスのように投獄という封印はさせない。」
アテナは諭すように進言した。しかし、ペルセポネは、槍を引き抜き地面に落としてからメノウに向き合い話を続けた。
「貴方にハーデス様より預かりし、クロノス様の砂時計を与えます。これで過去に行って、強者達を集めるのです。そして世界を変えるの。きっと神々のくだらない戦争を止められる。人の力でこの世界を変えて。そしたら、きっとこんな、世界を造り変えるなんて酷い話無かったことにならないかしら?
メノウ…貴女は人の死が視える。…貴女に、貴女にしか出来ないことなの!」
ペルセポネは左肩の痛みに耐えながらメノウに託す想いを話終えた同時にペルセポネの体が地に。メノウはペルセポネが崩れ落ちる前に駆け寄り体を支えると力強く言った。
「しかと承知致しました!
必ずやこの世界の未来を変えてみせます。
何度繰り返そうと。何度やり直そうと。
私が必ず世界を変えて戦争を止めてみせます。」
「ありがとう。メノウ」
ペルセポネはメノウの答えに幸せそうに微笑んだ。
それを聴いていたアテナは苦々しい顔で
「馬鹿者どもが…」
と呟いただけで手は出してこなかった。
メノウはペルセポネが首から外したネックレス、クロノスの砂時計を首に提げるとペルセポネと顔を見合せて、
「いってきます」
その言葉と共にメノウは消えて過去の世界へと流れて行った。
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