真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第十二章 学園祭の始まり

19 荒らし再び

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 着替え終わってお尻が隠れると、李浩然リーハオランはもうここには用はないと言わんばかりに手のひらを返し、テントの外へ出ようと促してくる。せっかく二人きりになれたので彼とイチャつきたかった呉宇軒ウーユーシュェンは、不満げに頬を膨らませて抗議の声を上げた。

「まだ発表までは時間あるだろ? もう少しここにいようよ」

 観客たちが投票を終えて集計するまで、かなり時間が掛かることが予想される。そのため、結果発表をする前に出し物などで場を繋ぐことになっていた。

「いつ人が入ってくるか分からないだろう? それに、演劇を観ると言っていなかったか?」

 李浩然リーハオランは聞き分けのない子どもを諭すように優しい声を出しながらも、その行動は容赦がない。抵抗する呉宇軒ウーユーシュェンの背中をぐいぐい押しながら、出口に向かい始めてしまった。
 こうなってしまうとお手上げだ。それに、李浩然リーハオランの言う通り、投票を締め切った後に演劇サークルがステージで劇を披露することになっている。呉宇軒ウーユーシュェンはコンテストで知り合った演劇サークルの生徒から、ぜひ劇を観に来てくれと誘われていたので、休憩時間が終わるまでには出なければとは思っていた。

「そうだな。そいつら着替えでここ使うだろうし、そろそろ出るか」

 今はまだ誰も居ないが、そのうち劇の準備が始まるだろう。
 彼らの邪魔をしてはいけないからと自分を納得させ、呉宇軒ウーユーシュェンは渋々ながら幼馴染の言うことを聞いてテントを出た。すると、どうしたことか、テント前に友人たちが大集結しているのが目に飛び込んでくる。

「あっ、やっと出てきやがった!」

 待ちくたびれた様子の呂子星リューズーシンが、開口一番文句を言う。

「遅いぞ! 中で何してたんだよ!」

 いつものように小言を言おうとする彼に、いつ合流したのか隣人の子陽ズーヤンがニヤニヤしながら口を挟む。

「何ってそりゃあ、アレだろ。セッ……いてぇ!」

 彼の下品な言葉は、呂子星リューズーシンの平手打ちによって阻まれた。散々待たされた怒りが、馬鹿なことを言った子陽ズーヤンに向かう。
 制裁を免れてほっとした呉宇軒ウーユーシュェンは、集まっていた面々を眺めて首を傾げた。ルームメイトたちに高進ガオジン、イーサンと猫奴マオヌーまでいる。イーサンに至っては顔を洗いに行くこともせず待っていたらしく、派手なハリウッドメイクのままだ。

「お前ら、なんで出待ちしてんだ? 俺の女装、そんなに良かったか?」

 冗談めかして言う呉宇軒ウーユーシュェンに、猫奴マオヌーがたちまち顔をしかめてうんざりした顔をする。

「このアホ犬! そうじゃねぇよ。これ見てみろ!」

 彼は重大な事件が発生したとでも言うように深刻そうな表情を浮かべ、自分の携帯を呉宇軒ウーユーシュェンに差し出した。
 李浩然リーハオランと二人で画面を覗き込むと、アンチ掲示板が派手に荒らされているではないか。それも、呉宇軒ウーユーシュェンに対する罵詈雑言と殺害予告まであった。

「おっ、殺害予告なんて久しぶりだな」

 呉宇軒ウーユーシュェンが匿名で自分自身に過激な殺害予告をしていたことが発覚してからというもの、アンチたちはドン引きしてその手の脅しをめっきりしなくなってしまっていた。そのため、彼は久しぶりに見る攻撃的な書き込みに感動すら覚える。

「悠長に構えてる場合じゃねぇぞ! 投稿された時間をよく見てみろ!」

 猫奴マオヌーに叱られて書き込みを遡っていくと、始まりはどうやら美男美女コンテストが開催されてすぐからのようだ。ちょうど、呉宇軒ウーユーシュェン李浩然リーハオランが公衆の面前で愛の告白をした時間と重なっている。
 書き込みの中に『暴力男』だとか『最低のクズ』という文言が入っていて、どうにも既視感があった。

「もしかして、これって『例の女』の書き込みか?」

 最近は呉宇軒ウーユーシュェンが幼馴染とのツーショットをSNSに上げていなかったので音沙汰がなかったが、タイミング的にもぴったり合う。それに、美男美女コンテストの出場者は当日まで明かされないため、李浩然リーハオラン目当てで見ていた可能性が高い。
 自分の古巣を荒らされた猫奴マオヌーは怒り心頭で、鼻息荒く口を開いた。

「そのクソ女、お前を囮にして捕まえるぞ!」

「駄目だ!」

 物騒な言葉を聞くなり、李浩然リーハオランはさっと呉宇軒ウーユーシュェンを抱き寄せて却下した。だが、いつもなら引き下がる猫奴マオヌーもこれだけは譲れないようで、彼にしては珍しく食い下がってくる。

「そのアホに怪我はさせませんから! そのために仲間も呼んでます!」

 どうやら、テント前に集合していた友人たちは彼の呼びかけで集まったらしい。しかも彼らだけではなく、猫奴マオヌーが召集したアンチ軍団も密かに様子を窺っているという。
 中には呉宇軒ウーユーシュェンがまだ会ったことがないメンバーもいると聞いて、アンチが大好きな彼はぱあっと顔を輝かせた。

浩然ハオラン、やってみようよ! もし助けが間に合わなくても、俺なら自衛できるし。心配なら武器になりそうなもの持っておくから」

 彼は昔、ナイフを持って突撃してきたアンチを軽くいなしたことがある。それに、心配した李浩然リーハオランに頼み込まれて様々な護身術を習得済みだ。なにより、護衛役が助けに入るよりも呉宇軒ウーユーシュェン自身が犯人を捕まえる可能性の方がずっと高い。
 お願い、と甘えた声で畳み掛けると、幼馴染のお願いに弱い李浩然リーハオランは眉間に深々とシワを寄せて考え込む。

「俺が側で守るというのは……」

「駄目ですね。相手が李先生のファンだと想定すると、来ない可能性があります」

 誰だって、好きな人の前では醜態を晒したくないだろうというのが猫奴マオヌーの見解だ。犯人が行動に移すなら、呉宇軒ウーユーシュェンが一人の時を狙うだろうと予想している。
 側にいられないのは嫌なのか、李浩然リーハオランはどうしても許可を出したくないようで、難しい顔をして押し黙ってしまう。そんな心配性な彼の肩をポンと叩き、イーサンは軽い口調で話しかけた。

「僕たちもついてるし、李浩然リーハオランはどこかで暇を潰してろよ。なるべく遠くで」

 相手が女子なので、男子たちが守りを固めれば大丈夫だろうと思っているのだ。
 集まってきた友人たちも、面白半分とはいえやる気は充分で、心配するなよと口々に言う。彼らを見た李浩然リーハオランはそれでも決めかねていたが、ひとまず話だけは聞こうと言う気になったらしい。

「……作戦は決まっているのか?」

 もうほとんど許可が下りたに等しい。呉宇軒ウーユーシュェンはにんまりと笑って彼に抱きついた。

浩然ハオラン大好き!」

「まだ、しても良いとは言っていない」

 話がまとまりそうな気配を感じ、猫奴マオヌーは今が好奇と畳み掛けるように口を開いた。

「まず、このアホ犬がルームメイトたちと一緒に別行動を取る。なるべく少人数でな」

 彼の作戦は、二人の知名度を利用したものだ。呉宇軒ウーユーシュェン李浩然リーハオランもある意味有名人なので、その辺を歩いているだけでSNSには目撃情報が拡散される。特に呉宇軒ウーユーシュェンは行く先々で写真付きで居場所を書き込まれるので、犯人も恐らくネットの情報から位置を特定するだろうと予想したのだ。

「二人が別々の場所で目撃されたら、間違いなく犯人は動くはずだ!」

 作戦を語る声にも熱が入り、猫奴マオヌーはすっかり闘志に燃えている。しかし、大事なことを思い出した呉宇軒ウーユーシュェンは待ったをかけた。

「俺、これから演劇サークルの劇観るんだけど。それ終わってからでもいい?」

 せっかく観に来てと誘われたので、李浩然リーハオランと一緒に観覧したかった。ところが、李浩然リーハオランの方は早くこの件に片をつけたいようで、二人での観覧をばっさり切り捨てた。

「俺は別に劇を見なくても構わない。早く終わらせよう」

 劇を観ている間なら動き回らないので、護衛がしやすいと考えたのだろう。呉宇軒ウーユーシュェンは唇を尖らせて不満を訴えたが、李浩然リーハオランはこればかりは断固として譲らず、結局演劇の時間に作戦を決行することになった。

「せっかく二人で学園祭を回れると思ったのにぃ……」

 いじけながらも、呉宇軒ウーユーシュェンはこれからの予定を自分のアカウントで発信した。誘ってくれた演劇サークルの彼のための宣伝に見せかけて、さり気なく李浩然リーハオランと別行動になったことを添える。これで、後は犯人が罠にかかるのを待つだけだ。

阿軒アーシュェン、この埋め合わせは必ずするから」

 申し訳なさそうに眉を下げ、李浩然リーハオランは子どものように拗ねた顔をする幼馴染の頭をよしよしと撫でた。
 彼も約束を守れないのは心苦しいのだろう。申し訳なさそうなその表情から、彼の気持ちは痛いほど伝わってくる。そんな顔をされては許すしかない。
 李浩然リーハオランは祖父母を連れてバザーを見に行くと言うので、呉宇軒ウーユーシュェンは泣く泣く彼の手を離し、友人たちと会場へ向かった。
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