真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第十二章 学園祭の始まり

30 祝勝会

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 呉宇軒ウーユーシュェンたちが個室へ戻ると、料理に埋め尽くされたテーブル席には李浩然リーハオランの叔母と従姉妹が仲間入りしていた。教授でもある叔父は学園祭の見回りがあるため、残念ながら仲間外れだ。

シュェン兄おっそい!」

 入り口と向かい合った席にいた李若汐リールオシーが、二人の到着にいち早く気付いて待ちくたびれたように文句を言ってくる。一体いつ来たのだろうか。彼女の声に料理を楽しんでいた祖父たちも振り返り、酒の入ったグラスを掲げて歓迎してくれた。

「今日の主役がやっと戻ってきたぞ」

 バーでも飲んでいたせいか、呉宇軒ウーユーシュェンの祖父は赤い顔をしてすっかりできあがっている。だが、二人が帰ってくるまで待っていてくれたのか、料理の方はほとんど手付かずだ。
 隣同士で座った祖母二人は、主役の登場に顔を綻ばせた。

阿軒アーシュェン、コンテスト一位おめでとう!」

「変面、素敵だったわよ」

 彼女たちの称賛の声に、アンおばさんも頷く。

「最後の決め技、格好良かったわね。おばさんびっくりしちゃったわ」

 アンおばさんは会場にはいなかったが、リアルタイム配信されていた動画を見ていたようだ。
 女性陣が口々に褒め立ててくれるので、呉宇軒ウーユーシュェンは厨房での疲れも吹き飛んで得意顔をする。彼はふふんと胸を張り、今日の主役らしく悠々と自分の席に着いた。

「当然だろ? みんなの度肝を抜きたくて、ワンおじさんたちと考えたんだ」

 変面に早着替えを組み合わせるのは、稽古をつけてくれたワンおじさんの考えだったが、最後の締めでバク宙しようと提案したのは呉宇軒ウーユーシュェンだ。初めの頃こそ慣れない衣装を着て演技をするのは大変だったが、慣れてしまえばこっちのもので、練習中も宙返りは一度も失敗していない。

「いいなぁ……私、学校あったから見られなかったんだよね」

 受験勉強真っ只中でズル休みもできなかった李若汐リールオシーは、祖父母の感想を聞いて羨ましそうにしている。席に着いてさっそく料理に箸をつけた呉宇軒ウーユーシュェンは、そんな彼女にいいことを教えてあげた。

「そのうち大学のサイトに動画のリンク貼られるはず。ノーカットのもあるから、後でお前の大好きなLunaルナ様の勇姿と一緒に見たらどうだ?」

 受験生に大学をアピールするため、この時期はホームページに様々なイベントの動画が上げられるのだ。広報担当の生徒や出版サークルの生徒たちは、まさに今頃、必死に動画の編集作業をしていることだろう。

「せっかくだから生で見たかったのにぃ……明日は友だち連れて見に行くからね!」

 残念そうにしながらも、彼女は気を取り直してそう言った。

「おう、俺たちに投票よろしくな!」

 今から気合い十分の李若汐リールオシーに、呉宇軒ウーユーシュェンはすかさずお願いする。女王Lunaに勝つには、小さなところからコツコツとだ。
 ところが、Lunaファンの李若汐リールオシーはきゅっと眉間にシワを寄せ、素っ気なく返した。

「やだ。Luna様に投票するに決まってるでしょ」

 フンと鼻を鳴らす彼女に、呉宇軒ウーユーシュェンは両手を合わせて拝みながら尋ねた。

「この俺がこうして頼んでるのに?」

 お願い、と可愛こぶって頼み込むも、李若汐リールオシーはますます不機嫌顔になる。彼女はツンとそっぽを向いて言った。

「ちょっと顔が良いからって調子に乗らないで! まあ、友だちはもしかしたらシュェン兄たちに入れるかもね」

 やはり女子の憧れの存在は強いらしい。にべもなく断られた呉宇軒ウーユーシュェンは苦笑いするしかなかった。
 彼らの話が終わった頃を見計らって、ふと呉宇軒ウーユーシュェンの祖父が口を開く。

「そういえば、明日はお前のお師匠さんの娘も遊びに行くと言ってたぞ」

 入れ違いになってしまったが、呉宇軒ウーユーシュェンたちが休憩室で戯れいている間に、ひと段落した厨房からオーナーが挨拶に来ていたという。続く言葉に、彼はぎくりとした。

「せっかくオーナーが挨拶にきてくれたのに、お前たちは何をしとったんだ?」

 ずいぶん遅かったなと怪しまれ、背中に冷や汗が流れる。凍ったように動きを止めた彼の横では、驚いたことに李浩然リーハオランが平然と食事を続けていた。我関せずで、助け舟を出す気配すらない。
 彼と二人で何をしていたかなんて祖父に言えるわけがなく、呉宇軒ウーユーシュェンは誤魔化し笑いを浮かべる。

「い、忙しかったから、ちょっと休憩してただけだよ!」

 怪訝そうに眉をひそめる祖父にそう返すと、面の皮が厚い幼馴染を横目でチラリと見た。李浩然リーハオランときたら、二人の会話が聞こえていないのではと思うほど全く動じていない。
 幼馴染の援護射撃は望めそうにないので、呉宇軒ウーユーシュェンは明日の仮装大会の話をして、上手いこと祖父の気を逸らした。



 楽しい食事はあっという間に終わり、食後のお茶を堪能した一行は家に帰ろうと支度を始める。そんな中、店の様子が気になった呉宇軒ウーユーシュェンはひと足先に下へ降りて行き、様子を見るために厨房を覗き込んだ。
 注文は溜まっているが、李浩然リーハオランが食器類を綺麗に洗って片付けたお陰でスムーズに流れている。これなら心配はなさそうだと安心した彼は、ちょうど完成した料理の配膳を頼みに来たオーナーに声をかけた。

「オーナー、俺そろそろ帰りますね」

宇軒ユーシュェン、今日は本当に助かったよ。李浩然リーハオランもありがとう」

 思わぬ言葉に、呉宇軒ウーユーシュェンは驚いて振り返った。すると、さっきまで上に居たはずの李浩然リーハオランがすぐ後ろに立っているではないか。

浩然ハオラン? いつの間に来たんだよ。気付かなかった」

「俺も様子が気になって……大丈夫そう?」

 すっかり黒蓮楼の一員のようになっている彼に、呉宇軒ウーユーシュェンはくすりと笑った。

「平気だって。もう行こう。それじゃあ、お先に失礼します」

 そう呼びかけると、修羅場を超えて余裕が出てきた先輩シェフたちが笑顔で手を振ってくれる。中には呉宇軒ウーユーシュェンたちが手伝っていた頃にはいなかった人もいて、学園祭の出店から何人か戻ってきたらしいことが窺えた。これならもう大丈夫だろう。
 ご馳走するというオーナーの言葉に甘えてそのまま外へ出ると、タクシーはすでに準備万端で店の前に待機していた。
 ホテルに泊まる呉宇軒ウーユーシュェンの祖父母と父が先に乗り、別れの言葉もそこそこに出発する。後に残された彼らは、大人組と子ども組に分かれて李浩然リーハオランの叔父の家へ向かった。
 思わぬ事件もあって疲れが溜まっていたらしい。呉宇軒ウーユーシュェンは車に揺られているうちにうつらうつらしてきて、いつしか李浩然リーハオランの肩に頭を預けて寝落ちしてしまっていた。
 そして、目が覚めた時には李家のソファの上で、まるで瞬間移動してきたようでびっくりする。呉宇軒ウーユーシュェンはソファから飛び上がるように身を起こし、キョロキョロと辺りを見渡した。

「俺、いつタクシー降りたっけ」

 すると、耳元で優しい声が響く。

「君はずっと眠っていた」

 心地よい声音に隣を見ると、李浩然リーハオランが穏やかな眼差しで微笑んでいた。彼がソファまで運んでくれたに違いない。

「すっかり寝ちゃってたよ、ありがとな。今何時? シャワー入んないと」

「今日はもう遅いから、明日の朝にしよう」

 部屋の時計を見ると、いつの間にか十時を過ぎていた。確かに余裕のある朝に入った方が良さそうだ。
 呉宇軒ウーユーシュェンはあくびを噛み殺しながら寝る支度を済ませると、いつものように李浩然リーハオランにちょっかいをかけることも忘れて眠りに落ちた。
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