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第十三章 学園祭二日目
22 イチャイチャ注意
しおりを挟む記念撮影を終えた後、呉宇軒たちは衣装を着たまま夕飯を食べに行くことにした。せっかくのハロウィン衣装をすぐに脱いでしまうのは勿体ないと思ったのだ。
目的地が一緒だったのでイーサンも一緒に着いてきて、奇しくもキョンシー三人組が練り歩く事態になる。仮装大会で優勝したこともあり、ただ人混みの中を歩いているだけでも注目の的だ。すれ違う女子たちが、話題の三人に驚いてチラチラ見てくる。
「あっ、見て! イケメンキョンシーズ!」
「カッコいい!」
中には歩いている姿を写真に収めようと携帯のカメラを起動する人までいて、ちょっとした見せ物状態だった。だが、呉宇軒は愛想よく手を振って声援に応えていたものの、他二人のキョンシーは我関せずの顔をしていて、女の子たちをちらりとも見ない。早く夕飯を食べたいとでも言うように出店へ向かってまっしぐらだ。
未だにチーム名が気に入らないイーサンは、女子たちがその名前を口にする度に不愉快そうに眉を顰め、フンと鼻を鳴らす。そんな不満タラタラの彼に、呉宇軒は小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「まだ拗ねてんのかよ。もう終わったことだろ?」
大会が終わったので、今日でキョンシーズも解散だ。それなのに、イーサンはまるで一生その名前を背負って生きていくとでも言わんばかりだった。
「もっと良い名前があったはずだろう? この僕がダサいグループの一員だなんて耐えられない!」
「だったら、お前も候補出せばよかっただろ? 無かったじゃん」
まだ文句を言っている彼に、呉宇軒はやれやれと肩を竦める。グループ名を決める時にいい案があれば採用すると言ったのに、イーサンはケチをつけるばかりで自分からアイディアを出さなかったのだ。
ちなみに李浩然が出した他の案は『それ行けキョンシーズ』で、甲乙付け難いダサさだった。イケメンと付けた方がインパクトがありそうだという理由で、呉宇軒の案が採用されたのだ。
「私はいいと思うけどな、イケメンキョンシーズ。絶妙なダサさで」
後ろで揉めるキョンシーたちがあまりにもうるさかったので、先頭を歩いていた李若汐が口を挟んでくる。思わぬ所から援護を受けた呉宇軒は、「ほらぁ!」と彼女を指差した。
「女子高生のセンスを信じろって!」
「ちょっと、女子代表みたいに言わないで! 責任が重すぎるって」
責任を押し付けられて迷惑そうに抗議の声を上げたものの、憧れのLunaとツーショットを撮った李若汐はご機嫌で鼻歌を歌いながら再び歩き出す。だが、彼女は急に何か思い出したように振り返り、仲良く手を繋いでいる従兄弟と呉宇軒を見た。
「軒兄も然兄も気を付けてよね。特に軒兄! 付き合ってること、呉おじいちゃんたちには内緒なんでしょ?」
助けないからね、と釘を刺す彼女に、呉宇軒はふんと鼻で笑って返す。
「心配すんなって、それくらいちゃんと分かってるよ!」
「だと良いけど……」
信用していないのか、李若汐は怪しむような目で呉宇軒のことを一瞥してから前を向く。幼馴染とイーサンの二人からも突き刺さるような視線を感じ、呉宇軒は呑気に笑顔を向けた。
「そんな心配することないって」
「お前たち、おじいさんたちに言ってないのか?」
イーサンが意外そうな顔をしてそう言ったので、呉宇軒は真剣な顔をして頷いた。
「ほら、年配の人ってそういうの嫌がるから。アメリカとは色々違うんだよ」
呉宇軒と同じ年頃の若者たちは比較的柔軟だが、昔ながらの考え方をする年配層は同性愛に対して厳しい目を向けていることがほとんどだ。多様性を推している国の生まれのイーサンは、その言葉にやっと合点がいったようで神妙な面持ちになる。
「大変そうだな」
「覚悟の上だよ。いざとなったら駆け落ちだな。浩然のじいちゃんに助けてもらって」
笑ってそう言うと、呉宇軒は愛しい幼馴染の肩に寄りかかった。
二人の関係が祖父たちに知られた時のことを考えて、勘当される覚悟はとっくに決めていた。ところが、李浩然の方は駆け落ちを最終手段としているようだ。
「阿軒。駆け落ちも良いが、まずは説得してみよう」
「ん? 何か手があるのか? 俺のじいちゃんは手強いぞ?」
呉宇軒の祖父は怒りっぽくて頑固で、事情を話したところで聞く耳を持ってくれるかも怪しい。だが、李浩然は何か勝算があるのか、自信満々の顔をして口を開いた。
「誰にでも弱点はある。いざとなったら俺に任せて」
「然然……愛してる!」
頼もしすぎるその言葉に、呉宇軒は感動のあまり彼の体に飛びつき、ちゅっちゅと何度もキスをする。その姿を目撃した周囲の人がざわざわしていたので、李若汐が振り返って目を吊り上げた。
「ちょっと軒兄、言った側から何やってんの!? もうおばあちゃんたちの所着くからね?」
聞き分けのない子どもを叱るようにそう言うと、彼女は手をパーにした状態で大きく振りかぶり、呉宇軒の背中に強烈な一撃をお見舞いした。
バシンッと痛そうな音がして、呉宇軒は悲鳴を上げることもできずに悶絶する。
「……浩然、俺の仇打って!」
李浩然の腕にしがみつくと、呉宇軒はフンとそっぽを向く李若汐を指差しながら涙目で訴えた。
ところが、目をうるうるさせた甲斐もなく、李浩然は報復を求める声をバッサリ切り捨ててしまう。
「今のは君が悪い」
自業自得だと冷たい目を向けられ、呉宇軒はがっくりと肩を落とす。
ただ、李浩然は完全に見捨てるようなことはしなかった。苦笑を漏らすと、じんじんと痛む背中を優しく撫でてくれる。
ちょっと離れてもすぐに元に戻る二人に、イーサンと李若汐は揃って呆れ顔をしてため息を吐いた。
イベント終わりに夕飯を求める人々が一斉にやって来たのか、食事の出店がある一角は大賑わいだ。赤いランタンの下で大勢が列を作っていて、間を通り抜けるのもやっとな有様だった。
「すごい人だな……もう屋外ステージでイベント無いんだっけ?」
逸れないように李浩然と固く手を繋ぎながら、呉宇軒は周りをキョロキョロ見渡して身内を探す。こうも人が多いと探すのも一苦労だ。
「演劇サークルの夜の公演がある。それから、音楽サークルのバンドがあると言っていたはずだ」
今日のスケジュールは全て頭に入っているのか、李浩然はすらすらと答えてくれた。そして大きなお化けカボチャのランタンオブジェがある方を見ると、呉宇軒の手を引きながら言った。
「おじいさんたち、あのカボチャの近くに居る」
「よく見つけたな。若汐、じいちゃんたちカボチャの所だって!」
人の波に流されて、いつの間にか李若汐とは人三人分の距離が空いている。彼女は呉宇軒の呼びかけに振り返り、ぐっと親指を立てて聞こえていると合図した。
「イーサンは? ちゃんとついてきてるか?」
呉宇軒が呼びかけると、今度はすぐ近くから声が聞こえてくる。
「ここにいる! 僕の母さんもカボチャの所だ」
この辺りで一番目立つオブジェなせいか、お化けカボチャのランタンの辺りは待ち合わせスポットになっているようだ。集まっている人たちの陰に、ブロンドの長い髪がチラリと見えている。
食事目当てで集まっている人が多いので、愉快なキョンシー三人組に気付く人は少なかった。途中で引き止められるようなこともなく、彼らはどうにかカボチャランタンの元まで辿り着いた。
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