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第十三章 学園祭二日目
31 急ぎの用件
しおりを挟む呉宇軒は酷い有様の下半身と、べとべとに汚れたタオルの裏側を見てやっと彼の言葉を信じることができた。二人分の白濁にまみれたタオルをまじまじと見ている彼に、李浩然は心配そうな眼差しを向ける。
「阿軒、体は大丈夫?」
そう尋ねられるも、呉宇軒は絶頂に達したことで呼吸も落ち着きを取り戻し、疲れるどころか気分はすっきりしている。そのため、一体何が心配なのだろうと不思議に思って尋ね返した。
「平気だよ! なんで?」
「少し激しくしすぎたから……痛くはない?」
そう言うと、李浩然は熱を放出して治まりつつある下腹部にちらりと視線をやった。
タオル越しに激しく擦られたせいで、そこは少し赤くなってしまっている。確かにちょっと痛そうだ。
「大丈夫だよ。それより、すっごく気持ちよかったな! またやろうぜ」
体にはまだ余韻が残っていて、つい顔がにやけてしまう。初めての絶頂は思っていた以上に気持ちが良かった。何より、愛する幼馴染と愛を確かめ合ったという事実が、呉宇軒の心をふわふわと舞い上がらせていた。
李浩然は彼の答えにほっと安堵しながらも、まだ不安そうに窺い見る。
「お尻の方は?」
そう尋ねられ、呉宇軒は途端に顔を顰めた。
なぜなら、李浩然の指が入っていた感触が未だにはっきりと残ったままなのだ。あまりにも指の感触がありありと残っているので、ずっとこのままなのではと急に不安になる。
「ケツにまだ何か挟まってる感じ。これ、大丈夫なんだよな? 俺の尻、今どうなってるか分かる?」
僅かに尻を浮かせると、李浩然は鏡越しに後ろの具合を確認して神妙な面持ちになった。
彼がそんな態度を取るせいで呉宇軒はますます不安になり、小さく息を呑んだ。きっとまずいことが起きたに違いない!
「一生このままだったらどうしよう! お前、やったからには責任取ってくれるんだよな?」
両手で彼の肩を掴んで揺すっていると、それまで残念そうに瞳を伏せていた李浩然が吹き出した。くつくつと笑う彼に呉宇軒は一瞬ぽかんとしたものの、すぐに真っ赤になって掴みかかる。
「お前っ……俺で遊ぶんじゃねぇ!!」
真面目な李浩然の冗談は洒落にならない。風呂場に来てからというもの、彼にやられっぱなしだ。
李浩然はひとしきり笑った後、いじけてムッと唇を引き結んでいる呉宇軒の頭を優しく撫でた。
「大丈夫、そのうち元に戻る。君が可愛いから、ついいじめたくなっただけだ」
「そう言えばなんでも許されると思うなよ!」
甘やかしモードに入った彼をキッと睨みつけたものの、呉宇軒の怒りはいつも通り、長くは続かなかった。頭を撫でる彼の優しい手つきは抗い難く、つい口元が緩む。
李浩然は怒りが収まった頃を見計らって、弧を描く唇にお詫びの口づけをした。彼がなんでも言うことを聞いてくれる誠実な幼馴染に戻ったことを確信した呉宇軒は、喜んでそのキスを受け入れたものの、ふと手の中で行き場をなくしているタオルに意識が向く。
「なあ、このタオルって……」
一体誰のものなのだろうか。
ローションと白濁液でぐちゃぐちゃになった無惨な有様からそっと視線を逸らし、呉宇軒は緊張の面持ちで恐る恐る李浩然を見る。不安そうな様子に李浩然はくすりと笑い、大丈夫だと微笑んだ。
「心配ない。俺の物だ」
その答えに、呉宇軒は安心して深いため息を漏らした。
「そっか、そうだよな……良かったぁ。人様のタオルにぶちまけてたら、さすがに俺も気まずいし」
いけないことに使ったフェイスタオルは、見るだけで今日のことを思い出してしまう。そんなものを李家の誰かが使っていたら、呉宇軒は合わせる顔がない。
李浩然は彼の手の中から汚れた二つのタオルを受け取ると、さり気ない口調で言った。
「このタオルは、次のお風呂の時にまた使おう」
またお楽しみの時間があると分かり、呉宇軒は嬉しくなって目を輝かせる。李浩然のしでかした『お尻の特訓』についてはまだいくつか文句を言いたいことがあったが、その他全ての行いについては全面的に大歓迎だった。
「次の時は、お前のこともいっぱい喘がせてやるからな!」
呉宇軒は終始彼にやられっぱなしで、自分だけ声を出していたことがずっと恥ずかしかったのだ。それに李浩然ときたら、まるで口を縫い付けられていたのではと思うほど全く喘がなかった。
次こそは絶対に彼にも甘い声を出させてやると意気込んでいると、当の李浩然は平然とした顔で口を開いた。
「俺は声は出さない」
「なんでだよ! 俺だってお前の可愛い声効きたい! お願い然然、やらしい声聞かせて?」
「絶対に嫌だ」
可愛くおねだりしたにも拘らず、彼はいつになくきっぱりと断った。まるで恥ずかしいことは呉宇軒の担当だと言わんばかりに拒絶の姿勢だ。
彼が頑なになっている時は打つ手無しと分かっている呉宇軒は、しつこく言って怒られる前に渋々引き下がった。
「まあ、別にいいけど? その時になればどうなるかは分かんないし! 然然、そろそろ洗いっこしようか」
気を取り直した呉宇軒は悪戯っぽい笑みを浮かべ、気分を変える楽しい遊びを提案する。李浩然の顔にも笑みが戻り、二人はエアーマットの上で泡まみれになりながら、ひとときの遊びを楽しんだ。
お湯に浸かって疲れを癒した二人が脱衣所に戻ってくると、呉宇軒の携帯の光がチカチカと点滅して、電話の着信を知らせていた。
「こんな時間に誰だ? 若汐かな?」
学園祭から帰るとでも連絡してきたのだろうか。そう思って画面を見たものの、表示された名前を見た呉宇軒はたちまち嫌そうに顔を顰める。すると、彼の体を後ろから抱きしめながら、李浩然が覗き込んできた。
「儀仁おじさん? かけ直した方がよくないか?」
呉宇軒の父からの着信は十件以上にもなっていた。それも五分刻みにかけていたようで、着信履歴に父の名前がずらりと並んでいる。最初の電話は呉宇軒たちがちょうど風呂場で楽しんでいる時だった。
そんなに何度もかかってきていたなんて、嫌な予感しかしない。呉宇軒は画面を見なかったことにしてそっと携帯の電源を落とす。
ところが、真面目な李浩然は彼の行動を許してはくれなかった。素早く携帯を奪い取り、勝手に呉宇軒の父にかけ直す。
「やめとけよ、どうせくだらない電話だろ?」
「そうとも限らない。何かあったのかも」
心配性な彼は、どうしてもなんの用事だったのか気になるらしい。
呉宇軒は手を伸ばして、一度は彼から電話を奪い返そうとしたが、彼がいつまでも電話の件を持ち出しても面倒だと思い直し、手を引っ込める。何度目かの呼び出し音の後、電話口にやけに小さな父の声が聞こえてきた。
「阿軒? やっと出た……まずいことになったぞ!」
ひそひそとしたその声には、どこか緊張が滲む。李浩然の心配は的中してしまっていたようだ。
気の利く彼は携帯をスピーカーにして、呉宇軒にもよく聞こえるようにしてくれた。
「おじさん、何かあったんですか?」
「……小然? 阿軒も近くにいるのか?」
「一緒にいます。どうかしましたか?」
冷静な声は緊急電話サービスのスタッフのように穏やかで、電話の向こうの父も彼に釣られて少し落ち着きを取り戻したようだ。父は大きく深呼吸すると、やはり小さな声で答えた。
「実は、じいちゃんにお前たちの関係が知られてしまってな……あ、もちろん俺は言ってないぞ! 学園祭でお前たちの写真を配ってるブースがあって、そこで見つけちゃったらしいんだよ」
話を聞いた呉宇軒は、どうりで何度も電話をかけてくるわけだと納得する。恐れていた事態が起こり、二人はどうしたものかと顔を見合わせた。向こうの状況がどうなっているのか分からないので、頼りになるのは父だけだ。
しかし、詳しく事情を聞こうと思った矢先に「あっ、まずい!」という慌てた声がして、電話が切れてしまった。どうやら、話していることが祖父に気付かれそうになり、慌てて通話を切ったようだ。
あれだけ祖父の前でイチャつかないように気を付けていたのに、ファンの出店から発覚するとは盲点だった。夕食を食べていた時のどこか不自然な祖父の態度も、今なら合点がいく。
「……作戦会議、する?」
いざとなったら押し通すしかないと考えながらも、呉宇軒は一応李浩然にも意見を聞こうと話を振る。何より、用意周到な彼ならもっといい案を思い付いているかもしれない。
すると案の定、李浩然は落ち着いた様子で言った。
「いや、俺に任せてくれるか?」
「勝算はあるのか?」
やっぱりな、と思いながら尋ねると、彼は自信ありげにこくりと頷いた。
「君のお祖父さんの性格はよく分かっている」
「分かった、お前に任せるよ。何があっても俺は浩然の味方だからな? 絶対別れないから!!」
さすがは頼れる幼馴染だ。こうなった時のことを考えて、すでに有効な手を考えていたらしい。
彼に全幅の信頼を寄せている呉宇軒は、明日のことは全て任せることに決めた。それに、説得が上手くいかなくても、孫である呉宇軒を祖父たちが止める術はない。最悪、父に丸投げして帰ってしまえばいいのだ。
最終手段を考えていると、李浩然が頬をつついてくる。
「阿軒、悪いことを考えてるな?」
優しく咎める声に彼の方を向けば、優しい瞳と目が合う。顔に出ていたのか、心を見透かされてしまった。
呉宇軒は誤魔化すように笑って、彼に自分の服を投げつけた。
「然然、俺に服着せてくれない?」
甘やかなおねだりに誘われて、李浩然も笑みを浮かべる。祖父から反対された時の心の準備はとっくにできていたので、二人の間に悲観的な空気は全くない。
戯れながら互いに服を着せ合うと、祖父の件で悩むこともなく寝る支度を済ませる。連日の学園祭の疲れもあり、二人はあっという間に眠りについた。
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