真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第三章 夢いっぱいの入学式

12 肝試し

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 夕食会が終わり、後片付けをして現地解散になる。まだまだ遊び足りないみんなは、日中とは違った催しをするサークル会場へ足を伸ばすことにした。
 ランタンの明かりが煌々と照らす会場はまるでお祭りのようだ。食べ物を売る屋台も増えて、一般の人も混じって楽しんでいる。
 会場ではキラキラと光るカチューシャも売っていて、お祭り騒ぎに浮かれた呉宇軒ウーユーシュェンは、幼馴染と二人でお揃いのものを買ってご機嫌で頭に着けた。自分はピンクを選び、李浩然リーハオランの方は青色にする。万が一はぐれても、これがあれば遠くからでも発見し易い。

浩然ハオラン、肝試しやってるって! 行ってみようよ」

 すれ違った生徒が噂しているのを耳にした呉宇軒ウーユーシュェンは、幼馴染の手を引いて案内板を探した。すると、人混みの中でも目立つほど大きな地図が張り出されているのが目に入る。日中には無かったものだ。
 肝試しはオカルト研究サークルが開催しているようで、屋台の立ち並ぶ通り沿いからはかなり離れた場所にあった。そして、それとは別のサークルも一つの棟を貸し切って、肝試し風のスタンプラリーをやっていると書かれていた。

「うわ、二つあるじゃん。どっちに参加する?」

「君は両方に行きたいんだろう?」

「さすが、よく分かってるな。でも二つも回ってる時間無いよ?」

 李浩然リーハオランは隣にあったポスターをじっくりと読み、悩める幼馴染に微笑んだ。

「どちらも明日も開催すると書いてある。片方は明日にしよう」

 呉宇軒ウーユーシュェンは悩みに悩んだが、スタンプラリーの方は景品有りと書かれていたのでそちらに決めた。最速クリアで豪華景品プレゼントとあったので、俄然やる気が湧いてくる。

「俺たち無敵のコンビで最速クリア目指そうぜ!」

 ホラーに対して一切動じない李浩然リーハオランが一緒なら百人力だ。二人は通りの喧騒を抜けて肝試し会場へ向かった。



 工学部主催と書かれた看板の前にはすでに行列ができている。どうやらこちらの肝試し会場はサークルではなく学部が主動しているようだ。
 何人かのグループにまとまっている生徒たちの中には一人で挑戦する生徒も混じっていた。彼らの連れらしき学生は列とは別の待機場所で待っていて、無料で配られているホットココアを手に応援している。彼らの飲んでいるココアの甘い香りが、ひんやりとした夜風に乗ってこちらまで漂ってきていた。
 呉宇軒ウーユーシュェンたちも受付を済ませ、参加者の列に並んだ。待っている間に棟内マップが配られ、おおよそのルートを教えてもらう。
 肝試しのルートは一階から始まり、いくつかの教室を抜けて二階を通ってまた一階へ戻ってくるシンプルなものだったが、廊下に壁を作って進む方向を制限してあるので少し複雑に見えた。後がつっかえないように制限時間も設けられている。

「知恵と勇気で挑めだって。俺たちなら楽勝だな!」

 難関大学の肝試しだけあって謎解き要素も仕込んでいるようだ。呉宇軒ウーユーシュェンは肝試しも謎解きも大好きなので、始まる前からワクワクしていた。
 先行していた何組かがリタイヤし、思いの外早く順番が回ってくる。携帯と光るカチューシャを係の人に預けると、スタンプラリーの紙と共に懐中電灯を一本だけ渡された。
 中へ入ると、窓が全て塞がれているのか中は先が見えないほど真っ暗で、細い筋のような懐中電灯の明かりが頼りなげに前を照らす以外に光源がない。非常口の誘導灯すら見えない徹底ぶりだ。
 夜の教室というだけでどこか不気味な雰囲気があるのに、窓からの明かりすらないと恐ろしさは八割り増しだった。これは確かに棄権したくなる気持ちも分かる。
 この暗闇の中も、李浩然リーハオランは全く怖がる様子も見せず、呉宇軒ウーユーシュェンの手を引いてどんどん先へ進んで行く。案内の貼り紙に従って教室へ入ると、どこかから突然ドンッと大きな音がした。

「わあっ!? って、人感センサーでも付いてたのかな? さすが工学部」

 思わず幼馴染に飛びついてしまい、呉宇軒ウーユーシュェンは慌てて取り繕った。こんな状況ですら李浩然リーハオランは平常運転だ。

「一つ目の謎があった」

 そう言って彼が懐中電灯の明かりで照らしたのは、工具や資料などが雑多に並べられた机だった。この場所には似つかわしくない、意味ありげな赤い蝋燭が五本立っている。よく見るとそれは本物ではなく、プラスチックで作られた蝋燭型のランプだった。

「このスイッチを押せば良いのか?」

 五つの赤いボタンが蝋燭の足元に付いているので、呉宇軒ウーユーシュェンはまた音でびっくりさせられやしないかと警戒するように一つずつ押してみる。すると、端から順に押したボタンは蝋燭と連動していて、押すボタンによって明かりの点く蝋燭が違っていた。

「……分かった! これをこうして……」

 この手の仕掛けは呉宇軒ウーユーシュェンの得意中の得意だ。パターンを読んで押す順番を変え、すぐに全部の明かりを点灯させる。すると、どこからか物悲しいオルゴールの音色が聞こえてきた。
 ゆっくりとしたその調べは壊れかけているのか途切れがちで、鈍い音を響かせる。
 真っ暗な教室の中で聞こえてくる不気味な音は、どこか人を不安にさせる。呉宇軒ウーユーシュェンは無意識のうちに、そっと幼馴染の腕を掴んでいた。
 李浩然リーハオランが音のする方へ明かりを向けると、机の上に古びたオルゴールがぽつんと置いてあった。淡い明かりの中で、ひび割れたバレリーナの人形がゆっくりと回っている。一体どこでこんな骨董品を見つけてきたのか、不気味さが一層際立っている。そしてオルゴールを照らす明かりの端を、突然サッと何かが横切った。

「わああぁぁっ!」

 見えたのは一瞬だけだが、ボサボサの黒い髪にヒラヒラした白い服を着ていた。まんまと幽霊役に驚かされた呉宇軒ウーユーシュェンは、大慌てで幼馴染の胸に飛び込む。

阿軒アーシュェン、もう大丈夫」

 耳元で響く優しい声に、少しだけ冷静さを取り戻す。呉宇軒ウーユーシュェンは幼馴染の腕の中に収まったまま、恐る恐る顔だけを出して辺りを見渡した。相変わらず真っ暗だが、先ほど灯した蝋燭や懐中電灯のお陰で僅かながら家具の輪郭が見える。

「本当に? もう居ない?」

「うん、大丈夫。もう居なくなった」

 李浩然リーハオランは怖がるどころか笑いを堪えている。肩を震わせる幼馴染に、呉宇軒ウーユーシュェンは釣られて吹き出した。今のは我ながら情けなかった。
 バレリーナの人形をよく見ると、台座から一本の細い紙が出てきていた。オルゴールに見せかけて、小さなプリンターだったらしい。書いてあった番号は次の扉を開ける鍵だ。
 ボタン入力で開く扉を開けて先へ進むと、暗い廊下の途中で真横から窓を叩く音が聞こえてきた。
 さすがにもう音だけでは驚かない。呉宇軒ウーユーシュェンが余裕綽綽しゃくしゃくで横に目を向けると、真っ暗な教室の窓の奥から薄ぼんやりとした人影がこちらに向かって飛んできた。
 声にならない悲鳴を上げて、大慌てで李浩然リーハオランの後ろに隠れる。怯える呉宇軒ウーユーシュェンを他所に、幼馴染は淀みない足取りで窓に近付き、呆気なくその種を明かした。

阿軒アーシュェン、これはただの映像だ。窓にテレビが隠してある」

 よく見ると確かにそこにはテレビが嵌め込まれていた。明るければ気付けただろうが、暗闇に乗じて上手く隠してあるので本物の窓に見える。

「本当、お前と一緒で良かったよ」

 何があっても絶対に動じない李浩然リーハオランが居ると、頼もしいことこの上ない。彼はふっと笑みを浮かべると、悪戯っぽく目を輝かせた。

「君の驚く声の方がびっくりする」

「言ったなコイツ!」

 失礼な発言に、呉宇軒ウーユーシュェンは恥ずかしさを誤魔化すように笑って彼の脇腹をつついた。
 残りのふた部屋はセンサーで飛び出してくる人形や勝手に閉まるロッカーなど、びっくりさせる系の仕掛けが続いた。部屋の真ん中にあった椅子が勝手に動いた時は肝が冷えたが、ワイヤーで動かしているのを李浩然リーハオランが発見してくれた。冷静な幼馴染が次々に種を明かしてくれるので、そこまで怖い思いをすることもなく先へ進んで行く。
 階段を上がりきると急に明かりが見え、幽霊の格好をした係の人がぬっと現れた。
 一つ目のチェックポイントに着いたようだ。前の人たちがまだ中に居るらしく、終わるまでその場で待機することになる。

「おっ、君たち驚いてた割に速いね! ここのチェックポイントの記録更新だよ。最速狙えるんじゃない?」

 呉宇軒ウーユーシュェンの悲鳴は二階まで聞こえていたようで、自分たちの番が来るまで係の人に散々からかわれた。
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