真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第四章 波乱の軍事訓練後半戦

23 野営の醍醐味

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 焚き火の微かな光も消え、辺りは深い闇に包まれる。寝る準備を終えた生徒たちは、冷たい風に身震いしながら次々とテントの中に逃げ込んでいった。
 呉宇軒ウーユーシュェンも後半組のイーサンたちに別れを告げ、暖を求めてテントの中に入り込む。いの一番に中へ入った王茗ワンミンが、並んだ寝袋の中にひときわ大きなものを見つけ、あっと声を上げて駆け寄って行った。

「なんかでかい寝袋ある! 何これ?」

「俺と浩然ハオランの愛の巣だよ」

 冗談めかしてそう言うと、王茗ワンミンはその寝袋が二つくっついたものだとやっと気が付いた。彼はファスナーの位置を確認するようにひっくり返し、不思議そうに首を傾げる。

「これ寝れんの? 狭くない?」

「一度入ったら自力で出るのは無理だな。お前使うか?」

 やはり誰の目に見ても明らかに狭いようだ。自分と全く同じ感想を言った王茗ワンミンに尋ねると、彼はぎょっとしてぶんぶんと頭を振った。

「出られないのは困る! おしっこ漏れちゃう」

「そりゃ死活問題だな」

 かなりぎゅうぎゅうになるので、一緒に寝た相手は確実に巻き込まれる。まさしく大惨事だ。
 くだらない会話をしていると呆れ顔の呂子星リューズーシンがやって来て、呑気に寝袋を広げていた王茗ワンミンをじろりと見た。

「馬鹿なこと言ってないで寝るぞ。王茗ワンミン、お前クマはちゃんと持ってきたのか?」

 クマちゃんぬいぐるみと一緒じゃないと眠れない彼は、呂子星リューズーシンの言葉にハッとした。

「忘れてた! シン兄、取りに行くから付いてきてぇ!」

「忘れるなって何度も言っただろ! 人の話はちゃんと聞け!」

 事前に釘を刺していたにも関わらず王茗ワンミンがやらかしたので、呂子星リューズーシンはカンカンだ。その場に座るように命令すると、早速お説教タイムに突入する。
 しばらくそうして叱っていたが、怖がりな王茗ワンミンすがられ、彼は怒りながらも一緒にテントを出て行った。

「僕たちは先に寝ていましょうか」

 微笑ましく二人を見送った謝桑陽シエサンヤンが促し、ランタンの光を一段暗くする。一気に薄暗くなったテントの中、呉宇軒ウーユーシュェンは問題の大きな寝袋を手に李浩然リーハオランをちらりと見た。

「お前先入る?」

 入るだけなら思いの外すんなりいったのでそう言うと、李浩然リーハオランは小さく頷いて寝袋を受け取った。
 二枚合わせて使っているので一人なら広々して見えるが、ここに呉宇軒ウーユーシュェンが入ると一気にパンパンになってしまう。先に入った幼馴染は、早く来いと催促するような目で呉宇軒ウーユーシュェンを見上げた。

「分かった分かった、今入るよ」

 ところが幼馴染に背を向けて寝袋に入ろうとした途端、彼に尻を思い切り叩かれた。パァンっと乾いたいい音が響き、叩かれたところがヒリヒリする。

浩然ハオラン! 毎回毎回思い切り叩きやがって!」

 止めろって言ってるだろ!と叱りつけるも、返事の代わりにまた叩かれた。ちょっと尻を向けるとすぐにこれだ。隙あらば叩いてくるので、呉宇軒ウーユーシュェンは彼が幼馴染の尻をいい音の出る楽器か何かだと思っているのではと怪しんでいた。
 呆れながら中に入ると、同じ方向を向いているお陰か昼に試した時よりもいくらか窮屈さが和らいでいる。呉宇軒ウーユーシュェンは二度も引っ叩かれてジンジンと痛む尻を擦りながら苦情を言っていたが、そこに李浩然リーハオランの手が混ざってきて眉をひそめた。

阿軒アーシュェン、まだ痛むのか?」

 心配そうな声が耳元で響く。彼はお詫びをするように先ほど叩いた尻を優しく撫で擦り、表面上はとても反省しているように見えた。

「お前、謝るふりして撫で回したいだけだろ!」

 図星を突かれた李浩然リーハオランの手がぴたりと止まる。悪さをする手を掴んで腹の方に持っていくと、呉宇軒ウーユーシュェンは文句を言おうと口を開いた。ところがその時テントの入り口がそろりと開き、何故か王清玲ワンチンリン鮑翠バオツェイが中に入ってきた。

「うわ、何してるんだよ!?」

 静かに寝ようとしていた高進ガオジンが、乱入してきた女子に驚いて飛び起きる。彼女たちはお構いなしに上がり込み、テントの中をキョロキョロ見渡して人数が足りないことに気付くと首を傾げた。

宝貝バオベイ呂子星リューズーシンは?」

 恋人の姿を探しながら鮑翠バオツェイが小声で尋ねる。

王茗ワンミン子星ズーシンなら宿舎にクマちゃん取りに行ったよ」

 タイミング悪く、ちょうど入れ違いになってしまったのだ。呉宇軒ウーユーシュェンが答えると、彼女はぎゅうぎゅうの寝袋を見てあら、と驚いたように言った。

「それ狭くないの?」

「めっちゃ狭いよ。暖かいけど」

 保温性ばっちりの寝袋に二人でくっついているため、熱がこもって一人で寝るより暖かい。むしろ暑いくらいで、呉宇軒ウーユーシュェンはズルズルと這い出し、半身を寝袋から出した。側から見ると、寝袋に食べられているようにも見える。

「面白そうね。私も宝貝バオベイとやろうかな?」

「さっき王茗ワンミンに聞いたけど、トイレ間に合わなくなりそうだから嫌だって。それより二人ともどうしたんだ? 教官に見つかったら怒られるの俺たちなんだけど」

 女子をテントに連れ込んだなんて知られては、罰として何を言い渡されるか分かったものではない。心配する呉宇軒ウーユーシュェンを他所に、女子二人は座り込んで寛ぐ気満々だ。
 自分たちのテントを侵略されて居心地悪そうにしている男子たちに、鮑翠バオツェイが笑って言った。

「大丈夫よ、まだ消灯前だし。あなた達寝るの早すぎ」

 彼女の言うように、確かに周りはまだほとんどの生徒が起きているようで、あちこちから小さな話し声が聞こえてくる。とは言え男子のテントに女子が紛れ込んでいるなんていただけない。
 風紀の乱れを誰よりも気にする李浩然リーハオランが身を起こした。

「用が済んだら、教官に見つかる前に帰りなさい」

 王茗ワンミンの恋人という事情をかんがみてか、以前なら問答無用で追い出していた彼にしてはかなり譲歩した方だ。
 優等生に注意され、鮑翠バオツェイははーい、と悪びれもせず返事をする。李浩然リーハオラン相手に一歩も気後れしないとは、彼女はなかなかの曲者だ。
 しばらくすると王茗ワンミンたちが帰って来て、女子を見るなりテントを間違えたと思ったのか大慌てで引き返そうとした。

「ちょっと宝貝バオベイ、どこ行くのよ! ここはあなたのテントよ?」

 恋人の呼びかけに王茗ワンミンが恐る恐る顔を出す。彼はからかわれていると思ったのか用心深くテントの中を見渡し、ルームメイトたちの姿を確認するとホッとした顔で入って来た。

「なんで居るの?」

 小声で尋ねた王茗ワンミンに、鮑翠バオツェイが何やら耳打ちする。話を聞いた王茗ワンミンは驚いた顔をして、今度は彼女に耳打ちを返した。一体何を話しているのか、妙に盛り上がっている。
 恋人たちが内緒話をしている横を呂子星リューズーシンが迷惑そうに通り抜け、そっと寝袋に入り込んだ。

小玲シャオリン、寒くない? そこに俺の上着あるから使っていいよ」

 手持ち無沙汰に座っていた王清玲ワンチンリンに、呉宇軒ウーユーシュェンは自分の上着を羽織るように勧めた。雨風は凌げるが、テントの中は外とあまり気温が変わらないので寒いだろうと心配になったのだ。躊躇ためらう彼女に余ってる寝袋を使ってもいいけど、と笑って言うと、王清玲ワンチンリンは遠慮がちに上着を羽織った。

「俺が温めてあげようか? 今体ポカポカしてるからあったかいよ!」

 両手を広げてどうぞと歓迎すると、遠くの方から呂子星リューズーシンが文句を言ってきた。

「おいセクハラ野郎! お前はとっとと寝ろ!」

「なに妬いてんだ? お前のことも抱きしめてやろうか?」

 呉宇軒ウーユーシュェンがニヤリと口の端を吊り上げると、彼は心底嫌そうな顔をする。

「無差別かよ! 李浩然リーハオラン、その馬鹿をさっさと黙らせてくれ」

 王清玲ワンチンリンを挟んで言い合いをしていたが、呂子星リューズーシンは一枚上手だった。彼は問題児の始末を李浩然リーハオランに託し、会話をバッサリと打ち切った。

「分かった」

 二つ返事で引き受けた幼馴染にズボンを引っ張られ、寝袋の中に引きずり戻される。そうはいくかと抵抗したらパンツまで脱げそうになり、呉宇軒ウーユーシュェンは慌てて叫んだ。

「待って待って、パンツ脱げちゃう!」

 体の半分は寝袋の中なので女子の前で丸出しになる悲劇は免れたが、セクハラ発言に怒った李浩然リーハオランは止まらず、結局パンツが半分まで下がってしまった。中途半端なところで止まったせいで気持ち悪く、どうにか元に戻そうとするも狭すぎて上手くいかない。

浩然ハオラン、ちょっと俺のパンツ上げてくれない? 狭くて手が回らな……ちょ、やり過ぎ! 食い込むからやめて!」

 今度は目一杯上に引っ張られ、尻の割れ目に思い切りパンツが食い込む。無茶苦茶する幼馴染にムッとすると、呉宇軒ウーユーシュェンは彼のことをドンっと尻で押した。

「何すんだよ! そこまで怒ることないだろ!」

 狭いのであまり威力はなく、逆に李浩然リーハオランに捕まってしまった。彼は呉宇軒ウーユーシュェンの腰を両腕でしっかり抱き、身動きが取れないようにした。

「もう寝なさい」

 僅かに怒りを孕んだ声がする。これは相当怒っているな、と声で判断した呉宇軒ウーユーシュェンは、これ以上怒らせると後が怖いと大人しく口を閉ざした。後ろを取られているせいで、何かやられても抵抗ができない。
 王清玲ワンチンリン呂子星リューズーシンがヒソヒソ話す声を聞きながら、そのうち段々うとうとしてきた。出し抜けに胸の辺りを李浩然リーハオランの手がぽんぽんと優しく叩く。いつもの寝かしつけに耐え切れず、暖かな温もりを背中に感じながら呉宇軒ウーユーシュェンは意識を手放した。
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