しずくの旅路

３８ごめんよあの時の牛達

　新しい管理人の紹介から数日後、私は畜産の生育に来ている

　今度は牛の生育だ、この作業は仔牛を撫でるだけの簡単なものだが私は苦手だ
　牛はニワトリより大きく寿命も長いので気負う必要も無いのだが、なぜか毎度のように牛達の機嫌が悪い、何度あのツノに突かれたか…

　と言う事で牛の生育の時は牛を押える補助を何人かお願いしているのだが、今日に限り人員確保ができず頼めたのはたった１人だけだった

　ウモ～モ～、モ～
　ポロン、ポロロン～
　相変わらずの広いが全面石製の部屋の中、牛達の鳴き声と共に楽器の音が奏でられている
　牛達は私が今まで経験した事のない程の大人しさだ…
　私は振り返り、今日唯一の補助に話しかけた

「何時も暴れるはずの牛達の機嫌が良すぎるんだけど…アルの演奏のお陰？」
　彼は私の後から歩きながら楽器を弾いている、今流れている音楽は彼が奏でているものだ

「牛はもとより大人しい動物ですよ、暴れるのはきっと何か原因があったのでは？」
　何でも無いように、彼は言うが…

「もしかして牛達は機嫌が悪いのではなく、怖がっていただけ？」

「そうかもしれません、急にこんな部屋に揃って入れられたら誰でも不安になるでしょう」

　普段は大変な作業が今日は捗っている、確かに牛達が暴れる原因は考えていなかった…今まで苦労はと思うが、まさかの解決方に感動している
　なるほど!確かにそうかも！私の事をツノで突いてきた牛達に今まで恨みがあったけど、何だか今は申し訳なさで一杯だ、ごめんよあの時の牛達！

　と言う事で普段はまだ時間掛かる作業もあっという間に終わり、目の前の仔牛を残すだけとなった

「さぁ、お前で終わりだよ」
　私はそう言い仔牛を撫でた、仔牛は瞬く間に大人の牛に生育した、本当に今日の牛達は大人しいな私を見る目が以前の牛と全然違う
　これで牛の生育作業は終了だ、本当に今回は簡単だったな

「アルの演奏のお陰で何時もの作業より早く終わったよ、ありがとう！」

「いえ、私はただ楽器を鳴らしていただけなので、殆ど何もしていませんよ？頼まれた時は力仕事だと聞いていて不安でしたが、結局そのような作業はありませんでしたし」
　何時もはハードな作業なんだよ、今までの補助の人は終わる頃は皆んな疲れ果て倒れ込んでいたんだから

　アルはただいまロウレンと同じく新人の為、仕事内容を把握する研修期間だ、様々な作業を私に付いて覚えるというのが今の彼のすべき事なのだが、彼は作業中私に演奏しながら付いて来ただけだ…何もして無いね？

「まだアルの勤務時間はまだあるし他の作業に行く？」

「そうですね、流石に今帰ったら叱られそうです。そうですね時間があるなら、一曲いかがですか？先日聴きたいと言ってましたよね」

「うん！それいい！聴かせて」
　アルの提案に、とても心を踊らせた