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第10話 西側の小規模都市:ジルバ
☆ ☆ ☆
カナン村に来て三日目の朝、六時を知らせる鐘の音を聞くとタケルはゆっくり目を開けた。
(今日でカナン村ともお別れか)
『くだらないことを考えてないでさっさと起きろ』
(っせぇな。少しは感傷に浸らせろよ)
何だかんだで、カナン村での生活は快適だった。その為、タケルは少しだけ感傷に浸ろうとしていた。だが、サタンはそれをくだらないと言ってきたので、一気に不機嫌になってしまった。
「タケルー!起きてるー!」
「ああ!今着替えるよ」
レイナがドアをノックしてきたので、タケルは答えるとベッドから下りて着替えを始めた。
しばらくして、部屋を出たタケルはさっと中を見渡してから深く頭を下げた。直接礼を言えないのは残念だが、貸してくれたレイナの父親には本当に感謝していた。
「待たせたな」
「ううん。私もさっき出たところだから」
軽く言葉を交わした二人は家を出た。馬車の出発は早いので、朝食は摂らずに向かうことにしたのだ。
「家の方は、そのままでいいのか?」
「ええ。中の片付けはみんながやってくれるから」
そこで言葉を切ったレイナは、振り向いて今まで世話になった我が家に深く頭を下げた。彼女に続き、タケルも再び感謝の意を込めて頭を下げたのだった。
村長の家に寄って挨拶を済ませると、二人は早足で門へと向かった。その途中、村人から声を掛けられたレイナは少し涙目になっていた。
「おっ、外に馬車が停まってる」
門が見えてくると、タケルは外に停まっている馬車に少し興奮していた。彼の目の前には、漫画で見た幌馬車があったのだ。
「よう!」
「「おはようございます」」
門の前には、護衛依頼をしていたダニエルが立っていた。彼の隣には三十代くらいの男性が居たので、きっと護衛の引き継ぎをしてるのだろう。
ダニエルとは街まで一緒なので、二人は彼に挨拶をした。
「街までよろしくお願いします」
「あいよ」
門を出たレイナは、馬車の前方へ向かうと御者に街までの運賃(400G)を渡していた。彼女と同じように、タケルも小袋から銀貨四枚を出して渡した。
運賃を渡し終えると、二人は後方へ移動して荷台に乗り込んだ。
(まっ、予想通り椅子とかはないよな)
荷台の中を見たタケルは、複雑な表情で頬を掻いた。両端に布が敷かれているだけで、あとは何もなかったのだ。
「街までの荷台は空いてるから助かるな」
護衛の引き継ぎが終わったダニエルは、首を回しながら荷台に乗り込んできた。
全員が乗り込んだので、馬車はゆっくりと動き始めた。覚悟はしていたが、舗装されていない道は予想以上に揺れていた。
(はは•••街まで何日掛かるんだろ。それまで、俺の尻が無事ならいいけどな)
乗り心地の悪さに苦笑したタケルは、離れていくカナン村を見つめた。
朝食を摂っていなかった二人は、揺れる荷台で携帯食を食べていた。
「はい、お水」
「ありがと」
どうしても口の中の水分が奪われるので、レイナはタケルに水筒を渡すと自分も飲んだ。
携帯食で腹を満たしたタケルは、気になったのでダニエルに聞いてみた。
「あの、街まではどのくらい掛かりますか?」
「カナン村からだと三日は掛かるな」
タケルが街までの日数を聞くと、ダニエルはすぐに答えてくれた。他の村の護衛もしたことがある彼の話では、カナン村が一番近いそうだ。
「せっかくの機会だ。何か聞きたいことはあるか?」
無言のままは嫌なのか、ダニエルはタケルたちにそう聞いてきた。
「私は街のことが知りたいです。中に入っても、迷わずに動きたいから」
「さすがだな。よし!俺が街の特徴を教えてやる」
レイナが街について知りたいと言うと、ダニエルは詳しく彼女に教えてくれた。
他人事ではないので、タケルもダニエルの話に耳を傾けていた。
「タケルは?何か聞きたいことはあるか?」
「俺ですか?えーと•••」
急にダニエルから話し掛けられたタケルは、腕を組んで考え始めた。初めは冒険者について聞こうと思ったが、一番気になることを聞いてみた。
「エリザさんって、どんな冒険者なんですか?」
「どんなって、数少ないSランク冒険者だぞ?」
「ええ⁉︎」
タケルがエリザのことを聞くと、ダニエルは詳しく教えてくれた。天使の『契約者』だけでも驚いているのに、彼女は最高ランクの冒険者であったのだ。
(はは•••とんでもない人に出会っちまったんだな)
エリザとの出会いをどう思えばいいのか分からないタケルは、複雑な表情をするとため息を吐いた。
道中は決して安全という訳ではない。タケルがそうだったように、魔物が襲ってくることが何度かあった。しかし、その全てはダニエルが倒してくれた。
(へぇー、道中の馬車の護衛もするんだな。ダニエルさんが居てくれてホントに助かったよ)
そんなことを思いながら、タケルはこっそり《鑑定》でダニエルの属性を確認した。槍を使うのはカナン村に来た時に知っていたが、あの時は基本スキルを獲得していなかったからだ。
(ダニエルさんは水属性か。それに、レベルは15もあったんだな。だったら、草原の魔物なんて敵じゃあないよな)
ダニエルの強さに納得したタケルは、彼に『魔の巣窟』について聞いた。
サタンが話した通り、『魔の巣窟』は魔素の濃度と危険度で色分けをしているそうだ。一番外側で濃度が低いブルーゾーン。その次がイエローゾーン。そして、最も濃度が高くて危険なのがレッドゾーンと呼んでいる。しかも、このレッドゾーンはSランク冒険者でも油断できないエリアだとダニエルは真剣な表情で言った。
(Sランクでも油断できないエリアって、相当ヤバいだろ)
『まっ、俺の力を使えばレッドゾーンでも余裕だがな』
(はは•••素直に喜べないな)
タケルがレッドゾーンのことを考えていると、サタンはユニークスキルを使えば余裕だと言った。それが自分の実力とは言えないので、何だか素直に喜べなかったのだ。
街に着いてから使えるようにしたいので、タケルは馬車の中で持っている魔核(七個)をダニエルから換金してもらった。草原の魔物は全て50Gだと彼は教えると、350Gを渡してくれた。
☆ ☆ ☆
馬車で進むこと三日後、ようやく街が見えてきたと御者の方が教えてくれた。荷台は後方の出入口だけしかないので、外の状況は分からないのだ。
「ついに街か」
「迷子にならないでよ」
「ならねぇよ!」
やや緊張した面持ちでタケルが口を開くと、レイナは彼を揶揄ってきた。
「やっとジルバに戻ってきたな」
「ジルバ。それが街の名前なんですね?」
「ああ。西側にある小規模都市の一つだ。数ある小規模都市の中では、一番活気があると思うぞ。領主やギルドマスターが良い人だからな」
拠点としているジルバへ戻ってきたので、ダニエルは安堵の表情で前方へ顔を向けた。ジルバのことが気になったタケルが聞くと、彼は笑顔で街を自慢していた。
(領主に、ギルドマスターか。まあ、冒険者になれば、一度は会うことになるんだろうな)
ジルバに近付くにつれ、タケルの緊張は徐々に増していった。
それから三十分くらい進むと、馬車はゆっくり停まって御者が声を掛けてきた。
「通行料をお願いします」
「分かりました。街へ入る時は、通行料を払う決まりだ。一人100Gを頼む」
御者に返事をしたダニエルは、タケルたちに通行料の説明をした。二人は銀貨一枚を彼に渡すと、三人分のお金を持って荷台を降りた。
しばらくして、ダニエルが戻ってくると馬車はゆっくりと進み始めた。
「まだ門を潜ってるが、ようこそジルバへ」
ダニエルが笑顔でそう言うと、タケルとレイナは顔を見合わせた。そして、ほぼ同時に彼の方を向いた。
「「はい!」」
二人が大声で返事をするとは思わなかったダニエルは、おかしくなって笑い出した。
再び馬車が停まると、ダニエルと共にタケルたちは荷台から降りた。
「ここがジルバか。デッカい壁だな」
荷台を降りたタケルは、さっと街を見てから門の方へ体を向けた。漫画に出てくる街のように、ジルバも高い壁で囲まれていた。その壁の高さは、十メートル以上はあったのだ。
「さて、俺は他に寄る所があるから、二人とはここでお別れだな。教えた通り、ギルドは街の中央にある。このまま大通りを進めば辿り着けるぞ」
ダニエルが名残惜しそうな顔で言うと、彼はギルドがある方を指差してくれた。
カナン村を出た時からお世話になっているので、二人はダニエルに深く頭を下げた。
「「色々と教えていただき、ありがとうございました!」」
移動する前にダニエルと握手をしてから、二人は大通りを歩き始めた。
(ホント漫画のように中世ヨーロッパ風の街並みなんだな。近代的な造りではないが、活気が溢れている良い街だ)
ギルドを目指しながら、タケルは目に映る光景に感動していた。
カナン村とは大きさが桁違いなので、目的のギルドはまだ見えなかった。その為、二人はジルバのプチ観光をしていた。
「俺たちが入ったのは西門だから、鍛冶屋や魔道具の修理屋がある工業区だよな?」
「ええ。冒険者になれば武器を貰えるけど、手入れとかは自分でやらなきゃ駄目なんだって」
二人は話しながら、鍛冶屋に入る冒険者の姿を見ていた。
武器を買うのではなく貰えるのは有難いが、それから先は冒険者自身が手入れなどをしなければならないようだ。魔物と戦っていれば、いずれは傷や欠けができてしまう。最悪折れてしまうことだってあるので、武器の管理も冒険者の仕事の一つなのだろう。
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