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呪いの終わり
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車と馬車は、農園を離れ、港町の北の外れへと逃れた。
他の囚人達は人目につかない場所で降ろし、最後に残ったのは俺とオルファン、そして後ろをドライブしてきたシリウスだけだ。
ナシュパの街から数キロ出た何もない草原の中で足を止め、俺とシリウスは最後の言葉を交わした。
「――巻き込んで済まなかった、シリウス。本当に恩に着る。シャールクのことは心配だが……彼にも、礼を言っておいてほしい」
「シャールクのことならば大丈夫だ。僕も出来る限り、彼を助けるつもりだしね。それにしても、君達はどうするんだ。そんな悲惨な格好で」
言われて、背の高い草の間から初めて互いの姿をみた。
シャールクから借りた俺の服は所々が破れ、足は泥まみれでボロボロだし、俺が縄を解いてやったオルファンも、兵士と揉み合ったせいか汚れがひどい。
かく言うシリウスも、一張羅の白いスーツが汗まみれのしわくちゃになり、すっかり台無しになっている。
思わず顔を見合わせ、同時に吹き出してしまった。
「いやもう、笑い事じゃないよ。本当に生きた心地がしなかったし。オルファン、君の主人は少々無茶苦茶すぎやしないか」
「……イアンはガキの頃から高い木の上から平気で飛び降りたり、暴れ馬で曲乗りをしようとしたり、元々無茶苦茶だ」
「そうだったのかい!? 初耳だ」
恥ずかしい過去をさらりとオルファンにバラされて驚いた。
「兄弟の一番下だったから、多少やんちゃをしても誰も気にしなかったんだ。というかお前達、なんでいきなり仲良くなってるんだ」
「そりゃ、お互い君に散々振り回された後ではね」
オルファンまで黙って頷いていて、釈然としない。
それにしても、意外と二人は、互いに俺よりも気が合うのかもしれないと密かに思った。
「――そんなことよりも、君達のこれからだ。イアンは、帝国行きの船に乗るのだろう?」
真摯な態度でシリウスに尋ねられて、俺はきっぱりと首を横に振った。
「……本当にすまない。俺は……故郷としての帝国も、ハリスの家名も捨てるつもりだ。そして、オルファンとマウラカに残りたいと思っている。――マウラカの独立を助けたいんだ。君とシャールクのように、俺もオルファンを助けたい」
シリウスは澄んだ紫色の瞳を驚愕に見開き、やがて、溜息をつきながら寄ってきて、俺の肩を強く抱いた。
「……君がシャールクに会いたいと言い出した時から、何だかこうなる気がしていたよ。……学生時代の君は、いつも冷たい仮面を付けているかのようだった。でもあの国に来てからは、見違えるように生き生きとして、僕は嬉しかったんだ。……君は、帝国を出て、やっと自分の本当の人生を見つけたんだな」
「シリウス……」
思わず、白いスーツの背中を思い切り抱きしめた。
「死なないでくれよ、イアン。俺に出来ることならば、何でもするから連絡してくれ」
「勿論だ。……俺が左遷されてからも、変わらずに親しく付き合ってくれた友人はお前だけだった。……本当に、ありがとう」
礼を言い、身体を離す。
シリウスは背後の草むらに埋もれるように停車していたゴーストの方へ戻り、運転席へと収まった。
「――これからの君達に幸多いことを願っている。ではまた!」
静かで軽やかなエンジン音と共に、シリウスが手を振りながら街の方角へと去ってゆく。
「……。あいつと一緒に行かなくて良かったのか」
オルファンが背後で呟くように言った。
振り向き、彼に近づいてゆく。
そのどこか不安げな顔は、まるで初めて俺の父の屋敷に来た時の彼のようだった。
「……俺は帰らない。お前と一緒に行くと決めた。……俺の呪いは、まだ解けていないしな」
両腕を伸ばして、そっと彼を抱き締めると、どこか遠慮がちに逞しい腕に抱き返された。
その手が、震えているのが愛おしかった。
――もう二度と離さない。
「好きだ、オルファン。ずっとそばにいる」
きっぱりと告げて、彼の額にキスをした。
他の囚人達は人目につかない場所で降ろし、最後に残ったのは俺とオルファン、そして後ろをドライブしてきたシリウスだけだ。
ナシュパの街から数キロ出た何もない草原の中で足を止め、俺とシリウスは最後の言葉を交わした。
「――巻き込んで済まなかった、シリウス。本当に恩に着る。シャールクのことは心配だが……彼にも、礼を言っておいてほしい」
「シャールクのことならば大丈夫だ。僕も出来る限り、彼を助けるつもりだしね。それにしても、君達はどうするんだ。そんな悲惨な格好で」
言われて、背の高い草の間から初めて互いの姿をみた。
シャールクから借りた俺の服は所々が破れ、足は泥まみれでボロボロだし、俺が縄を解いてやったオルファンも、兵士と揉み合ったせいか汚れがひどい。
かく言うシリウスも、一張羅の白いスーツが汗まみれのしわくちゃになり、すっかり台無しになっている。
思わず顔を見合わせ、同時に吹き出してしまった。
「いやもう、笑い事じゃないよ。本当に生きた心地がしなかったし。オルファン、君の主人は少々無茶苦茶すぎやしないか」
「……イアンはガキの頃から高い木の上から平気で飛び降りたり、暴れ馬で曲乗りをしようとしたり、元々無茶苦茶だ」
「そうだったのかい!? 初耳だ」
恥ずかしい過去をさらりとオルファンにバラされて驚いた。
「兄弟の一番下だったから、多少やんちゃをしても誰も気にしなかったんだ。というかお前達、なんでいきなり仲良くなってるんだ」
「そりゃ、お互い君に散々振り回された後ではね」
オルファンまで黙って頷いていて、釈然としない。
それにしても、意外と二人は、互いに俺よりも気が合うのかもしれないと密かに思った。
「――そんなことよりも、君達のこれからだ。イアンは、帝国行きの船に乗るのだろう?」
真摯な態度でシリウスに尋ねられて、俺はきっぱりと首を横に振った。
「……本当にすまない。俺は……故郷としての帝国も、ハリスの家名も捨てるつもりだ。そして、オルファンとマウラカに残りたいと思っている。――マウラカの独立を助けたいんだ。君とシャールクのように、俺もオルファンを助けたい」
シリウスは澄んだ紫色の瞳を驚愕に見開き、やがて、溜息をつきながら寄ってきて、俺の肩を強く抱いた。
「……君がシャールクに会いたいと言い出した時から、何だかこうなる気がしていたよ。……学生時代の君は、いつも冷たい仮面を付けているかのようだった。でもあの国に来てからは、見違えるように生き生きとして、僕は嬉しかったんだ。……君は、帝国を出て、やっと自分の本当の人生を見つけたんだな」
「シリウス……」
思わず、白いスーツの背中を思い切り抱きしめた。
「死なないでくれよ、イアン。俺に出来ることならば、何でもするから連絡してくれ」
「勿論だ。……俺が左遷されてからも、変わらずに親しく付き合ってくれた友人はお前だけだった。……本当に、ありがとう」
礼を言い、身体を離す。
シリウスは背後の草むらに埋もれるように停車していたゴーストの方へ戻り、運転席へと収まった。
「――これからの君達に幸多いことを願っている。ではまた!」
静かで軽やかなエンジン音と共に、シリウスが手を振りながら街の方角へと去ってゆく。
「……。あいつと一緒に行かなくて良かったのか」
オルファンが背後で呟くように言った。
振り向き、彼に近づいてゆく。
そのどこか不安げな顔は、まるで初めて俺の父の屋敷に来た時の彼のようだった。
「……俺は帰らない。お前と一緒に行くと決めた。……俺の呪いは、まだ解けていないしな」
両腕を伸ばして、そっと彼を抱き締めると、どこか遠慮がちに逞しい腕に抱き返された。
その手が、震えているのが愛おしかった。
――もう二度と離さない。
「好きだ、オルファン。ずっとそばにいる」
きっぱりと告げて、彼の額にキスをした。
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