【R18】竜の器【完結済】

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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竜の器

アルスバーンの秘密

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 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 きさき、と聞こえたような気がしたが、どう考えても勘違いとしか思えない。
「……いま、なんと言った」
 今された行為、そして言葉が頭の中で意味あるものに変換できず、恐る恐る尋ねる。
 すると、相手はさも当然のことを話すようにもう一度言葉を重ねた。
「妃だ。私の伴侶になれと言っている。お前、生まれつき子供が産める身体だろう? 強い子供を沢山産め」
 イドリスは反射的に寝台の上で上半身だけ飛び起きた。
「なななな、なん……おま、それ……っ、知って……」
 完全に気が動転して、全く言葉が出てこない。
 それもそのはずだった。
 両性具有の森の神の血を引くアルスバーンの王家に纏わる、絶対に他言してはならない秘密――アルスバーン王族の男子、それも男系の男子だけに伝わる謎の遺伝。
 外見も外性器も完全に男性であるのに、何故か子を産む能力を持って生まれてくるという――。
 十八で成人した時、王家に代々仕える御典医からこの一族の秘密を聞かされた時、イドリスは驚きの余り、一週間寝込んでしまった。
 アルスバーンの男系の男性王族は全員、結婚相手にすらこの秘密を死ぬまで隠し通して生きる定めなのである。
 イドリスも忘れたふりをして生きていた。
 だが、まさかここでその秘密を思い出すことを強制されるとは、夢にも思わない。
 ラファトが、シーツの上のイドリスの手に指を重ねてくる。
「……別に不思議なことではあるまい。私の曽祖母はアルスバーンの姫君だったし、それ以前にも帝国とお前の家とは何度も姻戚関係を結んでいる。そんな間柄では、秘密などあってないようなものだ」
 反射的に、イドリスはラファトの手をピシャリと跳ね除けた。
「貴様、一体何が狙いだ……」
 氷のように透き通った瞳がじっと、イドリスの深紫の瞳を見つめる。
「帝国の皇帝の跡継ぎが、完全な実力主義で選ばれることはお前も知っているだろう? 最も血統が良く、最も賢く強い女に皇帝の子を何人も産ませる。そしてその子らを競わせ、実力で一番になったものを皇帝にする……ラズワルツ帝国は何代にも渡りそうやってこの広大な国を保ってきたのだ。そして私は、お前以外に私の子を産むのに相応しい者はいないと思っている。……」
 ラファトの言い分に、イドリスは頭がグラグラしてきた。
 言われたことが、どう考えても狂気の沙汰としか思えない。
 まるで自分自身が、機械の部品か、交配に使われる家畜になったかのような気分だ。
 いやこの男にとっては事実、そうなのかもしれない。
 一つの疑念が頭を離れなくなる。
「一体……いつから……そんなふざけたことを……考えるように、なった……?」
「三年前、初めてお前と剣の試合で手合わせした時だ。お前はわざと負けたが、本気で戦っていれば間違いなく私よりも強かった。――あの後すぐに私はお前のことを調べ、婚約の打診をすることにした。お前のお父上にな」
 一度も聞いたことがない、全く知る由もない話に、イドリスはゾッとした。
「父上は一体、なんと……?」
「お前は国を継ぐ第一王子の男子であり、帝国に嫁するのは容赦願いたいとのことだった。……まあ、私にはもともと貴族の女の婚約者がいたからな……冗談だと思われたのかもしれん。……だが、私は諦めが悪い方でな」
 恐ろしい予感が、悪夢のような確信に繋がっていく。
「……お前……まさか……まさか、そんな理由でこの戦争を……っ」
 優雅に微笑みを浮かべ、ラファトが頷く。
「それらしい理由をでっち上げるのには苦労したぞ」
 イドリスは全身の鳥肌が立ち、嫌悪に最早耐えられなくなった。
「こ、断る……!! お前の道具になどなってたまるか……!!」
「道具などと人聞きの悪い。……お前にとっても悪い話では無いはずだ。拒むというなら、私は停戦願いを断り、ドラゴンを送って王都を焼くが?」
 イドリスの息が一瞬止まり、ヒッ、と喉が鳴った。
 この寝室に連れてこられた時点で、自分の運命は決まっていたのだ。
 絶望しかない運命が。
「わかった……。俺の体は好きにしろ……だからもう、誰一人アルスバーン人を殺すな……っ」
 ラファトの狂気を前に、イドリスはそう答えるしかなかった。
 だが、心中には別の思いが沸々と沸騰し始める。
 ――隙を見てこの男を、闇討ちで殺して逃げる。
 それしか、自分とアルスバーンを救う手立ては、ない――。
 ラファトは相手のそんな胸の内など察する気もないらしく、両腕を広げ、歓喜に溢れた態度でイドリスの身体を抱きしめてきた。
「受け入れてくれて、私は嬉しいぞ。アルスバーンの民の安全は私が約束しよう」
 突然の同意なき抱擁――更に続けて、顔を傾けて口付けまでしようとしてきた皇子に、遂にイドリスの堪忍袋の尾が切れた。
「やめろ! 心までお前に明け渡した覚えはない……!」
 叫びながら、平手でラファトの頬をバチンと張る。
 相手は竜騎兵として体幹を鍛えているせいか、流石に微動だにしなかったが、皇子は赤くなった頬を抑え、しばらく呆然としていた。
 ――しまった、怒らせたか。
 ハッとしてイドリスが固まったその時、ラファトが首を傾げた。
「……おかしいな……まだ竜の器の効果が出ていないのか?」
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