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和平会議
婚礼馬車
――それから竜の器の効力が治まるまでには、特別に長い時間がかかった。
いつ朝が来たのか、それともまだ夜なのか分からないままに何度も何度もラファトの精を注ぎ込まれ、イドリスは正気に戻る暇さえなかったのだ。
入浴の時も最低限の食事や水を摂る時ですら、寂しくて仕方がなく、もっと肌を重ねていたくて気が狂いそうになった。
さながら獣の発情のように盛りあって、時間が許す限り、ろくな会話もなく何度も何度も交合を繰り返した。
幾晩も幾晩も、永遠にそんな夜が続くと思っていたのに――。
ある朝に突然、身体中に疼く痛みで、イドリスは正気に戻っていた。
寝かされているのは、もはや身体に馴染んでしまったラファトの大きなベッドの上だ。
どこもかしこも体液でドロドロに汚れ、尻の穴は明らかに腫れ上がって違和感が酷い。
身体を見れば、口付けの鬱血の赤い跡が痛々しいほどに散っていた。
しかも、身体を少し寝返らせただけでドロリとした精液が尻の間に垂れてくる。
イドリスは重い頭を抱えながら寝台に仰向けになり、今の自分の置かれた事態をハッキリと思い知った。
遂に抱かれてしまった……ラファトに。
しかも、絶対に隠しておきたかったのに、馬鹿のように好意をだだ漏れにして……。
相手が勝手に竜の器の効能だと勘違いしてくれたのはまだ救いだったが、それ以上に恐ろしいのは、理性があやふやな内に子をみごもってしまうことだ。
「……。もしかして俺は……孕まされた、のか……?」
まるで他人事のようにそう呟くと、すぐそばから応えるような声が返ってきた。
「……確実にそうなるように、もっと時間をかけて何度も抱きたかったのだがな」
艶やかだが気怠げな声が呟く。
そちらを向くと、窓から差し込む陽光を背にして、光り輝くような皇族の正装をしたラファトが立っていた。
白金の長髪を編み込んで涙型のダイヤの二つ垂れた宝飾品で飾り、優雅な絹のシャツに純白の長衣、同じ色のズボンを身に付けて、さながら花婿のようだ。
「……私はこれから暫くの間、出掛けて留守にする。少しやらねばならないことがあるのだ」
彼は優雅に歩いてきて背を屈め、イドリスの唇に優しく口付けた。
「お前はゆっくり休んでいていい。私の子を孕んでいるかもしれない、大事な身体だ」
イドリスはぞくりと体を震わせて、逃げるように後ずさると、すぐに問いただした。
「どこへ行くつもりだ。……そもそも、アルスバーンとの和平交渉は今、どうなってる……!? お前が責任者なのだろう……!」
本当は試合が終わってすぐに聞かなければならなかったことだった。
平時の自分を取り戻したイドリスの様子に、ラファトの表情が少し沈む。
彼は投げやりな調子で話し始めた。
「帝国の祝祭の為に延期されていた、そのお前の国との会議に――これから私は向かうのだ」
間髪を入れず、イドリスは全裸のまま床に降り立ち、ラファトに迫った。
「ならば、俺も連れて行け……! 俺は責任あるものとして、お前が俺の部下や、国の民をちゃんと扱ってくれることを、最後まで見届ける義務がある……!」
性奴のようななりと立場でこんなことを言うのは滑稽だと分かっていたが、言わずにはいられなかった。
――それはせめて王子としての自分が出来る、最後のことだったからだ。
こんなことになってまで、自分がこの男に身体を投げ出したことに価値があったのかを、確かめるための最低限の願いだった。
「……戦争ではないのでドラゴンで行くことはできんぞ。馬車で行くから時間がかかる。お前の身体にも負担がかかるではないか」
ラファトは横から手を伸ばし、ベッドに放られていた自分のガウンを取ると、それをイドリスの肩から優しく掛けた。
小指に宝石の付いた小さな指輪が散りばめられたその手が、いたわるように肩を撫で下ろし、イドリスの心臓が切なく跳ねる。
散々身体を重ねたのに、いや、重ねたからこそ、こんな時にこの男を意識してしまう自分が辛い。
だが感情を振り払って、イドリスはラファトを恫喝した。
「……断ると言うのなら、お前が留守の間、俺は自分の命を断つ。もしもお前の子を孕んでいるのなら、お前の子ごと……!」
そこまで言うと、やっとラファトは顔色を変えた。
「お前は何ということを言い出すのだ……!」
困り果てたように、ラファトがイドリスの身体を必死に掻き抱く。
「分かった、仕方がない。――新婚旅行の行く先はアルスバーンということにしよう」
「頭が沸いているのか、貴様は……! さっさと服をよこせ!」
イドリスはラファトの額に頭突きして、どうにか相手をもぎ離した。
不意打ちの攻撃が効いたのか、ラファトが額を押さえて床の上にしゃがみ込む。
「……ううっ。竜の器が効いていないと相変わらずだな、お前は……昨晩までは、あんなにも愛らしくよがり狂って私を求めていたのに……。しかも昨日のお前など、自分から上に乗って腰を振りながら、何度も好きだ好きだと」
「それは竜の器が作った幻覚と幻聴だっ!! 俺は知らん!!」
イドリスは言い切って突き放した。
ラファトは酷く落胆しながらも離れてゆき、ベッドの枕元にあった呼び鈴を鳴らした。
「……せめて、負担のないように最高級の馬車にする。そしてお前は私の妃として、それに相応しい姿で同伴するとしよう……」
ここに来てから一番屈辱的な思いをした湯浴みの後で、イドリスは和平会議に行くにしては珍妙に思えるほど、華々しい衣装を着せられた。
宝石を散りばめた黒のジャケットに、絹のフリルのついたシャツだけならまだしも、華奢な印象のあるキュロットに踵の高い靴ともなると、脚に山ほど筋肉の付いているイドリスにはいかにも頂けない。
「おい、せめて軍服のズボンとブーツにしろ」
またもラファトを脅すと、下半分だけはいつもの物が出てきたので、その格好で落ち着いた。
ただしその中身は、性懲りも無く紐のような下着だ。
そこはもはや言う気力もなく、妥協する他無かった。
やっと支度が終わると、部屋の重厚な扉が開かれ、迎えの者が大勢きた。
そこから城の正面玄関までの長い廊下を歩く際も、ラファトはまるで姫君にそうするように、イドリスの手を取って先導する。
それも、わざと転んでやろうかと思うほどの恭しさだ。
そして最後に城の中庭の正面玄関に待ち受けていたのは――白地に金を塗って豪華に細工した、帝国の紋章入りの素晴らしい四頭だての馬車だった。
敵に囚われた敗戦の将の自分が、こんな華々しい馬車に乗って祖国に戻るのか……と考えただけでも、頭が痛くなる。
「やっぱりドラゴンがいい……俺はドラゴンで行く……」
「身重の妻をドラゴンに乗せる者などいない」
笑顔できっぱりとはねつけられ、壁も椅子もクッション張りになった馬車の中にイドリスは追い立てられた。
いつ朝が来たのか、それともまだ夜なのか分からないままに何度も何度もラファトの精を注ぎ込まれ、イドリスは正気に戻る暇さえなかったのだ。
入浴の時も最低限の食事や水を摂る時ですら、寂しくて仕方がなく、もっと肌を重ねていたくて気が狂いそうになった。
さながら獣の発情のように盛りあって、時間が許す限り、ろくな会話もなく何度も何度も交合を繰り返した。
幾晩も幾晩も、永遠にそんな夜が続くと思っていたのに――。
ある朝に突然、身体中に疼く痛みで、イドリスは正気に戻っていた。
寝かされているのは、もはや身体に馴染んでしまったラファトの大きなベッドの上だ。
どこもかしこも体液でドロドロに汚れ、尻の穴は明らかに腫れ上がって違和感が酷い。
身体を見れば、口付けの鬱血の赤い跡が痛々しいほどに散っていた。
しかも、身体を少し寝返らせただけでドロリとした精液が尻の間に垂れてくる。
イドリスは重い頭を抱えながら寝台に仰向けになり、今の自分の置かれた事態をハッキリと思い知った。
遂に抱かれてしまった……ラファトに。
しかも、絶対に隠しておきたかったのに、馬鹿のように好意をだだ漏れにして……。
相手が勝手に竜の器の効能だと勘違いしてくれたのはまだ救いだったが、それ以上に恐ろしいのは、理性があやふやな内に子をみごもってしまうことだ。
「……。もしかして俺は……孕まされた、のか……?」
まるで他人事のようにそう呟くと、すぐそばから応えるような声が返ってきた。
「……確実にそうなるように、もっと時間をかけて何度も抱きたかったのだがな」
艶やかだが気怠げな声が呟く。
そちらを向くと、窓から差し込む陽光を背にして、光り輝くような皇族の正装をしたラファトが立っていた。
白金の長髪を編み込んで涙型のダイヤの二つ垂れた宝飾品で飾り、優雅な絹のシャツに純白の長衣、同じ色のズボンを身に付けて、さながら花婿のようだ。
「……私はこれから暫くの間、出掛けて留守にする。少しやらねばならないことがあるのだ」
彼は優雅に歩いてきて背を屈め、イドリスの唇に優しく口付けた。
「お前はゆっくり休んでいていい。私の子を孕んでいるかもしれない、大事な身体だ」
イドリスはぞくりと体を震わせて、逃げるように後ずさると、すぐに問いただした。
「どこへ行くつもりだ。……そもそも、アルスバーンとの和平交渉は今、どうなってる……!? お前が責任者なのだろう……!」
本当は試合が終わってすぐに聞かなければならなかったことだった。
平時の自分を取り戻したイドリスの様子に、ラファトの表情が少し沈む。
彼は投げやりな調子で話し始めた。
「帝国の祝祭の為に延期されていた、そのお前の国との会議に――これから私は向かうのだ」
間髪を入れず、イドリスは全裸のまま床に降り立ち、ラファトに迫った。
「ならば、俺も連れて行け……! 俺は責任あるものとして、お前が俺の部下や、国の民をちゃんと扱ってくれることを、最後まで見届ける義務がある……!」
性奴のようななりと立場でこんなことを言うのは滑稽だと分かっていたが、言わずにはいられなかった。
――それはせめて王子としての自分が出来る、最後のことだったからだ。
こんなことになってまで、自分がこの男に身体を投げ出したことに価値があったのかを、確かめるための最低限の願いだった。
「……戦争ではないのでドラゴンで行くことはできんぞ。馬車で行くから時間がかかる。お前の身体にも負担がかかるではないか」
ラファトは横から手を伸ばし、ベッドに放られていた自分のガウンを取ると、それをイドリスの肩から優しく掛けた。
小指に宝石の付いた小さな指輪が散りばめられたその手が、いたわるように肩を撫で下ろし、イドリスの心臓が切なく跳ねる。
散々身体を重ねたのに、いや、重ねたからこそ、こんな時にこの男を意識してしまう自分が辛い。
だが感情を振り払って、イドリスはラファトを恫喝した。
「……断ると言うのなら、お前が留守の間、俺は自分の命を断つ。もしもお前の子を孕んでいるのなら、お前の子ごと……!」
そこまで言うと、やっとラファトは顔色を変えた。
「お前は何ということを言い出すのだ……!」
困り果てたように、ラファトがイドリスの身体を必死に掻き抱く。
「分かった、仕方がない。――新婚旅行の行く先はアルスバーンということにしよう」
「頭が沸いているのか、貴様は……! さっさと服をよこせ!」
イドリスはラファトの額に頭突きして、どうにか相手をもぎ離した。
不意打ちの攻撃が効いたのか、ラファトが額を押さえて床の上にしゃがみ込む。
「……ううっ。竜の器が効いていないと相変わらずだな、お前は……昨晩までは、あんなにも愛らしくよがり狂って私を求めていたのに……。しかも昨日のお前など、自分から上に乗って腰を振りながら、何度も好きだ好きだと」
「それは竜の器が作った幻覚と幻聴だっ!! 俺は知らん!!」
イドリスは言い切って突き放した。
ラファトは酷く落胆しながらも離れてゆき、ベッドの枕元にあった呼び鈴を鳴らした。
「……せめて、負担のないように最高級の馬車にする。そしてお前は私の妃として、それに相応しい姿で同伴するとしよう……」
ここに来てから一番屈辱的な思いをした湯浴みの後で、イドリスは和平会議に行くにしては珍妙に思えるほど、華々しい衣装を着せられた。
宝石を散りばめた黒のジャケットに、絹のフリルのついたシャツだけならまだしも、華奢な印象のあるキュロットに踵の高い靴ともなると、脚に山ほど筋肉の付いているイドリスにはいかにも頂けない。
「おい、せめて軍服のズボンとブーツにしろ」
またもラファトを脅すと、下半分だけはいつもの物が出てきたので、その格好で落ち着いた。
ただしその中身は、性懲りも無く紐のような下着だ。
そこはもはや言う気力もなく、妥協する他無かった。
やっと支度が終わると、部屋の重厚な扉が開かれ、迎えの者が大勢きた。
そこから城の正面玄関までの長い廊下を歩く際も、ラファトはまるで姫君にそうするように、イドリスの手を取って先導する。
それも、わざと転んでやろうかと思うほどの恭しさだ。
そして最後に城の中庭の正面玄関に待ち受けていたのは――白地に金を塗って豪華に細工した、帝国の紋章入りの素晴らしい四頭だての馬車だった。
敵に囚われた敗戦の将の自分が、こんな華々しい馬車に乗って祖国に戻るのか……と考えただけでも、頭が痛くなる。
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(ムーンライトノベルにも掲載しています)