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王都にかかる虹
戴冠
――皇帝の恩赦から、一年と少しの後。
アルスバーンは正式に属州から一つの国家へと復帰した。
王都は新たな王の戴冠式と、同時に行われる新王の結婚の祝祭により、久々に華やかに彩られた。
戴冠の少し前より、イドリスは代々王族の男系男子が両性具有であることを正式に公表し、国民の理解を得ることに努めていた。
王の配偶者となったのは帝国の第四皇子ラファトであったが、その身に王族の血が色濃く流れていることは誰の目にも明らかであり、また帝国の庇護を約束する存在でもあったことから、思ったほどの抵抗はないまま、貴族も民衆も彼を受け入れた。
祝いとして皇子の出身国から贈られたのは、貴重な素晴らしい竜、サキルラートとライラのつがいだ。
アルスバーンに初めての竜舎が建設され、二頭はパレードと共に華々しく迎え入れられた。
そうして賑わう街とは裏腹に、丘の上の王城は、厳かな儀式の遂行のために静まり返っている。
多くの他国の招待客が迎え入れられた大広間で、純白の礼装で美しく着飾ったイドリスは戴冠の時を迎えた。
参列者の中でも一番近い場所には、黒髪の女の赤子を誇らしげにかかえたマヤルがいる。
自ら発光して輝く菱形の青い宝石『竜の器』は、美しいペンダントに加工され、おくるみに包まれた赤子を今も守るように、その身に掛けられていた。
器はいつか雌のドラゴン、ライラの腹に埋められ、この国生まれのドラゴンが生まれることだろう。
壇上から新王に冠を与えるのは、銀のマントと白の礼装で美しく中性的な森の神に扮したラファトである。
長く神秘的な白金の髪を背に流した彼は、ひざまずくイドリスに対し、穏やかな声で寿《ことほ》いだ。
「汝がこの王国を治めるにあたり、神の導きと恵みが常に共にあるであろう。――汝の治世が平和と繁栄をもたらすよう、汝は民を慈しみ、正義を行うことを誓えるか」
「――誓います」
心からの言葉として、イドリスは請願した。
その頭に泉の水飛沫を思わせる青緑の宝石を冠した金の王冠が載せられると、ラファトは長いマントをふわりと取り払って階段を降り、今度は王配としてイドリスの背後に跪いた。
ラファトが両手を指を組んで合わせ、目を閉じる。
「――森の神の名において、陛下の戴冠を我々の全てが祝福いたします。また、我々は力を尽くし、陛下の治世を共に支えることを誓います」
天鵞絨のクッションの上に乗せられ、王配の為の冠が恭しくイドリスの元へと運ばれて来た。
イドリスはラファトの頭の上に、美しい木の枝葉の重なりを模した銀の冠を乗せ、祝福を与える。
ラファトはゆっくりと立ち上がり、万雷の拍手の中でイドリスと見つめ合い、手に手を取り合うと、共に赤い絨毯の上を歩み始めた。
王都の全ての場所に鐘の音が高らかに鳴り響き、祝祭の紙吹雪が街を包む。
森の神に永劫の繁栄を願い、若き統治者達は王城の露台の上で、自らの王国と国民を見渡す。
城下に集まった民の祝福を受け、ここに二人は、名実共に固く結ばれることとなった。
※ ※ ※
――盛大に行われた戴冠と結婚の祝祭の夜。
各国の使者を招いた宴も無事終わり、王と王配の二人はアルスバーン王城の王の寝室にて、束の間の穏やかな時間を過ごしていた。
「疲れたが、誠に素晴らしい式だったな……」
ラファトは緩い絹のシャツにキュロットという平服に着替え、広い寝台の上に寝転んで、ぐったりと目を閉じている。
イドリスは一番落ち着くアルスバーンの軍服のズボンに、着なれた絹のシャツを着て、彼の隣に倒れていた。
「ああ……。素晴らしかったが、もう二度とやりたくはないな……」
互いに、もうひと月近く、父の代からの廷臣達に戴冠の段取りを厳しく指導され続け、疲れ切っている。
ラファトは一年前からアルスバーン語の本格的な習得に四苦八苦しており、今日の儀式の古語などは特に気を使ったせいか、気が抜けて起き上がれなくなっていた。
そしてイドリスは数ヶ月前に女の赤子を産み落としたばかりの身である。
乳母のマデリンもいるものの、ラファトが寂しがるのでできる限りは二人の手元で育てるようにしている為、その疲労の蓄積もかなりのものだ。
今日は儀式があったので、赤子は明日の朝まで乳母の元にいることになっていたが、預ける際もラファトは最後まで片時も離れず自分の小指を握らせ、名残惜しそうにしていた。
「イルシアは泣いてはいないだろうか。こんなに私たちと離れるのは初めてではないか……」
まだ不安そうにしているラファトの手を、イドリスは手探りでシーツの上で握った。
「マデリンは俺たちよりよほど赤子の扱いに慣れている。今頃はぐっすり眠っているさ……」
「そうだと良いのだが……」
寂しそうなラファトに、イドリスは目を閉じたままクスリと笑った。
「……しかし、お前は随分と子煩悩な男だったのだな。最初は皇帝になる為だけに、俺に子を産ませたがっていたのかと思っていたが――」
ラファトが穏やかな声で答える。
「……記憶を失っている間に、気付いてしまったからな。私が本当に欲しかったものは、何だったのかを……」
「ならば良かったが……。しかし、あの時のお前は、おかしいったらなかったぞ。あの間抜けな姿、目に焼きついて離れん」
ムッとしたように藍緑色の目が開く。
「イドリス、お前はいつまでその話をしてる……?」
「だって、お前ときたらまるで赤ん坊のように」
ぎしりと寝台を軋ませて、ラファトがイドリスの上に乗ってきた。
「わが愛しの王よ……。夜は短いぞ。そんな話ばかりをしていて良いのか……?」
柔らかな唇の感触が、頬や顎先、そして唇の表面に触れ、寝落ちてしまいそうなイドリスの神経をふわふわと刺激してゆく。
「ン……。お前、まさかこれからする気なのか……? ずっと俺を気遣って、一人で処理していたくせに……」
紫の瞳をうっすらと開けながら、イドリスは自らの絹のシャツの中央を閉じている紐のうち、一番上の結び目に指を掛けた。
ラファトの指がそれを解くのを手伝うように、蝶結びなった紐の先端を引く。
「もちろん、するつもりだが……? 城の御典医が、もう問題ないと言っていたからな」
結び目が一つ解け、胸筋の谷間から喉仏に向かって、ラファトが舌の中央の柔らかい場所を這わせてゆく。
「……あ……」
甘い感触の虜になりながら、イドリスはもどかしく二つ目の結び目を指で解いた。
「はや、く……ああ……口付けしてくれ……」
落ちるラファトの髪に肌をくすぐられながら、イドリスの全身が期待に震える。
だが、ラファトは焦らすようにイドリスの耳朶をしゃぶり、舌を耳穴に差し込んできた。
「っひ……、ンッ、あ……!」
感じやすい場所に、濡れそぼるほどしつこく舌先を出し入れされ、涙目になりながら寝台の上で悶える。
「ラファト、ラファト……」
イドリスは名前を呼びながら、夢中で筋肉質な背中に腕を回した。
ラファトの温かい手がイドリスのシャツの中に易々と入る。
その手はシャツをずらしてイドリスの肩をあらわにさせながら、敏感な脇腹を撫でた。
「はあ……っ」
脱げかけたシャツを押し上げている火照った突起には触れてこず、指先は首筋を撫で上げ、イドリスの頬を包む。
親指が唇を優しく撫でて、次の瞬間、待ち望んでいた口付けが訪れた。
「ン……っ」
すぐには深くしない、唇の間で何度も柔らかく舌を擦り合わせるもどかしい愛撫だけで、頭の芯がドロドロに溶かされていく。
悶えながら腰を浮かせると、ラファトのすっかり張り詰めたものが太腿に当たり、じん……と痺れが下腹に響いた。
もうそこには竜の器は無いのにも関わらず、身体の奥が勝手に熱くなり、雄を求めて濡れそぼっていく。
唇を外して、イドリスは恥を忍んで懇願した。
「あ、服が……濡れてしまう……、脱がせてくれ……」
「……わかった」
ラファトがじっとイドリスの顔を見下ろしつつ、軍服のズボンのホックを外し、足首から引っ張った。
「――……!?」
自分の視界にはいってきたものにラファトが戸惑い、一瞬ズボンを持ったまま固まる。
「……? どうした……」
不思議に思ってイドリスは下を見た。
そして、思い出したようにハッとして、首や耳まで真っ赤になった。
――そうだ、余りにも最近、ラファトが手を出してこないものだから……。
機会があったらば挑発してやろうかと、この男がいかにも好きそうな、尻側が紐のようになっている白の絹の下着――しかも、腰の横で紐を結んで支える形のもの、を穿いていたのだった。
その「機会」が、まさか儀式のあった当日とは思わず、完全に油断していた。
「何だこれは……。イドリス、私とは最近清い仲であったというのに、こっ、こんな不埒な下着を、誰のために穿いて……!? ま、まさか……あ、愛人……」
――しかも、張本人には完全に誤解されている。
出会ったばかりの頃はその不埒な下着とやらを穿かせ続けていたくせに、結婚した途端、イドリスが同じような下着を穿いただけでこの騒ぎとは――。
面白くないので、イドリスはラファトをからかうことにした。
盛大に眉を顰め、わざと嘆き悲しむような顔を作る。
「許してくれ。無事に子を産んだというのに、お前がなかなか抱いてくれないから……寂しくて、つい……」
「つい……!? いっ、いつ……どこの誰とだ……!!」
真っ青になり、可哀想になってしまうほどに動揺し始めたラファトの顔を横目で見て、イドリスは自らの下着の、腰の部分で結ばれている紐を指に絡めて引いた。
「いつ、どこの誰と、だと……?」
はらりと片側の紐が解かれて、小さな布の下から濡れそぼって昂まった雄の先端があらわになる。
ラファトがごくりと唾を呑み、淫らな伴侶の痴態に視線を集中させた。
「今、に決まってるだろう……。寂しくてつい、お前を今、誘ってる……」
イドリスは身体を起こしてシャツを肩から落とし、口付けの距離までラファトに顔を近づけると、彼の唇を撫でるように舐めた。
アルスバーンは正式に属州から一つの国家へと復帰した。
王都は新たな王の戴冠式と、同時に行われる新王の結婚の祝祭により、久々に華やかに彩られた。
戴冠の少し前より、イドリスは代々王族の男系男子が両性具有であることを正式に公表し、国民の理解を得ることに努めていた。
王の配偶者となったのは帝国の第四皇子ラファトであったが、その身に王族の血が色濃く流れていることは誰の目にも明らかであり、また帝国の庇護を約束する存在でもあったことから、思ったほどの抵抗はないまま、貴族も民衆も彼を受け入れた。
祝いとして皇子の出身国から贈られたのは、貴重な素晴らしい竜、サキルラートとライラのつがいだ。
アルスバーンに初めての竜舎が建設され、二頭はパレードと共に華々しく迎え入れられた。
そうして賑わう街とは裏腹に、丘の上の王城は、厳かな儀式の遂行のために静まり返っている。
多くの他国の招待客が迎え入れられた大広間で、純白の礼装で美しく着飾ったイドリスは戴冠の時を迎えた。
参列者の中でも一番近い場所には、黒髪の女の赤子を誇らしげにかかえたマヤルがいる。
自ら発光して輝く菱形の青い宝石『竜の器』は、美しいペンダントに加工され、おくるみに包まれた赤子を今も守るように、その身に掛けられていた。
器はいつか雌のドラゴン、ライラの腹に埋められ、この国生まれのドラゴンが生まれることだろう。
壇上から新王に冠を与えるのは、銀のマントと白の礼装で美しく中性的な森の神に扮したラファトである。
長く神秘的な白金の髪を背に流した彼は、ひざまずくイドリスに対し、穏やかな声で寿《ことほ》いだ。
「汝がこの王国を治めるにあたり、神の導きと恵みが常に共にあるであろう。――汝の治世が平和と繁栄をもたらすよう、汝は民を慈しみ、正義を行うことを誓えるか」
「――誓います」
心からの言葉として、イドリスは請願した。
その頭に泉の水飛沫を思わせる青緑の宝石を冠した金の王冠が載せられると、ラファトは長いマントをふわりと取り払って階段を降り、今度は王配としてイドリスの背後に跪いた。
ラファトが両手を指を組んで合わせ、目を閉じる。
「――森の神の名において、陛下の戴冠を我々の全てが祝福いたします。また、我々は力を尽くし、陛下の治世を共に支えることを誓います」
天鵞絨のクッションの上に乗せられ、王配の為の冠が恭しくイドリスの元へと運ばれて来た。
イドリスはラファトの頭の上に、美しい木の枝葉の重なりを模した銀の冠を乗せ、祝福を与える。
ラファトはゆっくりと立ち上がり、万雷の拍手の中でイドリスと見つめ合い、手に手を取り合うと、共に赤い絨毯の上を歩み始めた。
王都の全ての場所に鐘の音が高らかに鳴り響き、祝祭の紙吹雪が街を包む。
森の神に永劫の繁栄を願い、若き統治者達は王城の露台の上で、自らの王国と国民を見渡す。
城下に集まった民の祝福を受け、ここに二人は、名実共に固く結ばれることとなった。
※ ※ ※
――盛大に行われた戴冠と結婚の祝祭の夜。
各国の使者を招いた宴も無事終わり、王と王配の二人はアルスバーン王城の王の寝室にて、束の間の穏やかな時間を過ごしていた。
「疲れたが、誠に素晴らしい式だったな……」
ラファトは緩い絹のシャツにキュロットという平服に着替え、広い寝台の上に寝転んで、ぐったりと目を閉じている。
イドリスは一番落ち着くアルスバーンの軍服のズボンに、着なれた絹のシャツを着て、彼の隣に倒れていた。
「ああ……。素晴らしかったが、もう二度とやりたくはないな……」
互いに、もうひと月近く、父の代からの廷臣達に戴冠の段取りを厳しく指導され続け、疲れ切っている。
ラファトは一年前からアルスバーン語の本格的な習得に四苦八苦しており、今日の儀式の古語などは特に気を使ったせいか、気が抜けて起き上がれなくなっていた。
そしてイドリスは数ヶ月前に女の赤子を産み落としたばかりの身である。
乳母のマデリンもいるものの、ラファトが寂しがるのでできる限りは二人の手元で育てるようにしている為、その疲労の蓄積もかなりのものだ。
今日は儀式があったので、赤子は明日の朝まで乳母の元にいることになっていたが、預ける際もラファトは最後まで片時も離れず自分の小指を握らせ、名残惜しそうにしていた。
「イルシアは泣いてはいないだろうか。こんなに私たちと離れるのは初めてではないか……」
まだ不安そうにしているラファトの手を、イドリスは手探りでシーツの上で握った。
「マデリンは俺たちよりよほど赤子の扱いに慣れている。今頃はぐっすり眠っているさ……」
「そうだと良いのだが……」
寂しそうなラファトに、イドリスは目を閉じたままクスリと笑った。
「……しかし、お前は随分と子煩悩な男だったのだな。最初は皇帝になる為だけに、俺に子を産ませたがっていたのかと思っていたが――」
ラファトが穏やかな声で答える。
「……記憶を失っている間に、気付いてしまったからな。私が本当に欲しかったものは、何だったのかを……」
「ならば良かったが……。しかし、あの時のお前は、おかしいったらなかったぞ。あの間抜けな姿、目に焼きついて離れん」
ムッとしたように藍緑色の目が開く。
「イドリス、お前はいつまでその話をしてる……?」
「だって、お前ときたらまるで赤ん坊のように」
ぎしりと寝台を軋ませて、ラファトがイドリスの上に乗ってきた。
「わが愛しの王よ……。夜は短いぞ。そんな話ばかりをしていて良いのか……?」
柔らかな唇の感触が、頬や顎先、そして唇の表面に触れ、寝落ちてしまいそうなイドリスの神経をふわふわと刺激してゆく。
「ン……。お前、まさかこれからする気なのか……? ずっと俺を気遣って、一人で処理していたくせに……」
紫の瞳をうっすらと開けながら、イドリスは自らの絹のシャツの中央を閉じている紐のうち、一番上の結び目に指を掛けた。
ラファトの指がそれを解くのを手伝うように、蝶結びなった紐の先端を引く。
「もちろん、するつもりだが……? 城の御典医が、もう問題ないと言っていたからな」
結び目が一つ解け、胸筋の谷間から喉仏に向かって、ラファトが舌の中央の柔らかい場所を這わせてゆく。
「……あ……」
甘い感触の虜になりながら、イドリスはもどかしく二つ目の結び目を指で解いた。
「はや、く……ああ……口付けしてくれ……」
落ちるラファトの髪に肌をくすぐられながら、イドリスの全身が期待に震える。
だが、ラファトは焦らすようにイドリスの耳朶をしゃぶり、舌を耳穴に差し込んできた。
「っひ……、ンッ、あ……!」
感じやすい場所に、濡れそぼるほどしつこく舌先を出し入れされ、涙目になりながら寝台の上で悶える。
「ラファト、ラファト……」
イドリスは名前を呼びながら、夢中で筋肉質な背中に腕を回した。
ラファトの温かい手がイドリスのシャツの中に易々と入る。
その手はシャツをずらしてイドリスの肩をあらわにさせながら、敏感な脇腹を撫でた。
「はあ……っ」
脱げかけたシャツを押し上げている火照った突起には触れてこず、指先は首筋を撫で上げ、イドリスの頬を包む。
親指が唇を優しく撫でて、次の瞬間、待ち望んでいた口付けが訪れた。
「ン……っ」
すぐには深くしない、唇の間で何度も柔らかく舌を擦り合わせるもどかしい愛撫だけで、頭の芯がドロドロに溶かされていく。
悶えながら腰を浮かせると、ラファトのすっかり張り詰めたものが太腿に当たり、じん……と痺れが下腹に響いた。
もうそこには竜の器は無いのにも関わらず、身体の奥が勝手に熱くなり、雄を求めて濡れそぼっていく。
唇を外して、イドリスは恥を忍んで懇願した。
「あ、服が……濡れてしまう……、脱がせてくれ……」
「……わかった」
ラファトがじっとイドリスの顔を見下ろしつつ、軍服のズボンのホックを外し、足首から引っ張った。
「――……!?」
自分の視界にはいってきたものにラファトが戸惑い、一瞬ズボンを持ったまま固まる。
「……? どうした……」
不思議に思ってイドリスは下を見た。
そして、思い出したようにハッとして、首や耳まで真っ赤になった。
――そうだ、余りにも最近、ラファトが手を出してこないものだから……。
機会があったらば挑発してやろうかと、この男がいかにも好きそうな、尻側が紐のようになっている白の絹の下着――しかも、腰の横で紐を結んで支える形のもの、を穿いていたのだった。
その「機会」が、まさか儀式のあった当日とは思わず、完全に油断していた。
「何だこれは……。イドリス、私とは最近清い仲であったというのに、こっ、こんな不埒な下着を、誰のために穿いて……!? ま、まさか……あ、愛人……」
――しかも、張本人には完全に誤解されている。
出会ったばかりの頃はその不埒な下着とやらを穿かせ続けていたくせに、結婚した途端、イドリスが同じような下着を穿いただけでこの騒ぎとは――。
面白くないので、イドリスはラファトをからかうことにした。
盛大に眉を顰め、わざと嘆き悲しむような顔を作る。
「許してくれ。無事に子を産んだというのに、お前がなかなか抱いてくれないから……寂しくて、つい……」
「つい……!? いっ、いつ……どこの誰とだ……!!」
真っ青になり、可哀想になってしまうほどに動揺し始めたラファトの顔を横目で見て、イドリスは自らの下着の、腰の部分で結ばれている紐を指に絡めて引いた。
「いつ、どこの誰と、だと……?」
はらりと片側の紐が解かれて、小さな布の下から濡れそぼって昂まった雄の先端があらわになる。
ラファトがごくりと唾を呑み、淫らな伴侶の痴態に視線を集中させた。
「今、に決まってるだろう……。寂しくてつい、お前を今、誘ってる……」
イドリスは身体を起こしてシャツを肩から落とし、口付けの距離までラファトに顔を近づけると、彼の唇を撫でるように舐めた。
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