【コミカライズ単行本発売中】理想の結婚~俺、犬とお見合いします

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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婚活再開しました

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 翌朝、俺は人生で初めて味わうようなスッキリとした爽快感で目が覚めた。
 さて出勤すんぞ、とやる気マンマンで布団をはねのけて、見た事ねぇ新品のパンツ一丁の自分に目が点になる。
 しかも周囲はなんだか見慣れない部屋だし、病院みたいなベッドだしで、一瞬にして混乱に陥った。
 あれ? えーと……? 俺はなんでここにいるんでしたっけ。
 すっかり健忘症になっちまってるのを順を追って思い出す。
 お見合い失敗して、東京駅出て飲んで、勢いで歩きはじめて、……その後……。
「あっ……」
 凛々しい犬と可愛い犬の顔が交互に思い浮かんで震撼した。
 全身からざーっと血の気が引いていく。
 俺……。
 勝手に犬に発情した挙句、……助けてくれた犬塚さんを……無理矢理、発情期オナニーの道具みたいにしちまった……っ……。
 というか、フェロモンで、逆強姦……?
 確か強姦罪はヤられたのが女性とオメガしか適用されねぇから捕まりはしねぇだろうけど、一回終わらせた関係なのに発情したからってあんな風に誘うとか、そもそもそれが犯罪以上に人としてヤバい。
 ただ一目会いたかっただけだったのに……メチャメチャに発情してた時の俺、何考えてんだよ……。
 最悪過ぎて、正直死にたい……。
 けど、死んでもやっちまったもんは取り返せない。
 とにかくいなくなっちまった犬塚さん探して、謝るしか……。
 服を探してたら、枕元にスラックスとシャツとインナーがキレイに畳まれてるのに気付いた。
 なんか埃っぽいし、何よりフェロモン臭ぇけど、それしか着るもんがねぇから仕方なく高速で穿いていく。
 しかも今日何曜日だっけ……げ、月曜!?
 最後に羽織ったジャケットのポケットから電池死にかけのスマホを出したら、朝の四時だった。
 良かった、家帰って着替えたとしても出勤時間にはまだ余裕がある。
 犬塚さんを探して、土下座してからでも帰れるんじゃないか。
 いや、待てよ。
 そもそもよく考えるとあの犬……本当に……犬塚さんだったか……?
 俺は酔ってたし、発情もしてるし、何せもう最後に会ってから何ヶ月も経ってんのに、なんで犬塚さんだって確信できたんだ?
 そう思うとゾッとして恐ろしくなった。
 発情ヤバ過ぎて、単なるフツーの犬の顔が彼に見えただけかもしれない……?
 もしそうなら、俺が処女を捧げた相手は、犬……。
 いやいや、それはねぇよっ……。
 ……でも、いっそその方がいい気がしてきた。
 だって……俺、取り返しがつかないような事した。
 ーー段々冷静になって来ると、色んなことを思い出す。
 助けてはくれたけど、彼は最後まで俺と距離を取ろうとしてた。名前呼んでも、うんともすんとも反応してくれなかったし。
 ずっと犬のままだったのは多分、……犬のふりをして、俺と話をしたくなかったからだ。
 それで、全部が終わって俺が寝落ちる時に感じた人の気配は、朦朧とはしてたけど……多分あれ、犬塚さんだったと思う。
 セックスの後で人間に戻って、俺に布団を被せて、この部屋を出て行った……?
 ベッドを立ち上がると、サイドボードに薬が残ってるのが目に入った。昨日俺は結局最後まで、わざとこれを飲まなかったんだ。それで、誘惑した……。抗えないって分かってて、一度は自分からサヨナラした犬塚さんを……。
 今のところ発情は完全に終わってるけど、俺は薬を握りしめてポケットに放り込んだ。
 自分のやったことの罪深さが、改めて重く身体にのしかかる。
 もしも犬塚さんがちゃんと言葉を話せる人間の姿だったら、あんな卑怯なこと俺、出来ただろうか。
  もしかしたら、婚活でもう、新しい恋人がいたかもしれないのに。
 もしそうだったら、俺……。
 彼が別の人といるのを想像して、申し訳ないってよりも寂しい気持ちが溢れて涙がこぼれ落ちた。
 あー……もう、頭の中グッチャグチャだ。
 何からどう手を付けたらいいのかわかんねぇ。
 でもとにかく、探さなくちゃってことだけは分かる。
 犬塚さんを……。
 涙を拭って歩き出す。
 休養室を出て階段を上り、俺は一階の受付に行った。
 昨日の人とは違う、金髪のお兄さんが制服着て座っている。
 その人の整った顔を見て、ここが犬塚さんの職場だと確信した。ーーこの人、どう見ても犬塚さんの親族だ。確か、家族で会社やってるって言ってたもんな。
「すみません。昨日ここの地下で休ませて頂いた者です。お世話になりまして、有難うございました」
 声を掛けると、ハンサムな相手がニコッと朗らかに微笑んで頷く。
「昨日? ああ、緊急でいらしたオメガのお客さんですね」
 続いて、俺は畳み掛けるように訊ねた。
「あ、あのっ……昨日、俺をここまで連れて来てくれた犬は……っ」
 すると、目の前の警備員さんの顔から、スッと笑顔が消えた。
「昨日あなたをここに連れてきた犬、ですか?」
「はい。犬、というか、犬の格好したヒトです。あの人、犬塚渚さんだと思うんですが……その、連絡を取りたいんです……っ」
 必死に訴えると、相手は凄く辛そうな表情で首を振った。
「申し訳ございません。当社にはそのような人間は所属しておりません」
 ごくっと息を呑んだ。
「あ、あの、失礼ですが御社の名前聞いてもいいですか……」
「犬塚警備保障です」
 やっぱり、犬塚さんの会社だ。
「犬塚……。渚さん、ここで働いているはずじゃ……」
「申し訳ありませんが、お引き取り願えますか? そろそろ早朝勤務の人間も増えますので」
 こうまで言われてそれ以上粘る訳にもいかず、俺は最後に駅の方角だけ辛うじて聞いて、呆然と通用口を出た。
 多分、これって……わざと、だよな……。
 犬塚さん本人が、俺に会いたくなくて手を回したとしか思えない。
 頭、殴られたみたいなショックだ。
 俺、……完全に、犬塚さんに嫌われた。
 いや、犬のままで口も利きたくないほど嫌われてたのが、顔も見たくないほどに変わったというか……とにかく、一目も会いたくないって程に。
 そりゃそうだよな……。もう何の縁も無い人間を親切で助けて、俺にうっかり近づいてあんな目にあったんだ。もう二度と接触禁止って、普通に思うよな。
 それを俺はまた、会って謝るとか……どんだけ考え甘いんだよ……。
 二度目の失恋をした気分だ。それも最初より悲惨なやつ……。天国から地獄に引きずり落とされた分だけ、この前よりもっと辛かった。
 止まんない涙をボロボロこぼして、でも声は上げないように、誰もいない早朝の街を俯きながら黙って歩き続けて、ふと……気付いた。
 このまんまだと俺、妊娠してしまうんじゃないかって事に。
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