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俺、犬と結婚します
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そんな風に思っただけで身体が熱っぽくなり、待ちきれないようなソワソワした気分になっていく。
ずっと抱いて貰わずに平気でいられたのが何でか分からないくらい発情が燻って、手を握って廊下歩いてるだけで耐えられなくなってきた。
「凄くいい宿だね。恵さんにお礼しないとな」
仲居さんに部屋の中に案内されながら、渚がにこやかに俺の方を見る。
「そ、そうだな……」
辛うじて相槌を打ったけど、聞いてる説明も右から左だし、どうにも頭が働かない。
「内風呂からも、バルコニーからも露天に出られるようになっております。トイレは入り口入って右、それからそちらの襖の中に金庫がございますので貴重品はそちらかフロントの方へ……」
最後まで説明に身が入らないまま、畳の部屋で荷物を降ろした。
渚が中央の座卓の前に座って宿帳を書き始める。
俺は少し離れた場所に座って、その綺麗な横顔を見つめた。
彼は涼しい人間顔のまま、おかしくなってる俺にも気付いてないみたいな感じだ。
ーー一通り説明と手続きが終わり、急須でお茶を入れた後で仲居さんが出て行く。
やっと二人きりになると、シンとした部屋に緊張感が漲ってきて、色んな意味で耐えられなくなってきた。
無駄に荷物の整理を始めた俺の後ろで渚が立ち上がる。
「ーー湊、俺ちょっと売店に行ってみんなの土産を買って来るね。先に風呂に入ってていいよ」
えっと思ったけど、何とも言いようがない。
「あ、うん……」
と、返事はしたけど、ちょっとがっくりしてしまった。
おかしいなぁ、もしかして俺のフェロモン、渚に効かなくなってしまったんだろうか。
産んだら体質変わっちまったのかなぁ。
てか、それに限らず、子供産んだことで色々身体が変わっちまってる気がするし……。
渚が部屋から出て行くと、少しずつテンションが落ちて冷静になり、発情が落ち着いていくのが分かった。
ほんと俺の身体、渚を意識して動いてんだな……。
いや、それともこの気分の乱高下は、世に言う「マリッジブルー」というヤツなんだろうか。
一度は結婚を諦めた身だけに、そう思えば憂鬱さえも有難い。
ーーダメになった時は、そん時考えりゃいいか。
気持ちを落ち着けて、取り敢えず風呂に入ることにした。
脱衣所に浴衣を持って行き、服を脱いで洗面台の脇に畳む。
内風呂の横の洗い場でシャワーを出して身体を洗いながら、ふと鏡を見た。
親父譲りだとお袋が言う、キリッとした少しつり気味の二重の、少し色素の薄い目。額は広いけど、取り敢えずは禿げそうにない。
前より少し頬がこけたかも知れん。
そんなに歳食った気はしねぇけど、子供産んでから確実に痩せた。
もう34の後半だしな、双子に体力が全然追いついてねぇし、やつれもするわ。
そして渚は……まだ、二十代だ。
本当は今も、ハッキリとは自信が持てない。
こんなオッサンの俺が渚の運命だなんて、それは彼の勘違いじゃないのかって。
後からやっぱり若くて可愛い女性とかのほうが良くなったりするんじゃないかと……。
俺自身、女の子の方が好きだったしな。
まだ、渚との付き合いが浅いせいかも知れないけど、一人になると、今の幸せがまたガラスみたいに脆く壊れてしまう日が来るんじゃないかと……つい、考えてしまう時がある。
渚に失礼だし、不安を口にしたりはしねぇけど。
一応身体を念入りに洗って、俺は広いバルコニーに通じてる扉から外の露天に出た。
まだ日が高くて、晴れ渡った青空が見える。
そろそろ梅雨の終わりの季節だけど、降らないでくれたのが凄く有難かった。
檜のいい香りのする広い湯船を跨いで入り、身体を沈めて肩まで浸かる。
温度は熱すぎず、ぬるすぎずで丁度いい……。
けど俺、渚と一緒に入りたかった。
せっかくこんないい風呂で、一応これが新婚旅行なのに、一人で風呂に入ってるとか寂しいだろ。
最近は毎晩子供二人風呂に入れるのが大変で、こうして一人でゆっくり湯船浸かる暇も全くなかったから、有難いっちゃ有り難えけどさ……。
入ってる間に渚が戻って来るかなと期待しながら待ってたんだけど、いつまで経っても帰って来ない。
そのうち真っ赤にのぼせてしまったので、仕方なく俺はまた内風呂の方へ出て、脱衣所で身体を拭き、備え付けの浴衣に着替え始めた。
そういえば下着が荷物の中だ。
渚が帰って来た時また一緒に入りたいから、すぐ脱ぐもんなら穿かなくてもいっか……。
広い畳の部屋に出て、すっかり冷めた茶を飲み、座布団を枕にして寝転がる。
ヤケクソで冷蔵庫からビール出して飲んでやろうかとも思ったけど、まだ少し子供に授乳する事があるからやめた。
岬と航のことを思い出して、なんだか心配になる。
キュンキュン鳴いて俺のこと探してたらどうしよう。
可哀想なことしたなぁ。
昨日もなかなか寝付いてくれなくて大変だった。
まだ小さいから寝るのが上手くなくて、夜中にも代わる代わる何度か起きて鳴くんだ。
最近は随分楽になった方だけど、未だに慢性的な寝不足でキツい……可愛いから苦にならねぇけど……。
……。
…………。
「湊。湊、ご飯だよ。起きて」
渚の声で、俺はハッとして飛び起きた。
「はっ!? はい!」
どうやら、横になってるうちに俺、すっかり爆睡していたらしい。
身体を起こすと、人間顔のまま宿の浴衣着た渚が優しい笑顔を浮かべて俺のことを見下ろしていた。
浴衣、色っぽくてときめくなぁ……。
じゃ、なくて! もう着替えてるだと……!?
「も……もしかしてもう、風呂に入っちまった?」
恐る恐る聞くと、ニコッと頷かれた。
「うん、湊が寝てる間に」
ちょっ、なんだそりゃ!
二人で一緒にイチャイチャして入るための貸切露天風呂じゃねぇんかい!
ずっと抱いて貰わずに平気でいられたのが何でか分からないくらい発情が燻って、手を握って廊下歩いてるだけで耐えられなくなってきた。
「凄くいい宿だね。恵さんにお礼しないとな」
仲居さんに部屋の中に案内されながら、渚がにこやかに俺の方を見る。
「そ、そうだな……」
辛うじて相槌を打ったけど、聞いてる説明も右から左だし、どうにも頭が働かない。
「内風呂からも、バルコニーからも露天に出られるようになっております。トイレは入り口入って右、それからそちらの襖の中に金庫がございますので貴重品はそちらかフロントの方へ……」
最後まで説明に身が入らないまま、畳の部屋で荷物を降ろした。
渚が中央の座卓の前に座って宿帳を書き始める。
俺は少し離れた場所に座って、その綺麗な横顔を見つめた。
彼は涼しい人間顔のまま、おかしくなってる俺にも気付いてないみたいな感じだ。
ーー一通り説明と手続きが終わり、急須でお茶を入れた後で仲居さんが出て行く。
やっと二人きりになると、シンとした部屋に緊張感が漲ってきて、色んな意味で耐えられなくなってきた。
無駄に荷物の整理を始めた俺の後ろで渚が立ち上がる。
「ーー湊、俺ちょっと売店に行ってみんなの土産を買って来るね。先に風呂に入ってていいよ」
えっと思ったけど、何とも言いようがない。
「あ、うん……」
と、返事はしたけど、ちょっとがっくりしてしまった。
おかしいなぁ、もしかして俺のフェロモン、渚に効かなくなってしまったんだろうか。
産んだら体質変わっちまったのかなぁ。
てか、それに限らず、子供産んだことで色々身体が変わっちまってる気がするし……。
渚が部屋から出て行くと、少しずつテンションが落ちて冷静になり、発情が落ち着いていくのが分かった。
ほんと俺の身体、渚を意識して動いてんだな……。
いや、それともこの気分の乱高下は、世に言う「マリッジブルー」というヤツなんだろうか。
一度は結婚を諦めた身だけに、そう思えば憂鬱さえも有難い。
ーーダメになった時は、そん時考えりゃいいか。
気持ちを落ち着けて、取り敢えず風呂に入ることにした。
脱衣所に浴衣を持って行き、服を脱いで洗面台の脇に畳む。
内風呂の横の洗い場でシャワーを出して身体を洗いながら、ふと鏡を見た。
親父譲りだとお袋が言う、キリッとした少しつり気味の二重の、少し色素の薄い目。額は広いけど、取り敢えずは禿げそうにない。
前より少し頬がこけたかも知れん。
そんなに歳食った気はしねぇけど、子供産んでから確実に痩せた。
もう34の後半だしな、双子に体力が全然追いついてねぇし、やつれもするわ。
そして渚は……まだ、二十代だ。
本当は今も、ハッキリとは自信が持てない。
こんなオッサンの俺が渚の運命だなんて、それは彼の勘違いじゃないのかって。
後からやっぱり若くて可愛い女性とかのほうが良くなったりするんじゃないかと……。
俺自身、女の子の方が好きだったしな。
まだ、渚との付き合いが浅いせいかも知れないけど、一人になると、今の幸せがまたガラスみたいに脆く壊れてしまう日が来るんじゃないかと……つい、考えてしまう時がある。
渚に失礼だし、不安を口にしたりはしねぇけど。
一応身体を念入りに洗って、俺は広いバルコニーに通じてる扉から外の露天に出た。
まだ日が高くて、晴れ渡った青空が見える。
そろそろ梅雨の終わりの季節だけど、降らないでくれたのが凄く有難かった。
檜のいい香りのする広い湯船を跨いで入り、身体を沈めて肩まで浸かる。
温度は熱すぎず、ぬるすぎずで丁度いい……。
けど俺、渚と一緒に入りたかった。
せっかくこんないい風呂で、一応これが新婚旅行なのに、一人で風呂に入ってるとか寂しいだろ。
最近は毎晩子供二人風呂に入れるのが大変で、こうして一人でゆっくり湯船浸かる暇も全くなかったから、有難いっちゃ有り難えけどさ……。
入ってる間に渚が戻って来るかなと期待しながら待ってたんだけど、いつまで経っても帰って来ない。
そのうち真っ赤にのぼせてしまったので、仕方なく俺はまた内風呂の方へ出て、脱衣所で身体を拭き、備え付けの浴衣に着替え始めた。
そういえば下着が荷物の中だ。
渚が帰って来た時また一緒に入りたいから、すぐ脱ぐもんなら穿かなくてもいっか……。
広い畳の部屋に出て、すっかり冷めた茶を飲み、座布団を枕にして寝転がる。
ヤケクソで冷蔵庫からビール出して飲んでやろうかとも思ったけど、まだ少し子供に授乳する事があるからやめた。
岬と航のことを思い出して、なんだか心配になる。
キュンキュン鳴いて俺のこと探してたらどうしよう。
可哀想なことしたなぁ。
昨日もなかなか寝付いてくれなくて大変だった。
まだ小さいから寝るのが上手くなくて、夜中にも代わる代わる何度か起きて鳴くんだ。
最近は随分楽になった方だけど、未だに慢性的な寝不足でキツい……可愛いから苦にならねぇけど……。
……。
…………。
「湊。湊、ご飯だよ。起きて」
渚の声で、俺はハッとして飛び起きた。
「はっ!? はい!」
どうやら、横になってるうちに俺、すっかり爆睡していたらしい。
身体を起こすと、人間顔のまま宿の浴衣着た渚が優しい笑顔を浮かべて俺のことを見下ろしていた。
浴衣、色っぽくてときめくなぁ……。
じゃ、なくて! もう着替えてるだと……!?
「も……もしかしてもう、風呂に入っちまった?」
恐る恐る聞くと、ニコッと頷かれた。
「うん、湊が寝てる間に」
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