元最強魔王の手違い転生

タカナ

文字の大きさ
6 / 50

第6話 はじめてのくえすと

しおりを挟む
「ほら、ここがクエストの掲示板、『クエストボード』よ」
 ギルドに戻った俺達はギルド内にある大量のビラが貼られた馬鹿でかいコルクボードの前に立っていた。
「ほえーっ。このビラ全部クエストなのか?」
「そうよ!この中から自分がやりたいクエストを選んで受注するの。まあ、私達はブロンズとエッグのパーティーだから、そんなに難易度の高いクエストは受けられないけどね」
「そう言えば、クエストの難易度ってどこで分かるんだ?」
「えーっとね……」
 ラリアが得意げな顔をして一枚のビラを手に取り、その右下に書かれている文字を指差した。
「ほら、ここに『PP30(ブロンズ1)』って書いてあるでしょ。【PP】って言うのは【パーティーポイント】の略よ。各クラスにはPPっていうポイントが割り振られてて、【エッグ:5点】【ブロンズ:20点】【シルバー:50点】【ゴールド:100点】【プラチナ:300点】【レジェンド:1000点】となっているの。この『PP30』って言うのは『このクエストはパーティーの合計PPが30以上じゃないと受注できません』という意味なの。」
「ふーん、つまり俺とラリアのパーティーだとPPはエッグとブロンズで25点って事になる訳か。その(ブロンズ1)ってのはなんだ?」
「ああ、これは『ブロンズ以上のクラスを1名以上パーティーに含みなさい』ってこと。つまり、この『PP30(ブロンズ1)』っていうのは『合計PPが30以上のパーティーで、尚且つブロンズ以上のクラスを1名以上含むパーティーじゃないと受けれません』ってことね」
「なるほど、PP 30だらかといって、エッグ6人パーティーでは受けれないって事か。となると、俺達はPP25以下で(ブロンズ1)のクエストしか受けれないってわけね」
「そういうこと!しかし、圧巻よね!このクエストの数!こんなに人助けが出来ると思うとウズウズしちゃうわね」
ラリアがクエストボードを恍惚の表情で見つめながら口元を緩ませ、クネクネと体を捩らせる。
「それで、どのクエスト受けるんだ?」
 俺はまるで生ゴミを見るような目つきをしながらラリアに問いかけた。
「そうねぇ、まあ私達が受けれるクエストは『採集』や『調査』系統になると思う。『魔物の討伐』なんかはPP3桁が殆どだしね。というわけで、これにしましょう!」
 そう言って、ラリアが勢いよくクエストボードから一枚のビラを剥ぎ取り、俺に手渡した。
「んーと、『ランガル平原に魔物の群れが出現。調査を依頼したい』か。ランガル平原ってどこ?」
「ここメルンの街から馬車で北に3時間程行ったらところよ。今まではランガル平原に魔物なんて聞いたことも無いんだけどね。さあ!私達のパーティー第1号のクエストよ!リタイアは無し!絶対成功させるわよ!」
 意気込んだラリアが高らかに拳を掲げる。その様子を見て、俺も初めてのクエストにワクワクが徐々に込み上げてくる。
「じゃあ、行こうぜ!ラリア!」
「おー!しゅっぱーつ!!」
 期待と興奮に胸を踊らせながら、俺達はランガル平原を目指し意気揚々と駆け出した。

「……帰る」
 この世の終わりの如き低く地に落ちたテンションで、ラリアがボソボソと呟く。俺は目の前の光景をそのまま口にした。
「……ああ、カエルだな」
 ランガル平原に到着した俺達を出迎えたのは、体長3メートル程の巨大な数十匹のカエルの魔物であった。黒と赤のまだら模様で粘液によりテカテカと光沢を放つ体に、牛の様に低く響き渡るその鳴き声は、お世辞にも可愛らしいとは言い難いものであった。
「嫌ー!もう帰る!!私ヌルヌル系だけは本当ダメなの!お願い!後生だからリタイアさせて!!」
 子供の様にジタバタと駄々をこねるラリアを俺は冷ややかな眼差しで見つめた。
「なんだよ、リタイア無しって言ったのお前だろ。それに、ありゃ只のデーモンフロッグじゃねーか」
「デーモンフロッグ⁈ハハハ、なるほど。その風貌にふさわしい名前ね。そうだ、今すぐ滅しましょう!ラリア頑張るのよ!そう、私なら出来るはず!イエス!頑張れ、私!」
 動揺が臨界点を突破したラリアは、焦点の定まらない小刻みに震える眼でデーモンフロッグ達を見つめながら、訳の分からないテンションを纏いつつ剣を両手で構えた。
「おいおい、落ち着けって。滅するとか物騒なことを言うんじゃないよ。デーモンフロッグは温厚で臆病な魔物だぞ。人や他の魔物に危害を加えるなんて滅多にないんだ。しかし妙だな……」
「何が妙なのよ?妙なのは、この光景を見て平然としているマオの方よ」 
 ラリアが涙目で俺の方に視線を向ける。
「まあ、落ち着け。いや、このデーモンフロッグなんだが、こいつら普段は沼地に群生しててな。殆ど沼から出ること無く一生を過ごす事も多い魔物なんだが……こんな集団で沼地から出てくるってのは、かなり異常だな」
 ラリアが俺の顔をマジマジと覗き込み、意外そうな顔を向ける。
「へー、そうなんだ。マオって魔物に詳しいのね」
「まあ、それなりにな……。なあラリア
、この辺に沼地ってあるか?出来るだけ大きなやつ」
「んーっと、ここから北に少し行った所に沼地があった気がするけど」
「よし、ちょっとそこに行ってみようか。もしかしたら、何かあるかもしれない」

 ランガル平原から北に1時間ほど歩くと、周りを森林に囲まれた巨大な沼地が眼前に現れた。辺りには霞がかかっており、まだ日が落ちていないにも関わらず、薄暗さのある周囲の様子は、まるで幽霊が出てくるのではないかと思わせる程の不気味さを醸し出している。
「ほんっと薄気味悪い所ね~。ねぇマオ、早く戻りましょうよ。」
 ラリアが俺の袖を指先で摘み、キョロキョロしながら落ち着かない様子を見せる。そんなラリアを意に介さず、俺は沼地に異変が無いか見極めるべく、周囲の様子に気を配っていた。見た感じには特に異変は無さそうに見えるのだが、どこか異様な魔力を感じるのである。
 周囲を見回しながら歩いていると、コツンとつま先で何かを蹴飛ばした。その感触の先に視線を向けると、キラキラと赤く輝く宝石の様な拳大の石が目に入った。
 よくよく地面を見渡してみると、同じような綺麗な石が辺り一面に転がっている。
「わぁ!綺麗な石っ」
 先ほどまでビクビクしていたラリアが目を輝かせながらその赤い石を拾い上げ、目の前にかざす。
「おっ!お前それ素手でいけんのか。なかなか勇気あるじゃん」
「え?何のことよ?」
「それな、デーモンフロッグのフンだぞ」
 ラリアが白目を剥きながら顔を引攣らせる。
「そういう事は早く言いなさいよ!このバカ!!」
 ラリアが俺の顔をめがけてデーモンフロッグのフンを投げつけた。
「うお!あぶねー!」
 ラリアの右手から放たれ、唸るように飛んでくるデーモンフロッグのフンが俺の頬をかすめる。
「お前、何すんだよ!『人の顔にう○こ投げちゃいけません』ってお母さんに教わらなかったのか?」
「バカねマオ!私の右手は既に死んでいるのよ!もう恐れる物は何もないわ!ここ一面に落ちてるうん○をアンタにぶつけるまで投げ続けてやる!」 
 そう叫んだラリアは、雪合戦の様に落ちているフンをかき集め、俺に向かって投げ始めた。
「ちょ、おま、マジで止めろって!」
 半狂乱になってフンを投げつけてくるラリアと、必死にそれを躱し続ける俺。
 そんなカオスなやり取りの中、俺が躱したデーモンフロッグのフンが、背後にある沼の湖面に着水しようとした次の瞬間ーー

ーーパキン!

 ガラスにヒビが入る様な異音と共に、着水するはずだったフンが、まるで沼に入る事を拒まれる様に、湖面から弾かれ、沼を囲む草むらへと跳ね返された。
「おい、見たか?」
「見たわよ……何、今の?」
 奇異な動きをしたフンを俺とラリアがまじまじと見つめる。
「……ちっと試してみるか。ファイアーボール!」
 俺はロッドの先端に魔力を込め、沼の湖面に向かって掌程のファイアーボールを放った。

ーーパキン

 再びガラスにヒビが入った様な音が辺りにこだまし、湖面に向かって放たれたファイアーボールが、不自然な形で煙のように立ち消えた。
「ほー、なるほどねぇ」
「何よ、今ので何か分かったの?」
「たぶんこの沼、結界が張ってある」
「結界⁉︎」
「ああ。どこかのバカがここに結界を張ったせいで、沼に戻れなくなったデーモンフロッグ達がランガル平原まで南下して来たんだろうな」
「なるほどね。じゃあ、ここの結界を解除すれば、あの悍ましさの権化たるデーモンフロッグ達をランガル平原からおさらばさせる事が出来るって訳ね!でも、そうなると少し厄介ね」
 ラリアが難しい顔をして眉をひそめる。
「厄介って何が?」
「結界の解除って難しいんでしょ?私も専門じゃないから詳しくは知らないけど、解除って相手が掛けた錠を鍵を使わずに解錠するようなもので、繊細で専門的な魔法の技術と知識が必要って聞いたことがあるけど」
「ほー。ラリア、なかなか結界の事に詳しいじゃん。確かに結界の解除ってのは鍵のピッキングに似てるな。相手の掛けた術の内容を解析して、解いていくって作業が一般的な解除の考え方なんだが……でもな、もっとシンプルな方法があるぞ」
「え?そんな方法あるの?」
 驚き尋ねるラリアに俺はニヤリと笑みを返す。
「さっきの鍵の例えで話すとだな、『鍵ごとぶっ壊せばいい』と思わないか?」
「はぁ?まさかそんな……」
 戸惑うラリアの傍で、俺はロッドに魔力を込める。
「二割……いや、一割でいいか」
 俺は魔力を込めたロッドを振りかぶり、その先端を沼の湖面に叩きつけた。

ーーガシャーン!!

 ガラスが激しく割れる様な音が辺りに響き渡り、それと同時に先程まで感じていた異様な魔力が消失した。
「あんた、むちゃくちゃね」
 呆れ顔でこちらを見るラリアに俺はドヤ顔で返答する。
「ま、何にせよこれで一件落着というわけだし、いいじゃねーか」 
 そう言って、沼地を後にしようとした俺達の背中を、突き刺す様な鋭い殺気が貫いた。その殺気の出所へと目を向けた瞬間、俺とラリアは凄まじい爆炎に包まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...