元最強魔王の手違い転生

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第11話 ブラックな職場

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 俺達はソーファに連れられて、庭の中にある巨大な金色の屋敷へと足を踏み入れた。
「こちらです」
 ソーファに案内されるがままに、廊下を進む。廊下の端々には高級感のある壺や絵画、甲冑等が並べられており、それらが町長であるメドルの財力の高さを物語っていた。
「そういえば、バンゴ。アイツはどうなった?」
「ああ、彼ならリタイアしたわよ。あと何故か、アンタの事『兄貴』、私の事を『姐さん』って呼んでたわよ」
「何じゃそりゃ」
 呆れ顔で雑談をしていると、目の前を歩いているソーファが、一際派手に装飾された扉の前で歩みを止めた。
「それでは、こちらにお入りください」
 ソーファに促され、俺達は扉を開け部屋の中へと足を踏み入れる。部屋の中には豪勢な椅子に腰掛け、葉巻を燻らせながらこちらを睨む小太りで目つきの悪いチョビ髭男と、その傍に佇む、タキシードに身を包み、優しげな顔つきで品のある白髪オールバックの初老の男が目に入った。
「メドル様、護衛試験の合格者を連れて参りました。アブアブ丸様とポチ様です」
 ソーファがチョビ髭男に頭を垂れる。どうやらこのチョビ髭がメドルらしい。メドルが眉をひそめ、煙をゆっくりと吐きながら口を開く。
「二人も合格者を出したのか?まさか、手を抜いたんじゃねーだろうな、ソーファ?」
「恐れながら、全力で相手をさせて頂いた結果でございます。お二人ともメドル様の護衛に不足は無いかと。特に……」
ソーファが俺の顔へと視線を移す。
「こちらのアブアブ丸様におかれましては、千光烈花を破られました」
「ほー、それは凄い」
 その言葉を聞いて、メドルの横に佇む初老の男が俺の顔を見ながら呟いた。
「イルド、その千光何とかって技を破るのは凄いのか?」
 メドルが隣のに立つ初老の男に話しかける。イルドと呼ばれた初老の男がゆっくりと口を開いた。
「千光烈花はかつて、あの魔王も防ぐ事が出来なかったと言われている技。それをやってのけたと言う事は、そこに居るアブアブ丸様はギルドのクラスで言えばプラチナ以上かもしれませんね」
「ふん、よく分からんが、お前がそう言うならよかろう。おい、アブアブ丸とポチと言ったな。お前らには明日からオレの取引き中の護衛をしてもらう。いいか!オレは勿論、商品にも傷一つ付けるんじゃねぇぞ!分かったか!」
 椅子に踏ん反り返り、唾を飛ばしながらメドルが吠える。俺はそんなメドルを無言で睨み返した。今まで色んな奴等と出会ってきたが、コイツの第一印象の悪さは前世も含めて三本の指に入る程だ。ラリアも隣で分かりやすく膨れっ面をしている。正直、ギルドのクエストでなければ、こんな奴の下で働くなんて、真っ平御免である。
(早く証拠を掴んでとっとと帰ろう)
 こうして不本意ながらも、俺とラリアは無事に護衛の任に就く事になったのであった。

 翌朝メドル邸に赴くと、玄関先に金色に彩られた馬車荷台付きのが停車していた。荷台には何かしらの荷が積んであるようであったが、頑丈に布で覆われており、外見からは何が積まれているのか見えない状態にある。
「うへー、何つう悪趣味な馬車だ。これを護衛すんのか?俺嫌なんだけど」
「ホント、こんなキンキラキンの馬車、『襲ってください』って自分から宣伝してるようなものじゃない」
 俺とラリアは馬車を見ながら呆れ顔でつぶやく。
「あの荷台、何が乗ってんのかな?」
「さあ、何かしら?ちょっと見てみる?」
「そうだな、メドルの身辺、探れるものは探っとかないとな」
 そう言って、荷台の布に手を掛けようとした次の瞬間ーー
「おはようございます、アブアブ丸様、ポチ様」
 背後から声が掛かる。振り返るとソーファがこちらを見ながら佇んでいた。俺は荷台へと伸ばした手を慌てて引っ込める。
「ああ、おはようソーファ。今日からよろしくな。あと呼び捨てでいいよ。『様付け』されると勝手が悪い」
「そうよ、今日から一緒に働く仲間になるんだし。ねぇ、ソーファ。この馬車の荷台、中身は何が積んであるの?」
「豆ですよ」
「豆?」
「『気豆(きまめ)』と言って、最近この町の特産品になった豆です。塩茹でにすると美味しいらしいです。私は食べた事ありませんけど。見てみますか?」
 そう言って、ソーファが馬車の荷台に手を掛けた瞬間、背後の方から怒号が響いた。
「おい!お前ら、何をしてるんだ⁉︎」
 振り返ると、メドルが鬼の様な形相でこちらを睨みつけていた。
「何ですか~雇い主様、朝っぱらから大きな声で。血圧が上がりますよ~」
 ラリアが不快な表情を露わにしながら言い返す。そんなラリアを意に返さず、メドルが唾を飛ばしながら叫ぶ。
「ソーファお前、今何してた⁈」
「申し訳ありません、メドル様」
 ソーファが深々と頭を下げる。
「いやー、すんません雇い主様。俺達が荷台の中を見たいってソーファに頼んだんですよ。だからもう勘弁して貰えないですかね。あと、護衛する身として、何を守っているのか知っていた方が良いと思って……」
「お前ら護衛が余計な事に気を回すな!いいか、お前らはオレとこの馬車に傷一つ付かない様にすればいいんだよ!二度と余計な散策はするなよ!分かったか!」
 俺の言葉を遮りながらそう吐き捨てて、メドルはズカズカと馬車の中に乗り込んだ。
「すまんな、ソーファ。俺達が変なこと聞いたばっかりに怒鳴られちまって」
「構いませんよ。いつもの事ですから」
「え?いつもあんな感じなの?完全なパワハラオヤジじゃない。私もう嫌なんだけど」
 ラリアがため息をつく。
「ホントな。とんだブラック企業に来ちまったぜ。魔物だって、もう少しホワイトな環境で働いてるぞ」
「申し訳ありません」
 ソーファが俺達に向かって頭を下げる。
「いやいや、ソーファに謝られるとこっちも困るよ。それで、今日の護衛はどんな任務なんだ?」
「ここから馬車で20分程北に行くと、村はずれの森の中にメドル様所有の山小屋があります。今日はそこで取引が行われますので、その道中の護衛をお願いします」
「え?町中を移動するのに、わざわざや護衛を雇ったの?随分と仰々しいわね」
「確かにな。なあソーファ、今まで町中で襲われた事があるのか?若しくは、村はずれの森に魔物が出るとか?」
「いえ、町中で襲われた事も無いですし、魔物も出ませんよ。元来メドル様は慎重な性格ですから。ただ、最近は少し度がすぎる様にも感じますが……」
「おい!何をモタモタしてるんだ!取引に遅れるだろ!早く出発しろ!」
 馬車の中からメドルの大声が飛ぶ。
「へいへい。ったく、いちいち叫ぶなっつーの」
 ぶつぶつと不満を漏らしながら、俺達は取引先の山小屋へ向かい出立した。ソーファが馭者をこなし、俺とラリアが馬車の左右を固め、イルドが最後尾という陣形で、ゆっくりと町中を進む。
 町の大通りに出ると町民達の視線が一斉に俺達へと注がれた。皆、怪訝な面持ちでこちらを見ており、中には睨みつける者までいる。どうやら、我らが雇主様の人望の無さは中々の物らしい。
(こんな露骨に町民に嫌な顔される町長様も珍しいな。しかし、メドルは何をそんなに警戒してるんだ?あの荷台に積んである気豆とか言う豆、ありゃ、一度確認した方が良さそうだ)

ーーヒヒーン!

 馬が嘶き、馬車が急停車した。何事かと前方に目を向けると、五、六歳程の少女がボールを大事そうに抱え、地面に座り込んでいる。どうやら、ボールを追って馬車の前に飛び出してきらしく、接触寸前のところでソーファが馬車を急停車させたようだ。馬車と接触しそうになった恐怖からか、少女の表情には怯えた様が見てとれる。
 ソーファが馬を降り、少女にゆっくりと歩み寄ると、屈み込み少女と目線の高さを合わせて優しく声をかけた。
「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「それは良かった。いいですか、これからは急に飛び出してはダメですよ。危ないですから」
「うん、ごめんなさい」
 素直に答える少女の頭をソーファが優しく撫でる。先程までの怯えた表情は嘘のように無くなり、少女が少しはにかみながらソーファに微笑む。
「おい!何だ⁈何事だ!」
 メドルが馬車の扉を激しく開け放ち、乱暴にズカズカとソーファへと歩み寄る。
「申し訳ありません、メドル様。この少女が飛び出してきたので、馬車を急停車させました。幸い怪我などは無く……」
「このガキの為に馬車を止めたってのか⁈オレの貴重な時間が無駄になるじゃねぇか!」
 メドルが肩で息をしながら興奮した様子でソーファの言葉を遮った。
「……申し訳ありません」
 ソーファがメドルに深々と頭を下げる。
「まったく、このガキがぁ」
 メドルが少女を睨みつける。
「あ、あの、ごめんなさい」
 少女の表情が再び怯えの色に染まり、その瞳には涙が浮かんでいる。
「おいガキ、よく聞けよ。『時は金なり』って言葉知ってるか?お前は今、オレの貴重な時間を奪ってるんだぞ……」
 そう言って、メドルは腰の後ろから銀色に光る鞭を取り出し、高らかと掲げる。
「いいか、二度とオレの邪魔をするんじゃねぇぞ!このくそガキが!」
 そう叫ぶや否や、メドルが力一杯、少女に向けて鞭を振るう。

ーーパァン!!!

 乾いた音が辺りに響いた。鞭が走ったその先には、身がすくみ動けなくなった少女に覆い被さり、身を呈して少女に代わり鞭に打たれたソーファの姿があった。
「ソーファお前、何のつもりだ?」
「……申し訳ありません。転んでしまいました」
「転んだだと?ふんっ、白々しい。おい!早くそこを退け!」
「……足を挫いてしまいまして」
 ソーファが少女をぎゅっと抱きしめる。
「ええい!忌々しい!早く退かないか!」
 メドルが醜く顔を歪ませながら吠え、再び鞭を振るった。

ーーパシンッ!

 先程とは違う、乾いた音が響く。それは鞭で打たれた音ではなく、ラリアがソーファ前に立ちはだかり、彼女目掛けて放たれた鞭の先端を掴み取った音であった。
「アンタ、正気?」
 ラリアがメドルを睨みつけながら、低い声で問いかける。鞭をにぎるラリアの手には、怒りを抑えているのが明らかに分かる程力が入っており、握られた鞭がギリギリと音を立てた。
「な、何だお前⁈雇われの身でオレに歯向かうのか!」
「私達はアンタの護衛を引き受けてはいるけど、部下になった覚えはないのよ。蛮行を見逃す訳にはいかないわ」
 ラリアの言葉に俺も続く。
「そう言うこった。次、同じ様にふざけた真似してみろ。そん時は俺がお前に、その鞭の味を嫌という程味あわせてやる」
 そう言い放って、俺はメドルに向けて殺気を込めた眼光を叩きつける。
「ぐ、ぬ、か、勝手にしろ!」
 俺の眼光に怖気付いたメドルは捨て台詞を吐きながら、いそいそと馬車へと乗車し荒々しく扉を閉めた。張り詰めた空気が徐々に緩み出す。
「お、お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。怖い思いをさせて、ごめんなさい」
 心配そうに見つめる少女の頭を優しく撫でて、ソーファがゆっくりと立ち上がる。
「おい、ソーファお前ホント大丈夫かよ?」
「そうよ、思いっきり鞭で打たれてたけど……」
「大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」
 表情そのままに、ソーファは再び馬に乗り、ゆっくりと馬車を動かし始めた。
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