元最強魔王の手違い転生

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第17話 決着

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 メドルが豆を口にした次の瞬間、彼の体から大量の魔力が勢い良く吹き出した。その魔力は暴風が如く、部屋の中を吹き荒れ、俺達にまるで嵐の中に居るのではと錯覚させる程のものであった。
「フンッ!」
 そんな中、イルドが握り締めた短剣をメドルの頸部へと力強く振り下ろした。

ーーキーン

 鈍く短い金属音が耳に届く。イルドが振り下ろした短剣の刃は、メドルの首に傷一つつける事なく、根元から歪にポッキリと折れ、宙を舞っている。
「イルド……お前、オレに何かしたか?」
 メドルがドスの効いた声でそう呟いた次の瞬間ーー

ーードゴォォッ!

 イルドの身体が弾かれる様に後方へと吹き飛び、受け身を取る事もままならない体勢のまま、勢いよく壁に叩きつけらた。
「ぐはっ」
 短く呻くいたイルドがゆっくりとそのまま床へと倒れ込む。
「イルド!」
 ソーファが拳を握り締めながら叫ぶ。
「おいラリア。今のメドルの攻撃、見えたか?」
「ええ、なんとか。恐ろしく早い裏拳だったわね。それに、あの身体……」
 豆を食らったメドルの身体は、先程よりも二回り程大きくなっており、顔をはじめとする、肌が露出した部分からは、まるで皮膚の下にチューブでも埋め込まれているのでは無いかと思わせる程に、くっきりと血管が浮き出ており、今にもはち切れそうな装いを見せている。
「ああ、膨大な量の魔力摂取によって、身体的にも強化されてやがるな。だが、ありゃかなりギリギリのところだな。あと一歩間違えれば身体の方が魔力量に耐えきれなくて崩壊しているところだぞ」
「メドルっ!!」
 怒りに身を任せたソーファが真正面からメドルへと飛びかかった。
「バカ!正面から飛びかかる奴があるか!」
 俺の静止を無視したソーファが拳を振りかざす。
 動揺と怒りで我を忘れているのか、今までのソーファとは思えない程に隙だらけでお粗末な攻撃である。
「フン、バカが」
メドルがニヤリと笑う。

ーーパァン!

 乾いた音が鳴り響くと同時に、ソーファが宙へと弾け飛んだ。
「ぐっ」
「ソーファっ!」
 ラリアが素早く跳躍し、空中へと投げ出されたソーファを抱きかかえ着地する。ラリアが抱いているソーファの右肩からじわりと血が滲み出す。
「どうだ?ソーファ。懐かしいだろ?オレの鞭の味は」
 そう言って、顔の高さまで掲げられたメドルの右手は、人のそれではなく、いつぞやのソーファを打った物と同じ、鞭の形へとその形態を変貌させている。
「マオ!あいつのあの手!」
「肉体操作まで出来んのかよ。ここまで来ると立派な化物だな」
「さてと、遊びはこれくらいにしておこうか。さあ、お前らオレの富の為の贄となれ!喰らえ!固有魔法『ドレインフィールド』!」
 そう叫んだメドルが左手を地面に叩きつけた途端、部屋の床を覆う程の巨大な真紅の魔法陣が出現した。
「マオ!何これ⁉︎」
「『固有魔法』は“術者自身が考案した独自の魔法”だ。多分こいつは、床に散らばってた魔道書にあった魔力抽出、吸収系の魔法だな。それにしてもこの大きさ……ラリア!ソーファ!気をつけろ!でけぇヤツが来るぞ!」
「もう遅いわ!死ね!お前ら!死んでオレに魔力を捧げろ!」
 メドルがそう言い放った直後、俺の魔力が堰を切ったように床の魔法陣へと流れ出した。
「ううっ」
「ぐっ」
 ラリアが膝をつき、ラリアの腕から転がり落ちたソーファも、まるで何かに押さえつけられているかの様に床に這いつくばった。
「どうだ!オレの固有魔法『ドレインフィールド』の威力は!常人の魔力であれば1分と掛らず吸い尽くす事が出来る!」
 メドルがニヤリと口元を歪ませながら、ソーファを蔑む様に見下ろす。
「たっぷりと味わえよ、ソーファ。ロロイが完成させた魔法の味をよぉ」
「ロロイ様が、この魔法を?」
「ああ、町のためだと言うと文字通り、身を粉にして協力してくれたよ。最期は自分の魔力を全部オレに吸われて、干からびたミミズみたいになって死んだけどなぁ!」
「っ!お前ぇ、なんて事を、っぐぁ!」
這いつくばっているソーファの背中をメドルが乱暴に踏みつける。
「騙されたロロイが馬鹿なのさ。いいか、ソーファ。この世はなぁ、強え奴が生き残るように出来てるんだよ。弱え奴や馬鹿や奴は強え奴の養分になる、それが当たり前なんだよ。オレはまだまだ、このバンクビーンズで稼がなくちゃならねぇ。こいつがあれば富も、力も、全てが手に入る!よかったなあ、ソーファ。ロロイと同じ死に方が出来るんだ。あの世に行ったらあの馬鹿に伝えてくれよ、馬鹿も程々にしとけってな」
「くそっ、くそぉっ!」
 歯を食いしばり、拳を固く握り締めたソーファの頬を涙が伝う。

「ふーん、なかなか面白い魔法を使うじゃねぇかよ」

「なっ⁈」
 ドレインフィールド発動の最中、平然と声をかける俺に、メドルが驚きの眼差しを向ける。
「なんだ、お前⁈何故立っていられる⁈」
「なんでってお前、この程度魔力吸われたくらい痛くも痒くもねーよ。蚊に血を吸われて、貧血でぶっ倒れる奴はいないだろう?」
「ふ、ふざけるな!ゴールドクラスの魔導士でさえ、オレの魔法の前では3分と立っていられなかったんだぞ⁈お前みたいな小僧が平然としていられる訳が無いんだ!」
「五月蝿ぇおっさんだな。じゃあ、勝負だ」
「勝負?」
「あんたの魔法と俺の魔力量、どちらが上かはっきりさせようぜ。今から、俺の魔力をくれてやる。遠慮せず、しっかり受け取れ!行くぞ!おらぁぁ!!」
 杖に魔力を流す要領で、魔法陣へと意図的に大量の魔力を放出した次の瞬間ーー

ーーガシャーン!!

 ガラスが割れる様な、けたたましい音が部屋の中に響き渡り、真紅の魔法陣が粉々に弾け飛ぶ。
「あら?ちょっと力入れたらもう終わりかよ?根性の無ぇ魔法陣だな」
「ば、馬鹿な⁉︎そんな、ありえない!オレ魔法がこんな簡単に⁉︎」
「弱えんだよ、お前」
「何⁉︎」
「独りよがりの力なんて、いつだって脆いもんだ。みんなそれぞれの考え方があり正義を持ってる。お前の言う弱い奴、馬鹿な奴ってのも確かに居るよ。でもなぁ、誰かの為に力を尽くせる奴を弱い奴、馬鹿な奴なんて、俺は決して呼ばねぇ。誰かの為に尽くせる奴、誰かを信じる事が出来る奴、そういった奴等が本当に強い事を俺は知ってる。メドル、お前はこの町で誰よりも弱い」
「オレが弱いだど⁈ふざけた事抜かすんじゃねぇ!」
「証明してやるよ、お前の弱さを。そしてロロイの強さをな。なあ、ソーファ」
 俺の言葉を受けて、ソーファがゆっくりと立ち上がり、メドルへと視線を向ける。それは今までの様に怒りに満ちたものではなく、また採用試験の時の様に涼しげなものでもない、今まで見せた事のない力強さの篭った眼差しであった。
「マオ、ありがとう」
「ああ、行ってこい」
 ソーファは小さく深呼吸をすると、その場から消えたと錯覚させる程の神速をもってメドルへと飛びかかった。
「くそっ!食らえ!」
 メドルが右手の鞭を振るう。

ーーパシンッ!パシンッ!

 ソーファが華麗な体捌きを見せ、メドルの鞭が空を切る。
「くそがぁ!ちょこまかちょこまかと!これでどうだ!」
 メドルは右手の鞭を乱れるように振り回し、自身の周囲に弾幕を張った。
「どうだ!これでは近づけまい!接近戦しか出来ないお前にこれで勝ち目は……」
「それがどうかしたのですか?」

ーーパシンッ!

 ソーファは臆する事なく間合いを詰め、乱れ踊っている鞭へと迷いなく手を伸ばし、その先端を掴み取って見せた。
「な⁈」
 メドルの顔が動揺にて歪む。
「もう迷いません。私は信じるだけです。私の家族と、私の仲間を!」
 咆哮しながら放たれたソーファの拳が、メドルの顔面へとめり込み、その刹那の後、彼の体躯を吹き飛ばした。
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