元最強魔王の手違い転生

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第20話 勇者特例

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「ほら、ここがメルンのギルド本部よ」
「おお、ここが悪の巣窟、ギルドですか。悪そうな勇者共がわんさかと居ますね」
 緊張した面持ちでニコがギルド内を見渡す。
 ギルド内はいつも通りであり、特に強面の面子が居るわけでも無かったのだが、ニコの目には『凶悪な勇者達』に写っているらしい。
 ニコがどこまで本気なのかは分からないが、辺境の村であるポムから一人で旅をして来たとなれば、それなりの理由があるのであろう。しかし、ニコの勇者に対する認識とメルンの勇者に対する認識にはあまりにも大きな乖離が見られている。
 このままニコを一人で行かせれば、必ずトラブルに発展すると判断した俺達は、事情が分かるまで彼女と行動を共にする事にしたのであった。
「てか、俺達も勇者一行だけど、それはいいのか?」
「マオさん達は私を助けてくれましたし、案内もしてくれました。だからギリセーフです」
「そりゃあ、どうも」
「さあ、やりますよ!勇者討伐!」
 ニコが自分の頬を両手で叩き、気合入れる。
「集団を潰すには、頭を叩くと良いと聞きました!どこですか⁈憎っくき悪の親玉は⁈」
「マスターならあそこですよ」
 ソーファが指差した先にはカウンターの奥で一生懸命に書類に目を通すマスターの姿があった。
「な、何ですかあれは⁈熊じゃないですか⁈勇者の親玉は熊なのですか⁈」
「確かに、見た目は人間って言うより熊よね。おーい!マスター!」
 ラリアが大声でマスターに呼びかける。
「おお!ラリアじゃねーか!」 
 ラリアに気づいたマスターがドスドスと足音を立てながら、こちらに向かって歩み寄る。
「よう!最近も調子いいみたいなじゃねーか!ん、何だ?その娘?依頼者か?」
「この娘はニコ。勇者を倒しに来たらいしわよ」
「そうか!勇者を倒しに……って、そりゃ何の冗談だ⁈」
「それが大真面目なんだよ。コイツ、 態々ポムの村から来たらしいぜ。冗談にしては気合い入りすぎだろ?それに……」
 ニコから感じる魔力に違和感がある。
「コイツが言う勇者とメルンでの勇者との勇者像に差がありすぎる。真面目に話聞いてやった方がいいと思うぜ」
「んー、まあ、お前がそこまで言うなら。じゃあ、こっちのテーブルで……」
「いや、個室は空いてるか?」
「ん?空いてはいるが……」
「じゃあ、そっちで話を聞こうか。俺も聞きたいことがある」
「「「?」」」
 俺の言葉に勇者勢が不思議がる中、ニコだけが力強い眼差しで俺の顔を真っ直ぐに見つめていた。

 個室に入り、全員が席に着く。室内に何処と無く重苦しい雰囲気が漂っている。
「ちょっと、マオ。何か喋りなさいよ。聞きたいことがあるんでしょ?」
「ああ」
 俺はニコへと視線を移す。
「お前の事情を聞く前に確認しときたい事があってな。ニコお前、人間じゃないだろ?」
「「「⁈」」」
 ニコにその場全員の視線が集まった。
「いや、私は……」
「別に取って食ったりしねーよ。独特な魔力の気配がプンプンしてるぜ。それに、正体明かしてもらった方が、こっちとしても腹割って話ができるしな」
「……分かりましたよ」
 観念した様子で深呼吸をしたニコは、ゆっくりと黄色のニット帽を脱ぐ。ニット帽の中から、瞳と同じ桃色の長くサラサラとした綺麗な髪と、魔物特有の尖った耳が姿を現し、それと同時に香水の様な甘い匂いと、魔物の独特な魔力が部屋の中を満たした。
「わぁ、綺麗な髪っ」
「なんか、いい匂いがします」
 ラリアとソーファが目を輝かせる。
「この香りにその容姿……お前さん、〝スウィートエルフ〟か」
 マスターがヒゲを弄りながら、マジマジとニコを見つめる。
「スウィートエルフ?知らない魔物です」
「私も、始めて聞くわ」
「まあ、二人が知らないもの無理ねーよ。スウィートエルフはエルフ種の中でも稀に見る特異個体だからな。特徴は桃色の体毛と体から発する甘い香りだ。他のエルフに比べて魔力が高く、得意な魔法は回復や補助系統。その特異的な特徴から、魔物の中でも差別の様な扱いを受ける事もある」
「マオさんは随分と魔物にお詳しいのですね」
 ニコが目を丸くしながら驚きの表情を見せる。
「相変わらずの〝歩く魔物大全〟っぷりね。詳しすぎて逆に引くわー」
「マオは魔物に詳しすぎる変態さんですね。あと女の子に『体から発する甘い香りが云々……』って下りは普通に変態さんでしたね」
「私も、他人に自分の基本情報をペラペラとこうも流暢に話されると、ちょっと怖いです」
「お前らが知らんっつーから、懇切丁寧に解説してやったんだろうが!!あと、ニコもしれっと引いてんじゃねーよ!流石の俺も泣いちゃうぞ、コラ!」
「でも、本当に凄いです。私、これ被ってたのに」
 ニコが、先程脱いだ黄色のニット帽をヒラヒラと振って見せる。
「その帽子は?」
「魔力を隠すための魔装具です。これ被ってて正体バレたのは初めてですよ」
「さすが、魔物オタク」
「さすが、変態」
「俺を弄り倒すとはいい度胸してんな!おーし!お前ら!表でろや!」
「おーい、お前らの仲が良いのは分かったから、そういうのは後にしてくれ。それでニコ、お前は何で勇者を倒そうと思ってるんだ?」
 騒ぎ立てる俺達三人を無視して、マスターがゆっくりと尋ねた。
「それは、勇者が私達の村に酷いことをするから」
「『私達の村』ってのはエルフの村の事か?」
 ニコが首を横に振る。
「違います。ポムの村に魔物は私だけ。他の村人は全員人間です」
「何故ニコは人間の村に居るのですか?」
「私、捨て子だったんです」
「……」
「赤ん坊の時にポムの村外れに捨てられてたみたいで。それをおじいちゃん、村長が拾って育ててくれたんです。最初はエルフって気付いてなかったみたいですけど、エルフと分かった後も、今ままでと変わらず本当の子の様に育ててくれました。勿論、私がエルフという事は村人全員が知ってます。誰一人として私を魔物だからと差別する人は居ません。そんな素敵な村を、家族を勇者から救う為に、私はここに来たのです」
「『勇者から村を救う』って、ニコの村に来る勇者達って、一体どんな奴等なのよ?」
「暴虐の限りを尽くしてますよ。村人から金品や食料を巻き上げ、面白半分で暴力を振るう。彼等は笑いながら口々にこう言います『勇者特例だ!言う事を聞きやがれ!』って」
「そんな、勇者が村人を襲うなんて」
「そう言えばウチの村にも、そんな感じのガラの悪い勇者が来てたな。親父達が『貢物がどうのこうの』って慌ててたっけ」
「マオの村ってエマだったわよね。その時はどう解決したのよ?」
「ぶん殴った」
「……あんたに聞いた私がバカだったわ」
「マオの村もニコの村も南東部……マスター、南東部の担当にはどんな方が就いているのですか?」
「あの辺りは確か……そうか、あいつだったか……」
マスターが目を覆いながら肩を落とす。
「あいつ?」
「〝ザガン〟って言う癖の強い野郎なんだが……」
「私、その名前聞いた事があるわ。元々は中央のギルドに居たけど、問題を起こして左遷されたって言う」
 マスターがため息をつく。
「腕は立つんだが、性格に難があってな。最近は大人してると思っていたが……そうか、あいつ、また何かやらかしてんのか」
「なあマスター、そもそも何で『勇者特例』なんて物があるんだ?こいつのせいで、俺やニコの村には被害が出てる。多分他の村にもな。悪法にも程があんだろ」
「オレも詳しくは知らんが、まだギルド創設黎明期に、瀕死の勇者一行がある村に助けを求めたが、受け入れてもらえず全滅した事があったらしい。人類の為に戦う勇者に、この様な悲劇を繰り返させる訳にはいかないって事で制定されたって話だぜ」
「ふーん。今となってはその法が、善良な村民や町民を脅かしてるって訳か。笑えねぇ話だな」
「全くだ。最近はそこそこの腕っ節と実績があれば誰でもすぐ勇者に成れちまうご時世だ。まともに資質のある勇者なんて、全体の1割にも満たないだろうな」
「マスターがそれを言うかよ」
「事実こうやって、勇者を倒したいと一般人がギルドに乗り込んで来たんだ。勇者の支援者として、これ程恥ずかしく、申し訳ない事はない」
 マスターが立ち上がり、ニコに向かって深々と頭を下げた。
「ニコ、すまねぇ。勇者が一般人を喰い物にするなんて言語道断、本当に恥ずべき事だと思ってる。申し訳ない」
「あっ、ちょ、そんなにかしこまられると困ります」
 ニコが慌てふためきながら、困惑した表情を見せる。マスターがゆっくりと顔を上げ話し出す。
「今回の件、ギルドマスターの名の下において全力を持って解決に当たらせて貰う。ラリア、マオ、ソーファ、お前ら協力してくれるか?」
「そりゃあ、構わないが……」
「そんな重要な任務を私達に任せていいのですか?」
「ニコも他の勇者に頼むより、面識のあるお前らの方が安心だろ。それに……」
 マスターが俺達を見てニカリと笑う。
「さっき言った『本当の資質を持った勇者』、お前らはその『本物の勇者』だとオレは信じてるからな」
「な、何よ急に⁈恥ずかしいじゃない」
「そ、そうですよ。煽てても何も出ませんよ」
 ラリアとソーファがあからさまに嬉しそうな表情を浮かべる。
「ニコはいいのか?」
「はい!マオさん達が来てくれるなら安心です!」
「よし!じゃあ、頼んだぜ!お前ら!」
 こうして、俺達は勇者を倒すべく、ポムの村へと向かう事になったのであった。
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