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第21話 遭遇
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「さあ、この森を抜ければポムの村です!」
ニコが意気揚々と声を上げる。
「森?ジャングルの間違いじゃないの……」
「エマの村も田舎だと思ってたけど、ここに比べたら大都会だな」
「……道が全く見えません」
周囲から、聞きなれない鳥や獣の声がする。俺たちの眼前には、人類未踏の地かと思わせる程の大密林が広がっていた。
「皆さん、揺れますから、しっかりと掴まっていてください」
鬱蒼と生い茂る木々の間を縫って、ソーファが馬車を走らせる。
悪徳勇者を討伐するべく、ポムを目指して進む俺達であったが、ソーファが最速で馬車を飛ばしているのにも関わらず、メルン出立から一週間が経っていた。エルク国の南西部の最奥地とは、想像以上に遠い場所である。
それにしてもニコ。ソーファの手綱捌きでも一週間以上掛かっている道のりを、小さな身体一つで乗り越えてきたその覚悟は、称賛と尊敬に値する。
「なあ、ニコ。村まで、あとどれくらいだ?」
「そうですねぇ、この速さなら1時間もかからないんじゃないですかね!」
「そうか。しかし、まさか勇者討伐をする事になるなんてな」
「ええ、勇者を倒すなんて、最初は何の冗談かと思ったけど、やらなきゃならないのよね」
「まあ、俺に任せとけ!勇者とやり合うのはお手の物だ!まずは回復や補助系統のスキルを持ってる奴から狙うのが鉄則だ。そんで、その次は……」
「ちょっとマオ、顔が怖いわよ。まるで勇者を打ち滅ぼす魔王みたい」
「え、ああ、すまん、すまん」
前世の、勇者一行を倒す事に傾倒し、心血を注いだ日々を思い返して、つい興奮してしまった。
俺とラリアのやり取りを他所に、思いつめた表情でニコが下を向いている。
「不安か?」
俺の問いに、コクリと頷くニコ。
「でも……」
ニコが真っ直ぐにこちらを見つめて微笑む。
「マオさん達の様な人が一緒に来てくれて、すごく心強いです!」
押し潰される程の不安を抱えているだろうに、精一杯の笑顔で応えるニコを見て、この娘の期待には全力で応えてやらなければならないと、俺は心に強く思った。
「おう!任せとけ、っうぉっ⁉︎」
猛スピードで走っていた馬車が急停車する。荷台に乗っていた俺達三人はド派手にバランスを崩し、荷台の床で仲良く顔面を強打した。
「ちょっ、何なのよソーファ⁈急ブレーキなんか掛けて!私達、皆んな顔面から……」
「しっ!静かに!何か聞こえませんか?」
口元に指を立て、ラリアの言葉を遮ったソーファが真剣な顔つきで、俺達に聞き耳を立てるように促した。
そのソーファの表情を見て、俺とラリアは直ぐさま聴覚に全神経を集中させる。
「え?何ですか?何か聞こえるんですか?」
慌てた様子でニコも耳に手を当てる。その場の全員が聞き耳を立てることに集中し、10秒程の沈黙が訪れる。
「……何も、聞こえないですけど。ソーファさん、一体何を……」
「二時の方向、複数名の足音がしますね」
ニコの言葉に被せるように、ソーファが口を開いた。
「ええ、この感じは……三人、いや、四人かしら」
「そうだな。一人が逃げていて、でそれを三人が追いかけてる感じだな」
自分に聞こえない音を、さも当然の様に聞き取り、話をする俺達を見て、ニコが驚愕の表情を浮かべる。
「え!なんで皆さんそんなに耳がいいんですか⁈と言うか、エルフの私より耳がいいって皆さん、本当に人間ですか⁈」
「ニコ、今はそんなこと言ってる場合じゃないわ!」
「ああ、もしかしたら、お前ん所の村人が、勇者に追われているかのかもしれねえ!」
「!!」
「飛ばします。皆さん振り落とされない様に、しっかりと掴まっていてくださいっ!」
ソーファが手綱を鋭く振るった。
「いた!あそこだ!」
馬車を飛ばして数分後、必死で走る少年とそれを追いかける三人の男達の姿が目に入った。
少年の方は天然パーマと太い眉毛が印象的であり、歳はニコと同じくらいとであろうか、腰に結わえつけた掌程の大きさのある麻袋を頻りに気にしながら懸命に走っている。
三人の男達はそれぞれ、赤髪、緑髪、黄髪と派手な色のアフロヘアーをしており、赤髪が剣、緑髪が弓、黄髪が手甲を装備している。
どいつもこいつも、ニヤニヤと笑いながら、遊び半分で少年を追いかけている様に見える。
「タク!!」
ニコが少年を見ながら叫んだ。
「ニコ、知り合いなの⁈」
「幼馴染のタクです!どうしよう、何とかしなくちゃ!」
ニコが焦りの表情を浮かべる。
俺達と四人との間には、まだ幾分距離があり、馬車を猛スピードで飛ばしているとはいえ、接触するまでにはまだ時間がかかる。
「おい、ソーファ!もう少し飛ばしてくれ!じゃないと……って、ソーファ?」
先程まで座っていたソーファが、手綱を離し、馬の背に立っている。
「先に行きますので、後は頼みます」
静かにそう言うと、ソーファは馬の背を蹴り、目にも留まらぬ程の神速をもって、追いかけられているタクへ向かって跳躍した。
ソーファの背中を見送った俺は、ゆっくりと後ろへ振り向き、ラリアとニコに向かって口角を痙攣らせながら、精一杯の歪な作り笑いをした。
「……おい二人とも、どっかに掴まれ」
「え?」
「……俺、馬車の操縦デキナイ」
「ええぇ!!?」
タクが息を切らしながら、懸命に走る。
「ちくしょう、選りに選ってこんな時に勇者に出くわすなんて!」
そう言って、腰に携えた麻布を摩りなが後ろを確認した彼の目に映ったのは、自分に向け弓を引く緑髪勇者の姿であった。
「そんな……」
タクが目を見開き、そう呟いた次の瞬間、緑髪勇者の手から矢が放たれた。これが、死の間際に体感する感覚なのだろうか。タクの目には緑髪勇者が弓を射る瞬間が、とてもゆっくりとしたものに感じられた。
太い風切り音を響かせ、空を裂きながら自分に迫る矢を見ながら、タクは自分の人生がここまでかもしれないと、どこか他人事の様にそう思った。
(あれ?ウソ……オレ、ここで死ぬのか?)
眼前まで矢が迫り、思わずタクが目を瞑ったその時ーー
ーーパシンッ!!
乾いた音が響いた。
タクと矢の間に身体を滑り込ませたソーファが、そのずば抜けた身体能力を存分に発揮し、彼を貫かんとしていたその豪矢を素手で掴み取っていた。
「うわっ」
自分の身に何が起こっているのか理解できず、タクは思わず尻餅をついた。呆然としている彼を見ながら、ソーファがゆっくりと声をかける。
「キミ、怪我は無いですか?」
「あっ、うん、大丈夫」
「そうですか、それは良かった」
彼の言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべるソーファの目の前に、派手な頭をした三人組の男達が立ちはだかった。男達が、ソーファを睨みながら三人同時に口を開く。
「何だお前?コイツの仲間か?目的は何だ?」
「てかコイツ、オレの弓矢を止めやがったよ。ヤバくない?」
「その身のこなし、もしかして武闘士か?何処の流派だ?」
三人が同時に喋り終わった所で、一瞬の間を開けて、ソーファが返答する。
「あの、三人同時に喋るので全然聞き取れませんでした。もう一度お願いします」
「お前はそいつの仲間か?」
「オレの弓を止めるとは驚いた」
「何処の流派だ?教えろ」
またもや三人が同時に喋り出す。ソーファが呆れ顔で、ため息をついた。
「貴方達、さてはアホですね?」
「「「アホ言うな!」」」
三人がハモりながら叫んだ。
「あ、今のは何て言ってるか分かりましたよ」
「ちっ、もういい!オレが話す」
赤髪の男が剣を振り回しながら、ソーファを再び睨む。
「お前、何者だ?何故その小僧を助ける?」
「ガラの悪い大人に追いかけられた挙句、弓を射られている少年を助けるのに、何か理由が要りますか?貴方達こそ何者です?」
「ほ~、何だ姉ちゃん、オレ達の事知らないのか。なら、教えてやろう!」
赤髪がニヤリと笑いながらそう言うと、残りの二人も同じ様に不敵な笑みを浮かべる。
「行くぞっ!」
赤髪がそう叫ぶや否や、緑髪が高らかに叫ぶ。
「オレの名はリョク!」
決めポーズを取るリョクに黄髪が続く。
「オレはオウ!」
最後に赤髪が剣を掲げながら叫んだ。
「そして、オレがショク!三人合わせて、勇者『リョク、オウ、ショク』だ!」
力強い自己紹介の後に、水を打ったような静寂が訪れる。
「……身体に良さそうな御三方ですね。で、何故この少年を追い回していたのですか?」
ソーファの問いに、ショクがニヤニヤしながら、応える。
「そいつが、その腰に下げてる袋をあまりにも大事そうに持ってるもんだからよ。少し貸してくれって頼んだら、急に逃げやがるから、つい追っかけちまった」
「『つい』で弓まで放ったのですか?」
「そうそう。そいつが中々捕まらねーから、『つい』殺しちまいそうだったぜ」
ヘラヘラと話すリョクへ、ソーファが殺気を込めた眼光を飛ばす。
「もう貴方達に聞く事はありません」
そう言って、ソーファは拳を構えた。
「おいおい、何だよ女ぁ。オレ達とやるってのか?」
「……行きます」
「ちっ、本気らしいな。いいだろう、ぶち殺してやるぜ」
お互いの殺気が空間を埋め尽くしていく。ピリピリとした感覚が肌を伝い、眼球の動き一つですら、気を使う程の緊張感が身体を襲う。ピンと張り詰めた空気が絶頂を迎えた、その時ーー
「「「うわあぁぁぁあ!!!」」」
緊張感を打ち破る様に、俺とラリア、ニコが絶叫しながら、馬に逃げられ荷台のみとなった馬車でソーファ達の前に現れた。
「マオ⁈」
「ど、どいてくれ~!」
暴走し、完全にコントロールを失った馬車はそのまま男達へと突っ込んでいき、勇者三人をなぎ倒した。俺達三人の方は馬車の荷台の上でゴムボールの様に跳ねながら、馬車が停車したその時には、全員が大の字になって床にへばりついていた。
ソーファが駆け寄り、声を上げる。
「マオ⁈一体何が?というか、馬はどうしたんですか⁈」
「お前が居なくなってすぐに、手綱を振り解いでどっか行っちまったよ!てか、急に居なくなるんじゃねーよ!皆がお前みたいに馬車の運転が出来ると思うなよ!コノヤロー!」
「あー。私、本当に死んだと思った。完全に三途の川で足洗ってた」
「タク!大丈夫⁈」
荷台から飛び出したニコがタクへと駆け寄る。
「ニコ⁈ニコじゃやいか!帰ってきてたのか⁈というか、この人達は一体……」
「おい、テメー等……」
「随分とふざけた真似してくれたじゃねーか」
「ぶち殺すぞ、コラァ!」
勇者三人がゆっくりと立ち上がり、血走った目を俺達に向ける。
彼等から発せられる殺気により、電気が流れる様な感覚が肌を伝う。どうやら、本気で俺達を殺すつもりらしい。
場の威圧感に耐えきれず、タクが辿々しく口を開いた。
「ど、どうしよう……こ、殺される」
ガチガチと歯を鳴らしながら狼狽える彼の肩に手を置いて、ニコが力強い眼差しで返答する。
「大丈夫だよ、タク!この人達は私が連れてきた助っ人だから!」
そして、俺達三人を見渡しながら続けた。
「見てて!この人達、本当に強いよ!」
その言葉を背中で受けながら、俺は不敵にニヤリと笑った。
ニコが意気揚々と声を上げる。
「森?ジャングルの間違いじゃないの……」
「エマの村も田舎だと思ってたけど、ここに比べたら大都会だな」
「……道が全く見えません」
周囲から、聞きなれない鳥や獣の声がする。俺たちの眼前には、人類未踏の地かと思わせる程の大密林が広がっていた。
「皆さん、揺れますから、しっかりと掴まっていてください」
鬱蒼と生い茂る木々の間を縫って、ソーファが馬車を走らせる。
悪徳勇者を討伐するべく、ポムを目指して進む俺達であったが、ソーファが最速で馬車を飛ばしているのにも関わらず、メルン出立から一週間が経っていた。エルク国の南西部の最奥地とは、想像以上に遠い場所である。
それにしてもニコ。ソーファの手綱捌きでも一週間以上掛かっている道のりを、小さな身体一つで乗り越えてきたその覚悟は、称賛と尊敬に値する。
「なあ、ニコ。村まで、あとどれくらいだ?」
「そうですねぇ、この速さなら1時間もかからないんじゃないですかね!」
「そうか。しかし、まさか勇者討伐をする事になるなんてな」
「ええ、勇者を倒すなんて、最初は何の冗談かと思ったけど、やらなきゃならないのよね」
「まあ、俺に任せとけ!勇者とやり合うのはお手の物だ!まずは回復や補助系統のスキルを持ってる奴から狙うのが鉄則だ。そんで、その次は……」
「ちょっとマオ、顔が怖いわよ。まるで勇者を打ち滅ぼす魔王みたい」
「え、ああ、すまん、すまん」
前世の、勇者一行を倒す事に傾倒し、心血を注いだ日々を思い返して、つい興奮してしまった。
俺とラリアのやり取りを他所に、思いつめた表情でニコが下を向いている。
「不安か?」
俺の問いに、コクリと頷くニコ。
「でも……」
ニコが真っ直ぐにこちらを見つめて微笑む。
「マオさん達の様な人が一緒に来てくれて、すごく心強いです!」
押し潰される程の不安を抱えているだろうに、精一杯の笑顔で応えるニコを見て、この娘の期待には全力で応えてやらなければならないと、俺は心に強く思った。
「おう!任せとけ、っうぉっ⁉︎」
猛スピードで走っていた馬車が急停車する。荷台に乗っていた俺達三人はド派手にバランスを崩し、荷台の床で仲良く顔面を強打した。
「ちょっ、何なのよソーファ⁈急ブレーキなんか掛けて!私達、皆んな顔面から……」
「しっ!静かに!何か聞こえませんか?」
口元に指を立て、ラリアの言葉を遮ったソーファが真剣な顔つきで、俺達に聞き耳を立てるように促した。
そのソーファの表情を見て、俺とラリアは直ぐさま聴覚に全神経を集中させる。
「え?何ですか?何か聞こえるんですか?」
慌てた様子でニコも耳に手を当てる。その場の全員が聞き耳を立てることに集中し、10秒程の沈黙が訪れる。
「……何も、聞こえないですけど。ソーファさん、一体何を……」
「二時の方向、複数名の足音がしますね」
ニコの言葉に被せるように、ソーファが口を開いた。
「ええ、この感じは……三人、いや、四人かしら」
「そうだな。一人が逃げていて、でそれを三人が追いかけてる感じだな」
自分に聞こえない音を、さも当然の様に聞き取り、話をする俺達を見て、ニコが驚愕の表情を浮かべる。
「え!なんで皆さんそんなに耳がいいんですか⁈と言うか、エルフの私より耳がいいって皆さん、本当に人間ですか⁈」
「ニコ、今はそんなこと言ってる場合じゃないわ!」
「ああ、もしかしたら、お前ん所の村人が、勇者に追われているかのかもしれねえ!」
「!!」
「飛ばします。皆さん振り落とされない様に、しっかりと掴まっていてくださいっ!」
ソーファが手綱を鋭く振るった。
「いた!あそこだ!」
馬車を飛ばして数分後、必死で走る少年とそれを追いかける三人の男達の姿が目に入った。
少年の方は天然パーマと太い眉毛が印象的であり、歳はニコと同じくらいとであろうか、腰に結わえつけた掌程の大きさのある麻袋を頻りに気にしながら懸命に走っている。
三人の男達はそれぞれ、赤髪、緑髪、黄髪と派手な色のアフロヘアーをしており、赤髪が剣、緑髪が弓、黄髪が手甲を装備している。
どいつもこいつも、ニヤニヤと笑いながら、遊び半分で少年を追いかけている様に見える。
「タク!!」
ニコが少年を見ながら叫んだ。
「ニコ、知り合いなの⁈」
「幼馴染のタクです!どうしよう、何とかしなくちゃ!」
ニコが焦りの表情を浮かべる。
俺達と四人との間には、まだ幾分距離があり、馬車を猛スピードで飛ばしているとはいえ、接触するまでにはまだ時間がかかる。
「おい、ソーファ!もう少し飛ばしてくれ!じゃないと……って、ソーファ?」
先程まで座っていたソーファが、手綱を離し、馬の背に立っている。
「先に行きますので、後は頼みます」
静かにそう言うと、ソーファは馬の背を蹴り、目にも留まらぬ程の神速をもって、追いかけられているタクへ向かって跳躍した。
ソーファの背中を見送った俺は、ゆっくりと後ろへ振り向き、ラリアとニコに向かって口角を痙攣らせながら、精一杯の歪な作り笑いをした。
「……おい二人とも、どっかに掴まれ」
「え?」
「……俺、馬車の操縦デキナイ」
「ええぇ!!?」
タクが息を切らしながら、懸命に走る。
「ちくしょう、選りに選ってこんな時に勇者に出くわすなんて!」
そう言って、腰に携えた麻布を摩りなが後ろを確認した彼の目に映ったのは、自分に向け弓を引く緑髪勇者の姿であった。
「そんな……」
タクが目を見開き、そう呟いた次の瞬間、緑髪勇者の手から矢が放たれた。これが、死の間際に体感する感覚なのだろうか。タクの目には緑髪勇者が弓を射る瞬間が、とてもゆっくりとしたものに感じられた。
太い風切り音を響かせ、空を裂きながら自分に迫る矢を見ながら、タクは自分の人生がここまでかもしれないと、どこか他人事の様にそう思った。
(あれ?ウソ……オレ、ここで死ぬのか?)
眼前まで矢が迫り、思わずタクが目を瞑ったその時ーー
ーーパシンッ!!
乾いた音が響いた。
タクと矢の間に身体を滑り込ませたソーファが、そのずば抜けた身体能力を存分に発揮し、彼を貫かんとしていたその豪矢を素手で掴み取っていた。
「うわっ」
自分の身に何が起こっているのか理解できず、タクは思わず尻餅をついた。呆然としている彼を見ながら、ソーファがゆっくりと声をかける。
「キミ、怪我は無いですか?」
「あっ、うん、大丈夫」
「そうですか、それは良かった」
彼の言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべるソーファの目の前に、派手な頭をした三人組の男達が立ちはだかった。男達が、ソーファを睨みながら三人同時に口を開く。
「何だお前?コイツの仲間か?目的は何だ?」
「てかコイツ、オレの弓矢を止めやがったよ。ヤバくない?」
「その身のこなし、もしかして武闘士か?何処の流派だ?」
三人が同時に喋り終わった所で、一瞬の間を開けて、ソーファが返答する。
「あの、三人同時に喋るので全然聞き取れませんでした。もう一度お願いします」
「お前はそいつの仲間か?」
「オレの弓を止めるとは驚いた」
「何処の流派だ?教えろ」
またもや三人が同時に喋り出す。ソーファが呆れ顔で、ため息をついた。
「貴方達、さてはアホですね?」
「「「アホ言うな!」」」
三人がハモりながら叫んだ。
「あ、今のは何て言ってるか分かりましたよ」
「ちっ、もういい!オレが話す」
赤髪の男が剣を振り回しながら、ソーファを再び睨む。
「お前、何者だ?何故その小僧を助ける?」
「ガラの悪い大人に追いかけられた挙句、弓を射られている少年を助けるのに、何か理由が要りますか?貴方達こそ何者です?」
「ほ~、何だ姉ちゃん、オレ達の事知らないのか。なら、教えてやろう!」
赤髪がニヤリと笑いながらそう言うと、残りの二人も同じ様に不敵な笑みを浮かべる。
「行くぞっ!」
赤髪がそう叫ぶや否や、緑髪が高らかに叫ぶ。
「オレの名はリョク!」
決めポーズを取るリョクに黄髪が続く。
「オレはオウ!」
最後に赤髪が剣を掲げながら叫んだ。
「そして、オレがショク!三人合わせて、勇者『リョク、オウ、ショク』だ!」
力強い自己紹介の後に、水を打ったような静寂が訪れる。
「……身体に良さそうな御三方ですね。で、何故この少年を追い回していたのですか?」
ソーファの問いに、ショクがニヤニヤしながら、応える。
「そいつが、その腰に下げてる袋をあまりにも大事そうに持ってるもんだからよ。少し貸してくれって頼んだら、急に逃げやがるから、つい追っかけちまった」
「『つい』で弓まで放ったのですか?」
「そうそう。そいつが中々捕まらねーから、『つい』殺しちまいそうだったぜ」
ヘラヘラと話すリョクへ、ソーファが殺気を込めた眼光を飛ばす。
「もう貴方達に聞く事はありません」
そう言って、ソーファは拳を構えた。
「おいおい、何だよ女ぁ。オレ達とやるってのか?」
「……行きます」
「ちっ、本気らしいな。いいだろう、ぶち殺してやるぜ」
お互いの殺気が空間を埋め尽くしていく。ピリピリとした感覚が肌を伝い、眼球の動き一つですら、気を使う程の緊張感が身体を襲う。ピンと張り詰めた空気が絶頂を迎えた、その時ーー
「「「うわあぁぁぁあ!!!」」」
緊張感を打ち破る様に、俺とラリア、ニコが絶叫しながら、馬に逃げられ荷台のみとなった馬車でソーファ達の前に現れた。
「マオ⁈」
「ど、どいてくれ~!」
暴走し、完全にコントロールを失った馬車はそのまま男達へと突っ込んでいき、勇者三人をなぎ倒した。俺達三人の方は馬車の荷台の上でゴムボールの様に跳ねながら、馬車が停車したその時には、全員が大の字になって床にへばりついていた。
ソーファが駆け寄り、声を上げる。
「マオ⁈一体何が?というか、馬はどうしたんですか⁈」
「お前が居なくなってすぐに、手綱を振り解いでどっか行っちまったよ!てか、急に居なくなるんじゃねーよ!皆がお前みたいに馬車の運転が出来ると思うなよ!コノヤロー!」
「あー。私、本当に死んだと思った。完全に三途の川で足洗ってた」
「タク!大丈夫⁈」
荷台から飛び出したニコがタクへと駆け寄る。
「ニコ⁈ニコじゃやいか!帰ってきてたのか⁈というか、この人達は一体……」
「おい、テメー等……」
「随分とふざけた真似してくれたじゃねーか」
「ぶち殺すぞ、コラァ!」
勇者三人がゆっくりと立ち上がり、血走った目を俺達に向ける。
彼等から発せられる殺気により、電気が流れる様な感覚が肌を伝う。どうやら、本気で俺達を殺すつもりらしい。
場の威圧感に耐えきれず、タクが辿々しく口を開いた。
「ど、どうしよう……こ、殺される」
ガチガチと歯を鳴らしながら狼狽える彼の肩に手を置いて、ニコが力強い眼差しで返答する。
「大丈夫だよ、タク!この人達は私が連れてきた助っ人だから!」
そして、俺達三人を見渡しながら続けた。
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