元最強魔王の手違い転生

タカナ

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第22話 村の希望

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「ラリア、ソーファ。お前らニコとタクを守れ。コイツらとは俺がやる」
 俺の突然の申し出に、ラリアとソーファが困惑した表情を浮かべる。
「何言ってるのよ!いくらマオでもそれは無謀よ!」
「その通りです。マオ、この人達、見た目以上に強いですよ」
 ソーファはそう言って、先程矢を受け止めた右掌を俺に向けて示した。ソーファの掌が赤く腫れ上がり、薄っすらと血が滲んでいる。
「だろうな。今の殺気や動きを見てれば、コイツらが只のアホ三人組じゃない事くらい、俺にも分かるぜ。だが、厄介な事に弓使いが居る」
「厄介?」
 ラリアとソーファが首をかしげる。
「もし、俺達が全員参戦して3対3での戦闘をした時に、あの緑頭に弓でニコ達を狙われてみろ。必ずこちらが後手を引く事になる」
「でも、だからって……」
「いいか、こういう『乱戦にならない程度の対複数戦闘』では仲間同士の緻密な連携が鍵になる。『敵の誰を狙うのか』『誰が誰を狙い、誰がそれをサポートするのか』『陣形』『陽動』『牽制』、様々な要素が複雑に関係する非常に高難度の戦闘になる。恐らく、アイツらは、そんな連携戦闘に慣れている。同じ土俵で戦えば、俺達が圧倒的に不利だ」
「でも……」
 そう口にしたラリアとソーファであったが、状況を理解したのか、悔しそうに口を噤み下を向く。そんな二人を見ながら、俺はニヤリと笑った。
「そんな顔すんなって。別にお前らが足手まといと言ってる訳じゃねぇ。ただ俺、慣れてるから。1対複数の戦い」
「慣れてる?」
「遥か大昔に飽きるくらいやってたんだよ。1対4とか、1対5とかが多かったかな。もう何百回したかも忘れちまったが……まあ、見てろって」
「……わかったわ。マオ、負けるんじゃないわよ!」
「怪我、しないでくださいね」
 そう言って、ラリアとソーファはそれぞれニコとタクの元へと駆け寄った。
「さてと……」
 ラリアとソーファがニコ達の側に着いたのを見届けた俺は、ゆっくりと振り向き勇者達と相対する。
「待たせたな。さあ、始めようか」
 勇者達が俺を睨みつける。
「テメェ、マジで一人で相手するつもりかよ」
「舐めんなよ、死んでから後悔しやがれ!」
「一人だろうと、容赦はしない!」
 勇者達が同時に口を開いた。
「いっぺんに言うなって。何言ってるか全然分かんねぇから。ほら、モタモタしてんならこっちから行くぞ」 
「「「死にやがれ!」」」
 三人が口を揃えて吠えると同時に、弓使いのリョクが繁茂している木々に身を隠し、オウとショクが俺に向かって飛びかかってきた。
(一人が迷わず身を隠すと同時に、前衛職が突進か……やっぱりコイツら、連携戦闘に慣れてやがるな)
 ショクが斬りかかるより一瞬早く、オウが俺の顔面目掛けて拳を繰り出す。
(一人目は恐らくフェイク。本命は剣か弓のどちらか……)
 サイトステップで拳を躱したその刹那の後、ショクの斬撃が真上から降ってきた。
「よくあるパターンだな」
 そう言って、バックステップにて紙一重のところで斬撃を躱し、刃が目の前を通過したその瞬間、刀身とピタリと重なるようにして放たれていたリョクの矢が、俺の眼前に姿を現した。
「くそっ!ファイアーボール!!」
 俺は咄嗟に地面に向けてファイアーボールを放ち、その爆風を受けながら思い切り後方へと跳躍した。

ーーザシュッ

 リョクの矢が俺の頬を抉りかすめる。
「ちっ」
(爆風で加速しながら飛んだのに当てられた……しかし、今の弓の攻撃……)
「ほぅ、今の攻撃を躱すか」
「跳躍に爆風を合わせて加速するなんて、やるじゃないか」
 着地した俺へオウとショクが敵意むき出しの表情を向ける。
「マオ!後ろ!」
 ラリアの叫びに反応し後ろを振り向くと、先程とは全く違う方向から、リョクが放ったであろう豪矢が、俺の体躯を貫かんと迫っていた。
「ちくしょう!今度は後ろからかよ!」
 俺は真上へ跳躍し、背後から迫っていた矢を躱す。
「「はい、チェックメイト」」
 俺が真上に飛ぶと予測していたのか、ショクとオウが空中で待ち構えており、剣と拳を同時に振りかぶっていた。
「ダークシールド!っおりゃぁっ!」
 俺は空中にダークシールドを展開し、それを足場に真横へと跳びのき、二人の攻撃を躱した。三人が同時に着地する。
「防御魔法を足場に使うか、面白いな」
「この攻撃も躱すとは、一人で向かってくるだけの事はある」
 勇者二人が余裕のある表情を見せる。
(コイツらの連携……ポイントとなるのは、やはりあの弓だな。牽制にしろトドメにしろ弓の攻撃を起点に連携を組み立ててやがる。弓野郎を先に叩くのが良さそうだが、コイツの攻撃……)
「お前らこそ、いい連携攻撃しやがるじゃねーか。特に緑頭の弓。どっから飛んでくるか分からない緊張感が堪らないぜ」
 それを聞いた勇者二人がニヤリと笑う。
「凄いだろう?リョクの『サイレントハイド』は」
「サイレントハイド?」
「気配や殺気を完全に消すことができる、リョクのオリジナル技だよ。コイツを使ってる時にはオレ達ですら、リョクが何処に潜んでいるのか分からないからな」
「成る程ねぇ。矢が目の前に迫るまで気づけないのはそのせいか」
(しかも、緑頭以外の二人が殺気をむき出しにする事で、より一層隠れてる奴の気配を目立たなくさせてるって感じだな。さて、どうするか。バンゴの店の時みたいに魔力鳴子を作るって手もあるが、お互いに動き回る戦闘中だと最善手とはいえないか……しょうがない、久々に『アレ』やるか。あまり気は進まないけど……)
「さあ、遊びは終わりだ」
「次で仕留める」
 勇者二人が再び殺気を放ち、鋭い眼光を飛ばす。
「『遊びは終わり』か。そりゃ、こっちのセリフだな」
「何⁈」
「かくれんぼに付き合うのはもう終わりだって言ってんだよ。いい加減、出てきてもらうぜ」
 そう言って、俺は目を閉じた。鼻から息を吸い身体中の無駄な力が抜けるように、時間をかけて口から吐き出す。
 息を吐ききり、身体が程よく解れた感覚を覚えながら、ゆっくりと目を開けて俺はポツリと呟いた。
「……殺すぞ、コラ」
 言葉と同時に、俺は勇者達に向かって、凄まじい濃度の憎悪と怨恨に満ちた殺気を叩きつけた。辺りの木々が騒めき、鳥達が飛び立つ。
「あ、あ……」
「な、なんだ……今の?」
 勇者二人がガチガチと歯を鳴らし、冷や汗を滝のように流しながら、後退りする。
 その様子を見ながら、俺は勇者達へ向けて不気味な笑みを浮かべた。
「おいおい、そんなにビビるなよ。ちょっと威嚇しただけじゃねぇか」
「い、威嚇?」
「い、今のが……?」
「さぁてと……そこか!」
 俺はそう言って、右手側の茂みに向けてファイアーボールを放った。
「ぐわっ!」
 茂みの中から呻き声が上がり、その後ガサガサと草木が擦れ合う音がした。
「今の声、まさかリョクがやられたのか⁈」
「バカな⁈何故リョクの位置が……」 
 驚きを隠せないといった様子の二人にを見て、俺はニヤリと口元を歪ませる。
「恐怖だよ」
「何⁈」
「気配や殺気は訓練である程度隠す事が出来る。だが、恐怖心はそうはいかない。ありゃ、身体が自然と発する危険信号みたいなものだからな」
「まさか、さっきのお前の威嚇は……」
「その通り。緑頭の位置を見つけ出す為にやったのさ。しかし、効果は抜群だったみたいだな。恐怖心ダダ漏れで、居場所丸わかりだったわ」
「ちくしょう!だが、まだ2対1だ!」
「そうだ!まだ、オレ達の方が有利!」
「は?お前ら何寝ぼけた事言ってんの?」
 俺は呆れた表情を浮かべながら続けた。
「2対1じゃない。2対3だろ」
「「え?」」
 勇者二人が惚けた顔でそう呟くと同時に、ラリアとソーファが彼らの背後から飛び掛かり、二人に強烈な一撃を見舞った。

「さすが皆さん!凄いですね!」
 ニコが地面に横たわる勇者達を見ながら溌剌とした表情を見せる。
「凄い……」
 タクが驚きを露わにしながら、俺達を見つめた。
「凄いでしょタク!私が連れてきた助っ人は!」
 ニコが自慢に腕組みしながら目を輝かせる。
「なんでニコがドヤ顔してるのさ。でも、本当に助かった。お陰で、コイツを守ることができました。皆さんありがとう」
 タクが腰に携えた麻袋を摩る。
「ねぇ、タク。さっきから大事そうにしてるその袋、何が入っているの?」
 ニコが袋を指差しながら首を傾げた。
「ああ、そうか。ニコは知らないのか。実はニコが村を出ていってから、凄い物が手に入るようになったんだ!オレはまだ子供だから使えないけど、これのお陰で村の大人達でも勇者達と戦えるようになったんだ!」
 そう言って、タクは麻袋の中からその中身を取り出して俺達に示した。
「本当に、これは村の希望だよ!」
 嬉しそうにそう言ったタクの手に握られている物を見て、俺達は目を見開いた。
「ねぇ、マオ……これって……」
「まさか……そんな……」
 ラリアとソーファが思わず呟く。
「何で、こんな処にあるんだよ……」
 俺はタクが持っている血の様な真紅の輝きを見せる豆を睨みつけた。
「バンクビーンズ……」
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