元最強魔王の手違い転生

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第26話 格が違う

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「へ~、なかなかいい場所じゃない!」
 ローサがニヤリと笑い辺りを見回した。
 俺達がニコに案内された場所は、村外れにある周りを岩山に囲まれた、草木の一本も生えていない、生命の息吹など微塵も感じられない殺風景な広場であった。
 この場に居るのは俺達3人に加え、ガルンとローサ、そして村からはニコとボル、ザガンが勝負を見守るべく同行していた。
「しかしまぁ、魔法を好き放題ぶっ放すには最適な場所だな。生き物の気配はゼロだし、障害物も無い」
「ホント。隠れられそうな場所も無いし、いい勝負が出来そうだわ!ニコちゃん、ありがとね~」
 ローサがニコへと微笑んだ。
「いえ、別に……」
 先程まで自分の命を狙っていた者に笑顔と感謝の意を向けられ、ニコが困惑した表情を浮かべる。
「んじゃ、そろそろ始めるとしますか」
 俺はローサと3メートル程の距離をとって対峙する。
「そうこなくっちゃ!ルールはさっき言った通り、相手に『参った』と言わせた方の勝ち。それと、泥試合は御免だから防御魔法は禁止ね。って、私ばかり条件を出しても不公平ね。坊やから他に提案や質問はある?」
「〝防御魔法〟の定義は?」
「そうねぇ……〝相手に危害を加える事が出来ない、自分の身を守る事だけを目的とした魔法〟って事にしておこうかしら」
「じゃあ、相手の攻撃を攻撃魔法で相殺させるのは?」
「もちろん、オッケーよ!」
「なるほどね。その定義だと、さっきアンタが使ってた隠遁魔法もこの勝負では『防御魔法』にカテゴライズされる訳だが、それでも良いのか?」
「全然良いに決まってるじゃない。そもそも、せっかくの勝負にあんなセコイ魔法使うつもりも無いわよ」
「オッケー、大体了解した。あと、もう一つ条件がある」
「何よ?」
「俺が勝ったら、俺の事を『坊や』と呼ぶのをやめて貰おうか」
「いいわ。それじゃあ始めるわよ、坊や」
 そう言い終えたローサの身体から夥しい量の魔力が溢れ出し、その圧倒的な質量を持つ魔力は練り上げられ魔力から魔法へと変換される過程において、大きく大気を揺さぶった。
「おいおい、マジかよ……」
「どお?結構凄いでしょ、私」
 そう言って、ニコリと微笑むローサの頭上には、先程ニコへと放たれた炎塊とは比べ物にならない程の大きさをした、灼熱豪炎の塊が十数個も形成され、まるで俺を焼き尽くす事を心待ちにしているかの様にメラメラと殺意の熱を燃え滾らせながら浮遊していた。
「超高速の〝連続発動〟……いや、ここまで来ると最早〝同時多発動〟だな。とんでもねぇ芸当見せつけてくれるぜ」
「『参った』してもいいのよ、坊や」
「誰が言うかよ」
「そう、じゃあ喰らいなさい」
 ローサがそう言い終えるや否や、彼女の頭上で煌々と燃え盛る炎塊達が次々と俺へと向かって放たれた。
「ファイアーボールッ!!」
 迫り来る炎塊を迎撃するべく、俺は特大のファイアーボールを放った。

ーードゴォオッッ!!

 両者の魔法がぶつかり合い、凄まじい爆炎と熱風が吹き荒れる。
 ローサの攻撃を相殺したと思われたその刹那、もくもくと立ち込める黒煙の中から、迎撃しきれなかった豪炎が次々と顔を覗かせ、俺へと迫った。
「ちっ、流石に撃ち漏らしたか!」
 俺は後方へと素早く跳び退き、攻撃を紙一重で躱した。
「へぇ、なかなか良い動きするじゃない。身体能力もかなりのものね。でも、それだけじゃあ防げないわよ」
 先回りする様に、跳び退いた俺の着地点へローサの攻撃が放たれていた。
「くそっ!ファイアーボールッ!!」
 俺は攻撃の直撃を回避すべく、足元に向けてファイアーボールを放った。

ーードゴォオッ!

 炎塊の直撃は免れたものの、魔法同士の衝突によって生じた爆風と衝撃波によって、俺の身体は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、岩壁へと叩きつけられた。

「ちょっと!マオ!何やってんのよ!やられっぱなしじゃないの!」
「そうですよ。そんな火の玉、チャチャっと全部叩き落としてください!」
 吹き飛ばされた俺に向かって、ラリアとソーファが声を張った。
「何言ってるんですか。無理ですよ、そんなの」
 ラリア達の言葉を受けて、ザガンが神妙な面持ちで口を開いた。
「何よ、ザガン。何が無理なのよ?」
「彼女が行っているアレは〝同時多発動〟と呼ばれる人間離れした超高等技術です。魔道士ではない貴方達には分からないかもしれませんが、魔法の連射と言うのは、それ自体がかなりの鍛錬を必要とする高等技術なのです。10秒に一回撃てれば勇者クラスだと言われています。マオ君だって相当な手練れだと思います。彼は2~3秒に一回程の速度で魔法を放っていますし。でも、彼女は桁が違います。〝連続発動〟のその先、同時に複数の魔法を発動する〝同時多発動〟。これは人の領域を超えた技だとも言われています。マオ君も凄いとは思いますが、はっきり言って彼女は格が違います」
「で、それが何なのよ?」
「え?」
 自分の説明を意に返さず、顔色ひとつ変えないラリアとソーファを見て、ザガンが驚きの表情を浮かべる。
「彼女が凄いのは見てれば分かるわよ。でも、あの程度じゃウチのマオには敵わないわね」
「そうですね。全く問題ないです」
「いや、君らは魔法の事が分からないからそんな事が言えるんだよ、あの魔法は本当に……」
「貴方こそ、マオの事を知らないからそんな事が言えるんですよ」
「まあ見てなさいよ。びっくりするから」
 そう言って、ラリアとソーファは真っ直ぐに俺を見つめた。

 岩壁に叩きつけられ蹲る俺に向かって、ローサが勝ち誇った様に声を掛ける。
「良い格好ね坊や。どう?まだ続けるの?口が聞けるうちに『参った』って言った方がいいんじゃない?」
「はぁ?この程度で降参なんて冗談にも程があんだろ?」
「そう……、じゃあ言わなくてもいいわ。消し飛びなさい」
 ローサが再び頭上に先程の倍はあろうかという数の炎塊を展開した。
「そんなに照らすなよ、眩しいじゃねぇか」
「人生の最後の瞬間くらい、明るい方がいいでしょう?バイバイ、坊や」
 ローサが口を閉じた次の瞬間、視界を埋め尽くす程の豪炎の塊が俺を目がけて降り注いだ。

ーードゴォォオオンッ!!!!

 けたたましい爆音が響き渡り、空と地を揺らした。黒煙が辺りを侵食し、黒ずんだ迷夢となって、視界を遮った。

「マオさん!!」
 ニコが力一杯叫ぶ。
「二人とも良いんですか⁈マオ君、大丈夫なんですか⁈」
 ザガンの問いにラリアとソーファが眉ひとつ動かさずに応える。
「さっきも言ったはずです。問題ありません」
「ほーら、煙が晴れてきたわよ。目ん玉かっぽじって良く見てみなさい」

 立ち込めていた煙が薄くなっていく。俺のシルエットが鮮明になってくるにつれて、先程まで勝ち誇っていたローサの表情が曇り出す。
「何で……、生きてるのよ?」
「いやー、想像以上にの手数だったな。 あとコンマ数秒魔法の発動が遅れてたらやられてたかもな」
 煙が消えていき、身体を包み込む様に炎を纏っている俺の姿がチラリとローサの目に映り込む。その状況を見て、彼女は眉をひそめて声を上げた。
「炎の壁⁈ちょっと、防御魔法は禁止って言ったわよね⁈」
「おいおい、良く見ろよ。お前はコレが防御魔法に見えるのか?」
「えっ?」
 煙が晴れ、俺の姿が完全に露わになったその時、ローサが目を見開いた。
「な、何なのよ……それ?」
 ローサに映り込んだのは、黒炎の身体を持った巨大な龍が俺に纏わりつきながら、自分を睨みつけているという光景であった。驚愕の表情を浮かべるローサに俺は淡々と話しかける。
「〝象形魔法〟つってな、動物や魔物、空想上の生き物なんかを型取らせて、その属性を付与したり、威力を高めたりする魔法なんだが……そのリアクションを見る限り、生で見たのは初めてっぽいな?」
「象形魔法なんて、本でしか読んだことのない空想上の魔法でしょ?それが、こんな……」
「古い魔法ではあるが、見ての通り実在する魔法だ。さて、どうする?」
 驚きの表情を見せていたローサであったが、俺の魔法を見つめるにつれて、その表情を段々と歓喜の物へと変えていった。
「凄い……、凄い、凄い、すごいっ!こんなの……格が違う」
 ブツブツと早口でそう呟いた彼女は目を見開いたまま、ニコリと笑いこう言った。
「参ったわ……降参よ」
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