元最強魔王の手違い転生

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第47話 ジャンケン

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「どこだ、ここ?」
 一次予選を突破し、発動した転移魔法にて、俺達三人は目がチカチカする程の真っ赤な壁に囲まれた10畳程の部屋へと飛ばされていた。
 テーブル等の家具は勿論、出入り口となるドアすら見当たらない、異様な部屋である。
「それにしても、驚いたわよ、マオ」
「そうです。まさかあんな攻略法があったなんて」
 ラリアとソーファが珍しく、俺に向かって尊敬の眼差しを向けている。
「まあ、運も良かったし。ある意味、賭けに近い方法だったけどな」
「いやー。あんな姑息な手、マオにしか思いつけないわ」
「本当です。まさに外法です」
「おいコラ。それ褒めてなくね?何、お前ら二人とも人を褒めるとカエルになる呪か何か受けてるの?」
「そういえばマオ、さっき言ってた〝他の条件〟って何?」
 ラリアが俺の嫌味をさも無かったかの様にして続けた。
「ああ?そんなの、もうゴールしたんだからどうでもいいじゃねぇか」
「ダメです。気になります」
 ソーファがジト目で俺を睨む。そんな彼女の視線を受けて、俺はため息をつきながら渋々口を開いた。
「はいはい、分かったよ。あの時言った〝他の条件〟ってのは二つある。一つは『ゴールがまだ壊されていない事』二つ目は『ゴールが破壊する事が出来る物質で作られている事』だ」
「なんだ、結構当たり前の事ばかりじゃない」
「マオ。私、質問があるんですけど」
「ん?何だね、ソーファ君?」
「その一つ目の条件『ゴールがまだ破壊されていない事』なんですけど、マオはゴールを躊躇う事なく破壊しましたよね?あの時、『私達のパーティーよりも早く、別のパーティーが既にゴールしている』と言う可能性は考えなかったのですか?」
「ほー、流石ソーファ。いい質問だ。何処かの能天気勇者とは違うな」
「ちょっとそれ、誰の事よ?」
 ラリアが剣の柄に手を掛けながら低く呟く。そんなラリアを意に返さず、俺はソーファへと続けた。
「確かにその可能性も無くはない。だが、常識的に考えて、『ゴールが破壊されて無い』時点で俺達より先に別のパーティーが既にゴールしている可能性は限りなくゼロに近いと言える」
「どう言う事ですか?」
「冷静に考えてみ?この作戦はゴールを破壊する事で『勝利が確定』するんだぞ。それを態々していないって事は『そのパーティーは、ゴールを自分達じゃ破壊出来なかった』って事だ」
「でも、自分達で破壊できなくてもゴールだけ潜っておいて、破壊は他のパーティーに任せるって手もあるのでは?」
「それは無いぜ。〝自分達に出来ない事が出来る〟パーティーが〝自分達よりPPが低い訳がない〟からな。先にゴールを潜っておいて、『最終的に二番手でした』じゃ話にならないからな。それこそ、そんな事したら自分達から予選敗退を宣言してる様なものだ」
「確かに」
「だろ?だから、ゴールが破壊されて無いって事が、そのまま『まだ誰もゴールを潜って無い事の証明』になるって訳だ」
「でも、マオってやっぱり無茶苦茶よね。ゴールをロッドで叩き割るなんて普通じゃないもの」

「全くその通りですよ~。勘弁してくださいよ~」

 背後から力ない声が掛かる。後ろを振り向くと、しかめっ面をしながら、頭を掻くチャコが音も無く部屋の中に佇んでいた。
「お前いつの間に⁈毎度毎度、気配も無く現れやがって。いい加減、気味悪りぃんだけど」
 俺がそう言うと、チャコはしかめっ面を膨れっ面に変えて、づかづかと足音をたてて俺の側へと歩み寄り、俺の額に人差し指を突きつけながら口を開いた。
「ゴールを破壊して予選突破なんて前代未聞ですよー!ちゃんと真面目にやってくださいよー!」
「いや、大真面目だし。それに俺、予選開始前にちゃんと確認したぞ?『お前が説明した禁止事項以外なら問題ないんだろ』って」
「それは、そうですけどー」
「それに、『ゴールを破壊される事も想定内』だったんだろ?結構脆かったぜ、あのゴール」
「脆かったって……プラチナクラスに匹敵する教会の神官、十人がかりで防御魔法を付与してたんですけど……ウエン様が認めた魔導士……無茶苦茶です」
 チャコはその場に膝を抱え込む様に座り込み、下を向きながら、いじいじと床を指でこねくり回した。
 そんなチャコの下へ、ラリアとソーファが歩み寄り、そっと彼女の肩に優しく手を掛けた。
「ごめんなさいね。ウチの魔導士ぶっ飛んでる変人だから」
「心中お察しします。マオは変人の変態ですから。本当、ウチの魔導士が変態ですみません」
 心から同情と陳謝の気持ちをチャコへと伝える二人。
「おいおい、寄ってたかって俺を変人扱いするんじゃねぇよ!」
「変人じゃなくて変態です」
 ソーファが氷の様に冷たい眼差しを俺へと向ける。
「余計嫌だわ!そんで、チャコ。お前何しに来たんだよ?まさか、俺に文句を言いに態々来た訳じゃねぇよな?」
 俺の言葉を聞いたチャコがゆっくりと立ち上がり、膨れっ面のまま口を開いた。
「マオさん達の予選通過タイムが早すぎて、他の場所で行われている一次予選がまだ終わっていません。二次予選は一次予選を勝ち抜いた者同士の直接対決になりますから、マオさん達には暫くこの部屋で他の予選が終わるまで待って貰う事になります。そう言う訳で、まだ時間が有りますから、マオさん達には先に二次予選のルール説明をしておきます」
「いいのか?」
「いいんです!時間の節約ですから!」
「お前……何でそんなに怒てんの?」
 俺の問いに小さく咳払いをして、チャコは一次予選の説明を行った時の様にニコリと笑顔を浮かべた。
「二次試験では『戒律結界』の中で参加者同士による戦闘にて勝敗を決めさせて貰います」
「『戒律結界?』」
 ラリアとソーファが同時に首を傾げた。
「何だ二人とも知らねぇのか?『戒律結界』ってのは〝結界内にいる者に、特定の法則を強制させる〟特殊な結界の事だ。例えば『結界内に居る者は右足が上がらなくなる』とか『結界内だと炎系の魔法が使えなくなる』とかな。ただ、恐ろしく緻密で高度な術式を数ヶ月単位で組み込まなきゃならんから、普通の戦闘ではまず使えない。貴重な宝物庫のトラップとして仕込んだりするのが、一般的な戒律結界の使い方だな」
「さすがマオさん!ウエン様が見込んだ魔導士だけの事はありますねー!」
「んで、二次予選はどんな戒律結界の中で戦うんだよ?」
 俺の問いに、チャコがニコリと微笑む。

「ジャンケンです」

「はあ?」
 呆気に取られている俺達を見渡しながら、チャコが笑顔で続ける。
「勿論、普通のジャンケンではないですよー。皆さんの攻撃を大まかに三つに分けて、其々に三つ巴の弱点を設定します」
「何か複雑な話だな」
「そうでも無いですよ。大体皆さんが使う攻撃は『斬撃』『打撃』『魔法』の三つですよね。これに其々弱点を設定します。そうですねー、便宜上『斬撃を〝チョキ〟』『打撃を〝グー〟』『魔法を〝パー〟』としましょうか」
「成る程、『斬撃、打撃、魔法が其々ジャンケンの様に三つ巴になる』って訳ね。て事は、斬撃に対しては打撃が有効って事か」
「そう言う事です。折角なので、ちょっと試しに実演してみましょうか」
 チャコはそう言うと、指をパチンと鳴らした。彼女が指を鳴らしたその瞬間、薄紅色の光がチョーカーペンダントから発せられ、部屋中を包み込んだ。
「仕込み結界か」
 俺は光を発するチョーカーペンダントを見つめながらポツリと呟いた。
「その通りです。さて、これで戒律結界の展開は完了です。それでは……」
 チャコは踵を返すと、俺から3メートル程の距離をとり、再び俺の方へと向き直ると、胸元から10センチ程のチープなナイフを取り出した。
「これ、ボクのお気に入りの果物ナイフなんですよ!ファニーウェポンで買ったやつで安物ですけど、中々使い勝手が良いんです」
「んで?その果物ナイフで何を見せてくれるんだ?」
 チャコはニヤリと笑い、ナイフの鋒を俺に向けて構えた。
「それでは、マオさん!ボクに向けて攻撃魔法を放ってください!」
「はあ?」
 眉を潜める俺に、チャコが笑顔で応える。
「ここは戒律結界の中ですよ。言ったでしょ?斬撃は〝チョキ〟魔法は〝パー〟です」
「だからって、そんなちっぽけなナイフで……」
「大丈夫って言ってるじゃないですか。それとも、何ですか?ボクのナイフが怖いんですか?」
「チッ。どうなっても知らねぇぞ!しっかり避けろよ!」
 俺はチャコに向けてロッドを構える。
「ファイアーボール!」
 ロッドの先端から放たれた拳大の黒い火球が、唸りを上げながら辺りの大気を焦がし、チャコへと迫り来る。
 黒炎がチャコを飲み込まんと、彼女を包み込もうとした、その時ーー
「それでは、失礼します」

ーーシュパァァ

 軽く横一文字に振られたチャコの果物ナイフが、俺のファイアーボールを軽々と切り裂き、その黒塊を空へと溶かした。
「なっ⁈」
「まさか、マオのファイアーボールを⁈」
「そんな⁈」
 驚愕する俺達を見て、チャコがニヤリと笑う。
「驚いて貰わないと困ります。何せ、教会が誇る〝一等戒律結界〟ですからね。まあ、これで分かったと思いますが、其々の属性にはかなりの相性差が付きます。〝相手の攻撃に、どの属性の攻撃を合わせるか〟と言う読み合いがカギになりますので、頑張ってくださいね」
 そう言って、満足気な笑みを浮かべるチャコの足元に転送用の魔法陣が浮かび上がる。
「あ、因みに、二次予選は各パーティー1名ずつの代表戦になります。まだまだ時間はありますので、誰が二次予選で戦うのかゆっくりと考えてくださいねー」
 笑顔で手を振るチャコの足元に展開された魔法陣がより一層輝きを増した瞬間、彼女の姿が煙の様に立ち消えた。
 一瞬の静寂が部屋の中を包み込む。
「ヤバイわね……さっきの戒律結界ってやつ」
 ラリアは神妙な面持ちを浮かべながら、俺へと視線を向けた。
「マオの魔法をあんなナイフで打ち消すなんて。もしこれが実践だったら……」
「ああ、想像以上だったな。こりゃあ、〝相性〟なんて生優しいもんじゃねぇ。チャコが〝ジャンケン〟と表現した理由がよく分かったよ」
「不利な手を出せば、ほぼ負けが確定すると言う事ですね」
「そうだな。チャコが言った通り、相手の手を読んで、その裏を取りに行くってのが出来れば良いんだろうが……俺達のパーティーは複数の手を出せる奴が居ねぇからな」
「私は完全に打撃のみですし……。そうだ!ラリアは勇者ですよね?実は魔法が使えたりしないんですか?」
「……私が魔法使ったの見たことある?」
「……ですよね。と言う事は、私は〝グー〟。ラリアは〝チョキ〟しか出せませんね。マオは魔法と、一応打撃も出来ますよね?」
「……まあな」
「だったら代表はマオがいいんじゃない?一応、〝パー〟と〝グー〟の二手持ってるんだし」
「そうですよ。マオがベストだと思います」
「いや、うーん……でもなぁ……」
 腕組みしながら一人頭を捻る俺を、ラリアとソーファが不思議そうに見つめた。
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