チート王子の暇つぶし

まぎょう

文字の大きさ
2 / 3

第2話 おもしれぇ女

しおりを挟む
エルサム様とアリシア様のお茶会を見守る僕。この時間が、僕は好きなんだ。エルサム様が世界一穏やかだから。

僕は束の間の心の休息を楽しんでいると、僕たち以外誰も入って来ないはずの王室専用サロンの入り口の方からガサガサと音がする。僕たちは、訝しげに音の方を見る。

主人を守るため、エルサム様の方を見るとエルサム様はすでにアリシア様を守るため、アリシア様に魔法結界を貼ってる。個人に貼るにしても、常人なら2-3時間かかるものを最も簡単に、、、。

そうこうしていると、足音が止まったので視線をそこに向ける。

そこには帝国学園の制服を着た女性が立っていた。胸につけている位を示すマークとリボンの色的に、男爵令嬢の1年生だな。

歳にしては幼い印象を与える耳寄り高いツインテールに、勝気な吊り目。この国ではよくある栗色の髪をした女性だった。

ちなみに、一目で位を解るようにしているのは、いずれ社交界に出るためのマナー練習の意味も兼ねている。

というのは建前で、知らずにアリシア様に無礼をはたらかないようにするための、エルサム様が幼等部にお決めになったものである。

全員の視線が招いていない男爵令嬢の1年生に向いていると、彼女はエルサム様をみてニヤッと笑う。

「やったーー!!エルサムみっけ!探したんだから~♡最初に出会うはずの中庭にはいないしさ~」

(え???は????この男爵令嬢は死にたいのか??エルサム様を呼び捨て??死ぬより辛い目に遭うぞ、、、??)

僕がポカンとしていると、男爵令嬢はエルサム様の目の前までツカツカ歩いていった。

エルサム様は氷より冷たい視線を彼女に向けながら、睨みあげる。

「俺は気分が良い。即刻立ち去るなら、爵位剥奪で許してやる。」

その声は聞いたものであるなら、全員震え上がるほどのドスの効いた声であった。でも男爵令嬢は気にしていないようだ。

「やだ~も~!そんなに怒らないってば!私はルシィ♡でっす♡よろしくね!エルサム~♡」

そういうと、彼女はエルサム様に抱きつこうとした。僕は咄嗟に空間転移魔法で、エルサム様を僕の後ろに転移させる。

エルサム様は、トッと華麗に着地した。他人を空間転移させると、転移した人は着地のタイミングがわかんないので、大体尻餅する。

(はずなんだけど、なんで綺麗に着地できるんだこの人)

エルサム様は僕の耳元で話しかける。

「よくやった。先ほどの猿女ルシィを止められなかった件は不問にしてやる。」

(あぁ~よかった!!この特技あってよかった!!!!)

僕が生きていることに感謝していると、ルシィが僕を睨んでくる。

「ちょっと!何すんのよ!!」

ルシィが僕に掴み掛かろうとしてきた時。

「おやめください。ルシィさん!」

月の聖女、、、いやアリシア様が椅子から立ち上がり、止めに入ってくださった。

呼び止めたルシィがアリシア様の方を見る。その顔は、淑女として見るに堪えないすごい顔で、アリシア様を睨んでいるのだった。

アリシア様は臆せず、ルシィに話しかける。

「ルシィさん、ここは王室専用のサロンです。招待されていないものは、入ることは許されません。新入生で迷ってしまったのですね?出口まで案内します。」

(さすが、アリシア様。聖女のようだ)

アリシア様はルシィが迷ったことにして、この場を収めようとしているのだ。

じゃないと後ろで怪物のような禍々しいオーラを発している悪魔じゃない、、エルサム様が何をしでかすかわからない。

僕がアリシア様の優しさに感銘を受けていると、ルシィがアリシア様に近づく。

「ハァ!?なんであんたに、、、そっか、あんたがアリシアか、フーン。、、、ま!次のイベントもあるしここは帰るわ。」

公爵家の人間を呼び捨て、しかも婚約者の目の前で言い寄るって、侮辱しているのと同じだ。

(公爵家の怒りを買ったら、一族郎党全員路頭に迷うぞ、、、)

僕がルシィのあまりの行動に恐れ慄いているとルシィは踵を返して、出口の方へ向かう。

そしてエルサム様の方へ向いて、にぱっと笑う。

「じゃあね♡エルサム~」

ルシィが王室専用サロンを出て行くと、エルサム様が僕にしか聞こえないドスの聞いた声で言う。

「俺のアリシアに侮辱の限りをあびせおって、、一族諸共晒し首にしてくれる、、、」

僕に言われているわけじゃないのに、寿命が縮んだ気がした。

それを聞いていたのか、長年の付き合いで察したのかアリシア様がエルサム様に「今回はどうか恩赦を」と掛け合っていた。



その夜。多くの人が眠りにつくころ。僕はエルサム様に呼び出され、エルサム様の執務室にいた。

エルサム様は広い豪華な長机に肘を置き、顔の前で手を組んでいた。

「エディ、君を呼んだのは他でもない。あの汚物女ルシィの元へ、今から向かい何が目的か探ってこい」

(んな無茶な。)

そう思ったけれど、主人の命令なので、やること前提で、疑問を投げかけた。

「エルサム様。僕ができるのは、空間転移だけです。どうやって目的を探るんですか?」

僕のその問いに、可哀想なものを見る目で、エルサム様が見てくる。

「ハァ、そっか、一般人は説明しないとわからないよな。」

(いつものことなので、ムカつかないぞ僕は。)

僕は、ムッとするのを我慢し、黙ってエルサム様の言葉を待っていると、エルサム様がパチンと指を鳴らす。

すると、物陰からヌッと人が出てきた。“影”だ。

王家直属の暗部を一手に率いるものたちだ。

(エルサム様付きの執事になる時に聞いてたけど、初めて見た)

僕は少年心をくすぐられて、感動しているとふと我に帰る。

(ん?なんで“影”がいるのに、僕が呼ばれたんだ?)

僕は、エルサム様の方を見る。エルサム様は美しい笑顔で、一般人にもわかるように、説明してくれた。

「エディ、お前は一度姿や形をみて、名前がわかるものの場所まで瞬間移動できる。だから、この“影”をあの汚女汚女ルシィのところまで連れていけ」

(なーるほど、僕が呼ばれた理由はそれか~。)

僕は、夜更けに”影”を送迎する係に任命された。ルシィのところに連れて行った影がした行動は、しばらく僕のトラウマになる出来事だった。



シュンっと、僕は“影”を連れて、ルシィの部屋まで瞬間移動した。

ドテッ

影は着地の瞬間がわからなかったのか、少しこけたが、盛大に尻餅まではいかなかった。

(さすが、影だ。身体力すごい、、)

影は恥ずかしがることもなく、そのまま、ルシィの元まで行くと、頭に手を乗せる。頭の指圧マッサージをするような格好だ。

影はそのまま、ルシィから目を離さず、集中しているようだった。

「俺の特技は相手の頭を弄るコト。やろうと思えバ、廃人確定だが、頭の中を本にして出せル。」

(え、、、何それ怖い)

「だけど、そこまで言われてないシ、今からやることで、俺は手は使えなくなル、これからすることをお前が書ケ」

あっさり怖いこと言われたけど、ここに来る直前の不可思議な出来事に納得する。

だから事前に、白紙の冊子とペンを渡されたのか。僕は彼の機嫌を損ねないように、愛想笑いと納得しながら、書く準備をする。

僕の準備ができたと気配で影が思ったのか、特技を開始する。

(ウゲェ、、)

遠目からでもわかる。影の指が、ルシィの頭の中に入っていった。

僕がドン引きしていると、ルシィの目がゆっくり開き、瞳がどんどん頭の方向いて行く。

(うわぁ、、大丈夫なのコレ?)

僕の心配をよそに、影はルシィに質問する。

「君はドコの誰?目的ハ?」

その質問にルシィが答える。

「あぁへぁああ、、ルシィ、、違う、、、かとう、ちえみぃいい、、トウ、、キョォオオオ、、攻略ゥウウ!!」

カトウ、、?チエミ、、、?聞き慣れない名前をメモしながら疑問に思う。

そのまま続く影の質問に答えるルシィ(?)の発言に耳を疑いながら、僕は筆を走らせるのだった。



「ふぅん、、?ルシィではなく、異世界から転生してきたカトウチエミか。」

僕と影が夜鍋して聞いた情報の塊報告書を読みながら、エルサム様が独り言を呟く。

ちなみに退散する時は影が、今夜のことを全て忘れる脳のツボがあるらしく、そこを特技で押したらしい。

(なんとも不安が残る説明だが、信じるしかない)

僕は眠たい目をなんとか開けて、エルサム様の言葉を待つ。

(時間は夜明けの前を指しているのに、なんでこの人は眠そうにならないの?)

ルシィカトウチエミが言ったことは、にわかに信じられなかった。

彼女は38歳独身、向こうの世界で、我々の世界に似た疑似恋愛を楽しむ遊戯を楽しんでいた。そして、階段から落ちた後、ルシィとして目覚めたと。

さらに彼女が、カトウだった時に好きだった登場人物がエルサム様であった。これ幸いと、彼女はエルサム様を籠絡し、皇帝の婚約者になろうとしている。

(もう、、、この時点で、国家転覆罪なんですけどぉ~。)

異世界から来て、知らなかったとはいえ、あの馴れ馴れしさはいただけない。エルサム様は僕が書いた報告書を読み終わると、ポツリと呟いた。

「なるほど、“イベント”、、、やつが遊んでいた遊戯の世界観は確かに、我らの世界と酷似している、、。まぁ、いただけないのは、我が愛しのアリシアが、悪役となっていることぐらいだな」

(確かに、あんなにお優しいアリシア様が悪役なんてなんて世界だ!)

僕も怒りを覚えていると、エルサム様は朝日を眺めている。

僕は窓を見て朝が来たことを知る。

(あぁ、、、今日徹夜ジャン、、、。)

そんな僕の落胆の様子など、気にもしないエルサム様は、朝日に輝く美しい姿で、さらにつぶやいた。

「あの汚物《ルシィ》、、ただの無礼者だと思っていたが、転生者で俺を籠絡が目的か、、、面白い。お前の矜持に乗っ取り、お前の世界を壊してやろう、、。久々におもしろい女に出会った、、。」

白馬の王子様の皮を被った悪の帝王じゃん、、。そう思いながら、朝の時間が過ぎて行くのだった。

翌日、寝不足の僕にエルサム様が伝えてくれた、転生者の“特技”の強力さに目が覚めることになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

古代文明の最強王、5000年後に転生すると魔法が弱体化しすぎていたのでもう一度最強になります。~底辺貴族からの成り上がり~

しNぱ
ファンタジー
5000年前、魔法文明マギア魔導王国を築き、 魔法体系そのものを創造した王アーケ・マギアス・マギアは、 さらなる魔法の発展を求め、自らの魂を未来へ送る転生魔法を発動した。成熟した古代魔法を超える研究が進んだ世界を見たいという純粋な探求心から、5000年後の世界へと意識を沈めた。 目覚めた先は、スケルド男爵家三男レイフとしての赤子の身体だった。産まれた瞬間から記憶を持つ彼は、質素な家と薄い魔力の流れを前に、未来の魔法研究が古代よりも大きく退化していることに気づく。最底辺と呼ばれる家に生まれながらも、家族は温かく、彼の異常な魔力量を希望として受け入れた。 幼少期から魔力操作を自然に行い、三歳で石を浮かせ、五歳で光魔法を自在に扱うなど、古代王としての力を隠しながら成長する。外では古代魔法を使わず、転生者であることを悟られないよう慎重に振る舞いながら、未来の魔法体系を観察し続けた。 十歳になると身体強化などの古代魔法を最低限だけ使い、父との剣術訓練でも圧倒的な動きを見せるが、本来の力は隠したまま過ごす。そして十六歳、高等魔導学園に入学したレイフは、初日の実技試験で無詠唱魔法や術式無効化を用いて試験官を圧倒し、最底辺男爵家ながらA級判定を受ける。 その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

処理中です...