3 / 3
第3話 月の聖女vsゲスの汚女
しおりを挟む
アサノニア帝国歴1026年春の月22日目。天気曇りのち晴れ。
今日はエルサム様から、昼から学園に行くので仮眠でもしていろと言われ、睡眠をとってからエルサム様を迎えに彼の自室へ向かった。
趣味の日記を書いていたので、少し寝不足だが、仕事に支障はない。
エルサム様の自室の前につく。ノックすると「入れ」と中から声がする。
僕は「失礼します」と言ってからドアを開け、朝の挨拶をし、お辞儀した。エルサム様は僕の一連の動作を見届けた後、話し始める。
「エディ、俺を連れて学園に転移しろ。」
「へ?」
エディ様がご通学される時は、護衛を連れて万全の警備の上、馬車に乗られる。
朝はもちろんアリシア様もご一緒だ。それをすっ飛ばしていきなり転移とは?
僕の目が点になっていると、またエルサム様はため息をついた。
「納得しないと動けないのはエディの利点だが、フリーズするのを良い加減なおせ」
「はい。すみません、、」
僕がエルサム様の一声で冷静さを取り戻すと、エルサム様の青い目が細まる。
「今朝、あの汚女の証言書を読んだ。今日がやつのいう“イベント”の日だ。」
あぁ、僕は昨夜、夜鍋してまとめた内容を思い出していた。
「確か、、迷子の子どもをルシィ嬢が助けていると、ちょうど登校中のエルサム様と会って、子どもを無事母親の元に届け、遅刻しそうだからとエルサム様の馬車に乗って、投稿するってやつですよね?」
口に出すと、なんとも素っ頓狂な筋書きだ。第一に、帝国の第一王子はホイホイ馬車から降りない。用があれば従者を寄越す。そもそもこの筋書きは破綻しているのだ。
でも、一つだけ疑問がある。
「でも、もうお昼ですよ?そのイベントって内容的に朝じゃないですか?」
そういうと、エルサム様は答える。
「俺もそう思い、従者に確認させたところ、まだいるみたいだ。子どもと一緒という報告はないがな。」
(え、、エルサム様が来るまで待ってるってこと?怖、、、。)
僕がルシィの狂気を感じて、引いた。だが、ひとつエルサム様の行動に納得できないところがある。エルサム様は、僕をチラリとみた。
「でも、馬車で向かい、あの女がいるところを素通りすれば良い、とでも言いたげな顔だな」
(、、、なんでわかるんですか、、、?)
僕が驚いた顔をしていると、エルサム様が話を進める。
「あの女に会った時に、鑑定した。彼女の特技は幸運と魅了だ。」
(え?いつのまに?)
エルサム様の特技を知っている者は、数少ない。彼の特技は鑑定。その目で見たもののありとあらゆる事柄を、理解することができる。
例えば、雲を見れば、どうして空にあるのか?を理解することができる。ただし、特技を有している者の学習量によって、情報の密度が変わるので、本人は、常に知識や知見を学ばないといけない。
僕がその特技を持っていたら、持て余すけど、エルサム様は使いこなしている。そんな彼の鑑定結果は、何よりも信頼できるとして、帝王様も相談に来るほどだ。
エルサム様は、さらに続けて情報を付け加える。
「幸運はそんなに高くないが、イベントの日限定で、自分の都合がいいようにことが転び、魔力が低いものかつ、顔見知り程度の好感度であれば、初対面でも意中の相手レベルに意識させることができる。」
「え!?それって、、こと恋愛においては、都合良すぎません?」
僕は思わず驚いて、主人を差し置いて発言してしまった。
(僕はしまった、、)
エルサム様を恐る恐る見たが、お咎めは無しのようだった。
「ハァ、、本人がまともであったなら、外交官向きの良い特技だったのだがな」
エルサム様は青い目を伏せ、長いまつ毛で隠してしまった。絶対ルシィのことを憂いているんじゃなくって、彼女の特技が欲しかったって顔だ。
(ん、?でもエルサム様が意味のない話を僕にするわけがない。)
僕はエルサム様に発言していいか確認し、了承を得たので発言する。
「もしかして、昨日の王室専用サロンへの侵入と関係がありますか?いつも出入り口は衛兵がいるのになんで入れたんだろうと、不思議に思っていましたが、特技がイベント日限定の幸運と魅了であれば納得します。」
エルサム様は僕の発言にフッと微笑む。
「よくわかったじゃないか、俺が賢いと思う動植物ランキングをハエから上に上げてやろう。」
え!?僕ハエ以下だと思われてたの?!衝撃を受けていた僕を尻目に、エルサム様は優雅に立ち上がる。
「馬車で向かうと、あの女の特技に従者たちが巻き込まれるやもしれん。学園の、、いや、愛しのアリシアの元へ迎え」
そう言いながら、美しく長い指先を僕に出す。僕はその手を取って空間転移をした。
...
僕の空間転移の特技で、学園に到着する。
相変わらず、空間転移完了のタイミングは、僕しかわからないはずなのに、エルサム様は繋いだ僕の手の先で華麗に着地する。
人の気配がしたので振り返ると、完璧なカーテシーをしながら、アリシア様がいらっしゃった。
(相変わらずお美しい、、。)
「エルサム様。エディ、ご機嫌麗しゅう。」
美しい鈴のような可憐な声に、聞き惚れていると、エルサム様が僕の前に現れる。
「あぁ、アリシア。今来た。変わりはないか?」
「はい。学園内は、特に変わったことはございません。」
流れるような会話と、エルサム様の迷いないエスコートで2人して椅子に座る。ここは、どうやら王室専用サロンのようだ。
アリシア様のお付きのメイドが、流れる動作で香り高い紅茶を出す。アリシア様はメイド一人一人にお礼を言う。エルサム様は、もう紅茶を楽しんでいる。
「相変わらず、アリシアが用意する紅茶は格別だな。」
「ありがとうございます。エルサム様。」
2人のやりとりは、とても優雅で美しい。
(眼福だ~)
僕は2人の絵画のようなやり取りに見惚れていた。エルサム様が、アリシア様が紅茶を飲み終わり、落ち着いたタイミングで、彼女の方をみる。
「アリシア、あの女には近づくな、君に害しかないからね。」
「はい。かしこまりました。」
エルサム様の命令に、アリシア様は迷いなく了承する。それを聞くと、エルサム様はアリシア様の後ろに控えている女性に声をかける。
「ということだ。プリシラ。あの女《ルシィ》をアリシアに近づけさせるな。」
「かしこまりました。」
プリシラ、そう呼ばれた巨体の女性は、胸に手を当て深々と軍人流のお辞儀した。
彼女は、隣国ヨルヴァスから来た移民だ。赤い肌に額には2本のツノが生えているのが特徴だ。
ちなみに、ヨルヴァスの国民はアサノニアとの血の混じりにより、見た目ではどっちの国民かわからないぐらい、一緒だ。
彼女の場合は、先祖帰りに近い現象で、ヨルヴァスでも稀に見るケースなんだそうだ。
そのため、いつも、アサノニアの国民を驚かせないように、ツノはベレー帽で隠している。実に思慮深い女性だ。
筋肉隆々の彼女は、この帝国の30人いる帝国軍師団長クラスと同等の力を持っている。
(確か彼女の特技は、、)
「このプリシラ。事情はアリシア様よりお伺いしました。我が特技『対魔』にて、必ずやアリシア様をお守りしましょう。」
(そうだ!対魔だ。どんな魔法や特技も跳ね返す。彼女を止めるには同じく肉体で止めるしかない。)
これなら、ルシィの特技を跳ね返せるから安心だと全員が納得した。
そう思ったのも束の間、“転生者”というのは、結構厄介であることを知ることになる。
...
空間転移での登校後、午後の授業を受けに行き、その放課後。
エルサム様はアリシア様と王宮にて、室内での逢引きを楽しむため、アリシア様を迎えに彼女の教室へ向かっていた。
生徒に混じり廊下を歩いているが、王族と他生徒とは、制服のデザインから違うので、すごく目立つ。
他の貴族の生徒も、エルサム様が廊下の真ん中を歩くと、邪魔にならないように端によっている。エルサム様の美しい横顔が、窓の外を捉えている。
今は2階にいるので、窓の外から中庭が見える。一流の庭師が管理しているので、2階から見える中庭の景色は美しいと、生徒から評判だ。
ふと、中庭を見たらしいエルサム様は、その切れ長の瞳を大きくさせ、一気に窓の方へ向かう。
(あぁ、、窓側に寄っていた貴族令嬢が避けきれずに、窓とエルサム様に挟まれている。あまりの美貌に気絶してない???)
その令嬢には悪いが、無視して僕もエルサム様の側で窓の外を見る。
そこには驚きの光景があった。
窓の外には、アリシア様とルシィがいた。何やら話し込んでいる。、、と思ったその瞬間。
ルシィの手が天に上がり、そのままアリシア様目掛けて落ちていく、
(まずい殴られる。)
思わず、アリシア様の位置を意識した。
パァンッ
いい音がしたなって思った瞬間に、左頬に鈍い痛みが走る。
「イッタ、、!」
思わず僕は左頬を押さえる。
(間に合ってよかった。)
僕は将来、エルサム様の奥様になったアリシア様に、間接的に使えることが心の支えなのに、ここで、アリシア様に何かあったら大変だ。
僕はルシィを見た。ルシィは突然現れた僕に、驚きつつも怒ったのか顔が真っ赤だ。
「なんでエルサムの金魚のフンが、ここにいんだよ!?アリシアどこだよ!???」
(キンギョ、、、?異世界の生き物なのかな?)
とりあえず、悪い意味なのは理解する。
「“様”をおつけください。ルシィ男爵令嬢。今のは、アリシア様に当たってしまっていたら、即刻死刑でしたよ。」
僕はルシィに注意をする。この様子だと、昨夜脳みそ弄って、ルシィが異世界転生者だってことを知っているとは、気取られてなさそうだ。
ルシィは僕に詫びれもせず、僕に指を刺す。
「いい?!アリシアが私のことを“先に”叩こうとしたの!!これは正当防衛なの!!わかった!??」
(この距離でキンキン叫ばないでくれないかな?聞こえてるよ。)
言いたいことを言うと、令嬢にはあるまじき大股で、ドスドス歩いて行ってしまった。
(あれ、護衛だったはずのプリシラが近くにいない、、。どこいったんだ?)
あたりをキョロキョロしていると、プリシラが中庭に通じる渡り廊下の向こうから走ってきた。
「エディ殿!!アリシア様は!?」
「え、?多分2階にいると思うよ。それよりプリシラはどこにいたの?」
そういうと、プリシラはバツの悪そうな顔をした。
「やられたよ。ルシィの特技は、かなり強力らしい。男子生徒が20人束になって、私を止めてきたよ。」
なるほど、流石に、無抵抗の貴族の男子生徒を殴って、突破するわけにはいかないもんな。
殴ったら、主人のアリシア様の評判が、間接的に悪くなっちゃうし。そう納得してたら、プリシラが驚いた顔をした。
「エディ殿!左頬が赤くなっております!すぐ治療を!」
「あぁ、、これね。後で自分でやるから大丈夫だよ~」
そう僕はへらりと笑う。すると、僕の背後から凛とした声が聞こえる。
「なりません。」
その声に弾かれるように振り向くと、そこにはアリシア様と、後ろにエルサム様がいらっしゃった。
「私の代わりに、、、痛かったでしょう、、、」
そういうアリシア様が、僕の赤く腫れた左頬に手を触れると、暖かい光と共にみるみる腫れが引いていく。
そう、これがアリシア様の特技『大天使の癒し』。どんな怪我も病も、アリシア様の手にかかれば立ち待ち治るのだ。
治療が終わるとアリシア様は、天使のような穏やかな微笑みを浮かべる。
「もう治りましたよ。守ってくれてありがとう、エディ」
(あぁ~幸せ~)
そう思っているのも束の間。
後ろでは、魔獣グマも泣いて逃げるほどの形相を、浮かべたエルサム様が、ルシィが立ち去った先を、氷のような眼差しで射殺するように睨みつけていた。
そして僕と目が合うと、アリシア様に気付かれないように僕に向かって、ニコリと笑う。
そして、ハンドサインで“殺す”と伝えてきた。
(もう、、独占欲が強いんだから、、、。さよなら、さっきまでの幸せな気持ち、、、)
【アサノニア帝国歴1026年冬の月25日目に追記】
この時、子猫と戯れる感覚だったんだろうエルサム様が、本気で狩りに行く姿勢に変わった出来事だったんだと、振り返ると思う。
今日はエルサム様から、昼から学園に行くので仮眠でもしていろと言われ、睡眠をとってからエルサム様を迎えに彼の自室へ向かった。
趣味の日記を書いていたので、少し寝不足だが、仕事に支障はない。
エルサム様の自室の前につく。ノックすると「入れ」と中から声がする。
僕は「失礼します」と言ってからドアを開け、朝の挨拶をし、お辞儀した。エルサム様は僕の一連の動作を見届けた後、話し始める。
「エディ、俺を連れて学園に転移しろ。」
「へ?」
エディ様がご通学される時は、護衛を連れて万全の警備の上、馬車に乗られる。
朝はもちろんアリシア様もご一緒だ。それをすっ飛ばしていきなり転移とは?
僕の目が点になっていると、またエルサム様はため息をついた。
「納得しないと動けないのはエディの利点だが、フリーズするのを良い加減なおせ」
「はい。すみません、、」
僕がエルサム様の一声で冷静さを取り戻すと、エルサム様の青い目が細まる。
「今朝、あの汚女の証言書を読んだ。今日がやつのいう“イベント”の日だ。」
あぁ、僕は昨夜、夜鍋してまとめた内容を思い出していた。
「確か、、迷子の子どもをルシィ嬢が助けていると、ちょうど登校中のエルサム様と会って、子どもを無事母親の元に届け、遅刻しそうだからとエルサム様の馬車に乗って、投稿するってやつですよね?」
口に出すと、なんとも素っ頓狂な筋書きだ。第一に、帝国の第一王子はホイホイ馬車から降りない。用があれば従者を寄越す。そもそもこの筋書きは破綻しているのだ。
でも、一つだけ疑問がある。
「でも、もうお昼ですよ?そのイベントって内容的に朝じゃないですか?」
そういうと、エルサム様は答える。
「俺もそう思い、従者に確認させたところ、まだいるみたいだ。子どもと一緒という報告はないがな。」
(え、、エルサム様が来るまで待ってるってこと?怖、、、。)
僕がルシィの狂気を感じて、引いた。だが、ひとつエルサム様の行動に納得できないところがある。エルサム様は、僕をチラリとみた。
「でも、馬車で向かい、あの女がいるところを素通りすれば良い、とでも言いたげな顔だな」
(、、、なんでわかるんですか、、、?)
僕が驚いた顔をしていると、エルサム様が話を進める。
「あの女に会った時に、鑑定した。彼女の特技は幸運と魅了だ。」
(え?いつのまに?)
エルサム様の特技を知っている者は、数少ない。彼の特技は鑑定。その目で見たもののありとあらゆる事柄を、理解することができる。
例えば、雲を見れば、どうして空にあるのか?を理解することができる。ただし、特技を有している者の学習量によって、情報の密度が変わるので、本人は、常に知識や知見を学ばないといけない。
僕がその特技を持っていたら、持て余すけど、エルサム様は使いこなしている。そんな彼の鑑定結果は、何よりも信頼できるとして、帝王様も相談に来るほどだ。
エルサム様は、さらに続けて情報を付け加える。
「幸運はそんなに高くないが、イベントの日限定で、自分の都合がいいようにことが転び、魔力が低いものかつ、顔見知り程度の好感度であれば、初対面でも意中の相手レベルに意識させることができる。」
「え!?それって、、こと恋愛においては、都合良すぎません?」
僕は思わず驚いて、主人を差し置いて発言してしまった。
(僕はしまった、、)
エルサム様を恐る恐る見たが、お咎めは無しのようだった。
「ハァ、、本人がまともであったなら、外交官向きの良い特技だったのだがな」
エルサム様は青い目を伏せ、長いまつ毛で隠してしまった。絶対ルシィのことを憂いているんじゃなくって、彼女の特技が欲しかったって顔だ。
(ん、?でもエルサム様が意味のない話を僕にするわけがない。)
僕はエルサム様に発言していいか確認し、了承を得たので発言する。
「もしかして、昨日の王室専用サロンへの侵入と関係がありますか?いつも出入り口は衛兵がいるのになんで入れたんだろうと、不思議に思っていましたが、特技がイベント日限定の幸運と魅了であれば納得します。」
エルサム様は僕の発言にフッと微笑む。
「よくわかったじゃないか、俺が賢いと思う動植物ランキングをハエから上に上げてやろう。」
え!?僕ハエ以下だと思われてたの?!衝撃を受けていた僕を尻目に、エルサム様は優雅に立ち上がる。
「馬車で向かうと、あの女の特技に従者たちが巻き込まれるやもしれん。学園の、、いや、愛しのアリシアの元へ迎え」
そう言いながら、美しく長い指先を僕に出す。僕はその手を取って空間転移をした。
...
僕の空間転移の特技で、学園に到着する。
相変わらず、空間転移完了のタイミングは、僕しかわからないはずなのに、エルサム様は繋いだ僕の手の先で華麗に着地する。
人の気配がしたので振り返ると、完璧なカーテシーをしながら、アリシア様がいらっしゃった。
(相変わらずお美しい、、。)
「エルサム様。エディ、ご機嫌麗しゅう。」
美しい鈴のような可憐な声に、聞き惚れていると、エルサム様が僕の前に現れる。
「あぁ、アリシア。今来た。変わりはないか?」
「はい。学園内は、特に変わったことはございません。」
流れるような会話と、エルサム様の迷いないエスコートで2人して椅子に座る。ここは、どうやら王室専用サロンのようだ。
アリシア様のお付きのメイドが、流れる動作で香り高い紅茶を出す。アリシア様はメイド一人一人にお礼を言う。エルサム様は、もう紅茶を楽しんでいる。
「相変わらず、アリシアが用意する紅茶は格別だな。」
「ありがとうございます。エルサム様。」
2人のやりとりは、とても優雅で美しい。
(眼福だ~)
僕は2人の絵画のようなやり取りに見惚れていた。エルサム様が、アリシア様が紅茶を飲み終わり、落ち着いたタイミングで、彼女の方をみる。
「アリシア、あの女には近づくな、君に害しかないからね。」
「はい。かしこまりました。」
エルサム様の命令に、アリシア様は迷いなく了承する。それを聞くと、エルサム様はアリシア様の後ろに控えている女性に声をかける。
「ということだ。プリシラ。あの女《ルシィ》をアリシアに近づけさせるな。」
「かしこまりました。」
プリシラ、そう呼ばれた巨体の女性は、胸に手を当て深々と軍人流のお辞儀した。
彼女は、隣国ヨルヴァスから来た移民だ。赤い肌に額には2本のツノが生えているのが特徴だ。
ちなみに、ヨルヴァスの国民はアサノニアとの血の混じりにより、見た目ではどっちの国民かわからないぐらい、一緒だ。
彼女の場合は、先祖帰りに近い現象で、ヨルヴァスでも稀に見るケースなんだそうだ。
そのため、いつも、アサノニアの国民を驚かせないように、ツノはベレー帽で隠している。実に思慮深い女性だ。
筋肉隆々の彼女は、この帝国の30人いる帝国軍師団長クラスと同等の力を持っている。
(確か彼女の特技は、、)
「このプリシラ。事情はアリシア様よりお伺いしました。我が特技『対魔』にて、必ずやアリシア様をお守りしましょう。」
(そうだ!対魔だ。どんな魔法や特技も跳ね返す。彼女を止めるには同じく肉体で止めるしかない。)
これなら、ルシィの特技を跳ね返せるから安心だと全員が納得した。
そう思ったのも束の間、“転生者”というのは、結構厄介であることを知ることになる。
...
空間転移での登校後、午後の授業を受けに行き、その放課後。
エルサム様はアリシア様と王宮にて、室内での逢引きを楽しむため、アリシア様を迎えに彼女の教室へ向かっていた。
生徒に混じり廊下を歩いているが、王族と他生徒とは、制服のデザインから違うので、すごく目立つ。
他の貴族の生徒も、エルサム様が廊下の真ん中を歩くと、邪魔にならないように端によっている。エルサム様の美しい横顔が、窓の外を捉えている。
今は2階にいるので、窓の外から中庭が見える。一流の庭師が管理しているので、2階から見える中庭の景色は美しいと、生徒から評判だ。
ふと、中庭を見たらしいエルサム様は、その切れ長の瞳を大きくさせ、一気に窓の方へ向かう。
(あぁ、、窓側に寄っていた貴族令嬢が避けきれずに、窓とエルサム様に挟まれている。あまりの美貌に気絶してない???)
その令嬢には悪いが、無視して僕もエルサム様の側で窓の外を見る。
そこには驚きの光景があった。
窓の外には、アリシア様とルシィがいた。何やら話し込んでいる。、、と思ったその瞬間。
ルシィの手が天に上がり、そのままアリシア様目掛けて落ちていく、
(まずい殴られる。)
思わず、アリシア様の位置を意識した。
パァンッ
いい音がしたなって思った瞬間に、左頬に鈍い痛みが走る。
「イッタ、、!」
思わず僕は左頬を押さえる。
(間に合ってよかった。)
僕は将来、エルサム様の奥様になったアリシア様に、間接的に使えることが心の支えなのに、ここで、アリシア様に何かあったら大変だ。
僕はルシィを見た。ルシィは突然現れた僕に、驚きつつも怒ったのか顔が真っ赤だ。
「なんでエルサムの金魚のフンが、ここにいんだよ!?アリシアどこだよ!???」
(キンギョ、、、?異世界の生き物なのかな?)
とりあえず、悪い意味なのは理解する。
「“様”をおつけください。ルシィ男爵令嬢。今のは、アリシア様に当たってしまっていたら、即刻死刑でしたよ。」
僕はルシィに注意をする。この様子だと、昨夜脳みそ弄って、ルシィが異世界転生者だってことを知っているとは、気取られてなさそうだ。
ルシィは僕に詫びれもせず、僕に指を刺す。
「いい?!アリシアが私のことを“先に”叩こうとしたの!!これは正当防衛なの!!わかった!??」
(この距離でキンキン叫ばないでくれないかな?聞こえてるよ。)
言いたいことを言うと、令嬢にはあるまじき大股で、ドスドス歩いて行ってしまった。
(あれ、護衛だったはずのプリシラが近くにいない、、。どこいったんだ?)
あたりをキョロキョロしていると、プリシラが中庭に通じる渡り廊下の向こうから走ってきた。
「エディ殿!!アリシア様は!?」
「え、?多分2階にいると思うよ。それよりプリシラはどこにいたの?」
そういうと、プリシラはバツの悪そうな顔をした。
「やられたよ。ルシィの特技は、かなり強力らしい。男子生徒が20人束になって、私を止めてきたよ。」
なるほど、流石に、無抵抗の貴族の男子生徒を殴って、突破するわけにはいかないもんな。
殴ったら、主人のアリシア様の評判が、間接的に悪くなっちゃうし。そう納得してたら、プリシラが驚いた顔をした。
「エディ殿!左頬が赤くなっております!すぐ治療を!」
「あぁ、、これね。後で自分でやるから大丈夫だよ~」
そう僕はへらりと笑う。すると、僕の背後から凛とした声が聞こえる。
「なりません。」
その声に弾かれるように振り向くと、そこにはアリシア様と、後ろにエルサム様がいらっしゃった。
「私の代わりに、、、痛かったでしょう、、、」
そういうアリシア様が、僕の赤く腫れた左頬に手を触れると、暖かい光と共にみるみる腫れが引いていく。
そう、これがアリシア様の特技『大天使の癒し』。どんな怪我も病も、アリシア様の手にかかれば立ち待ち治るのだ。
治療が終わるとアリシア様は、天使のような穏やかな微笑みを浮かべる。
「もう治りましたよ。守ってくれてありがとう、エディ」
(あぁ~幸せ~)
そう思っているのも束の間。
後ろでは、魔獣グマも泣いて逃げるほどの形相を、浮かべたエルサム様が、ルシィが立ち去った先を、氷のような眼差しで射殺するように睨みつけていた。
そして僕と目が合うと、アリシア様に気付かれないように僕に向かって、ニコリと笑う。
そして、ハンドサインで“殺す”と伝えてきた。
(もう、、独占欲が強いんだから、、、。さよなら、さっきまでの幸せな気持ち、、、)
【アサノニア帝国歴1026年冬の月25日目に追記】
この時、子猫と戯れる感覚だったんだろうエルサム様が、本気で狩りに行く姿勢に変わった出来事だったんだと、振り返ると思う。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
古代文明の最強王、5000年後に転生すると魔法が弱体化しすぎていたのでもう一度最強になります。~底辺貴族からの成り上がり~
しNぱ
ファンタジー
5000年前、魔法文明マギア魔導王国を築き、
魔法体系そのものを創造した王アーケ・マギアス・マギアは、
さらなる魔法の発展を求め、自らの魂を未来へ送る転生魔法を発動した。成熟した古代魔法を超える研究が進んだ世界を見たいという純粋な探求心から、5000年後の世界へと意識を沈めた。
目覚めた先は、スケルド男爵家三男レイフとしての赤子の身体だった。産まれた瞬間から記憶を持つ彼は、質素な家と薄い魔力の流れを前に、未来の魔法研究が古代よりも大きく退化していることに気づく。最底辺と呼ばれる家に生まれながらも、家族は温かく、彼の異常な魔力量を希望として受け入れた。
幼少期から魔力操作を自然に行い、三歳で石を浮かせ、五歳で光魔法を自在に扱うなど、古代王としての力を隠しながら成長する。外では古代魔法を使わず、転生者であることを悟られないよう慎重に振る舞いながら、未来の魔法体系を観察し続けた。
十歳になると身体強化などの古代魔法を最低限だけ使い、父との剣術訓練でも圧倒的な動きを見せるが、本来の力は隠したまま過ごす。そして十六歳、高等魔導学園に入学したレイフは、初日の実技試験で無詠唱魔法や術式無効化を用いて試験官を圧倒し、最底辺男爵家ながらA級判定を受ける。
その姿を見たストラング公爵家の令嬢エリナは、彼に強い興味を抱く。5000年後の世界は古代より魔法が退化していたが、だからこそ発展の余地がある。レイフは古代王としての知識をもとに、もう一度魔法の未来を切り開くことを決意する。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる