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第一部・二章
いざ騎士団へ!
しおりを挟む「アレクセイ・……あ、アチエスディミアノヴィクです。どうぞよろしくお願いします!」
王城内の白鉄騎士団詰め所には、騎士が20名、構成員が70名程が整列していた。騎士と構成員では着ている上着が作りは同じだが色が違うデザインだ。
ここにはいないが、騎士はあと10人いる。先月から遠征に出ている8名と、ポイ捨ての事後処理などでソロコフ領に残っている2名。
アレクセイはこんな大人数の前で挨拶などしたことはなかったので、この場にきた時から緊張気味だった。ましてや普段まったく使わない姓を名乗るのも、姓を名乗るようなシチュエーションというのも緊張する。そういえば、騎士は全員が貴族なのだと改めて思った。
その姓の意味は「神父をやっているディミアンさんちの子」といったものだ。平民の姓はどこの町の誰々さんちの子とか、どんな職業の誰々さんちの子というものが多い。
隣に立つライヤがアレクセイの肩に手を置いた。
「もうすでに全員知っていると思うが、このアレクセイはプロトヤドニィ山であの炎の中からサーシャを救出してくれた恩人だ。その後にサーシャと共にポイ捨て自体を打ち破り、それ以前にはダンジョン内でアンノウンナンバーを単独撃破している」
この単独撃破については知らなかった人も多かったようで、わずかにどよめきが出た。おそらくポイ捨てを打ち破ったのも、ほとんどはサーシャの力だと思われていたのかもしれない。
最後の一撃がサーシャだったのは事実だけど。
「今後は共に切磋琢磨していってくれ。以上だ。では、各々の一日をはじめてくれ」
「イエスマム!」
アレクセイも「イエスマム!」と腹の底から声を出した。聖山で見た時、かっこいいと思っていたので楽しみだったのだ。
騎士の日常の基本は訓練だ。
奉仕や市民との交流などのこともあるが、それはむしろ厳しい訓練の合間のご褒美のようなものでしかない。
今日はアレクセイにとって初日だというのに、詰所の見学や説明など一切なく、昼までひたすら基礎体力作りの走り込みと筋肉トレーニングだった。
予想以上のハードトレーニングで、この時点でもうすでにアレクセイはへばりきってしまった。周りの騎士はまだまだ元気だというのに。
ただし、サーシャの姿はない。どうやら訓練にはあまり参加していないようだ。彼女だけはあまりに周りとポテンシャルが違うことと、その能力で一部隊を有しているので、基本的には独自行動になるかららしい。
「おお、ずいぶんと地面と仲良しになってるなー」
訓練場でへばりきって大の字になっているアレクセイに、そう声をかけてきたのは騎士ティモフェイだった。サーシャの家の子供達に度々勉強を教えにきている騎士で、今ここにいる中ではアレクセイの次に若い青年だ。
「は、はい。きつすぎ、です」
立ち上がって挨拶をしようとするアレクセイを、「いいからいいから」と手で制するティモフェイ。
「とはいえ、有名クラン“龍へと至る道”にいただけあるよ。未知の恐怖と向かい合うことで鍛えられてるのか、アレクセイは特に精神力がすごい」
ティモフェイが褒めてくれた。
アレクセイは入団するまでは人間関係がうまくいくか――具体的にはいじめられないか不安だったが、騎士達は快く迎え入れてくれた。むしろ、敬意を払っていると言ってもいい。
それは当然のことで、聖山での一件でアレクセイは騎士団にとって恩人なのだ。
サーシャという仲間のために命をかけてくれた。憑依という優れた能力だけでなく、その精神性こそ、共に信頼関係を築ける証と映っている。
その証拠にアレクセイがティモフェイと話し出したところで、他の騎士達も興味深そうに集まってきて、数人が輪になって座った。
アレクセイはだいぶ嬉しくなって上半身を起こした。
「あ、そうだ。剣が得意な人っていますか? 師事したいんです。前は冒険者の先輩に教わったんですけど……」
これまではイゴールが師だったが、もう教われない。それどころか、たった一つの型だけをやらされていたのは、嫌がらせだったのではないかという疑念が出てきてしまっている。
「剣? うちに冒険者以上に剣が上手い人なんているかな」
「え、剣は冒険者の方が得意なんですか?」
「だねぇ。ガチ貴族様はサーベルとかやるけど、うちの武器訓練は戦争用だかんね。基本は槍なんよ」
「じゃ、じゃあ、剣は使わない?」
「使いはする。だが、あくまで二の次だ。剣が悪い訳ではないが、戦場じゃ剣の貢献度は石ころ以下だし」
「石ころ以下!?」
騎士達がかわるがわる答えてくれる。
が、騎士とは英雄譚のように、馬に乗って颯爽と剣を抜いて現れるイメージだったが、どうやら現実は違うらしい。
「<大きい目>で合戦の分析はもうされてるんだよ。最も有効だったのが弓、これはまあ当然。で、次が長槍。その次が投石だ。大型のカタパルトじゃなく、ただの投石な。剣はその次の次とかになる」
ティモフェイが証明された事実を説明すると、アレクセイの顔はそれはもう気の毒なことになっていた。
いや、理屈は分かる。ようするに射程だ。遠くの敵を倒せるということが、どれだけ有効なのかは経験でも分かる。こちらが危険な目にあわずに、一方的に相手を傷つけられるというのが射程の差なのだから。
でも、こう思わずにはいられない。
ずっと剣を振るい続けてきたのに……。
「冒険者は狭いダンジョン行くから剣士多いもんね。逆にまず長槍は使わないかぁ。後は法律的にちょっとあれなんよね」
「……槍はそうですね」
ここ王都内では、2mを超える武器と弦を張った弓を許可なく所持することが禁止されている。それもあって、冒険者は必然的に剣を使うことになりやすいのだ。
その後、そんな会話をした騎士達と同じテーブルで昼食を済ませ、午後からは槍の訓練があった。
使う槍は先が十字になっているもので、全て両刃でできている。相手に突きを避けられても、そのまま引くことで首を狙うことができるのだという。
槍は思った以上に難しく、立ち合いも相手にならないレベルでのぼろ負けばかりだった。
初めての訓練で分かったこと。
憑依がないと本当に弱くて話にならない。へこむ。
アレクセイは家に帰ってから、部屋でサーシャとお互いのマナの反発を利用して、お手玉をしていた。
そこでつい、
「俺、憑依とか卑怯技がないとダメだなぁ」
と口から出てしまった。愚痴っちゃった、恥ずかしい、と思いつつマナをひょいと投げ渡す。
「そんなことな、い。アレクセ、イの魂は綺麗だ、から」
「前も言ってくれたけど、魂が綺麗ってどういうこと?」
「魂を強く、美しく磨いてい、る。アレクセ、イが、がんばってるか、ら。綺麗」
言葉で説明するのが苦手なサーシャが、どう言ったら伝わるか考えながら、そんな風に話してくれた。
アレクセイは魂そのものを鍛錬してきた。憑依は確かにアレクセイだけに与えられた卑怯技かもしれない。だが、“龍へと至る道”で仲間を守るために、自分よりもずっと大きな魂と戦い、そうして魂を鍛えてきた。
それは紛れもなくアレクセイのがんばりだ。
サーシャはきっとそう言ってくれているのだと思う。
「……ありがと、サーシャ」
返事はなくサーシャからマナが放られた。受け取ると手の上で反発する。が、投げ返さずに<ようこそ>と古い言葉に自分のマナをこめて、サーシャのマナと重ねてみた。
「あ、できた……!」
サーシャのマナと混ざり合った力が手に宿っている。すごくあたたかい。
アレクセイは顔をあげると、表情がぱぁっと輝いていた。サーシャに手を見せて喜び合う。パンとお互いの手を叩きあった。
すると、こくりこくりとしていた子供達がびくっと身を震わせて二人を見た。この子には悪いがつい笑ってしまう。
「もう寝よっか」
「ん」
灯りを落とし、藁の布団に子供達とダイブ。
すぐに子供達の寝息が聞こえだした。アレクセイは何も見えない部屋の中で、自分の手を何度か閉じたり開いたりしてみた。
“できない”は、“今はまだできない”でしかない。
大丈夫。ほんの少しでも進んでいる。
こうして騎士団での初日が終わった。
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