求:回復術師 〜絶対見捨てない為に、僕が今できる事〜

猫鈴うみゃ

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第一章

[ 035 ] ナルリッチ

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「こちら、リッカムのポタージュスープでございます」
「どうも……」

 結局、僕はレストランに入る事にした。

――少し前、店の前にて

「テトのお父さんだったんですね」
「はい。テトから全て聞きました……。今回はうちの愚息が何度もご迷惑をお掛けして! 大変申し訳ございませんでした!」
「ま、待ってください! わかりました! 店に入りましょう! 話はそれから!」

 ナルリッチさんが土下座しそうになったので、慌てて止めた。そんな高級な洋服に泥でも付けたら……。

 どこかで見た顔だと思ったらテトに似ているのか――

「あ、美味しい……」
「ふふ、気に入ってくださったようでよかったです」

 店に入ると、三階の個室へ案内された。そのような服装では……と止められるかと思ったけど、ここは彼が経営するレストランだった。

「そのリッカムは、私が子供の頃に大好きだった果物でして、深い谷でしか自生しないのですが、品種改良の末にどこでも育てることが可能になりまして、メニュー化した当店の自慢の逸品です」

 リッカムがどんな物かわからないけど、おいしい……。経営者のあるあるなのかわからないけど、全ての食べ物に解説してくれる。しかし、本当においしいスープだ。

「正直に言いますと、私は西側の人間が大っ嫌いです。焼き払ってもいいと思っているくらいです」

 とんでもない事をカミングアウトされて、スープを吹きそうになった。以外とデンジャラスな紳士だった。

「あ、気を悪くしたら申し訳ない……」
「いえ……」

 気を悪くなるどころか、逆に清々しくて好印象ですテトパパ……。

「なぜ、そこまで西側の人間を嫌うのですか?」

「あそこに住む奴等は、基本的に盗人や不法滞在の犯罪者ばかりで社会のゴミです」

 西側のゴミ人間です。ごめんなさい。
 なかなか酷い妄想をしてらっしゃる……。
 
「常日頃からテトに「勉強しろ! 西側のゴミ人間になりたいのか! 私の息子の癖にそんな事も出来んのか!」と鞭で叩き、妻にも「まさかテトは西側の男との間に出来た子じゃないだろうな?!」と怒鳴ったりしていました」

 ナルリッチさんも、親としてなかなか最低です。

「多額のお金を払い、何度も市長に掛け合って西側の再開発を申し入れているのですが、なかなか首を縦に振ってもらえず……」

  ハリルベル……実は裏で西側は、大変な危機を迎えていたみたいだよ。

「そのような方が、どうして僕のような西側の人間と食事を……?」

「貴方は、東側で窃盗をしたテトの代わりに代金を払って頂いたと聞きました。それに昨日の騒ぎでは、テトが七福屋から宝剣を盗んで逃げる際にリンドブルムに捕まり……貴方は自分の命よりもテトを助ける事を優先してくれた」

 ナルリッチさんの拳がブルブルと震えている。

「私は、貴方の行動に痛く感激しました! テトの捕まったリンドブルムは、私も地上から見ていました。あんな出来の悪い息子でも、私の息子なんだ! 誰か助けてくれ! そう神に願っていたら、物凄い速さで飛翔するロイエ殿を見ました」

 飛翔というか、実際は後先考えない決死のジャンプでした。もうしたくありません。

「テトの捕まったリンドブルムに飛び乗るやいなや、傷を受けながらもテトを救出……ずっと見ていた私にはわかります。テトに重力魔法を使って自分は死ぬつもりだったのでしょう……。私……もうその勇姿を見ただけで、涙が……うぅ」
「旦那様、ハンカチでございます」

 ズビーと鼻を噛むナルリッチ氏。

 色々計算違いて本当に死ぬところだった。でも、テトを助けたつもりがナルリッチさんの心も救えていたんだとしたら、本当に良かった。

「お見苦しい姿で申し訳ありまぜん……ずず」
「いえ、そこまでナルリッチさんに思ってもらっているテトが羨ましいです」
「テトに聞いたらロイエ殿は西側の人間だというので、執事に家を探させて、お礼に金貨をと思い向かったのですが、途中でこちらに向かうロイエ殿を見つけ馳せ参じたのであります」
「そうだったんですね」

 いま、金貨をと言いました?!

「宝剣の買取で困ってらしたようなので、お礼にと思って持ってきた金貨で支払ってしまいましたが、余計な事でしたら申し訳ありません」
「いえ、本当に困っていたので大変助かりました」

 もう少し遅ければ僕が金貨五十八枚で買って、その後ナルリッチさんに金貨百枚で売れたのに……!

「現在手持ちの金貨があれだけでしたので、後日また金貨を……」
「ああ、いえ。良いんです……正直、ギルドに冒険者登録をする為、六日以内に金貨を五枚集めなきゃいけないんですが、誰かに頼って集めるのではなく、自分の力で集めようと決めてますので」

 あーあー、五枚くらい貰っておけば良かったかなぁ。でも自分で決めた事だし、これだけは譲れない……。

「なんと……そんな状況に置かれながら健気な……くうぅ。西側を爆破しろとか焼け野原にしろと市長に詰め寄っていた自分が恥ずかしい!」
「はは……。あの、、ナルリッチさん。西側には悪い奴もいるかもしれませんが、それは格差を作ってしまっている社会のせいです。私利私欲のため、欲望のために誰かが行動するとその皺寄せは別の誰かが肩代わりしています」
「……」
「社会というのは無限に広い部屋ではなく、サイズの決まった部屋の中で共存しているんです。誰かが広く場所を取れば、誰かの居場所が狭くなる。それが社会なんです。西側の治安の悪さはナッシュ全体で解決しなきゃいけない問題なんです。西側を潰しても新たに西側のような場所が現れるだけです」

 思わず西側の者の意見として熱く語ると、ナルリッチさんは椅子からずり落ちて、頭を地面に叩きつけ始めた。

「私は! なんて! 愚かだったのだろうか! 死のう! 死ぬ事でしか償えない!」
「だ、旦那様!」
「や! やめてください!」

 頭から血を流すナルリッチさんを、二人で羽交締めにして止めた。こっそりクーアで傷を癒す。血が出てるから治った事にすぐには気付かないはず……。

「なんて、なんて素晴らしい人なんだ! ロイエ殿! 私の息子になりませぬか?! テトの兄として! 我が家にお迎えしたい!」
「ええええ!!」
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