求:回復術師 〜絶対見捨てない為に、僕が今できる事〜

猫鈴うみゃ

文字の大きさ
55 / 262
第一章

[ 052 ] 二番坑道・前半

しおりを挟む
「思ったより暗いな……」
「足元にも気をつけましょう」

 魔力で光るランタンをそれぞれ腰につけて坑道を進んでいく。坑道の入り口付近は元々整備されていたので、真ん中には岩を運ぶためのトロッコのレールが敷かれていた。

「あの……いまさらなんですが、クルトさん。俺はキーゼル採掘所で働いてる冒険者のハリルベルと申します。今回討伐クエストのリーダーをやって頂いてありがとうございます! その若さで練度★四だなんて尊敬に値します!」
 
  ハリルベルが律儀に自己紹介をしているが、クルトさんは「確かに練度★四だけど、ブルーポーション大量買いでブーストしただけなんて言えない」って顔で、明後日の方向向いてる……。

「む。右から二匹来ます。そのさらに奥に三匹」

 坑道に入ってすぐにわかった事だけど、これだけ視界が悪い中、 ハリルベルにはリーラヴァイパーの位置をなんとなくだけど、感じるらしい。

「そういえば、ルント湖でブラオヴォルフの群れに襲われた時も、 ハリルベルはブラオヴォルフの姿が見える前に気付いてたよね。なんで?」
「俺もわからないだけど、なんとなくわかるとしか」
「……それ、練度が上がる兆候かもしれないな」

 リーラヴァイパーを片付けながら会話できるほどこの陣形に慣れてきた。訓練のかいあって砂の兵士は剣を自在に振り回して次々と倒している。

 倒して魔石にしたら、クルトさんが拾って食べる。

 この光景を初めて見た時、 ハリルベルはめちゃくちゃ引いていた。最初の尊敬の眼差しはどこに行ったのか。

「練度が上がる前って、感覚が鋭くなるんですか?」
「練度が上がる前は、体内の魔力が普段より高くなるんだ。それでモンスターが感じやすくなるんだと思う」

 リーラヴァイパーを倒しながら、クネクネとした坑道を進んでいく。

「なぜ魔力が高まるとモンスターの居場所を感じやすくなるんですか?」
「うーん。オレの仮説だけど、モンスターってなんだと思う?」
「穢れから発生したモノと聞きましたけど」

  ハリルベルを振り返ると、首を縦に振っている。よくわからないけど、僕もそういうものだと思っていた。

「ふふ、穢れってよく言われる説だけど、抽象的すぎだと思わなかったかい?」

「左から四、上から三匹来ます」

 砂の兵士が、機敏な動きでリーラヴァイパーの注意を惹きつけながら、次々と倒していく。

「じゃあ穢れって何?って話だよね。オレの仮説はこうだ。モンスターは、この星が人間を殺すために生み出したって説だ」

「星が? 人間を?」

 唐突なその仮説に、どう返したら良いのかわからなかった。 ハリルベルも首を傾げている。

「えーと、もしその仮説が正しいのなら、モンスターは倒すと魔石になる。魔石を食べると魔力の最大値が上がる。つまり、モンスター=魔石=魔力の構図って事ですか?」

「上です!」

 上から落ちてきたリーラヴァイパーを、砂の兵士がひらりと飛び上がり斬り捨てる。

「あくまで仮説だけどね。じゃあ誰の魔力って話なる。世界中に、モンスターを……魔力を溢れさせるなんて、この星くらいしか無理じゃ無いか?とね」

「二人共! 挟まれてる!」

  ハリルベルの声に反応して、砂の兵士が剣を構える。 ハリルベルは後ろを警戒しいつでも戦えるように臨戦体制をとった。念のため僕も宝剣カルネオールを構える。

「前方から八! 後方から十二!」

 合計二十匹。いくらなんでも多すぎる。それにいつのまに背後を?! 入り口はマスターと親方が見張っているはずなのに!

「クルトさんどうしましょう。まずは数の少ない前方からやりますか?」
「いや、前方はさらに先に増援がいたらまずい。まずは後方からだ! チェンジ!」

 クルトさんの掛け声で、前衛との後衛を瞬時に入れ替えた。

 砂の兵士の前にはリーラヴァイパー十二匹。 ハリルベルの方には八匹。砂の兵士がリーラヴァイパーの群れに飛び込み次々と刺し殺していく。

「ヴェルア!」

  ハリルベルの剣から出現した炎が、リーラヴァイパーの群れを襲うが、射程が全く足りていないし、火力も足りない。しかし、これで良い。

「あと三! 持ち堪えてくれ!」
「くっ……ヴェルア!」

 砂の兵士が、後方最後のリーラヴァイパーを倒すと、すぐさま「チェンジ!」の掛け声で砂の兵士と ハリルベルの位置を交代した。

「下がれ!」

 今度は砂の兵士が八匹のリーラヴァイパーを相手にする。疲れを知らないダメージを負わない砂の兵士だから出来る芸当だ。

 後方からの危険が去った事で、 ハリルベルがブルーポーションを飲んで魔力を回復させる。

 僕は万が一の場合に備えて宝剣を構えているだけだ。何もして無いように見えるが、砂の兵士の持つ剣のために僕の範囲四メートルから出ないように調整しつつ、いつでも回復やポーションを使える位置を取らなくてはいけない。
 
 意外と見なきゃいけない、気を配らないといけない事も多い。ただ敵が一方向からの攻撃になれば、あとは必勝パターンだ。砂の兵士で蹴散らせれば確定で勝てる。

「ふぅ……いまので六十匹くらいか」
「ちょっと驚きましたね」
「ああ、知能指数が低いって話だったが……。連携取ってきたな……何か嫌な予感がする……」
「クルトさん! 前方に十……!」
「やはり控えていたか……」
「いや、なんだこの大きさは……まさか」

  ハリルベルの発言を聞いて、すぐさま撤退を叫んだクルトさんだったが、その決断ですら遅かった。

 坑道の壁を溶かして、僕らの前に二メートル近い巨大なリーラヴァイパーが現れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...