求:回復術師 〜絶対見捨てない為に、僕が今できる事〜

猫鈴うみゃ

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第三章

[ 180 ] 毒の雨

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 ボスハルトスコルピオンの尻尾から巻き散らされた毒霧は、あっという間に街を覆った。

「くそ!だから言わんこっちゃねぇ! 全員逃げ……くっ」
「マスター!? っ!」

 手に違和感を覚えて視線を落とすと、マスターがポルトに盛られた毒と同じ症状で、僕の手足が赤く腫れていた。すぐに呼吸が苦しくなり、慌てた自分にアノマリーをかけた。

「うぐ……」
「あぁあっ」

 ラッセもグイーダも、みんな同じ症状が発症しばたばたと倒れていく。折れた足のせいで駆け寄ることも出来ない。

「誰か!こっちにきて!回復するから!」

 呼びかけても答える者はいない。折れた足が憎らしい。回復術師なのにこの程度の傷も治せないなんて! 自分にかけたアノマリーもすぐに毒で上書きされて効果がない。

 毒の効果の方が強く、全身に力が入らなくてその場に崩れると、レオラが腫れた手足で這いつくばって僕の元へやってくるのが見えた。

「ロイ、エ。これ……」

 手を伸ばしたレオラの手から零れ落ちたのは、ロゼが探してくれた白い魔石だった。それを見た僕はほふく前進で近寄ると、毒で視界が濁る中、確かに白い魔石を手に取った。

「ロゼ、レオラ……ありがとう!」

 僕は白い魔石を食べた。いまみんなを助けられる可能性があるとしたらこれしかない。

 ……ドクン。

 ……ドクン。

 きた……! 前回と同じ感覚だ!

 体の中で何かが解けていくような…感覚!

 身体中を……。魔力が巡る!

【回復魔法:接続詞 オルトが解放されました】
【回復魔法:接続詞 ヴェルトが解放されました】

 回復魔法の練度★5と6が解放された!

「アノマリー・オルト・ヴェルト!!」

 街全体に橙色をしたアノマリーの魔法陣が広がると、みんなの状態異常がみるみるうちに治った。よし!と思ったのも束の間、吹き荒れる毒霧により、みんなはまた毒に侵された。

「くそ、せっかく治したのに……!」

 あの毒霧がある限り、いくら治しても治らない。どうすればいい……。毒霧を吹き飛ばすか、あの尻尾だけでも切り落とせれば……。

 その願いが通じたのか、どこからともなく発生した強烈な突風が街中の毒霧を吹き飛ばし、ボスハルトスコルピオンの尻尾を青白い炎の槍が斬り落とした。

「アノマリー・オルト・ヴェルト!」

 毒霧が消え、新たな毒霧の生産も止まったことで、みんなの状態異常を治すとすぐに回復魔法を重ねがけした。

「クーア・オルト・ヴェルト!」

 僕を含め、近くに倒れている冒険者の面々へクーアを施すと狙い通り、骨折していた足が治った。レオラやロゼに駆け寄って状態を確認したけど大丈夫そうだ。

 マスターやラッセ、グイーダの状態もと振り返ると同時に、マスターが叫んだ。

「やべぇ! 全員伏せろ!」

「ベルブランランツェ・オルト・ヴェルト!」

 マスターの声に反応して伏せると、青白い無数の炎が飛来し、ボスハルトスコルピオンの体に次々と突き刺さった。

「ほぉ、思ったより硬いな」

 微かに聞こえたその声の主を探すために空を見上げると、赤い真紅にオレンジのメッシュが入った髪に、ベージュのブラウスと黒いスカートという会った時と同じ衣装を見に纏った女性。フォレストの市長アルノマールが空を飛んでいた。

「あのババア……。あぶねぇじゃねーか!」
「はっ! 貴様らが緩い戦い方をしているからだ! 雑魚はさっさと退け!」
「なんだと!」

 フォレストの市長、アルノマールの登場により活路が見えた。ボスハルトスコルピオンは確か火に弱いと言っていた気がする。回復が行き渡ったのか、ラッセやグイーダ、ロゼにレオラもゆっくりと立ち上がった。

「あれは……市長?! やばいですわ。きっとまたわたしに罰を与える為に……あわわ」
「誰あれ? ってか、なんか地面が!!」

 レオラが慌ててロゼを抱えて退避すると、ボコォ!と地面が盛り上がり、さらに二体のボスハルトスコルピオンが地中から姿を現した。

「くそが! 何体出てきやがる!」

 これで合計四体のボスハルトスコルピオンが出たことになる。フォレストに現れたボスカルミールベアと同数だ。

「貴様ら! 死にたくなければ退け!」

 どうやって飛んでるのかわからないけど、空を飛んでるアルノマールから怒号が飛ぶと、それが冗談じゃないとすぐにわかるほどの魔法が発動した。

「ブレンメテオーア!!」

 火魔法練度★8。護衛班の一人、ロートが使っていた魔法だ。太陽が増えたのかと錯覚するほどの熱量を持った巨大が火球が、三体のボスハルトスコルピオンがいるギルド跡地に直撃した。
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