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第四章
[ 206 ] クルト
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「あれ? なんか綺麗になってる……」
「本当だ……」
女医から「魔力回路が落ち着くまで魔法の使用は控えるように」と釘を刺されて病院を後にすると、僕らはギルドを訪れていた。
元々ギルドの小さな庭には、何の残骸なのかわからないガラクタが積み重なっていたが、いまは綺麗さっぱり片付いている。
おまけに赤やオレンジの色鮮やかな花が植えられて、良い匂いが漂っている。
「クルトさんがマスターをやるだけで、こんなに変わるんだ……」
「素敵な御庭ですね」
「もはや別物だろ……。とりあえず入ってみるか」
ハリルベルを先頭に、ギルドの立て付けが直された扉を開けると、見知らぬメイド服の女性が立っていた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
丁寧な挨拶とお辞儀をしてくれたのは、星空のような青みがかった黒髪のロングヘアーが特徴な長身のメイドさんだった。
「い、いいらっしゃいました……」
「ハリルベル、ハリルベル。腰が引けてるよ」
「ギルドマスターのご在席ですか?」
ロゼがなんとかフォローをいれると、メイドはカウンターにいたもう一人の背の小さな白い髪のメイドに目配せをして、僕らに向き直った。
「失礼ですがどちら様でしょうか?」
「冒険者のロイエ、ハリルベル、ロゼの三名となります」
「例の……失礼致しました。応接スペースでお待ちください。すぐにマスターをお呼び致します」
メイドは再度深くお辞儀をするとニコリと微笑み、以前は完全に物置になっていたはずの応接スペースへ案内してくれた。
「ここって元はなにがあったっけ?」
「武器がたくさん置いてありましたよ」
「あー、確かに」
売れない武器が山のように置かれていたスペースには、ふかふかのソファーが置かれて、高級そうなローテーブル、間接照明がおしゃれさを醸し出している。
「ギルドの運営がうまく行ってるのか?」
「いや、クルトさんの家って確かお金持ちって聞いたよ」
「なるほど……親の金か」
僕とハリルベルの発言にメイド達から少し殺気が漏れた気がした。完全な敵地と化した居心地の悪いギルドで待つこと数分、マスタールームからクルトさんがやってきた。
「おお、ロイエ! よくきたなー! ハリルベルも!」
しばらく見ないうちに顔に貫禄が増している。少し伸びた緑の髪に、愛嬌のある大きめな瞳は、好奇心の塊であるクルトさんの人となりを良く表している。
しかし、僕らの視線を釘付けにしたのは、その貫禄の増した顔ではなく……。リーラヴァイパーにやられハリルベルが、切り落とした左腕が存在していたことだ。
「ハリルベル……? あ、あれって」
「まさか……治ったのか? 俺ずっと気になってて……」
自分で切った事からハリルベルはクルトに対して、まだ負い目があり、挨拶を返すタイミングを見失ってしまった。
「えーっと、ロゼさんは……。初めましてですね」
「いえ、十年ほど前のナルリッチさんが開催した舞踏会でお会いしておりますわ」
「え? そうなんだ。昔は親と一緒にそういうのにも参加してたけど、最近はまったく……ロゼ、ロゼ……あ、フリーレン商会さんのところの?」
「ええ、ロゼ・フリーレンですわ」
「なるほど……確かに昔見た記憶があるかも」
クルトさんがロゼと子供の頃にあっていたという話に花を咲かせてしまって、僕らのことは完全に置いてかれてしまった。
「おーい」
「あ! 悪い悪い! えーっと、改めまして。こほん……ナッシュギルドのマスターのクルト・グランゼンです。よろしくお願いします」
「よっ! マスター!」
「いやぁ」
ハリルベルによいしょされて、悪い気もはしないのか、クルトさんもポーズを取ったりしている。
「それで、あちらのメイドさんは?」
「うちの家で雇ってるメイドだよ。ああ見えて、オレの護衛役なんだけど、暇だからギルドの受付や雑用をやってもらっているんだ」
キキとララという、どこかのマスコットのような名前のメイドさんは、背の高い先ほどの黒髪女性がキキで、受付をしていた白い髪の小さなメイドさんがララとのことだ。
「あのクルトさん、その腕……」
「ああ、これか?」
クルトさんがニヤッと笑い腕を上げると、ドサッと一瞬で左腕が砂に変わり床へ散らばった。
「すごいでだろ? 土魔法で操ってるんだよ。フェルスアルトファーラー」
呪文を唱えるとみるみるうちに落ちた砂が、クルトさんのなくなった左腕に戻った。
「すごいっ! クルトさんは、昔から精密な魔法操作が得意でしたもんね」
「あれから色々訓練したり検証してね。いまでは普通の腕と同じくらいの速度で動かせるよ」
「すごいですね」
「ちなみに、ロイエ達はどうしてナッシュに?」
ハリルベル達は昨日ナッシュへ戻ってきているはずだ。僕らの帰還や経緯を話しているかと思ったけど、この様子だと何も聞かされていないようだ。
僕はここを出たあとの出来事や、ここへ戻った理由などを簡潔に話した。一瞬、クルトさんに話しても大丈夫か?とは思ったけど、彼なら大丈夫だろう。
「なるほどね。よし、オレもロイエ達を全力でバックアップするよ。戦力が足りなければ言ってくれ、親に声をかけてもらえば、船乗り達を大量にを投入出来るよ」
「う、うん。何か困った事があったら相談するね」
「ところで、ギルドがとても綺麗になっているようですけど……」
ロゼがクルトさんへ話を振ると、クルトは良くぞ聞いてくれたとばかりに話してくれた。
どうやらグランゼ家の中では落ちこぼれと言われていたクルトさんだが、アテルがマスターを解任された事を機にマスターへと大抜擢された。
喜んだのはクルトの両親だ。当てにしてなかったクルトさんが、街でも重要なポジションについたことで気をよくして、自費でギルドを改修してくれた。
さらには今まで自分たちでやっていた港の仕事を、あえてギルドに依頼しないといけないようなルールを作ったりと、相当な癒着をやっているようだ。
「冒険者は増えたんですか?」
「ああ、他の街から何人か来てくれてね。おかげでそれなりに赤字も狭まってきたよ」
その時タイミング良くギルドのドアをあけ、見たことのない冒険者が入ってきた。
「本当だ……」
女医から「魔力回路が落ち着くまで魔法の使用は控えるように」と釘を刺されて病院を後にすると、僕らはギルドを訪れていた。
元々ギルドの小さな庭には、何の残骸なのかわからないガラクタが積み重なっていたが、いまは綺麗さっぱり片付いている。
おまけに赤やオレンジの色鮮やかな花が植えられて、良い匂いが漂っている。
「クルトさんがマスターをやるだけで、こんなに変わるんだ……」
「素敵な御庭ですね」
「もはや別物だろ……。とりあえず入ってみるか」
ハリルベルを先頭に、ギルドの立て付けが直された扉を開けると、見知らぬメイド服の女性が立っていた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
丁寧な挨拶とお辞儀をしてくれたのは、星空のような青みがかった黒髪のロングヘアーが特徴な長身のメイドさんだった。
「い、いいらっしゃいました……」
「ハリルベル、ハリルベル。腰が引けてるよ」
「ギルドマスターのご在席ですか?」
ロゼがなんとかフォローをいれると、メイドはカウンターにいたもう一人の背の小さな白い髪のメイドに目配せをして、僕らに向き直った。
「失礼ですがどちら様でしょうか?」
「冒険者のロイエ、ハリルベル、ロゼの三名となります」
「例の……失礼致しました。応接スペースでお待ちください。すぐにマスターをお呼び致します」
メイドは再度深くお辞儀をするとニコリと微笑み、以前は完全に物置になっていたはずの応接スペースへ案内してくれた。
「ここって元はなにがあったっけ?」
「武器がたくさん置いてありましたよ」
「あー、確かに」
売れない武器が山のように置かれていたスペースには、ふかふかのソファーが置かれて、高級そうなローテーブル、間接照明がおしゃれさを醸し出している。
「ギルドの運営がうまく行ってるのか?」
「いや、クルトさんの家って確かお金持ちって聞いたよ」
「なるほど……親の金か」
僕とハリルベルの発言にメイド達から少し殺気が漏れた気がした。完全な敵地と化した居心地の悪いギルドで待つこと数分、マスタールームからクルトさんがやってきた。
「おお、ロイエ! よくきたなー! ハリルベルも!」
しばらく見ないうちに顔に貫禄が増している。少し伸びた緑の髪に、愛嬌のある大きめな瞳は、好奇心の塊であるクルトさんの人となりを良く表している。
しかし、僕らの視線を釘付けにしたのは、その貫禄の増した顔ではなく……。リーラヴァイパーにやられハリルベルが、切り落とした左腕が存在していたことだ。
「ハリルベル……? あ、あれって」
「まさか……治ったのか? 俺ずっと気になってて……」
自分で切った事からハリルベルはクルトに対して、まだ負い目があり、挨拶を返すタイミングを見失ってしまった。
「えーっと、ロゼさんは……。初めましてですね」
「いえ、十年ほど前のナルリッチさんが開催した舞踏会でお会いしておりますわ」
「え? そうなんだ。昔は親と一緒にそういうのにも参加してたけど、最近はまったく……ロゼ、ロゼ……あ、フリーレン商会さんのところの?」
「ええ、ロゼ・フリーレンですわ」
「なるほど……確かに昔見た記憶があるかも」
クルトさんがロゼと子供の頃にあっていたという話に花を咲かせてしまって、僕らのことは完全に置いてかれてしまった。
「おーい」
「あ! 悪い悪い! えーっと、改めまして。こほん……ナッシュギルドのマスターのクルト・グランゼンです。よろしくお願いします」
「よっ! マスター!」
「いやぁ」
ハリルベルによいしょされて、悪い気もはしないのか、クルトさんもポーズを取ったりしている。
「それで、あちらのメイドさんは?」
「うちの家で雇ってるメイドだよ。ああ見えて、オレの護衛役なんだけど、暇だからギルドの受付や雑用をやってもらっているんだ」
キキとララという、どこかのマスコットのような名前のメイドさんは、背の高い先ほどの黒髪女性がキキで、受付をしていた白い髪の小さなメイドさんがララとのことだ。
「あのクルトさん、その腕……」
「ああ、これか?」
クルトさんがニヤッと笑い腕を上げると、ドサッと一瞬で左腕が砂に変わり床へ散らばった。
「すごいでだろ? 土魔法で操ってるんだよ。フェルスアルトファーラー」
呪文を唱えるとみるみるうちに落ちた砂が、クルトさんのなくなった左腕に戻った。
「すごいっ! クルトさんは、昔から精密な魔法操作が得意でしたもんね」
「あれから色々訓練したり検証してね。いまでは普通の腕と同じくらいの速度で動かせるよ」
「すごいですね」
「ちなみに、ロイエ達はどうしてナッシュに?」
ハリルベル達は昨日ナッシュへ戻ってきているはずだ。僕らの帰還や経緯を話しているかと思ったけど、この様子だと何も聞かされていないようだ。
僕はここを出たあとの出来事や、ここへ戻った理由などを簡潔に話した。一瞬、クルトさんに話しても大丈夫か?とは思ったけど、彼なら大丈夫だろう。
「なるほどね。よし、オレもロイエ達を全力でバックアップするよ。戦力が足りなければ言ってくれ、親に声をかけてもらえば、船乗り達を大量にを投入出来るよ」
「う、うん。何か困った事があったら相談するね」
「ところで、ギルドがとても綺麗になっているようですけど……」
ロゼがクルトさんへ話を振ると、クルトは良くぞ聞いてくれたとばかりに話してくれた。
どうやらグランゼ家の中では落ちこぼれと言われていたクルトさんだが、アテルがマスターを解任された事を機にマスターへと大抜擢された。
喜んだのはクルトの両親だ。当てにしてなかったクルトさんが、街でも重要なポジションについたことで気をよくして、自費でギルドを改修してくれた。
さらには今まで自分たちでやっていた港の仕事を、あえてギルドに依頼しないといけないようなルールを作ったりと、相当な癒着をやっているようだ。
「冒険者は増えたんですか?」
「ああ、他の街から何人か来てくれてね。おかげでそれなりに赤字も狭まってきたよ」
その時タイミング良くギルドのドアをあけ、見たことのない冒険者が入ってきた。
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